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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第6章 遺跡の扱い

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(5)精霊使いの常識

「リグ、やりすぎないようにね」
「はーい!」
 シゲルの指示に従って、リグが嬉しそうに飛び出していった。
 向かって行った目標は、シゲルたちの前方にいる五体のイノシシである。
 勿論ただのイノシシではなく、魔物の一種でほとんど群れることが無いイノシシの中では珍しく群れるタイプの種だ。

 そんなイノシシたちに、リグは躊躇なく突っ込んで行った。
 リグは、戦闘中は姿を見えるようにしてあるので、イノシシたちも既にそれには気付いている。
 ブヒーッと声を上げながらリグに向かって突進してきたが、その目的を果たすことはできなかった。
 五体いるうちの一体が、向かって来た途中で見えない壁にぶつかって、引っくり返ってしまったのだ。
 さすがにそれを見ていた他のイノシシたちは、慌てて突進を止めていた。
 それでも諦めずにリグを睨み付けているところは、流石魔物といったところだろう。

 そんなイノシシたちを見ながら、リグは小首を傾げた。
「――来ないの? だったらこっちから行くよ!」
 そう宣言したリグは、見えない壁を消してから風の刃でイノシシたちを攻撃し始めた。
 一番前に出ていたイノシシからスパスパと刃を使って切りつけていく。
 すると、その刃が非常に鋭いことを証明するかのように、残っていた四体のイノシシたちから次々と倒れて行った。
「……あら? 随分と柔らかいね?」
 リグがそう言って辺りを見回したときには、既に五体のイノシシは、この世に帰らぬ存在となっていた。

 
 リグの戦闘の一部始終を見ていたエバエルが、わなわなと体を震わせていた。
「な、なによ、あれは!?」
「何って言われても……あれが、シゲルのいつも通りの戦闘?」
 エバエルの様子に苦笑しつつ、ミカエラが肩を竦めながら答えた。
 エバエルの気持ちが良くわかるだけに、笑うような雰囲気ではない。

 その二人のやり取りを見ていたラウラが、首を傾げながら横にいたフィロメナに聞いた。
「そこまで驚くようなことなのですか? あまり先ほどの戦闘と変わらない気がするのですが?」
 実は、シゲル(リグ)が戦闘をする前に、エバエルが、これが普通の精霊使いの戦い方ということで、デモンストレーションを行っていた。
 戦闘には詳しくないラウラには、その時といまのシゲルの戦い方の差があるようには見えなかったのだ。
「そうだな。まず、シゲルの場合は、最初に指示を出してからそれ以降は全く何も言っていなかっただろう?」
「そう言えばそうでしたね」
「加えて、その指示もどんな魔法を使ってとかではなく、あんな言葉だったからな。戦闘中に細かく指示を出す契約精霊持ちとしては、あり得ないと言うのは当然だな」
 フィロメナがそう言うと、ラウラが納得した顔で「そうなのですか」と頷いていた。

 そもそもいまリグが対応していたイノシシたちは、精霊使いがひとりで対処できるような魔物ではない。
 それをあっさり片付けたのだから、シゲルが他の精霊使いと比べて数歩も抜きんでていることは間違いない。
 精霊使いとしては最高峰の位置にいるエバエルであっても、前衛の助けが無ければ苦労していたはずだ。
 もっとも、シゲルにそれを言っても、自分の力ではなくリグが凄いんだと答えるだろうが。
 その凄い精霊を従えている精霊使いが評価されるのが一般的なのだが、シゲルはそんなことには頓着しないだろう。
 だからこそ、シゲルも着実に自分自身の力を磨いているのだ。

 そんな脇道に逸れたことを考えていたフィロメナは、続けて言った。
「出来ることならエバエルの様子を見て、シゲルがその差を実感してくれればいいが……」
 フィロメナたちがわざわざこの場所に来ているのは、シゲルに精霊使いとしての自身の立ち位置をしっかりと認識してもらうためだ。
 別にエバエルの戦闘を見て、シゲルのそれを変えてほしいと考えているわけではない。
「シゲルさんが、周囲からどういう目で見られることになるのか、自分自身で認識できるようになるのは大切ですね」
 フィロメナの言葉を聞いたラウラは、納得した顔で何度か頷いていた。
 ラウラは、戦闘そのもののことは分からなくても、シゲルの価値はよく理解しているのだ。
 最初は『空飛ぶ船を大精霊から譲り受けた者』という認識だったのが、今では『あり得ないくらいに精霊から好かれている存在』に変わっているのだからその差は大きい。

