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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第8章 広がる名前

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(8)フツ教の立場

 王城にて婚約発表を行った翌日、シゲルとマリーナは、リゼムトゲルトの訪問を受けていた。
 本来、神殿を離れることが少ない枢機卿の訪問を別の場所で受けるということだけでも異例なことなのだが、婚約発表を行った翌日に来たということも普通ではありえない早さだった。
 そう。リゼムトゲルトは、シゲルとマリーナの婚約について話をするために来ているのだ。
「よりによって、シゲル様が大精霊を従えていらっしゃるとは思ってもみなかったですよ」
 リゼムトゲルトは、多少疲れたような表情でマリーナを見ながらそう言った。
 さらに、その視線には、どことなく恨みがましい様子も見て取れた。

 当然のことだが、マリーナはシゲルとの婚約発表について、きちんとリゼムトゲルトへ報告していた。
 リゼムトゲルトも以前からシゲルについての話を聞いていたので、そのこと自体は問題なく受け入れていた。
 だが、シゲルが大精霊を呼び出すことができるなんて話は聞いていなかった。
 王城の夜会で行われたシゲルの大精霊の呼び出しは、その日のうちに、リゼムトゲルトの耳にも入っている。
 それだけではなく、神殿にいるほとんどのものが、大精霊を従えているシゲルについての話を知っている状態になっていた。
 フツ教にとっては、大精霊を呼び出せるということは、それほどの価値があることなのだ。

 マリーナの隣に座っているシゲルは、完全に傍観者に徹していた。
 事前にそうするようにマリーナから言われているのだ。
 そして、リゼムトゲルトから視線を受けたマリーナは、涼しい顔で言った。
「申し訳ございません。王家の事情で事前にお話しすることはできませんでした」
 昨夜の夜会は、王家の事情で開かれたものだった。
 その席でラウラとシゲルの婚約が発表されたので、マリーナのことはあくまでもおまけ程度のことでしかない。

 マリーナとしては、既成事実を作ってしまうことが目的だったのでそれで何ら問題がないのだが、逆にフツ教としては問題になる。
 ラウラが前面に出ていてマリーナがおまけ扱いだと、シゲルに対する両者の扱いがその程度だと思われてしまうのだ。
 実際にはそんなことはないのだが、昨日の様子を見れば、ほとんどの者がそう考えるだろう。
 マリーナは、そうなることが分かっていて、婚約発表の場に同席したのだ。
 それには、シゲルが大精霊を呼び出せるということがわかって、利用しようとする者たちを牽制する目的があった。

 さらにマリーナは、何やら含むような視線をシゲルに向けているリゼムトゲルトに、釘を刺すように言った。
「変にシゲルを利用しようと思えば、大精霊の怒りを買うこともあるということを忘れないでください。――しかも、複数の」
 敢えて最後にそう付け加えたマリーナを見て、リゼムトゲルトはその意味を理解してげんなりとした顔になった。
「ですから、そういうことは前もって……いえ、言えるはずもありませんか」
 大精霊を一体呼び出したというだけで、上から下までもれなく大騒ぎになっているのだ。
 今頃は、その話は王都を飛び出して、さらに遠くまで噂として広まっているだろう。

 大精霊を呼び出したという事実だけでもその騒ぎなのに、さらに複数と契約を結んでいるとなれば、大騒ぎになるどころではない。
 何がなんでも自陣に引き入れようと様々な勢力が動き出すはずだ。
 それはフツ教だけではなく、ほかの宗教も同じだ。
 そのせいでシゲルの怒りを買って、ひいては大精霊を怒らせるようになればどんなことになるのか、リゼムトゲルトはそのことを一瞬で理解したのだ。
 もっともそれは、リゼムトゲルトだけではなく、立場のある者であればすぐに気付ける事実である。

 リゼムトゲルトが状況を理解したところで、マリーナは頷きながら言った。
「ですから私たちは、基本的にあの家に引きこもって生活を続けます」
「それは……いえ、そのほうがいいのでしょうね」
 マリーナの言葉に、リゼムトゲルトはため息交じりにそう答えた。
 本来であれば、シゲルの特異性を利用して、その立場をより強化していくべきだと言うところだが、現状ほとんどその意味がない。
 その理由は簡単で、マリーナがすでに聖女という立場を持っているため、それ以上となると枢機卿や教皇くらいしか残っていない。
 そんながんじがらめの地位に立つことは、マリーナを含めて誰も望んでいない。
 ちなみに、マリーナとしては、そんな身分に縛られてシゲルと一緒に過ごす時間が減るのはごめんだと考えていたりする。

