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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第1章 準備編

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(13)初めての戦闘、後

 フィロメナの自宅への帰り道、シゲルは初めて魔物を倒すという経験をした。
 いつかは必ず必要になるのだから、今のうちにやっておくべきだと、フィロメナが予備の武器を渡してきたのだ。
 シゲルが初めて倒した魔物は、ビッグラビットという体長八十センチほどの兎だった。
 シゲルは、武器もまともの持ったこともない人間に、それはいきなりハードすぎないかとも思ったが、そんな文句を言えるような世界でもないと思い直して、素直に武器を受け取った。
 最初は武器をきちんと振ることもままならなかったが、何度か繰り返すうちにコツを掴めるようになっていた。
 相手も必死になって向かってくるので、シゲルも何とかしないとという思いで試行錯誤を繰り返すうちに、形になって行ったのだ。
 もしかしたらフィロメナは、それがわかっていて、敢えていきなり魔物との戦闘をさせたのかもしれないと、シゲルは好意的に解釈している。
 なぜなら、一度ビックラビットを倒したあとは、何もさせずに着いてくるだけでいいと言われたからである。

 そのシゲルの考えは、大体当たっていた。
 この世界では、初めて魔物に相対するときには、二つのパターンがある。
 一つは、貴族や商人の家に生まれた子が、しっかりとした師匠を付けられて、ある程度の技術を学んでから討伐を行う。
 もう一つは、型もなにも学ばずに、いきなり実践に放り込まれるパターンだ。
 当然ながら後者は、師匠に払うお金などない家に生まれた者が、行うことになる。

 ちなみに、小さな田舎村の孤児院の出身であるフィロメナは、後者のパターンだった。
 当時は立派な剣なんて上等な物はなく、代々の卒業生が置いて行った剣を振り回しながら倒した。
 そういう過去の経験があったからこそ、フィロメナは、敢えてシゲルに同じことをさせたのだ。
 シゲルを見る限りでは、狙い通りの結果になったとフィロメナは考えている。
 シゲルは、家に向かう間、ずっとなにやら考え込むような表情になっていたが、初めて生き物を自分の手で殺したからだということはフィロメナもわかっている。
 そうした葛藤が、後々重要になって来るのだから、フィロメナは必要な時間だと、敢えてなにも言わずに十分注意を払いつつ、家までシゲルを連れて行っていた。

 
「シゲル、着いたぞ」
 フィロメナのその声に、シゲルはハッとした表情になって周囲を見回した。
「えっ!? あれ? もう? ……あ、ほんとだ」
 視界に家があることにようやく気付いたシゲルがそう言うと、既に兜を外していたフィロメナが真剣な顔で見て来た。
「それで、結論は出たか?」
「……うーん、どうだろう? 出たような気もするし、出ていないような気もするかな? 少なくとも、旅に出るという希望を叶えるには、絶対に必要なことだという事はよくわかった」
 シゲルがそう答えると、フィロメナは笑みを浮かべて頷いた。
「そうか。初めてでそれが分かったのだったら、上等ではないか?」
「そうなのか、な?」
「そうさ」
 少なくとも、自分の時よりはましだと心の中で考えたフィロメナは、それは口には出さずに家に向かって歩き出した。
 そして、それを見ていたシゲルも、後を追って家に入るのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 フィロメナが普段着に着替えている間、シゲルはいつまでもうじうじと悩んでいてもしかないと気持ちを切り替えて、気分転換がてら『精霊の宿屋』の確認を行っていた。
 朝から今までの間、特に何も変わったことはしていなかったので、大きな変化はないとは思っていたが、箱庭に生えている桜を見るだけでもなごめると考えたのだ。
 ちなみに、町にいる間、護衛役の精霊二体は、しっかりと隠れてもらっていた。
 もし精霊を連れているとわかれば、何をされるかわからないとフィロメナから助言されていたのだ。
 精霊たちもそのことが分かっているのか、単にシゲルの指示に従っていただけなのか、姿を見せることはなかった。

「あれ? また精霊のランクが上がってる」
 『精霊の宿屋』を確認していたシゲルは、精霊がBランクからAランクになっていることに気が付いた。
 今回のランクアップの条件は、累計で八時間何かしらの作業を行っていることだった。
 町に行っている間に、既にその条件を達成していたので、自動的にランクアップとなっていたようだ。

