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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第8章 広がる名前

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(17)精霊術の考察と手紙

 シゲルは、ミカエラから得た精霊術の使い方を実践するために、ギルドの討伐依頼を受けていた。
 護衛役の精霊たちには手を出さないように指示を出しながら、自分自身の精霊術だけで目標を倒していく。
 もっとも、自分自身の精霊術といっても、目に見えない精霊たちの力を使っているのだが。
 それはともかく、何度か精霊術を使うことによって、エルフとヒューマンでの精霊術の違いというのが、実感することができていた。

 シゲルのそんな実感を裏付けするように、傍で様子を見ていたミカエラが近づきながら聞いてきた。
「調子はどう? 見ている限りではだいぶ威力が上がっているように見えるけれど?」
「うん。間違いないね。少なくとも自分に関しては、あの理論は間違いじゃなかったよ」
「やっぱりね」
 シゲルの答えを聞いて、ミカエラはため息交じりにそう答えた。

 これで、同じ精霊術といっても、精霊の捉え方によって行使の仕方が違ってくるということが分かった。
 エルフ間だけであれば大した問題ではないのだが、ヒューマンに精霊術を教えるとなると、齟齬が生じることになる。
 ただ、繰り返し新しい(?)精霊術を使ったことで、シゲルは別の感想を持っていた。
「これはもしかしたらだけれど、ただ単純にエルフ、ヒューマンと分けられる問題じゃないかもしれないよ?」
「……どういうこと?」
 そう言って首をかしげるミカエラに、シゲルは少しだけ考える様子を見せた。
 そして、自分の中でもやもやしていた考えをまとめてから話始めた。
「そもそもヒューマンが理論的に魔法を捉えているからというのもあると思うけれど、それって別にヒューマンだけに限ったことではないよね?」
 その台詞を聞いたミカエラは、シゲルが何を言いたいのかが分からずに首をひねった。

 十秒ほどそうしていたミカエラだったが、なにかに思い当たったような顔になって頷いた。
「――要は、自然現象の捉え方の違い、というわけね?」
「そうそう。そういうこと」
 確認するようにミカエラかそう聞かれたシゲルは、自分が言いたかったことを一言で言ってくれたミカエラに向かって、満足げな顔で頷いた。

 エルフやその他精霊に近しいといわれている種族は、自然現象を見たままのものとしてとらえる。
 ヒューマンもそうした捉え方をする者は大勢いるのだが、特に魔法を使う者の中では、見たままではなく理論的に考えようとする者が多いのだ。
 シゲルが言いたかったのは、そうした理論的な捉え方をする者が精霊術を使う場合には、エルフ理論ではなくヒューマン理論(?)で精霊術を使ったほうがいいということだ。
 そしてもっと言えば、シゲルの場合は、自然現象をどうしても科学的に考えてしまうため、猶更理論的に精霊術を行使したほうがいいのだ。
 その結果、今までとは違った威力で、さらにはもっと高いレベルの精霊術が使えるようになったというわけだ。

 いまシゲルとミカエラが話したことは、要するに単純にエルフとヒューマンで区切られているというわけではなく、術を行使するものの捉え方によって違うということになる。
「それはまた随分と面倒になるわね」
 これから先のことを考えたミカエラが、渋い顔になりながらそう言った。
 というのも、これまで精霊術というのは、エルフが使っているものという捉え方がされていた。
 今回ミカエラが王城の図書室で見つけた書物のように、一部では違った見方がされていたこともある。
 ただ、その理論が一般的に広まることは、これまでなかった。
 ところが、シゲルという今までにない大精霊さえ呼び出すことができる精霊使いが、エルフとは違った理論で精霊術を行使するようになると、その理論が一気に広がる可能性が出てきた。
 そうなると、どちらが正しい行使の仕方だという議論が出て来るに違いない。

 そんな懸念を示したミカエラに、シゲルは肩をすくめながら答えた。
「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな?」
「なぜ?」
「それって別に、精霊術に限らず、ほかの魔法だって同じことだよね?」
「……それもそうね」

 シゲルが言った通り、普通の(?)魔法もまた、使う者の感性によってそれぞれ違った行使の仕方がある。
 勿論、基本的な考え方というものはあるが、より威力を高めたりするのには、人それぞれで違ってくる。
 それを考えれば、別に精霊術が一種類の使い方に限られる必要はない。
 新しい理論が知られれば、しばらくの間混乱はするかもしれないが、それは別に精霊術に限ったことではない。
 最終的に、落ち着くべきところに落ち着くだろうというのが、シゲルの考えだった。

