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「いや、それよりも、まずはアンタの話を聞く方が先だったか」
國寺くんは自分で提示した疑問を取り下げ、崇城さんに話を促した。
「えっ、話って……?」
「あの日アンタが取った行動だ。そうだな。まずは、部活が終わってから話して貰おうか」
高圧的ではあるが、それは彼の個性か。崇城さんもそれをわかってか、小さく息をついてから話しはじめた。
「部活が終わったのが五時半ぐらい。グラウンド整備とかも含めてね。それで、万永先輩と一緒にいつも通り写真部のある四階の暗室へ行こうとしたの。ワタシの方が先に上履きに履き替えられるから、履き替えたら二階の下駄箱に向かったの。それでいつもみたいに二階ヘ上がって、ちょうど上履きに履き替えた先輩と合流したの。でも、その日に限って夕陽が綺麗だからって、上履きのまま下駄箱を出たの。実際、夕陽が綺麗だったよ。それで、もうすこし見てるから先に行ってって先輩は言ったの。だから、ワタシは先に四階へ向かったの。それで四階へ上がったとき、先輩の悲鳴が聞こえたの。それで戻ったんだけど、そしたら下駄箱に先輩はいなくて、玄関へ近付いて外を見てみたらこの人の頭が見えて……」
崇城さんは國寺くんを『あの人』と表した。そういえば、ちゃんと紹介はしていなかった。
「この人、國寺くん」
割り込んでまで今言うことかはわからなかったが、まあ、いいか、という感じに言った。
「えっと、國寺くん。國寺くんもワタシに気付いて、開口一番ワタシの名前を訊いてきたの」
ぼくに苦笑いを向ける。向けられても困るが。
「それで答えたら、いきなり怒鳴られて、怖くなって逃げて、みんながいなくなってから急いで帰ったんだ」
これで全部、と崇城さんは國寺くんを見る。恐怖の中に少々の敵意を込めた睨み。だが、國寺くんはそれを無視し、何やら思考を続ける。
「そうだよな。アンタが犯人なら、あの場所に戻ってくる必要はないんだ。何か考えがあってのことだと思っていたが、どうやら違うな。アンタにそこまで考える頭はない」
「はっ? え? なんか酷いこと言われた?」
崇城さんが眉間に皺を寄せてぼくを見た。
「突き落としたら、さっさと一階へ降りて帰っちまえばいいんだからな」