(15)暇を見ての依頼受領
『精霊の宿屋』に外敵が来るようになってから半月。
その期間で、外敵が来る頻度や強さもある程度把握できていた。
さすがに最初のころのように、弱い敵だけがくるわけではないが、それでも中級精霊であれば一対一で十分対処できる程度の敵が来るようになっている。
ただ、その頻度は一日に一回か二回程度なので、あまり慌てて対処する必要はない。
少なくとも上級精霊二体を管理要員として配置するというルールは変えていないので、それだけでも十分対処できる。
ただ、それだけだと入ったばかりの中級精霊がいつまでたっても『精霊の宿屋』の管理に配置ができないので、あえて上級精霊二体以外にも入れているという状況だった。
現在は、全部で十体の契約精霊がいるので、三体を『精霊の宿屋』の管理、三体を護衛、三体を周辺探索にして、残りの一体を状況に応じて配置換えしている。
護衛に三体は多いと思わなくもないが、いざ強い外敵が来た時に、いつでも『精霊の宿屋』へ送れるように確保するための要員としている。
ある程度襲撃にも慣れてきたシゲルは現在、ラウラ、ビアンナ、ルーナと一緒にタロの町へと来ていた。
その目的は、シゲルの冒険者としての活動と、ラウラたちのギルドカード登録だ。
当然というべきか、ラウラは勿論、ビアンナとルーナもギルドカードは持っていない。
折角の機会なので、シゲルと一緒に町に行って、登録を済ませようということになったのだ。
シゲルと一緒になれば、王女という立場も微妙なことになりかねないので、身分証になり得るものは持っていた方がいいのである。
タロの町までは、アマテラス号を使って移動してきている。
シゲル(契約精霊)とルーナがいれば、歩きでもラウラを護衛しながら移動することはできるが、楽な方法を取ったのだ。
それに、そもそもフィロメナたちは、シゲルがいないところではアマテラス号に乗ろうとはしないので、森の中に置いておく意味がない。
そんなわけで、いつものように町の傍にアマテラス号を泊めて、シゲルたちは冒険者ギルドを目指した。
そして、冒険者ギルドに入った際、シゲルは中にいた幾人かの冒険者(男)から舌打ち攻撃を受けていた。
その理由ははっきりしているだけに、シゲルは聞こえなかったふりをしている。
幸いにも、直接何かをしてこようと考える者は出なかったため、シゲルたちは無事に(?)カウンターへと着いた。
冒険者ギルドのカウンターには、いつものようにアーシャが業務を行っていた。
朝の忙しい時間帯も過ぎていて、書類整理に励んでいた。
ただ、シゲルが近づいてきたことにすぐに気付いて、書面から顔を上げて笑顔を浮かべた。
「ご無沙汰しております。しばらく姿を見かけなかったと思うのですが、どこか遠出でもしていましたか?」
「はい。おかげでまた新しい風景を見ることができましたよ」
「そうですか」
シゲルの当たり障りのない答えに、アーシャは笑顔を浮かべたまま頷いた。
「それで、今日はどうされましたか?」
シゲルの手に依頼票がないことを確認したアーシャは、一度ラウラへと視線を向けてからそう聞いてきた。
「彼女たちの冒険者登録をお願いしようかと考えてきました。あとは、自分の依頼消化ですね。まずは、登録からお願いします」
「かしこまりました。……ギルドについての説明は行いますか?」
「あー……お願いします」
確認するような表情で聞いてきたアーシャに、シゲルは苦笑しながらそう答えた。
シゲルが登録した際に、フィロメナは自分が説明すると言って断っていたが、ちょこちょこ漏れがあったりしたので、プロに任せた方がいいと思ったのだ。
ラウラたちのことはアーシャに任せて、シゲルは掲示板へと向かった。
シゲル自身は依頼を受けるつもりで来ているので、きちんとどんな依頼があるのかを確認する。
「うーん。やっぱり採取か討伐依頼になっちゃんだよな」
