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(15)お疲れ様、シロ

 ホルスタット王国の王都にある闘技場の召喚アイテムは、Sランクの魔物まで召喚することができる。

 そもそもSランクの魔物というのは、Aランクにならないそれ以上の強さを持つ魔物のことなので、それが最高位になるのは当然のことなのだが。

 Aランク以上はSランクとひとくくりにされているが、それらの中でも強さに差があるのは、当然のこととして認識されている。

 当たり前というべきか、ドラゴンはSランクの中でも最上位の魔物とされている。

 ただし、ドラゴンと一口にいっても、強さはピンキリとされていたりする。

 それでも全てのドラゴンがSランクとされているのは、やはりその名声(?)の高さとその名に恥じない強さがあるからだ。

 

 勿論、Sランクの魔物は、ドラゴンだけではない。

 そのどれもが、出現が確認されただけでS級の災害と認定されるような強さを持つ魔物ばかりである。

 そして今、シゲルの目の前には一体のキメラが出現していた。

 ヤギの体、ライオンの頭、そして蛇の尻尾と定番のキメラの構成であるが、シゲルの前にいるキメラは普通に知られているキメラとは一味違ったところがあった。

 それがどこかといえば、すべての体毛が金色の輝いているのだ。

 普通のキメラとは違い、その体毛を持ったキメラが、Sランクにいるとされる証拠となっている。

 

 そのキメラとシゲルが相対している場所は、闘技場の会場の中だ。

「ゴールデンキメラか……。シロ、どう?」

「わふ?」

 シゲルの問いかけに、シロはキメラを睨みつつもちょこっとだけ首を傾げた。

 

 その様子を見て、まだ余裕があると理解したシゲルは、少しだけ考えてから続けて言った。

「そう。だったら、良いというまで少しだけ遊んであげて」

「わふ!」

 会場には聞こえないように、シゲルがこそっと言うと、シロはすぐに元気よく返事をした。

 そして、その声が終わるとほぼ同時に、シロが駆け出して行くのであった。

 

 

 結果からいえば、シロは割と余裕を持ってキメラを倒すことができていた。

 ただし、会場内で戦いを見守っていた観客たちにとっては、手に汗握るような展開が繰り広げられていたように見えていたはずである。

 シゲルの意図を組んだシロは、それなりの時間(十五分程度)をかけてキメラの攻撃をかわし続けながら、少しずつダメージを与えていた。

 端からそれを見ていた者たちは、ギリギリの戦いをしていたと考えているはずである。

 もっとも、指示を出したシゲルは、余裕がなさそうな表情をしつつも、心の中では遊んでいるなあなどと考えていたのだが。

 

 それは、見学に来ていたフィロメナたちも同じだったようで、声には出していないが苦笑をしながらその戦いを見守っていた。

 シゲルの意図が分かっているだけに、下手に口に出して会話するわけにもいかない。

 周りを見る限りでは、シゲルの思惑通りに行っているようなので猶更だ。

 遠目で見てもシゲルが余裕をもって戦いを見ていることはわかる。

 とてもSランクのゴールデンキメラを相手にしているようには見えない。

 特に、最初の頃のシゲルを知っているフィロメナとしては、よくぞここまで成長したものだと思っていた。

 

 戦えているのはシゲル本人ではなく、精霊じゃないかという意見もある。

 だが、フィロメナたちでそんな馬鹿なことを言う者は一人もいない。

 理由は簡単で、実はシゲル自身もきちんと戦うことができるからだ。

 少なくとも、精霊が駆けつけてくるまでの間、自分の身を守ることができる。

 精霊使いにとっては、そのことはとても重要なのである。

 

 それらの事実はともかくとして、シゲルは計画通りにゴールデンキメラを倒すことができた。

 これにより、シゲルは晴れてSランクでの勝者となり、その実力を侮る者はほとんどいなくなった。

 もっとも、Aランクになっていた時点で、大抵の者は侮ったりはしていなかったのだが。

 それはともかく、久方ぶりのSランカーの登場に、闘技場界隈での話題はしばらくの間シゲルに関すること一択になる。

 それがシゲルの取って良いことなのか、厄介なことなのかは、もう少し時間が経たなければわからないことなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 闘技場での戦いを終えたシゲルは、会場内にある特別室でしばらく寛いでいた。

