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(12)続・特級精霊と『精霊の宿屋』

 現在の『精霊の宿屋』では、それなりの数の外敵が来るようになっている。

 時間もタイミングもバラバラなので、本来であれば気が休まる暇がないはずなのだが、シゲルにはあまり負担はかかっていなかった。

 そもそも『精霊の宿屋』にはシゲル自身が入ることができないということもあるが、そもそも外敵が来たという知らせ自体は、訪問してきている精霊が知らせてくれるので、監視というものが必要ないのである。

 そのため、契約精霊たちに大きな負担がかかっているというわけではない。

 もっとも、折角来てくれている精霊たちを驚かせないように、定期的に巡回のようなものはしているようだった。

 そもそも『精霊の宿屋』を管理する際には、箱庭内を見回っていたりしているので、それとほとんどやることは変わらないのだが。

 それとは別に、初期精霊三体が使えるようになった配下の精霊の存在も大きい。

 ランク的には低くても、確実に『精霊の宿屋』のために動いてくれる精霊がいるというのは、訪問するだけの精霊がいるのとでは大違いなのである。

 

 特級精霊が三体になったといっても、外敵の対処がお遊びで対処できるほどになったというわけではない。

 来る外敵の質も数も増えているので、それはその都度対処するしかないのだ。

「今のところ特級精霊が一体いればどうにかなっているけれど、増やす必要はあるかな?」

 引き続き護衛についているラグを見ながらシゲルはそう聞いた。

「いいえ。そもそも他の者たちだけでも対処できるほどしか来ていないので、あまり心配する必要はありません。かといって、油断ができるわけでもありませんが」

 ラグが付け加えた言葉に、シゲルは頷き返した。

 

 外敵の質が上がったとはいえ、ラグが言ったとおりに、今までの契約精霊だけで対処はできている。

 それでも油断ができないというのは、戦いである以上はなにが起こるかわからないためだ。

「それはそうか。まあ、余裕がある分にはそれでいいや。ギリギリで戦っているよりもはるかにましだし」

 ぎりぎりの精霊の数を配置して、いざという時に『精霊の宿屋』が壊されてしまっては意味がないし、そもそも戦いすることも精霊たちにとっては経験の一つになっているのだ。

 傷付くことを考えれば簡単にお願いすることはできないが、それでも必要なことだと割り切るしかない。

 

 微妙にしかめっ面になっているシゲルを見て、ラグがそっと助言するように言った。

「シゲル様。私たちは、『精霊の宿屋』を自らの力で守れることを誇りに思っています。気にされるなとは言いませんが、気に病む必要はありません」

 はっきりとそう断言してきたラグに、シゲルは苦笑しながら頷いた。

「それもそうか」

 シゲルが変な気を回しすぎると、それはそれで契約精霊たちにとっても動きづらくなることもある。

 それは、『精霊の宿屋』を外敵から守るときだけではなく、通常世界で魔物と戦う時も同じことなのだ。

 

 ちなみに、『精霊の宿屋』に来ている外敵だが、ただむやみやたらに攻撃だけをしてくる存在ではない。

 というのも、外敵を倒した際に、ドロップアイテムのようなものを残すのだ。

 最初のころは数が数だったので、ごくわずかだったのだが、今では無視できない数になっている。

 だからといって、いくらでも来てくれと言えないところが辛いところだが、それよりは精霊たちが優先だと考えている。

 

 

 変な方向に思考が言ってしまったと自覚したシゲルは、一度首を左右に動かしながらそれを振り払った。

 そして、改めて『精霊の宿屋』の現状を確認した。

 広さが変わっていないため、大幅な改造が行われているわけではないが、ちょこちょこと手は入れている。

 例えば、ラグたちと相談しながら、北西に広がっている森や南西の花畑に生えている植物を植え替えてバランス調整をしたり、北東の湖の形を微妙に変化させたりなどだ。

 

