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(17)初依頼

 冒険者ギルドのEランクの依頼は、大まかに分けて二つがある。

 一つは、定番であるゴブリン退治などの魔物討伐。

 もう一つは、これまた定番である薬草などの採取依頼だ。

 冒険者ギルドの依頼には、依頼品を持ってくればいつでも受け付けてくれる常設依頼があるが、Eランクの依頼にはこの常設依頼はない。

 理由は単純で、Dランクへのランクアップの条件になっているのが、通常依頼の連続達成数が十にするというもので、常設依頼ではない通常の依頼で達成する必要があるためだ。

 要するに、Eランクで常設依頼を用意しても、まず誰も受けないのだ。

 なぜこんな仕様になっているかといえば、きちんと受付で前もって処理をした依頼を依頼期限内に達成するということに慣れさせるという目的がある。

 そのため、冒険者になりたての少年少女は、朝早くからギルドに顔を出して依頼処理を行うというのが、Eランク冒険者の定番となっている。

 

 初めての依頼くらいは真面目にこなそうかと、朝早くから冒険者ギルドに顔を出したシゲルは、少年少女で一杯になっているEランク用の掲示板周辺を見て呆然としていた。

「……なるほど。冒険者になりたての人にとっては、死活問題なのか」

 別に年寄りぶるつもりはないが、流石にあの中に交じって、条件のいい依頼を探し出すというのは、いささか骨が折れる。

 そう考えたシゲルは、掲示板前の喧騒が落ち着くまで待つことにした。

 どうせなので、最後まで選ばれなかった依頼を受けてみるのも良いだろうと考えたのである。

 

 そんな思惑のもと、待ち続けること三十分。

 ようやく掲示板前が落ち着いて来た。

 残っているのは、寝坊のせいか、焦ってギルドに駆け込んで来て、暗い顔をしている者たちくらいだ。

 現に、少し離れた場所で、パーティメンバーらしき者から怒られている少年冒険者もいる。

 とはいえ、Eランクの依頼はさほど種類があるわけではない。

 諦めた顔になって、ひとつの依頼票を持って受付に行くような光景が見られた。

 

 掲示板に貼られている依頼の内容を確認した。

「……なるほどね。残っているのは、どれもこれも今日中が締め切りになっているのか」

 その呟きが聞こえたのか、隣にいた諦め顔の少年が反応した。

「なんだおっちゃん、依頼を受けるのは初めてなのか。普通は、その日は失敗しても良いように、日付に余裕があるものを受けるのがいいとされているんだよ」

「なるほどねえ」

 少年の説明に、シゲルは納得した顔で頷いた。

 

 達成期限日がぎりぎりだと、心に余裕がなくなって、普通だったら成功するような依頼も失敗してしまうこともある。

 そのため、Eランクの冒険者は日付に余裕があるものを選んで依頼を受けるのが定番なのだ。

 ギルド側も、わざとそういった依頼が残るように、数の調整を行っていたりする。

 もっとも、そんなセオリーはシゲルには関係が無い。

 適当な依頼を二つ選んだシゲルは、それを持って受付へと向かった。

 シゲルが複数の依頼を持っていくのを見て、助言してくれた少年冒険者が驚いた顔をしていたが、気付かなかったふりをしておいた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 無事に依頼を受け付けてもらえたシゲルは、人が少なくなったのを確認してから、シロに声を掛けた。

「シロ、出て来ていいよ」

 その声に反応するように、シゲルの足元に白い塊が現れた。

 シロには、町の中で姿を見られるわけにはいかないので、『精霊の宿屋』の中で待ってもらっていたのだ。

 ちなみに、護衛についているラグは、シゲルの懐の中に収まっている。

 

 なにが気に入ったのか、ズボンのすそを噛み始めたシロに苦笑しながら、シゲルは指示を出した。

「シロ、ゴブリンを捜してきてもらえるかな?」

 シゲルがそう言うと、シロは犬が吠えるように大きく口を動かした。

 ただ、ほかの精霊たちも同じなのだが、その口から音(声)が聞こえてくることはなかった。

 それでも十分気持ちは伝わってくるので、なんの問題もない。

「それじゃあ、頼んだよ」

 シゲルがそう言うと、シロはあっという間にその場から駆けだしていった。

 

 今回受けた依頼は、薬草採取とゴブリン討伐である。

 そのうちのゴブリンを捜しに行ったシロを見送ったシゲルは、薬草を捜すことにした。

「さてさて、薬草といってもいくつか種類があるから、自分でも探せると思うけれど……」

 ポーションの材料となる薬草は、効果の違いはあるが、複数の種類がある。

 薬師や錬金術師などは、それらの薬草を使って、同じような効果になるように調整しつつポーションを作るのだ。

 

