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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第6章 遺跡の扱い

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(1)味噌と醤油の扱い(ホルスタット王国)

 出来るだけ早く報告すると決めた味噌や醤油のことだが、その日のうちにというわけにはいかなかった。
 理由は単純で、ラウラの準備ができなかったためである。
 どうせ話をするのであれば、王家に持っていくのが筋であるし、何よりも折角ラウラがいるのだからそれを利用しない手はない。
 ――ないのだが、ラウラもフィロメナの家に来たばかりで、生活を整えるために数日の時間を必要としたので、遅れたのである。
 王家の姫としては限られた荷物だけで来ていたラウラだが、それでも相応の物は持ってきている。
 それらを整理するのに、時間がかかったのだ。

 シゲルもシゲルで、待っている間何もしていなかったわけではない。
 折角だからということで、味噌と醤油の作り方をまとめた書面を用意していた。
 ただ、書面といっても事細かく書いていたわけではない。
 そもそも王家の人間に細かい作成方法を伝えても仕方ないので、作り方の概要と今後の展開を見込んだ大豆の必要性を書いただけである。
 それでも事前にラウラに見せたところ、それで十分だと言ってくれていた。

 
 そして、ラウラがフィロメナの家に来てから三日後、シゲルは再び王都へと向かった。
 今回はさほど大きな話になるわけではないので、連れて行くメンバーは全員ではなく、シゲルとフィロメナ、それに肝心かなめのラウラである。
 ついでにラウラの護衛としてルーナも着いて来ている。

 さすがにラウラがいるだけあって、話が通じるのは早かった。
 といっても今回は、王に話をしたのではなく、ラウラの弟であるカイン王子に話をしていた。
 いきなり王に話を通そうとするよりも、そちらの方が話が早いというラウラの助言に従ってのことだ。

 そして、カイン王子と対面したシゲルたちは、早速とばかりに話をする――前に、先にこんなことを言われてしまった。
「どうしたのですか、姉様? たったの三日でもう縁切りをされましたか?」
「ち、違いますよ!? いきなりなにを言っているのですかっ!」
 ラウラは、慌てた様子で、そう言いながらチラチラとシゲルを見てきた。
 シゲルはそれに気づきつつ、カインに苦笑を向けることしかできなかった。

 そんなラウラの様子に、一瞬だけ驚いたような表情を見せたカインだったが、それには触れずに首を傾げて聞いた。
「それでは、一体何があってこんな急な呼び出しを?」
 あまりにフットワークが軽い王のせいで忘れがちだが、普通は王族と対面するとなると面倒な手続きが待っている。
 それをせずに、姉弟としての縁だけで呼び出したのだから、カインが不思議そうな顔をするのも当然だ。
「それなのですが……まずはこれを」
 ラウラはそう言いながらシゲルへと視線を向けた。

 ラウラからの視線に頷いたシゲルは、アイテムボックスから味噌の現物とそれを使って作った料理を取り出した。
 ちなみに、作った料理はこの三日間で一番評判が良かった豚汁だ。
 豚汁は時間経過が起こらないアイテムボックスの中に入れていたので、温かいままである。
「これは……?」
 カインは、湯気を上げている豚汁を見て首を傾げていた。
「まずはなにも聞かずにそれを飲んでみてください。あ、熱いから気を付けてくださいね」
 毒味を受けている物ばかりを口にしている王族は、熱湯に近い温度の料理を口にすることは滅多にない。
 そのためラウラは、念のためそう注意をしておいた。

 その念押しがあって良かったのかどうかはともかく、カインはラウラに勧められるままに豚汁を口にした。
 そして、豚汁を口にしたカインは、一瞬驚いたように目を見開いて、更に続けてもう一口飲んだ。
「これは…………」
「どうですか? 中々興味深い味わいですよね?」
 少しだけ勝ち誇った様子でそう言ったラウラに、カインはコクリと頷いた。
「確かに、その通りですが、それよりも私も初めて口にする…………ああ、なるほど」
 不思議そうな顔で話をしていたカインは、その途中でシゲルを見ながら頷いた。
 今自分が口にした豚汁が、渡り人であるシゲルが出してきたということの意味に気付いたのだ。

 カインの反応に満足げな表情になったラウラは、シゲルが用意した書類を渡しながら言った。
「一応、こちらで概要を用意しておきました。――言っておきますが、シゲルさんが作ったものですからね?」
「おや。もう、さん付けになっているのですか」
「カ、カイン!」
 何故だか書類ではなく、シゲルの呼び方に反応したカインに、ラウラは顔を赤くした。

