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(14)襲撃といつもの様子

 万全の体制を作って外敵に備えたその日は、フィロメナたちにお願いをしてアマテラス号の運転も変わってもらった。

 『精霊の宿屋』への襲撃に対してシゲルができることは、指示を出すことしかないのだが、それでも最初くらいは直接対処した方がいいと考えたのである。

 フィロメナたちも、『精霊の宿屋』に外敵が来るようになったことは知っているので、快く運転を引き受けていた。

 そしてついに、アマテラス号が出発してから一時間ほど経ったときに、それがやってきた。

 その時のシゲルは、アマテラス号の艦橋で、操縦者のマリーナの気を紛らわすための会話を行っていた。


『シゲル、来たよ』

 突然の声に一瞬驚いたシゲルだったが、すぐにリグのものだと理解できた。

 その代わりに、いきなり黙り込んだシゲルをフィロメナたちが不思議そうな顔で見てきていた。

 ただそれも、シゲルが『精霊の宿屋』を起動する動作を見て、すぐに収まっていた。

 シゲルが昨日から『精霊の宿屋』への襲撃に対して、いろいろと行っていることを知っていたため、何が起こったのかすぐに理解できたのだ。

 

 フィロメナたちからの視線を感じつつ、シゲルは声を飛ばしてきたリグに話しかけた。

「状況は?」

『小さな精霊喰いが三体』

 さすがに、いつもと違って落ち着いた様子で報告してくるリグに、シゲルは内心で安堵した。

 チュートリアルと変わらない精霊喰いの数もそうだが、リグが落ち着いているということは、十分に対処できると判断していると分かったためだ。

 これで焦っていれば、落ち着くように言っていたところだが、その手間(?)も省けたことになる。

 

 リグからの報告を受けつつ『精霊の宿屋』を開いたシゲルは、画面内で精霊喰いの状況を確認した。

 精霊喰いが来た方角は、画面内で上、北側からだった。

 ただし、シゲルが『精霊の宿屋』を開いて確認した時には、すでにシロが三体目(?)の精霊喰いに躍りかかっている最中で、それもあっという間に倒してしまっていた。

「……うーん。思ったよりもあっさりだったな」

 シゲルが思わずそう呟くと、ミカエラがどういう状況なのかを確認するような視線を向けてきた。

 精霊喰いにかかわることだけに、ミカエラも気になっているのだ。

 

 そのミカエラの視線に気付いたシゲルは、肩をすくめながら続けて言った。

「なんか、訓練の時と変わらないくらいに、あっさりと倒せたよ。まあ、まだ初回で全然油断はできないと思うけれど」

「そう」

 シゲルの言葉に、ミカエラはそれだけ答えてから頷いた。

 シゲルの様子を見て、本当に大したことがなかったと分かったのだ。

 

 ミカエラが納得しているのを確認したシゲルは、再び『精霊の宿屋』に視線を移しながら腕を組んだ。

「油断はできないんだけれど……この分なら、上級精霊は二体くらいいればいいかな?」

 今の襲撃は、シロの独壇場で片づけてしまった。

 しかも、誰がどう見てもオーバーキルの状態で終わりになっていた。

 この程度の襲撃が続くのであれば、上級精霊を六体も『精霊の宿屋』に張り付かせておくのは、もったいなすぎる。

 

 しばらく腕を組みながら考えていたシゲルは、ラグとリグを呼び出した。

「二人はサクラと一緒に護衛についていて。いざとなったら向こうに戻ってもらうけれど」

「わかりました」

「はーい」

 シゲルの指示に、ラグとリグがほぼ同時に返答してきた。

 

 本来であれば、探索にでも出したいところだが、今はアマテラス号で移動中なので、あまり意味はない。

 護衛に関しては、船の中にいるのであれば一体いれば十分だが、いざという時にどう動くことになるのかを確認するのに、ちょうどいいと考えたのだ。

 今のタイミングでは確認できなかったが、襲撃の最中に『精霊の宿屋』の外にいる契約精霊が入れなければ、今後の戦略も変わってくる。

 『精霊の宿屋』は、やはり採取を行って使えるアイテムを増やすのが基本になるので、できるだけそのための人数を確保しておきたいのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 初めて外敵の来襲があった日の午後には、さらにもう一度襲撃があった。

 といっても、その襲撃も五体の精霊喰いが現れただけで、これもあっさりと倒してしまった。

 その襲撃のあとで、シゲルはあまり慎重になりすぎるのも駄目かと、『精霊の宿屋』の管理用精霊は、上級精霊二体とそれ以外に一体(以上)がいれば十分だと考えた。

 移動が二、三日続くので、まだ様子を見るつもりではいたが、その最中に襲撃の規模と頻度が変わらないようであれば、その方針で行くつもりでいた。

 