 Bランクに上がった効果を確かめることなくAランクに上がってしまったが、精霊の行動範囲が広がることは悪いことではないので、検証については諦めた。
 代わりに、家に戻って来たので、シロを探索へ出した。
 今回は三時間の探索になる。
 もっとも、前回のように途中で一杯になって戻って来る可能性のほうが高いが、それはそれで構わない。
 また指示を出し直せばいいだけである。

 
 シロへ指示を出し終えたシゲルは、箱庭の確認を行っていた。
 今は小山の中心に桜が一本立っていて、あとは芝が生えているだけだが、勿論それだけで終わらせるつもりはない。
 画面を見ながらどういう『庭』にしようかと悩んでいたシゲルだったが、ふとあることに気付いた。
「ああ、ほかの精霊が来ているところもきちんと見れるのか」
 桜の傍でなにやら小さい光がふわふわと浮いていることには気づいていたが、それが精霊だったらしい。

 メニューを辿って行くと、現在『精霊の宿屋』に訪れている精霊の数がきちんと確認できることがわかった。
 現在の訪問中の精霊の数は、下級精霊が三体となっている。
 桜一本でこれだけの数の精霊が来てくれるのが、良い状態なのか悪い状態なのかはわからない。
 何しろ比較する対象が無いので、比べようがないのだ。
 とにかく、ゼロよりはましなので、シゲルとしてもその数字をニヤニヤしてしまうのは仕方ないと勝手に諦めていた。

 ところが、そんなシゲルを訝し気に見ている者がいた。
「何を一人でにやけているのだ?」
「うわっ!?」
 自分の部屋の中ではなく、リビングでにやけていれば、そう言われるのも当然だ。
 不思議そうな顔で自分を見てくるフィロメナに、シゲルは何となく言い訳がましい口調になって答えた。
「ああ、いや。ちょっと『精霊の宿屋』で良いことがあったから、つい」
 そのシゲルの言い訳に、フィロメナは小さく首を傾げつつ「フーン?」とだけ返した。

 そんなことよりも、今のフィロメナにとっては、他に重要なことがある。
「それはいいのだが、そろそろ夕食の準備を始めないか?」
「あー、そうだね」
 電気(あるいはそれに類する魔道具)なんて便利な物があるわけではないこの世界では、日が出ているうちに食事の用意をしたほうが良い。
 すでに食事担当に決められていたシゲルは、少し慌てて台所へと向かうのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 この日の夕食は、町で手に入れた米が導入された。
 ひとまず知っている方法で炊いてみないことには、きちんと食べられるかどうかもわからない。
 勿論、普通に店で手に入る以上、食べられないことはないと思うが、シゲルが知っている炊き方で上手くいくかどうかはやってみないとわからないのだ。
 一応、店員に炊き方を聞いはいたが、ほとんど違いはなかった。
 あとは、実践してみるしかないのである。

 手に入れた米を炊いてみた結果は、
「うん。十分、十分」
 流石に現代日本のように、ふっくらもちもちとはいかないが、十分に許容できる範囲には仕上がっていた。
 ガスではなく、直火での火加減の調整が上手くいかずに、少しばかり焦がしてしまったのは、ご愛敬だ。
 こればかりは数をこなして慣れていくしかない。

 米以外におかずを三品ほど用意して、あとは朝作ったスープを温め直せば夕食の用意は終わりである。
 そこまで用意したシゲルは、はたと気が付いた。
 箸なんてものは、少なくともこの家にはない。
 慌てたシゲルは、慌てて外に出て、小枝を拾って自分で箸を作――ろうとして、フィロメナに止められた。
 見るからに危なっかしくて、見ていられなかったらしい。
 結局、シゲルが出した指示通りにフィロメナが削って作った箸が、しっかりと二膳分できた。

 そんなこんなで始まった夕食だったが、フィロメナが眉を顰めつつ言ってきた。
「――むう。どうすれば、そんな器用に使えるようになるのだ?」
「ハハハ、こればっかりは慣れるしかないからね。諦めずに使い続けていたら、すぐに慣れると思うよ?」
 箸の使い方は既に教えてあるので、シゲルとしてもこれ以上のアドバイスのしようがない。
「それよりも、お米はどう?」
「米か? どうと言われても、はっきりとした味があるわけではないからな。こんなものかとしか思えないが……?」
 そのフィロメナの感想を聞いたシゲルは、そんなものかと言って笑った。
 実際、米自体に特別な味が付いているわけではないので、そんな感想を持つのは仕方ない。
 米に甘みがあると言って喜ぶのは、しっかりと米を食べ続けて来て違いが分かるようにならないと出ない感情なのである。
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