 どれが薬草にあたるかは、既に『精霊の宿屋』に登録されている図鑑を見れば一目瞭然だ。

 もっとも、Eランクの依頼に薬草採取があるとわかっていたシゲルは、きちんと事前に確認をしておいた。

 薬草を捜して歩き始めたシゲルの周りを、ラグが飛び回っている。

 勿論、万が一にも人目にはつかないように、注意をしながらだ。

 もっとも、いくら冒険者がいるかもしれないとはいえ、小さな精霊を見つける程に近ければ、シゲルも気が付いているはずだ。

 そのため、むしろラグは魔物が出て来ないかを注意しているようだった。

 

 

 街道から外れて草原のど真ん中を突っ切っていたシゲルは、その途中で目的の物を発見した。

「ああ、あったあった。……あれ? なんか、群生しているな。途中で見逃したりしたかな?」

 薬草が単独だけで生えていることは少ないが、それでも目の前にある群生地はちょっとした大きさになっている。

 これほどの広さの群生地があるのであれば、途中に単独で生えている薬草があってもおかしくはない。

 となると、それらを見逃してしまったか、あるいはほかの冒険者に採られてしまったと考えた方が自然である。

 

 依頼分の薬草を採取し終えたシゲルは、シロが戻ってくるまで、そのままこの場所でほかの草などを採ることにした。

 『精霊の宿屋』に登録する自然物の採取は、別に契約精霊だけができるわけではなく、シゲルも行うことができるのだ。

 しかも、各地の地図が記録されていくという高性能っぷりを発揮しているので、空いた時間を使ってどんどん登録していくべきなのだ。

 もっとも、昨日町に着いてから何度か精霊に採取をさせているので、すぐに目につくような物は既に登録されている。

 必要なのは、数が少なそうなこの辺りでは珍しい自然物が必要になる。

 

 めぼしいものを採取しながら『精霊の宿屋』へ登録するという作業をしていたシゲルだったが、あまり成果は芳しくなかった。

 それは、もともと登録されているものばかりだった、ということもあるのだが、思ったよりも早くシロが戻って来たからである。

「おっ、もう見つけてきたのかな?」

 シゲルがそう問いかけると、シロはこっちこっちと言わんばかりに、少し離れては振り向くという動作をしていた。

 別に会話ができなくても、シロが何を言いたいのかはすぐにわかる。

 採取作業を放り出したシゲルは、シロの後についていくのであった。

 

 

 シロが探してきたゴブリンは、薬草を採取した場所から十五分ほど離れた場所に三体いた。

 距離は十分に離れているので、まだゴブリンがシゲルに気付いた様子はない。

 シゲルの戦闘は、離れた場所から魔法の一撃を当てて、さらに近付いてから倒すというのがパターンである。

 初撃の魔法を当てる際には、相手に気付かれてなければなおいい。

 

 というわけで、シゲルは早速ゴブリンに向かって、風魔法を使った。

 風魔法は、火魔法に次いで攻撃の威力があるので、シゲルが好んで使っている魔法になる。

 火魔法を使わないのは、単純に燃え広がる可能性があるためだ。

 もっとも、魔法の好みを選べるのは、相手が格下だとわかっているゴブリンだからである。

 

 そのゴブリンに向かって、シゲルは続けざまに魔法を放った。

「…………あれ?」

 そして、魔法が起こした結果を確認したシゲルは、思わずそう言いながら目を瞬いてしまった。

 いつもオークなどを相手にしていたシゲルは、当然のように三体が一度に近付いてくるのを警戒していたのだが、風魔法が当たったゴブリンはその場に倒れてしまったのだ。

「え、えーと……。もしかしなくても終わった?」

 あまりにあっけない幕切れに、シゲルは少しだけ呆気に取られてしまった。

 

 一応ずるがしこいと言われているゴブリンが、死んだふりなどをしていることも考えて、シゲルは恐る恐る近づいて行った。

 だが、そんな警戒はする必要はなく、間違いなくゴブリンは動かなくなっていた。

「うーん。いくらゴブリンとは初戦闘とはいえ、ちょっとオーバーキルだったかな?」

 そんなことを呟いたシゲルだったが、なんの危険もなく倒せたのは悪いことではない。

 

 依頼達成の証拠にするための耳を取るためにナイフを取り出したシゲルは、またシロに向かって指示を出した。

「シロ、またゴブリンを捜してきてもらえるかな?」

 その言葉に反応したシロは、また先ほどと同じように駆け出して行った。

 そして、それを見送ったシゲルは、今度こそゴブリンの耳をナイフで切り落とすのであった。

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