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放課後、生徒たちは家路へついたり部活へ向かったりしている。ぼくも文芸部員なので文芸部へ向かう。
文芸部の部室は、図書室の隣にあるセミナー室だ。
「こんにちは」
部室へ入ると、先輩が三人に同級生が一人いた。どうやら全員だ。
「こんちはー」
そう気軽な声で挨拶を返してくれれたのは、部長の山気先輩。『ポケット・グロースリー』と部活内では呼ばれているお方。唯一の三年生で、文芸部のエース。廊下で天井を見上げながら放浪しているところをよく見掛ける。
「よう。それでさ、平――」
挨拶を返してすぐに平先輩と会話を続けたのは松前先輩。平先輩も松前先輩も二年生。
平先輩は“麗人”“怪人”“俳人”“零人”と称されるお方で、ぼくがこの部活の中ではじめて会った人。第一印象と今の印象が一番変わった人。
松前先輩はオラオラなお方で、主に部活内の雰囲気を心地良いものへと創りあげる人。この人が部室へ来ない日は、部活内の雰囲気は重い。文芸部にとっては代替の効かない存在。
「こんちは」
そしてもう一人――同級生の國寺くん。長身で世を諦観しているような細い目が印象的な人。彼はいつも『ファウスト』を読んでいる。四月の中頃、崇城さんと知り合ったころは上巻を読みはじめたところだった。だが、僅か一週間ほどで下巻も四分の三ほどが読了している模様。読書スピードだけでなく、根気もなかなかな人。
部活の活動は特になし。あえて言うならば、九月にある文化祭のときに部誌を販売するための創作活動、らしい。
部室にはパソコンが一台あり、時々先輩の誰かが座ってワードを起動させている。画面に隙間なく文字が並んでいるのをよく目撃する。
このパソコンを使って創作してもいいし、家で創ったものをCDに焼いて持ってくるのもいいらしい。
だが、ぼくと國寺くんはまだそういった活動はしていない。ただ本を読みながら、先輩たちのやりとりを聞いたりしているだけだった。