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その日からぼくは、朝学校へ行くとぼくよりも早く登校している崇城さんに挨拶するようになった。彼女は飽きることなく挨拶を投げ掛けてくれた。ときには僕の方から挨拶をした。そして時々、挨拶から会話へ発展したりもする。
中学時代に女の子と屈託のない会話をしたことのないぼくには、それが最初苦痛だった。中学時代、人が少ないうちに登校してくるのは決まって女子たちだった。女子たちは人の悪口を飽きることなく大音量で話していた。女の子に対してそういうイメージがあるため、崇城さんも、ぼくがいないところではぼくの悪口を女子同士で話しているんだろうか、と少々怖気ていた。だけど、それも最初の二週間位だった。それを過ぎると、ぼくは彼女に対して恐怖感や猜疑心を持たずに話せるようになっていた。それはひとえに、彼女が気さくで人懐っこかったからであろう。
「黒木くんって、どこに住んでるの? 自転車通学してるみたいだから、市内?」
「そうです。片道十分ぐらいですかね?」
そんなことまで話した。こんなことを知っている同級生は、恐らくほとんどいないだろう。同じ中学の人でさえ、ぼくの住所は知らないだろう。ぼくだって彼、彼女らの家を知らないし。
「崇城さんは、何で通学してるんですか?」
「敬語は要らないって」と崇城さんは笑って、「電車通学。片道一時間ぐらいかな」と答えた。
「ほら、駅から学校まで歩くじゃない? 大体二〇分位かな? それがなかったらなぁ」
そうぼやくものの、表情は楽しそうだった。
「でもね、駅から学校までのあいだ、いろんなお店があるから、結構楽しい」
彼女はそう繋げた。
「コンビニあるし、レンタルCDショップだってある。喫茶店もあるし、スポーツ用品店もある」
「スポーツ用品店?」
「うん。言わなかったかな? ワタシ、ソフトボール部なんだ」
そう言えば聞いていなかった。訊いてもいなかった。
「ポジションはセカンドなの」
小柄な彼女らしい、と思い込みで合点した。
「上手いんですか?」
「ゴールデングローブ賞とベストナイン賞を取ったことあるよ。チーム内で」
つまりレギュラーだった、ってことか。