 この特別室は、闘者で上位の地位に与えられる部屋である。

 はじめのうちは断っていたのだが、Sランクに昇格した時点で運営側が格好がつかないと言ってきたため、素直に受け取ることにしたのだ。

 とはいっても、シゲルがこの部屋を使うのは戦いの前後くらいだろうと考えている。

 実際、今回の戦いで初めて使っている。

 

 シゲルは、特別室のリビングで先ほど戦ったシロを労っていた。

 具体的には、シゲルに対してお腹を見せているシロを優しく撫でてあげていた。

「――こうやって見ていると、さっきとは全く違うんだがな」

 一人シゲル一体シロの様子を見ていたフィロメナが、苦笑しながらそんな感想を漏らした。

 特別室には闘者本人が許した関係者は入ることができるようになっている。

 

 そのフィロメナの感想を聞いたシゲルは、そちらを見ることなくのんびりとした調子で返した。

「まあ、自分はこっちのほうが好きだけれどね」

「バフ!」

 シゲルの言葉が理解できているシロは、撫でられている体勢のまま「ありがとう」と言わんばかりに小さく返事をしてきた。

 

 そのやり取りを見てもう一度苦笑したフィロメナは、頷きながら続けた。

「いや、別に咎めているわけではない。ただ、ほかでは見せないほうがいいなと思っただけだ」

 折角、シゲルが従えている精霊は強いというイメージ戦略に出ているのに、今のこの姿を見せてしまえば、イメージダウンになってしまうかもしれない。

 そう危惧してのフィロメナの言葉だったが、シゲルは首を傾げながら言った。

「んー。それはどうかな? もう強さ自体は散々見せているからね。今更自分に甘えている態度を見せたからと言っても、特になにも思わないと思うけれど?」


 そんなことを言ったシゲルに、今度はミカエラが首を振りながら返した。

「そう言うことじゃないのよ。フィーが言いたいのは、シゲル以外の精霊が舐められるんじゃないかってこと」

「あー……なるほど。そういうことか」

 ミカエラの説明で、自分が誤解をしていたことを理解したシゲルは、納得した顔で頷いた。

 

 シゲルの契約精霊が強いのは、もはや曲げようのない事実なので、それについて否定をする者はまずいないはずだ。

 だが、それが逆に「シゲルの精霊が特別」という意識に変わってしまって、ほかの精霊がないがしろにされる可能性もないわけではない。

 今まで「大精霊は特別な存在」と考えられていたのと同じ括りに入れられてしまうというわけだ。

 そうなってしまうと、また別の誤解が広がってしまうことになる。

 

 ただ、その誤解を防ぐためには、別の問題が出て来ることになる。

「それって、ほかの精霊使いが闘技場とかで実力を示さないとだめだと思うんだけれど?」

「そうなのよねえ……。それが一番厄介なところね」

 シゲルの回答に、エルフの(・・・・)ミカエラがため息をつきながらそう答えた。

 

 そもそも精霊使いは、エルフの専売特許に近い技術なので、その力を示すとなればエルフに出てもらうのが一番手っ取り早い。

 ところが、その肝心のエルフは、森に引きこもっていることが主なので、そもそも実力を表に示すことには興味を示さないのだ。

 端的に言えば、精霊使いが舐められて見られていても、それは別に構わないと思うというわけだ。

 むしろ、そちらのほうがエルフの里などを守りやすくなるという利点もあったりする。

 

 そこまで考えたシゲルは、ミカエラと同じようにため息をついた。

「まあ、それはこっちで考えても仕方ないんじゃないかな?」

「…………それもそうか」

 シゲルの投げだしたような言葉に、ミカエラも諦めたような顔でそう返すのであった。

付けた後で気付きましたが、なにかシロがいなくなってしまいそうなタイトルですねw

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