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(10)精霊喰い

 魔族たちに飛び立つところをしっかりと見せたアマテラス号は、そのままフィロメナの屋敷に向かって進んでいた。

 一日ではつけないので、この日は途中の適当な町の宿で泊まる予定になっている。

 フィロメナの運転で進んでいるアマテラス号の中で、シゲルは『精霊の宿屋』の調整をしていた。

 条件は明示されていたが、精霊力が足りていなかったので、貯めていた精霊石を変換する作業をしていたのだ。

 いつかは拡張できるようになると、コツコツ貯めていた物が役に立ったわけだ。

 

 すべての準備を整えて、ようやくあとは拡張する為のボタンをタップするだけの状態になっていた。

 一瞬周りに教えてから変更しようかとも考えたが、わざわざそんなことをする必要もないかと思い直して、さっさと更新を行う。

 すると、画面上で今までにはなかったメッセージが出てきた。

 

《外敵保護が解除されました。戦闘訓練を行いますか?》

 

 それを見た瞬間、シゲルは内心でほっとしていた。

 訓練モードがあるのであれば、いきなり実践ということにならずに、いざという時に対処できる。

 決断させるときはなんの説明もなかったのに、こういうところだけはしっかりしているんだなと、シゲルは微妙な気持ちになっていた。

 

 それはとにかく、さっそく訓練をするために《Yes》をタップした。

 そのあとは、どこかのゲームのチュートリアルで見たことのあるような操作の説明が続いた。

 外敵が来た時に対処する方法は、大きく分けてオートモードとマニュアルモードの二つだった。

 早い話が、外敵が来た時に一々シゲルが指示をするのか、完全に精霊たちにお任せするのかを選択できる。

 基本的には、オートモードになっていて、マニュアルモードにするときには、『精霊の宿屋』でシゲルが操作をして切り替える必要がある。

 

 さらに、マニュアルモードにしたときには、さらに細かい設定が分かれていた。

 それらの設定は、大まかな指示だけを出しておくにとどめておくとか、行動の一つ一つをコマンドで入力していくかなど、いくつかのパターンがある。

 その中で、シゲルは大まかな指示だけを出しておくように設定をしておいた。

 普段の戦闘でもそういう感じで戦っているので、いつも通りにした方がシゲルも精霊たちも戸惑わなくて済むと考えたのである。

 

 戦闘設定の説明を終えた後は、いよいよ外敵とやらのお披露目である。

「これが外敵か……もやっているな」

 画面上に出てきたそれを見て、シゲルは微妙な顔になって言った。

 一応画面上には複数の外敵が出てきているが、姿形はシゲルが言った通り、何かのはっきりとした形を保っているというわけではない。

 分かりやすく言えば、黒い雲のようなものが浮かんでいるように見える。

 一口に雲といっても形も大きさも様々なようで、姿で共通している特徴は靄のような雲のようなものということだけだった。

 

 さらにもう一つ共通しているのは、外敵の名前だ。

 さすがに外敵だとわかりずらいと考えられているのか、チュートリアルではそれらの靄は『精霊喰い』と表示されている。

 最後まで戦闘訓練を行っても精霊喰いしか出てこなかったので、外敵だけでもいいような気もしたが、あるいは後々別のパターンも出てくるのかもしれない。

 一応名前に関しては保留にしておいて、チュートリアルモードは無事に(?)終了した。

 

 

 チュートリアルで外敵と戦う訓練をした後で『精霊の宿屋』のメニューを確認すると、しっかりと精霊喰いの姿が確認できる場所があった。

 今のところ一種類しか登録されておらず、それ以外に出てくるかどうかは分からない。

 だが、わざわざそんな項目があるということは、これからも増えていく可能性はある。

 チュートリアルは、あくまでもチュートリアルだと考えて、シゲルは気を引き締めることにした。

 

 戦闘中のシゲルにつぶやきを耳にして気になっていたのか、落ち着いているシゲルを確認してからミカエラが話しかけてきた。

「外敵って、どんな感じだった?」

「ああ。うん。なんといえばいいのか……」

 一瞬説明に困ったシゲルだったが、一応姿形から名前までを話した。

 

