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(13)襲撃に備えて

 『精霊の宿屋』生まれの精霊についての話がひと段落したところで、シゲルはラグに聞いた。

「夜の間はどうだった? 襲撃はあった?」

「いえ。何もありませんでした。今までと同じです」

 首を振りながらそう答えてきたラグに、シゲルは頷いた。

「そう。もしかしたら頻度はそこまで高くないのかな? とにかく、しばらくは様子を見るからお願いね」

「わかりました」

 シゲルからのお願いに、ラグは素直に頷いた。

 

 拡張してから今まで、上級精霊になっている初期精霊の三体をずっと『精霊の宿屋』に張り付かせている。

 外敵がどの程度の強さなのか、どのくらいの頻度で来るのかわからなかったからということがある。

 シゲルとしては、一週間くらいは様子を見ながら『精霊の宿屋』を管理する精霊を決めていくつもりだ。

 とりあえず、最初の襲撃があるまでか、丸一日は上級精霊三体を入れておいて様子を見る。

 それで問題が起きなさそうであれば、徐々にその数を減らしていくつもりだ。

 

 最終的には、上級精霊が一体だけで済むようになればいいと考えていた。

 勿論、最初の襲撃を受けて手が足りないと判断すれば、ずっと上級精霊を置いておくことも選択肢の一つとしてある。

 結局、実際に外敵がどの程度なのかによって、今後の予定は変わってくる。

 外敵にはできるだけ来てほしくはないが、来るまでははっきりとした予定を立てられないというのが、現状なのである。

 

 シゲルがラグへ言った通り、外敵に関してはしばらく様子を見ることしかできない。

 相手がいることであり、こちらから敵の拠点をつぶすといった対応が取れない以上は、待つことしかできないのだ。

 とはいえ、取れるべき手は取っておく必要がある。

 

 まずは、昨日のうちにお願いしていたことがあるので、シゲルはそれを聞くことにした。

「それで? 契約したいって言ってくれている精霊は集まった?」

「はい。問題ありません。今は、あちらで待っていますが、呼びますか?」

「うん。お願い」

 シゲルがそう言って頷くと、ラグは一度だけコクリと頷いて無言になった。

 最初は意味が分からなかったシゲルだったが、さっそくメリヤージュから習った通信を行っているのだとわかった。

 今までだと一々『精霊の宿屋』の中に入って呼ばなければならないところだが、通信を行える今はそれをしなくてもいい。

 無言のままやり取りをしているラグを見ながらシゲルは、これは便利だと考えていた。

 

 今は『精霊の宿屋』の中にいるリグとの通信を終えたラグは、シゲルを見て言った。

「すぐに来ると思いますので、少しだけお待ちください」

「わかった」

 ラグはそう言ってきたが、シゲルがそう返答をするかしないかのうちに、シゲルの目の前に十体の精霊が現れた。

 

 今回は、一応三体の精霊と契約をするつもりではある。

 ただ、『精霊の宿屋』に外敵が来ることを考えれば、できるだけ多くの精霊と契約をしておきたいというのもある。

 今は三体と決めているが、少しだけ開けてまた募集(?)するつもりがある。

 

 シゲルは目の前にいる精霊たちにそのことを話してから、今回の三体を選んだ。

 実はシゲルは、今回に限っては、どの精霊を取るかを決めてあった。

 三体を追加すると契約精霊は全部で十体になり、ちょうどそれぞれの属性で二体ずつにすることができる。

 バランスのことも考えて、残りの属性は火、水、風を一人ずつにしようと考えていた。

 ここに来て属性のバランスを考えたのは、外敵のことを考えてのことだ。

 

 前回前々回とめげずに来てくれている精霊を選びつつ、シゲルは三体の精霊との契約を行った。

 今回の精霊は火の精霊だけが中級のEランクになっていて、あとの二体は中級のGランクだった。

 もっとも、ランク自体は、『精霊の宿屋』で経験をさせておけばすぐに上がってくれるので、さほど重視していない。

 ただ、今回は、外敵という要素が増えたので、きちんと『精霊の宿屋』のために戦ってくれるのかを確認しておいた。

 それくらいはラグたちも当然のように行っているはずだが、今一番重要なのはそのことなので、シゲルも確認しておきたかったのである。

 

 ちなみに、契約を行っているのは大精霊も同じだが、ディーネが言っていた通り、ラグたちとは違った契約になっている。

 といっても、シゲル自身にはあまり実感がないのだが、その違いは『精霊の宿屋』で見ることができる。

 簡単に言ってしまうと、これまで名づけを行った四体の大精霊たちは、『精霊の宿屋』には登録されていない。

 シゲルにとっては同じように名づけを行っているだけなのだが、そこには明確な区別があるのだ。

 

