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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第8章 広がる名前

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(15)考え方の差

 シゲルが闘技場で戦っている間、フィロメナとミカエラは、アマテラス号で帰りを待っていたわけではない。
 ラウラと一緒に王城に入った二人は、城内にある図書室へと向かった。
 城勤めでない限りは、王城にある図書室へ入ることはできないのだが、きちんと許可を取った上での入室である。
 そもそもフィロメナたちは、図書室へ入る許可があった。
 ただ、これまでは余計な有象無象が近づいてくる可能性が高かったので、寄り付かなかったのだ。
 シゲルと婚姻を結んだことにより、そちら方面での勧誘(紹介?)が減ると分かったので、折角だからと図書室を利用することにしたのだ。
 それに、シゲルとのこともあるが、ラウラとの関係が近くなったというのも大きい。
 なんだかんだでフィロメナたちも、シゲルとラウラの婚約には恩恵を授かっているのである。

 フィロメナは魔道具、ミカエラは精霊術と、個人的に図書室で調べることはいくらでもある。
 しかもホルスタット王国の歴史は長く、大国であるということも相まって、その規模も近隣諸国とは比べ物にならないほどに大きい。
 そのため、フィロメナとミカエラは、まずはどんな書物があるのかということから調べることにした。
 ちなみに、王城の図書館には禁書の類もあるが、当然ながらそれらは閲覧禁止となっている。
 いくら王族の関係者といえども、そこは厳格に区別されているのだ。

 
 図書館の調査を開始してから数時間後、区切りのいいところまで来たフィロメナは、そろそろシゲルの戦闘も終わっただろうかという思考が頭をよぎった。
 そうなってしまうと後はそちらの方が気になってしまい、完全に集中力が切れてしまった。
 そして、調査の続行を諦めたフィロメナは、一緒に休憩を取るために、ミカエラがいるはずの場所へと向かった。
 そこでフィロメナは、一冊の本を手に取って真剣に読んでいるミカエラを見つけることとなった。
「こんなところで、どうしたんだ? きちんと読むのであれば、席に着いたらどうだ?」
 王城の図書館には、きちんと読書スペースが設けられている。
 むしろ立ち読みは、ほかの利用者の邪魔になりかねないので、場合によっては眉をしかめられない行為である。
 今は利用者がほとんどいないらしく、ミカエラが誰かの邪魔をしているということはなかったが、不作法であることは間違いない。

 フィロメナの声ではっとした様子を見せたミカエラは、持っていた本を閉じて軽く頭を下げた。
「ごめん。有り難う。ちょっと気になったことがあったことがあったものだから……」
 立ち読みを見つかったのが他の貴族とかではなく、フィロメナだったことに安堵しつつ、ミカエラはそう言いわけをした。
 そのミカエラを見て、フィロメナは立ち読みのことではなく、別のことが気になった。
「ミカエラが参考になるような資料でもあったのか?」
 現状、精霊術の分野においては、エルフがもっとも先を言っていると言われている。
 その中でもミカエラは、最先端を行く知識を持っているはずだった。
 フィロメナにとっては、そのミカエラが知らないようなことが書かれている書物があるとは思えなかったのだ。

 そのフィロメナの様子を見て、ミカエラは苦笑気味に首を左右に振った。
「私だってすべてのことを知っているわけではないし、ヒューマンにだってそれなりの知識の蓄えはあるわよ。だからこそ私もここで調べることにしたんだし」
 いくらヒューマンが精霊術の分野に遅れているからといっても、エルフたちが知らない知識を全く持っていないというわけではない。
 そうしたことを調べるには、やはり本という形になっているものを探すのが早いのだ。
 大陸中を旅していくつかの図書館と呼べる場所を見てきたミカエラは、そのことをよく知っている。
「言われてみれば、確かにそうか」
 ミカエラの言葉に、フィロメナも納得した表情で頷いた。
 一口に図書館といっても、それぞれの国で研究された分野や考え方によって、貯蔵される内容は大きく変わってくる。
 ミカエラが知らないようなことが書かれた書物があることは、むしろ当たり前のことなのだ。

 フィロメナは、ミカエラの持つ知識を過大評価しすぎたかと反省した。
「それで? どんなものを見つけたんだ?」
「それは別のところで話そう? そろそろ他の人の視線が気になるところだし」
 ミカエラはそう言いながら周囲を見回した。
 いくら小声であるとはいっても、図書室で長々と話をするのは常識外れである。
 ミカエラのことを注意しておきながら、自分も失敗しかけたフィロメナは、苦笑しながら頷くのであった。