 その中でも一番に変わっているのは、南東側だ。

 ノーラが建てていた宝物庫に加えて、以前は両手で数えられるほどの建物しかなかったが、それが倍近くに増えている。

 さらに、土属性であるノーラと火属性のアグニ(通訳込み)の希望が合わさった結果、工房のようなものができていた。

 その工房には、《炎の調べ》を使った炉までが完備されている。

 

 シゲルは、炉と聞けば刀鍛冶をすぐに思い浮かべるくらいの知識があるが、残念ながらノーラを含めて刀を打てる精霊はいない。

 というよりも、精霊たちは鉱物を使った武器を持つことはないので、そもそも武器自体を作ることがない。

 ではその炉を使ってなにをしているかといえば、主に建築素材になるようなものを加工して作っているのだ。

 その炉の存在のお陰で、高度な金属加工もできるようになっているのか、今までグレーアウトして作れなかった建物がいろいろと解禁されている。

 十階建てのマンションなどは、その代表例と言えるだろう。

 

 今のところそれらの素材を使った建物は建てていないが、素材さえ揃えば順次作っていく予定だ。

 シゲルにしてみれば、精霊しかいない世界でそんなものを作ってもという感覚はあるのだが、意外にも訪問する精霊たちのなかには、そうした建物を好む者が多いと分かったのだ。

 それであれば、イメージと違うからといって、忌避する必要はない。

 精霊たちが喜んでくれるのであれば、そちらのほうを優先する。

 その分、建物の配置などは、シゲルの好みに合わせることになるが、それくらいは許してもらえるだろうと考えていた。

 

 

 おかげさまで『精霊の宿屋』に訪問する精霊の数は、また徐々に増えてきていた。

 それは、特級精霊がいるからという安心感からなのかは不明だが、とにかくその分の精霊石が増えているのは紛れもない事実であった。

「――というわけで、精霊石が入用だったら、いつでも相談に乗るから」

 夕食の席でシゲルがそう言うと、フィロメナが他のメンバーと顔を見合わせてから言った。

「それはありがたいが、『精霊の宿屋』で使うのではないか?」

「そうなんだけれどね。いまは大量に使うこともないから、余り気味なんだ」

 あくまでもシゲルの感覚でしかないが、少し持て余し気味になっているのは確かなのだ。

 『精霊の宿屋』にあちこち手を入れてもいいのかもしれないが、シゲルの性格上、一度作った物を壊して新たに作り上げるということはあまりすることはない。

 現状では、ちょっとした修正を加えるときや外敵が壊していった自然を直すことくらいにしか使っていないので、精霊力を極端に多く使うということもないのである。

 次に大量に使うことがあるとすれば、『精霊の宿屋』の拡張の時だとシゲルは考えているが、残念ながら今のところその兆候は見えていない。

 

 シゲルの言葉を聞いて、ミカエラが目を輝かせながら言った。

「それじゃあ私が貰ってもいいかな? 勿論、対価は払うわよ?」

「対価もいらないと言いたいところだけれど、そういうわけにもいかないか」

 この世界では、精霊石が十分に価値のある物だと最初の頃から言われているので、そう簡単にホイホイただであげて良い物ではない。

 シゲルにとっては余り物だが、だからといって世間一般でその価値が下がっているわけではないのだ。

 もっとも、そのシゲルが大量に精霊石を一般に流通させてしまえば、価値も下がる可能性があるが、そんなことをするつもりはないのである。

 

 シゲルの言葉に、ミカエラは何度か頷いていた。

「それはそうよ。いくらなんでもただはまずいわ」

 ミカエラにもその認識はしっかりあったようで、そう言って納得していた。

 シゲルとしては、もう親友と言っていい関係なのだから精霊石の一つや二つは譲ってもいいと思っているのだが、その辺りはきっちりとしているのがフィロメナたちの以前からの関係なのだ。

 だからこそ、大きなもめごとも起こすことなく、魔王討伐なんてことができたのかもしれない。

 ――なんてどうでもいいことをシゲルは頭の片隅で考えるのであった。

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