 そのマリーナの考えが分かるだけに、リゼムトゲルトとしてはため息をつくしかない。
 出来ることなら自分の後を継いでほしいと考えているだけに猶更だ。
 そんなリゼムトゲルトに、マリーナが言った。
「私はともかく、シゲルに変な役職を付けるのはやめておいたほうがいいですよ。少なくともその時は、他の二つと同時がいいでしょう」
「む。やはりそうなるのですか」
 マリーナの言葉に、リゼムトゲルトは呻くようにしてそう応じた。

 シゲルに何らかの立場を与えるということは、大精霊を呼び出せる存在がフツ教に所属するということに他ならない。
 他の宗教が、それを黙ってみているはずがない。
 それどころか、大精霊を従えているシゲルを勝手に縛っていると非難してくるはずだ。
 特に、自然そのものを神としているオーラ教は、精霊に対する信仰もフツ教よりも強く、黙っていないはずだ。
 下手をすれば宗教戦争にまで発展しかねない。

 それでも構わないという覚悟をフツ教が持てるのであれば問題ないのだが、フツ教はそんな厄介ごとには手を出さないはずである。
 マリーナの時のように、幼少の時からフツ教に在籍していたというのならともかく、渡り人でありどこにも所属していないシゲルの場合は、そう簡単にはいかないのだ。
 勿論中にはそれでも構わないと主張する者たちも出てくるだろうが、それは多数派にはならないとリゼムトゲルトは考えていた。
 フツ教は、違った考えを排除するのではなく、取り込んでしまおうというのが基本的な考えなのである。

 マリーナが言った他の二つというのは、三大宗教のうちのソルスター教とオーラ教のことだ。
 フツ教がシゲルに何らかの立場を与えるのであれば、その二つにも同じように立場を与えた方がいいと言っているのである。
「最終的にどう判断するのかはわかりませんが、出来ればお別れすることにはなりたくないですね」
 マリーナがそう言うと、リゼムトゲルトは再び渋い顔になった。
「ここでそう言ってきますか。……娘が反抗期なのですが、どうすればいいでしょう?」
 何故だか後半にそう付け加えて自分を見てきたリゼムトゲルトに、シゲルはどう返していいものかと戸惑ってしまった。
 黙ったままでいいとマリーナに言われているシゲルとしては、下手に反応することもできない。
 付け加えると、そう言ったときのリゼムトゲルトの顔が、これまでと違ってただの父親としての顔になったように見えたからこそ、猶更そうなってしまっていた。

 そんなシゲルを見て、マリーナはムッとした顔になってリゼムトゲルトを見た。
「情で訴えるような真似はやめてください」
「それは冷たいな。寂しく思っているのは、本当のことだよ?」
 先ほどまでとは違って、完全に大司教としての立場を捨てた(?)リゼムトゲルトの態度に、マリーナはため息をついて見せた。
「私はともかく、シゲルはこういうことに慣れていないのですから、おやめください」
「おや。そんなことを私に教えていいのかい?」
 シゲルの弱点になるようなことをマリーナが漏らすと考えていなかったリゼムトゲルトは、少し意外そうな顔になった。

 そのリゼムトゲルトに、マリーナは何でもないという顔をして答えた。
「その時は、私とラウラで対応するので問題ありません。藪をつつきたいのであれば、どうぞ」
「やれやれ。本当に親離れするときは、あっという間だねえ」
 マリーナの答えに、リゼムトゲルトはわざとらしく両手を広げながら首を左右に振った。
 らしくないそのリゼムトゲルトの仕草に、マリーナはつんとした表情を見せるのであった。
空気のシゲル。
ついでに、もう隠す必要がなくなったので、ラグも姿を見せていたりします。

それにしても、ほかの二大宗教も出したほうがいいのでしょうかね?
色々ややこしくなって、本来の話が進まないので、今まで放置していましたが……。
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