 その考えを聞いて余計な心配だったかと首を左右に振ったミカエラは、倒したばかりの魔物を処理しているシゲルを見て言った。
「とりあえず、それを処理して戻りましょう。それとも、まだ倒しに行く?」
「いや。もう十分すぎるほど倒したからね。これ以上間引きする必要もないだろうし、戻るよ」
 シゲルとミカエラは、アマテラス号に乗って討伐ポイントまで来ている。
 他のメンバーは、王都でそれぞれの用事を果たしているため、出来るだけ早く戻ったほうがいい。

 ミカエラが加わって、手早く討伐した魔物の処理を終えたシゲルは、今回はそれ以上の討伐は行わずに王都へと戻った。
 所定の位置に戻ったアマテラス号だったが、そこにはまだ誰もいなかった。
 そして、間に合ったと胸を撫でおろしたシゲルは、そのまま冒険者ギルドへと向かうのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 シゲルとミカエラが精霊術の確認を行っていたその頃、フィロメナたちは王城にあるラウラの私室で盛大にため息をついていた。
「――予想はしていたが、これほどとはな」
「随分と人気者になったものね」
「さすが、というべきでしょうか」
 フィロメナ、マリーナ、ラウラの順に言いながら、彼女たちの視線は別のところに固定されたままだった。
 その視線の先には、山と積まれている手紙があった。
 それらの手紙は、すべてシゲル宛てに届いている物である。
 ちなみに、申し訳程度にラウラ宛の物も脇に置かれているが、さほど手間がかかる分量ではない。

 ラウラと婚約したことによって、これまでフィロメナの屋敷にしかなかったシゲルへの窓口が正式にできた。
 ついでに、大精霊を呼び出せるということによって注目を集めることになったシゲルへ、こうして繋ぎを作ろうとする個人や組織が出て来るのは分かっていたことである。
 ただ、その予想を超えて反応が素早く、大きかったというだけだ。

 もう一度手紙の山を見たラウラは、ため息をついてから言った。
「こうしていても仕方ありません。――手分けして分類しましょう」
 傍に控えていた侍女たちを見ながらそう言ったラウラを見て、フィロメナが首を傾げた。
「いいのか?」
「構いません。きちんとシゲルさんには許可をもらっていますから」
 ラウラを介してシゲルと繋ぎを取ろうとする者が出てくることは分かっていたので、ちゃんと事前に話し合っておいたのだ。
 少なくとも手紙類に関しては、中を開けて分類したうえで、シゲルに報告することになっていた。

 ラウラが侍女を見たのは、もともとそうした秘書的な役目を持っているためである。
 ラウラは、侍女たちにどういう分類で分けるのかを指示しながら、自分も手紙を開け始めた。
 ちなみに、ラウラが手に取っているものは、国からの物や高位貴族から来ているものになる。

 そのラウラの様子を見て、フィロメナとマリーナも席に座って手紙の仕分けを始めた。
「こちらは任せてもらってもいいのですよ? 元からそのつもりでしたから」
 そう申し出てきたラウラに、フィロメナは首を左右に振った。
「いや、さすがにこれを見てしまってはな」
「そうよ。それに、ここまで山となるのは、最初のうちだけでしょう。……たぶん」
 自信なさげにマリーナがそう付け加えると、フィロメナとラウラは同時に顔を見合わせて苦笑をした。
 普通に考えればそうなのだが、噂の広がり方から考えると、他国からのものはまだまだこれからということも考えられる。
 マリーナが自信を無くすのも当然だと考えたのだ。

 
 手紙の開封作業を続けていたフィロメナが、ふと思い出したようにラウラに聞いた。
「そういえば、侍女たちをこのために使ってもいいのか?」
 ここで作業をしている侍女は、一応ラウラ付きとはいえ、王国に雇われていることには違いがない。
 その侍女たちをシゲルのために使っていいのかが分からなかったのだ。
「構いませんよ。そもそも離宮を用意するというのは、そういうことですから」
 これらの手紙は、直接シゲルに届いているものではなく、ラウラを介して届けようと城に届いているものだ。
 その手紙を国、というか王族として処理するのは、何ら無理がある理論ではない。
 そうでなければ、自分たちは関係ないと王が突っぱねてしまっても構わないのである。
 それをきちんと受け取ったということは、王族として処理をしますよということになるので、侍女たちを使っても問題ないという理論だ。

 あっさりとそう答えたラウラの見て、フィロメナは安心した顔で頷いた。
「そうか。それなら構わない」
「フィー、そんなに心配しなくても大丈夫よ。自分たちが思いつくようなことは、当然王だって考えているはずよ」
「それもそうだな」
 マリーナの言葉を聞いて頷くラウラを見て、フィロメナもそう返すのであった。
ちなみに、今回は手を出したラウラたちですが、今後は侍女たちに任せる予定です。
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