 
 休憩しようと考えたのはミカエラも同じだったようで、二人は一度図書室を出た。
 残念ながら王城の図書室は、本の貸し出し制度があるわけではないので、持ち出すことはできない。
 正確に言えば、王城内では自由に持ち出せるのだが、部屋があるわけではないフィロメナとミカエラは、持ち歩くわけにもいかず結果的に借りることができないというわけだ。

 城内にある食堂に向かっていたフィロメナは、隣を歩くミカエラ見て聞いた。
「それで? 何が書かれていたのだ?」
「それが、私にとっては盲点だったんだけれどね。――エルフとヒューマンが使う精霊術の違いについて」
「む? ……なるほど」
 一瞬何を言われたのかわからないという顔をしたフィロメナだったが、すぐに理解して頷いた。

 ヒューマンは、エルフほどに精霊術が使える者はいない。
 そのため、研究が進んでいないわけだが、全く研究がされていないわけではないのだ。
 ミカエラが見つけた書物の中には、特にエルフとヒューマンが使う精霊術の差異についての研究成果が書かれていたのだ。
 エルフは自分たちで使う精霊術にしか興味がないので、ミカエラがその知識を知らなかったとしてもなんの不思議もないのである。

「盲点といえば盲点なんだけれどね。まさか、種族によって違いが出るとは考えていなかったわ」
 ため息交じりにそう答えたミカエラに、フィロメナは不思議そうな視線を向けた。
「そんなに違いがあったのか?」
「術そのものではなくて、考え方の違いだけれどね」
 フィロメナの問いに、ミカエラはそう答えつつ素直に頷いた。
 自分の知識不足を指摘されているのだが、事実なので反発しても仕方ない。

 どんな違いなのかと視線だけで聞いていたフィロメナに、ミカエラは肩をすくめながら続けた。
「あの本では、エルフは精霊の魔法を自然由来のものとして考えていて、ヒューマンは魔法の延長だと捉えがちだと書かれていたわ」
「うん? どういうことだ?」
「つまりね――
 いまいち意味が分からずに首をかしげるフィロメナに、ミカエラは自分の中でも整理をするように話し始めた。

 エルフは、精霊術の根幹である精霊を自然から生まれた意志ある者として捉えている。
 それはヒューマンも同じなのだが、精霊たちが起こす魔法的な現象は、自然そのものではなく魔法の一種だと考える。
 それに対して、自然の延長線上にあると考えているエルフは、あくまでも人が起こす自然現象だと考える。
 まとめると、エルフは精霊術を自然現象の一種、ヒューマンは魔法現象の一種としているのだ。
 その考え方の違いがあるため、使役される精霊との差異が生まれて、ヒューマンの場合は精霊使いになれるものが少ないのではないか、というのがその書物に書かれている考察だった。
 ちなみに、ここで言っている「精霊」というのは、目でみることができない小さい存在である。
 下級精霊として区分されるような契約ができる精霊は、そもそも人の意図が通じ安いので、そのような差は生まれにくいとされている。
 自我と意思を持っている下級精霊は、契約者との認識の違いを理解して魔法(精霊術)の行使を行うというわけだ。

「――言われてみれば確かに、というところはあるのよね」
 最後にそう言ってまとめたミカエラに、フィロメナはもう一度首を傾げながら聞いた。
「言いたいこともわかったし納得もできたが、それがどうかしたのか?」
 ミカエラは既に精霊使いとして勇者の一員として名をはせている。
 そんな違いが分かったところで、何かの役に立つとはフィロメナには思えなかったのだ。

 そんなフィロメナに、ミカエラが少しだけ驚いたような顔になった。
「あら。私ではなくて、シゲルの役に立つと思ったのだけれど、必要なかった?」
 少しだけ笑いながらそう言ったミカエラに、フィロメナは「あ」とだけ答えた。
 複数の上級精霊を意のままに召喚しているシゲルだが、実は自身が使える精霊術のレベルはさほど高くはない。
 もっとも、従えている精霊に比べてという意味であって、一般的に見れば十分に使えるレベルなのだが。
 ミカエラは以前からその差の理由について考えていたのだが、今回見つけた書物でその理由の一端が分かったかもしれないと考えているのである。
ちなみに、今回ミカエラが見つけた研究成果は、必ずしも正解というわけではありません。
そういう考え方も当てはまるという程度です。
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