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「で、君らは俺の目の前に今いると」
松前先輩は面倒くささを体現する溜息をついた。
「はい。松前先輩なら、崇城さんと万永さんがいたのを見ていたんじゃないかと」
ぼくと國寺くんは、突き落とされた女子生徒、万永さんを保健の先生に任して松前先輩のもとを訪れていた。下校した姿は見ていないので、教室にいると予想した。案の定先輩は教室にいて、クラスの友人たちと談笑していた。ぼくらの登場に場の空気は盛り下がったが、いちいち気にせず状況を説明した。
松前先輩のもとへは、崇城さんがあの場にいたのかを訊くために訪れた。
國寺くんはぼくが先生を呼びに行っているあいだに崇城さんを見たらしい。
待っているあいだ、万永さんが何やらしきりに下駄箱の方を見ようとしたらしい。そこで國寺くんが下駄箱を見ると、下足場に立ち、こちらを焦点の合わない目で見ている女子がいた。國寺くんと目が合うと、一歩足を引いたらしい。國寺くんは不審に思って「オマエ、崇城か?」と訊いた。すると彼女は首を縦に振ったらしい。そこで問い詰めると、彼女は突然逃げ出した。万永さんの傍を離れるわけにも行かず、崇城さんの逃げていく背中を見送ることとなった。
と、ここまでの説明を國寺くんに一任した。説明が終わると、松前先輩はつまらなそうな目をして吐息した。
「で、その……崇城って一年生の娘? 前髪の長いポニーテールっ娘? 黒木くんのクラスメイト? それから万永さん?」
先輩は流し目でぼくを見た。なんで複数形じゃないんだろう……。
「見たよ。前髪の長いポニーテールの一年生の女の子」
厭味のように先輩は言った。
「残念だったね。俺はその娘と万永さんを見ている。二人は階段の一番上で何か話してたな」
まあ、そこまでだけどさ――
溜息をついて先輩は立ち上がった。
「なんなら、平にも聞いてみたらどうだ。あいつなら見ているかもしれないぞ。崇城って娘が逃げてくところを」
「そんな……! 逃げてくって……」
「万永さんはソフトボール部でセカンドのレギュラーだったかな。深読みする気はないんだけどさ、それでも俺が言いたいこと、わかる?」