冒険者の依頼は、大まかにわけると採取、討伐、護衛の三種類があるが、そのうちの護衛は時間がかかるものがほとんどなので、いつも避けている。
そのほかにも、常に傍にいる契約精霊をなるべく見られたくないということもある。
ランクを上げるためにはまんべんなく依頼をこなしたほうがいいのは分かっているが、そこまでランクにこだわっているわけではないので、基本的には採取か討伐依頼をいつも受けることになるのだ。
現在のランクであるDランクの依頼の中から適当なものを選んだシゲルは、アーシャのところへと持って行った。
ラウラたちは既に説明を聞き終えたのか、手持ち無沙汰で待っていた。
「あれ? 説明を聞き終えたんだったら、町の中でもぶらついていてもいいんじゃない?」
「はい。そうなんですが、そこまで時間はかからないと言われたので……」
「あれ? そうなんだ」
ラウラの答えに、シゲルは少しだけ首を傾げた。
自分の時は、少し時間がかかると言われた記憶が残っていたのだ。
そのシゲルに対して、アーシャは少しだけ苦笑をしながら言った。
「シゲル様の場合は、事情がありましたので……」
「ああ、なるほど」
言葉を濁しながらラウラたちを見たアーシャに、シゲルは納得顔で頷いた。
見られたラウラたちも、同じような顔をしている。
それらの反応を見て、アーシャはラウラたちがシゲルの特殊性について知っていると、すぐにわかった。
アーシャは、そのことを表に出さないようにしながら、シゲルの持つ依頼表に注目した。
「依頼を受けられるのでしたら、処理をしましょうか?」
「あ、お願いします」
シゲルはそう言いながら持っていた依頼表を二枚差し出した。
シゲルから依頼表を受け取って手際よく処理を行ったアーシャは、すぐに必要なものだけを返してきた。
「依頼は受理されましたので、完了報告をお待ちしております。お気をつけて」
「ありがとうございます」
シゲルは、そういいながらアーシャから依頼表を受け取った。
そのやり取りを見ていたラウラが、ここで聞いてきた。
「早速行かれますか?」
「いや、どうせだったらラウラたちのカードができるまで待っているよ」
ラウラたちの目的は、あくまでもカードを作ることであって、依頼を受けることではない。
そのうち受けることもあるかも知れないが、少なくとも今日の予定にはなかった。
ちなみに、シゲルは普通にラウラの名前を呼んでいるが、その名前はごく一般的に知られている名前で、すぐに王女を連想させるようなものではない。
そのため、顔見知りが多くいそうな場所を歩き回るのならともかく、タロの町のような小さな町では、ごく普通に呼んでいる。
精霊使いのシゲルと一緒にいるラウラということで、アーシャ辺りは気付いてもおかしくはないのだが、それを表に出すようなことはしていない。
カードができるまでしばらく待つことになったシゲルたちは、折角だからということで、掲示板に貼られている依頼を見ることにした。
すでにシゲルは見ているので、ラウラたちが受けられる依頼がどんなものかを見るためだ。
その時のラウラが自分と同じような感想を持ったことに、シゲルは内心でおかしく思っていた。
恐らく、自分がカードを作ったときにいたフィロメナも、同じようなことを考えていたのだろうと思うと、少しだけ面白かったのだ。
そんなことをしているうちに、ラウラたちのカードが出来上がり、先輩冒険者に絡まれるといったテンプレ展開が起こることもなく、無事に受け取ることができた。
その後、シゲルたちは冒険者ギルドを後にして、いくつかの店で食材を手に入れてからアマテラス号へと戻った。
アマテラス号を使えば、すぐにフィロメナの家に戻ることはできるが、精霊たちの行う周辺探索のことを考えて、シゲルが依頼を受けている最中はこちらに泊まる予定になっているのである。
そしてシゲルたちは、空を飛ぶ船が珍しいのか、アマテラス号周辺に集まっている人々をかき分けながら中に入り、その日の(外での)予定を無事に終えるのであった。