 
 そんなラウラの認識はともかく、戦闘を終えたシゲルに、エバエルが詰め寄って滾々と諭していた。
 その内容は、シゲル(リグ)がやっていることが、どれほど他の精霊使いと違っているということだ。
 シゲルが、精霊使いとして素晴らしい能力を持っているということも伝えている。
 同じようなことは、ミカエラが口を酸っぱくするほどにシゲルに言っているのだが、やはり同じ契約精霊持ちから直接言われると、シゲルも何やら思うところがあるようだった。

 長々と息が切れるほどに、シゲルに説教(?)をしていたエバエルは、最後にこう付け加えた。
「勘違いしないでね? 別にシゲルの精霊の使い方が駄目だと言っているわけじゃないの。自分がやっていることがどれほど凄いことなのか、もう少し自覚を持ったほうが良いってことよ」
「あー、はい。わかりました。少し真剣に考えてみます」
 エバエルの勢いに押されてしまったシゲルは、思わずそう敬語を使って返してしまった。
 そして、そのシゲルとエバエルの様子をニヤニヤしながら見守っていたミカエラが、最後にこう付け加えた。
「少しでもシゲルが自覚を持ってくれるのであれば、ここに来た甲斐があったわね」

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 イノシシたちの処理を終えたシゲルたちは、再びエルフの里へと戻った。
 狩ったイノシシの肉は、エルフたちにとっては貴重な食料になるので、きちんと対価をもらったうえで、そっくりそのまま渡している。
 シゲルたちには、イノシシの肉も皮も手に入れようと思えばいくらでも手に入れられるので、今は特に必要ないものなのだ。

 魔物の解体所で、他のエルフが持ち込んだ魔物が解体されていく様子を見ながら、シゲルがふと思い出したように言った。
「そういえば、エルフって味噌とか醤油とか受け入れるかな?」
「あっ!」
 シゲルの言葉に、ミカエラがようやくそのことを思い出したという顔になった。
 隣を歩いていたエバエルは、不思議そうな顔になっている。

 すぐにまじめな表情に戻ったミカエラは、シゲルに詰め寄りながら言った。
「絶対に受け入れられるわ! すぐに長老の所に行きましょう!」
 シゲルに精霊使いの常識を教えるという目的をある程度達して安心したのか、ミカエラの顔にはすでに味噌と醤油のことしか頭にないと書かれている。
 そこまで慌てるようなことなのかと首を傾げているシゲルに、ミカエラはさらに続けて言った。
「この里でも大豆は作られているし、何よりも麹さえ用意できれば、誰でも作れるというのが良いのよ」
 安定した味を作り続けるには専用の工房を用意しなければならないだろうが、最初のうちは麹を専用で作って、あとは各家庭に任せてしまってもいい。

 とにかく、絶対に受け入れられると主張するミカエラに、シゲルは苦笑しながら頷いた。
「いや、別にエルフに広めるのが嫌ってわけじゃないから、少しは落ち着いて」
 両手を上げながらドウドウという仕草をしたシゲルを見て、ミカエラは一瞬だけハッとした表情になってから詰め寄っていた体を少しだけ引いた。
「――ゴメン。もう落ち着いたわ」
「そう。それは良かった。とにかく、長老の家に行こうか」
 シゲルがそう言うと、ミカエラは「ええ」と頷いた。

 そのやり取りを見ていたエバエルが、一同を見回しながら言った。
「なんのことだかよくわからないけれど、長老の所に行くんだったら、私はここで失礼するわ。顔を合わせると、色々言われて面倒だもの」
「そうね。そうしたほうが良いわ。今日はわざわざどうも有難う」
 ミカエラがそう礼を言うと、シゲルも慌てて頭を下げた。
「良いのよん。私にとっても刺激になったしね。出来れば、また顔を見せてほしいわ」
「あー、はい。機会があれば」
 エバエルの誘いに、シゲルはそう返した。

 シゲルの答えを聞いたエバエルは、右手を振りながらシゲルたちから離れて行った。
 それを見送ったシゲルたちは、先ほど話していた通りに、長老の家に向かった。
 そして、ミカエラが熱心に味噌と醤油を進めた結果、エルフの里でも作ってみようかということになるのであった。
これで精霊の里での話は終わりです。
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