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(14)王との会話続き

 シゲルに精霊についてまだ聞きたいことはたくさんあるアドルフだったが、これ以上は聞いても無駄だと悟って、その矛先を変えることにした。

 そして、視線をフィロメナへと向けたアドルフは、何気ない口調で言った。

「随分と派手に動いているようだな?」

「はて。派手というと、どのことでしょうか?」

 勇者であるフィロメナは、町を歩いているだけで、人によっては派手に動いていると捉えることもある。

 それは、被害妄想だったり、ただの勘違いだったりすることが多々あるのだが、それをいちいち気に止めていたら生活すること自体がままならなくなる。

 フィロメナは、そのこと自体は有名税だと諦めていたりする。

 ただ、そのせいで、今回のように曖昧な聞き方をされてもなんのことだかがわからないことも起こり得るのである。

 

 アドルフもそのことが理解できたのか、改めて言い直した。

「サイミナ商会の件だ。お陰で業界関係者は騒めいているぞ?」

「そのことですか。ただ、派手といっても、私としては適正なところに適正な価格で売っているというだけの話なのですがね」

 フィロメナは、アドルフが本音ではなにを言いたいかをきちんと理解した上でそう返した。

 アドルフは、副音声として何故あの話をホルスタットに持ってこなかったのだと言っているのだ。

 

 とはいえ、フィロメナにも言い分はある。

 そもそもあの魔道具の設計図を国には持って行かずに一商会に預けたのは、国を超えての販売をしてほしかったためだ。

 ホルスタット王国に預けてしまえば、間違いなく全力で国の利益のために使うことが分かり切っている。

 勿論、アレフが商会のために使うこともわかっているが、国に独占されるよりは、商会に任せたほうがましだと判断したのである。

 それに、一国に預けると、下手をすればパワーバランスが崩れる可能性もないわけではない。

 その引き金になるようなことはしたくないということもあった。

 

 アドルフもそうした思惑を分かった上で、フィロメナに対して釘を刺している。

「そうか? 向こうも大変そうだがな」

「それはどの商売を行っても同じことでしょう。今回はたまたま私が持って行ったというだけのことです。――それに、もしどこかの国(・・・・・)が圧力を加えるのであれば、冒険者かギルドが動くだけですよ」

 フィロメナのその説明に、アドルフは軽く「そうか」とだけ言って頷いた。

 

 ただ、会話自体は軽くされているのが、実はその内容は重かったりする。

 冒険者フィロメナが見つけた魔道具やその設計図など、遺跡で見つけるものは数多くある。

 その権利に関して、国が圧力をかけるというのであれば、それで生活を行っている冒険者が反発をするというのは当然のことだ。

 それが商売上でのやり取りなら、ギルドも冒険者も文句をいう隙はない。

 中には、売ってきた冒険者をないがしろにして、国を相手にそういう商売をする商会もあるくらいだ。

 だからこそ、冒険者から信用を得ている商会が、国から圧力をかけられたという話になった場合は、大騒ぎになることもある。

 

 フィロメナもアドルフも、そういうことを理解した上で、先の会話を行っている。

 ちなみに、今の会話もアドルフ王の圧力だと捉えることができなくはない。

 だがフィロメナは圧力だとは捉えていなかった。

 そもそもアドルフは、国に売るべきだという断定的な話はしていない。

 むしろ、これくらいのことを言ってこなければ、そもそも一国の王としては失格だと考えているくらいだ。

 それに、今の会話は、どちらかといえば他の国に注意をしろという忠告に取ることもできなくはない。

 

 実際にアドルフがそのつもりで話をしているということは、傍で話を聞いていたラウラもわかっている。

 だからこそ、二人の会話を止めることなく、ただ黙って聞いているのだ。

「父上、フィロメナが売った魔道具は、世の役に立つというのは間違いないことです。それで、十分国も潤うでしょう」

 そう分かり切ったことを敢えて言ってきたラウラに、アドルフは一度だけ頷いてから短く答えた。

「そうだな。――だが、これまで魔力の補填をしていた者たちはどうなる?」

 一度言葉を区切ってからそう聞いてきたアドルフに、今度はフィロメナが小さく肩を竦めながら答えた。

「どうもこうもありませんよ。これまで使われていた魔力が、別のところに使われるようになるだけです」

 魔力の補填の仕事は、魔法を収めた者の仕事の一つだったが、それがなくなることによって、確かに一時的に失業者が出るだろう。

 だが、それに代わる仕事はいくらでも見つけることができる。

 それに、そもそも一商会で生産できる魔道具の量には、限界というものがある。

 それを考えれば、急激に失業者が出て来るはずがない。

 

 

 魔道具の話の内容自体は、聞くものが聞けば、剣呑な内容だと捉えるかも知れない。

 だが、フィロメナたちはいたって普通のやり取りという感じで会話を続けていた。

 どちらかといえば、これらの会話は、周りにいる護衛やメイドたちに聞かせるためのものであって、本当に釘を刺しあっているわけではない。

 それは、これまでの関係から得ているお互いの信頼があるからこそであり、さらにいえば、ラウラという存在がいるからでもある。

 

 少なくとも魔道具のことに関しては、両者の思惑が合致した上での会話である。

 それが直接役に立つということはほとんどないが、今後のためにはこうした芝居も必要なのだ。

 フィロメナもアドルフもそのことを分かった上で、会話をしているのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 アドルフとの会話の後で、シゲルたちはラウラの私室には行かずに、アマテラス号へと戻った。

 ラウラの私室が盗聴されているというわけではないが、やはり落ち着いて話ができるのは、アマテラス号なのだ。

 そして、アマテラス号の艦橋にある自分の席に落ち着いたフィロメナが、大きく伸びをしながら言ってきた。

「やれやれ。やはり王との会話は疲れるな」

「面倒なことを押し付けて、申し訳ございません」

 そう言って謝ってきたラウラに、フィロメナは右手をひらひらと振った。

「いやいや。こっちも必要だとわかっているからこそ続けていたんだ。本当に嫌だったら続けていなかったさ」

 軽い調子でそう答えてきたフィロメナに、ラウラは安心したような顔で「はい」と頷いた。

 

 その二人の会話を聞いていたミカエラが、シゲルを見ながら聞いてきた。

「こっちもあんな感じでよかった?」

「いいんじゃないかな? 誰でも出来ることだと思われるようだと困るし」

 精霊の進化のことについては、事前の話し合いはしていなかったが、シゲルは特に気にはしていなかった。

 自分が普通ではないと断言されたのはともかく、あの会話の流れでは仕方のないことだと分かっている。

 

 いずれにしても、今回の王との会話で、またシゲルたちの価値が上がっていることは認識されたはずである。

 だからこそ、余計なちょっかいを出してくる者も増えると予想されるが、だからこそシゲル自身も闘技場での名声を上げていこうとしているのだ。

 次は、Sランクの相手と戦うことになる。

 それに勝利すれば、少なくとも武力を使って来ようとするものは、いなくなるはずだ。

 Sランクというのは、それほどまでに圧倒的な相手なのである。

 今度の闘技場での目標は、そのSランクの相手をきっちりと倒すことであり、それさえ終わらせれば、あとは適当にこなすつもりのシゲルであった。

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