 新たに加わった三体の精霊を前にして、シゲルは頭を下げた。

「これからよろしく。とりあえず、皆揃って『精霊の宿屋』で管理をしていて」

 今日はこれからフィロメナの家に向かって移動を行う予定になっている。

 周辺の探索に出してもほとんど意味がないので、外敵に備えてもらっていたほうがいいのだ。

 

 シゲルの指示を受けて、三体の精霊はすぐに姿を消していた。

 それを満足げに見送ったラグは、頷きながらシゲルを見てきた。

「他に何かありますか? もしなければ『精霊の宿屋』に戻りたいと思いますが……」

 普段はシゲルを第一に考えているラグも、今は外敵のことが気になるのか、珍しくそんなことを言ってきた。

 

 勿論シゲルとしても問題がないので、すぐに頷いて戻ってもら――おうとしたところで、ふとサクラが視界に入ってきてあることを思い出した。

「そういえば、ノーラはどうなっているの? サクラみたいに成長した?」

 シゲルにそう聞かれると、サクラがコクコクと頷いた。

「そう。だったら少し聞きたいことがあるから呼んできてもらえるかな? あとはまた『精霊の宿屋』で警戒してもらえればいいよ」

「わかりました」

 シゲルがサクラから視線を移してそう言うと、ラグは頷きながら姿を消した。

 

 

 ラグが『精霊の宿屋』に戻ったあとは、スイにも戻ってもらった。

 今日は移動を行うだけなので、護衛はサクラと元々ついていたアグニがいれば十分である。

 サクラはこれまでずっと『精霊の宿屋』で管理を行っていただけなので、外での経験を積ませておきたかったということもある。

 

 スイが消えてからすぐに、成長したノーラが『精霊の宿屋』から出てきた。

「あ、あれ? 成長、しているよね?」

「しているよ! 失礼だな!」

 ノーラの姿を見て、シゲルが思わずそう言うと、当の本人は少し怒った顔になってむくれた。

 

 シゲルがわざわざそう確認したのも無理はない。

 確かに手のひら大だった時から比べれば、成長はしている。

 ただ、ノーラの身長は、他の人型の精霊たちと比べてはるかに小さく、小学生低学年程度の大きさしかなかったのだ。

「いや、ごめんごめん。別に、馬鹿にするつもりはなかったんだ」

 シゲルはそう言いながら、ノーラの頭をポンポンと軽くたたいた。

 なんとなくそうしてあげたら喜びそうだと思ったのだ。

 

 その予想が見事に的中したのか、ノーラはむくれた顔をもとに戻していた。

「それで? 聞きたいことってなに?」

「ああ、そうだったそうだった。――だいぶ建材がたまってきているみたいだけれど、そろそろ建物を作ることってできるのかな?」

 以前から暇を見ては用意してもらっていた建材がかなりたまってきている。

 ただ、シゲルにはどれくらいの量が必要になるのかはわからないので、一度聞いておきたかった。

 上級精霊になって、話ができるようになったので、タイミング的にもちょうどよかったのだ。

 

 シゲルの問いに、ノーラは少しだけ考える様子を見せてから答えた。

「できることはできるけれど、小さい物しか作れないよ?」

「小さいってどれくらい?」

「えーと、最初の頃にあった小屋くらい……ああ、そうか。いっそのこと倉庫みたいにすればいいかな? 外敵からの襲撃にもある程度耐えられるだろうし」

「え!? そんなもの、作れるの?」

 ノーラが何気なくそう言ったが、そこに聞き逃せない言葉があって、シゲルは思わず驚いた。


 そのシゲルに向かって、ノーラがコクリと頷いた。

「できるよ」

「そうか。だったら作ってもらってもいいかな? 皆が作ったものは、そこに保管しておけるようにしたいから」

 ノーラの提案は、シゲルにとっては予想外のことだったが、渡りに船だったので建築まで頼んでおいた。

 ノーラには、建材を作り続けたおかげか、建築のスキルがあるのだ。

「わかった。――だったら、『精霊の宿屋』にきている精霊たちに手伝ってもらってもいい? 滞在費の代わりになるけれど」

 今のところ外部から来た精霊たちは、精霊石を置いていくことで滞在費としている。

 ノーラが言ったことは、労働してもらうことで、その代わりとするということだ。

 

 手伝いが増えればその分建つのも早くなるということだったので、シゲルはすぐに同意した。

 拡張したことで精霊力はすっからかんに近くなっているが、全く精霊石が入らなくなるわけではない。

 それよりも、今はその建物のほうが重要だと判断したのであった。

拡張したことで、精霊関連もいろいろと変化が起きています。

あと、そろそろ精霊の数が増えてきて、名前の把握が難しいでしょうから、これからは要所要所で新しい名前が出てくるようになると思います。

(今までの七体は別)

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