 そして、フィロメナの家に着いた時には、その方針は決定となっていた。

 というのも、襲撃の頻度も規模もその体制で十分すぎるということが分かったためだ。

 もしかしたら突発的に大きな襲撃があるかもしれないが、それを言ってしまえば、全員体制にしても間に合わないこともあり得る。

 その事態におびえて(?)がちがちに固めるよりは、採取の要員を戻したほうがいいと考えたのである。

 

 ついでに、シゲルの護衛には、必ず一体の上級精霊を付けておくことにもした。

 最初の確認の時に、襲撃があっても外から中への出入りは自由だと分かったので、いざという時のためにも上級精霊はいた方がいいと判断したのだ。

 そして今、シゲルは護衛役のリグとアグニに守られつつ、マリーナとラウラの三人で雑談をしていた。

「――ということは、シゲルの世界では、宗教は乱立していたのね」

「乱立って……いや、でも、こっちの世界からすれば、そう見えるのも当然か」

 マリーナの言葉に、シゲルは微妙な表情になりつつ頷いた。

 

 話題が宗教の話に及んだ時に、ラウラが元の世界ではどうだったのかと聞いてきたので、シゲルはきちんとそれに対して説明をしたのだ。

 今いる世界では、最大宗教以外に他のものがないわけではないが、その規模は小さく、さらには数も少ない。

 土着のものを含めれば、数えきれないほどの宗教があった元の世界とは、全く様子が違っている。

 

 違う世界での宗教のありように何か思うところがあったのか、マリーナは興味深げな様子で頷いた。

「面白いわね。でも、なぜそんな違いが出るのかしら?」

「うーん。……個人的な見解でよければ、いえることはあるよ」

 シゲルがそう答えると、ラウラも面白そうな顔になって視線を向けてきた。

 宗教というのは、やはり統治とは切っても切れない関係なので、シゲルの意見は気になったのだ。

 

 視線だけで二人から答えを促されたシゲルは、

「多分だけれど、実際に神――というか、こっちでは精霊だけれど、それが出てくるのかどうかの違いじゃないかな?」

 こちらの世界でも精霊と神の区別はある。

 ただ、精霊はともかく、神が人々の目の前に現れることはほとんどなく、ほとんどが伝説の類の話だ。

 それでも、精霊たちからの話や過去のそうした伝説の話から、神の実在は本当のことだと信じられていた。

 特に、五大といった精霊の存在は、神などいないという主張をする者を、ごく少数に限らせている状態にしている。

 

 シゲルが元いた世界では、神の実在を実際に口にしようものなら、場合によっては(特に日本では)奇異な目で見られたりもするのだから、宗教の成り立ちが違っていてもおかしくはない。

 そう説明したシゲルに、マリーナとラウラは感心した様子で頷いていた。

「言われてみれば納得はできるけれど、なかなか気付きにくいわね」

「そうですね。両方の世界を知っているシゲルさんならでは、といったところでしょうか」

 二人から揃って褒められることになったシゲルは、少しだけ照れたような表情になった。

 シゲルとしては、ただの思い付きを話しただけで、そこまで感心されるようなことだとは思っていなかったのだ。

 

 その照れを誤魔化すように、シゲルはリグとアグニを見ながら言った。

「神どころか、精霊さえもいないと言われている世界から来た自分が、これだけ精霊と触れ合うことになるなんて思ってもみなかったよ」

 そう言ったシゲルに、ラウラが少しだけ間を開けてから応じた。

「むしろ、だからこそかもしれませんよ?」

「というと?」

「話を聞く限りでは、シゲルさんは、精霊に対して変な先入観がないように思えます。だからこそ、精霊も好んで寄ってくるのではないでしょうか?」

 こちらの世界に生まれれば、親や周囲から精霊に対する知識が教え込まれる。

 そうした前情報がないシゲルは、だからこそ精霊に好まれるのでは、というのがラウラの考えだった。

 

 そのラウラの考えを聞いたマリーナが、納得した顔で頷いた。

「面白い意見ね。確かに、シゲルを見ていると、それが正解のような気もするわ」

 シゲルから撫でられて気持ちよさそうにしているアグニを見ながら、マリーナは目を細めていた。

 その懐きよう(?)は、普通の契約精霊との関係では、あり得ないことなのである。

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