 それを見て笑っていたカインは、シゲルに視線を向けて言った。
「これは間違いなく王に渡しておきます。それから、姉上を大切にしてくださってありがとうございます」
 そう言って頭を下げてきたカインに、シゲルは戸惑った表情を見せた。
「いや、別にそんなに大層な扱いをしているわけではないのですが……」
「ハハ。そう言えることが、既に良いことなのですよ。女性の王族にとっては、嫁入り先で『普通』の扱いをされることのほうが稀なのですから」
 そう言いながら寂しそうな表情になったカインに、シゲルは何とも言えない顔になった。
 王族なんて存在と身近に接したことが無かったシゲルには、それがどういう意味を持つのか、実感として湧かなかったのだ。

 
 何とも微妙な空気になったところで、フィロメナが音を立てて両手を合わせながら言った。
「シゲルがラウラ姫を大切に扱っている。今はそれが分かっただけでいいではないか。それよりも、味噌と醤油の扱いに関しては任せてもいいのか?」
「ああ、そうですね。それでしたら、今から私が父上に掛け合ってくるので、少々お待ちいただけますか?」
 そのほうが話が早いと続けたカインに、シゲルたちは顔を見合わせてから同意した。
 事前の話し合いで、直接王と話をした方がいいということを言っていたので、カインの申し出は願ってもないことだった。

 王太子だからといって、すぐに王と会えるというわけでもないが、王はフィロメナたちが王城に来ていることは既に知っている。
 そのフィロメナたちと対面していたカインが会いたいと言えば、誰かと面会でもしていない限りは、すぐに会えるだろう。
 シゲルたちにそう言ってきたカインは、一度その部屋から出ていくのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 カインがアドルフ王を伴って来たのは、それから一時間ほどが経ってからのことだった。
 勿論シゲルたちは、なにも言わずにただ待たされていたわけではなく事前に知らされていたので、その間はラウラの部屋に行ってプチお茶会を開いていた。
 まあ、お茶会といっても、侍女が用意した飲み物を飲みながら雑談をしていただけだ。

 部屋付きの侍女から王と王太子が来たと告げられたシゲルたちは、立ち上がってその二人を出迎える。
 そのシゲルたちを見て、アドルフ王は軽く会釈をしてから言った。
「楽にするといい。それよりも、書面の件だが、カインを中心に進めることになった。とりあえず、王族を中心に進めるようにしたほうが話が早い」
「王。けれど、それでは……」
 王族が独占することになりかねないのではないかと続けようとしたラウラを、アドルフ王は右手を上げて遮った。
「早まるな。あくまでもカインを中心に据えるだけだ。そのほうが貴族たちを抑え込めるしな。こういうものは、いきなり平民に広めようとしても、中々上手くいかないぞ? だからこそ、私に話を持ってきたのだろう?」
 まったくもってその通りなので、ラウラは黙り込んでしまった。

 その代わりに、今度はフィロメナが口を開いた。
「それならそれで構わないのですが、そもそも大豆の増産は間に合うのでしょうか?」
「そこが頭の痛い所だな。カインは絶対に受け入れられると話してはいるが、最初の段階でどの程度広がるかは、全く読めん。なにしろ初めて口にする調味料だからな」
 いきなり大需要を目指して大豆を大量に生産しても余る可能性がある。
 だからといって、少なく見積もっても世間一般に広まるのが遅くなってしまう。
 初めて世に出る調味料なので、需要と供給のバランスを考えるのが非常に難しいところだ。

 難しい顔をしているアドルフ王とカインに、フィロメナが続けて言った。
「国内のことに関してはお任せします。ですが、他に広めることは許可いただけるのでしょうか?」
 そこがシゲルにとっては一番重要なところだ。
 そもそもそれの許可がもらえなければ、この話自体を無かったことにすることも一つの選択肢として考えているのだ。

 そのフィロメナの問いに、アドルフ王はアッサリと頷いた。
「ああ、それについては問題ない。どちらにせよ大陸中の需要を満たせるほどに、いきなり大豆の増産など出来ないからな」
「そもそも、西の方面でこの味が受け入れられるかはわかりませんからね」
 王に続いてカインがそう言うと、シゲルたちも納得した顔になった。
 当然ながら各国では好まれている料理や味も異なっている。
 そうした味覚の違いが、味噌や醤油を受け入れるかどうかを未知数にしているのだ。
 そんなところにいきなり打って出るほど、ホルスタット王国の王家は、財政に困っているわけではないのだ。

 
 その後は、簡単に話をしただけで王との話し合いは終わった。
 シゲルたちとしては、書面に書いてある条件さえ守ってくれれば良かったので、話も簡単だったのである。
 あとはカインと今後の連絡をどうするかという話を詰めたくらいで、特に大きな衝突(?)もなく、シゲルたちは王都を後にするのであった。
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