 すると、その名前を聞いたミカエラが、少しだけ顔をしかめた。

「やっぱりそっちの世界? でも出てくるのね」

「あ、ということは、精霊喰いはこっちにも出て来るんだ」

 そのことは初耳だったシゲルは、問いかけるようにミカエラを見た。

「出るわよ。まあ、滅多にみることはないけれどね。もしかしたら、本当はもっと来ているけれど、精霊たちが人知れず倒しているのかもしれないわね」

「それはありそうだね」

 ミカエラの説明に、シゲルは納得の表情で頷いた。

 

 何度か頷いたシゲルだったが、そこではたと何かに気付いた表情になった。

「うん? ということは、もしかして今まで見つかっている精霊喰いって、それなりの強さだったりする?」

 精霊たちが人知れず精霊喰いを倒しているとすれば、これまで目撃されているものは、この世界の精霊が倒しきれなかった(・・・・・・・・)相手ということになる。

 となれば、シゲルのように考えるのは当然のことだろう。

 

 そのシゲルの予想に、ミカエラがコクリと頷いた。

「ええ、そうよ。精霊喰いは、普通の武器での攻撃がきかなくて、魔法でしか倒せないから、厄介な魔物の一種とされているわ」

 シゲルがチュートリアルで見たように、精霊喰いは通常の物理攻撃は届かない。

 そのため、目撃されたときは、高いランクの魔法使いを集めて討伐を行うのだ。

「それに、普段は姿を見せないはずの大精霊の存在が知られているのも、精霊喰いを倒すために出てきているところを目撃されているからよ」

 過去には、小さな国を飲み込むような強大な精霊喰いが目撃されている例もある。

 そうした精霊喰いは、人の手に負えずに、最終的には大精霊などが出てきて討伐されたという記録が残っているほどだった。

 ミカエラが言ったとおりに、人前に姿を見せない大精霊のような存在は、そうした精霊喰いを倒したという記録に基づいている。

 

 大精霊と精霊喰いの過去に、シゲルは頷いた。

「なるほど。それは納得できる理由だね。あまり人前に姿を見せない精霊が、どうやって確認されているのか不思議だったけれど、これで分かったよ」

「不思議に思っていた割には、話を聞いてこなかったじゃない」

「いや、そうなんだけれどね」

 ミカエラの突っ込みに、シゲルはバツの悪そうな顔になった。

 以前に気になったことは確かだが、わざわざその時にしていた作業を放置してまで聞きに行くことではないと思ったのだ。

 そして、そのまま今の話を聞くまで、すっかり忘れていたというのが事実である。

 

 ミカエラもそれ以上は突っ込むつもりはないのか、別のことを聞いていた。

「それよりも、それで出てくる精霊喰いは、どれくらいの大きさ?」

「いや、バラバラであまりよくわからないというのが、正直なところかな? ただ、リグの身長を超えるような大きさのものは出ていなかったよ」

「ふーん。やっぱり一口に精霊喰いといっても、いろいろあるのね」

「みたいだね。まあ、あくまでも訓練用だからあまり大きなものは出さなかった可能性もあるけれど」

 そもそも『精霊の宿屋』で、どういうタイミングで精霊喰いが出てくるかもまだわかっていない。

 チュートリアルで出てきた以上の大きさの精霊喰いが出てくる可能性もあることを考えて、今後の『精霊の宿屋』の運営を考えていくべきだ。

 

 今後のことをいろいろと考え始めるシゲルを見て、ミカエラが興味深げな顔で聞いてきた。

「どうするの? やっぱり契約精霊を増やす?」

「まあ、現状を考えると、それが一番手っ取り早いよね。見た感じでは、『精霊の宿屋』に来ている他の精霊も戦わないわけではないみたいだけれど」

 チュートリアルでは、契約精霊以外の精霊たちも一部で戦っている様子が見えていた。

 ただ、やはり確実に戦闘を行うのは契約精霊だったので、できる限り戦力を増やすという意味でも新たに契約を行うというのも、一つの作戦ではあった。

 

 正直に言えば悩む必要もないくらいに契約を済ませたいシゲルだったが、これまでのラグたちの対応を見ていれば、時間をかけて選ばせたほうがいいことは分かっている。

 一日今の状態で外敵がどれくらいの頻度で出てくるのを見たうえで、その間に選んでもらうのがいいだろうとシゲルは考えているのであった。

イージーモードからノーマルモード(?)へ

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