13
「崇城さん。なんであなたがここに?」
電車が過ぎたあとに問い掛けると、崇城さんは恐怖から驚嘆を示した。どうやら、ぼくの存在には気付いていなかったらしい。
「あ、黒木、くん……なん、で……」
「とりあえず、ベンチに座ろうか」
ぼくはベンチを指した。ああ、うん、と崇城さんは頷いたが、立ち上がりはしなかった。いや、出来ない?
「立てよ、とりあえず」
そう言って國寺くんは手を差し延べた。……優しい! いや、格好いい! それも格好付けではなく自然な感じである。
「あっ……え……?」
國寺くんの意外な一面を含めた(?)行為に、ぼくだけでなく崇城さんも戸惑い。
「いい加減、腕が辛いんだけど」
「えっ……! あっ、ゴメン!」
崇城さんは國寺くんに助けて貰い立ち上がった。崇城さんをベンチに座らせ、ぼくらは立ったまま。……はたからはどう見えるだろうか?
「で、なんでアンタはここにいるんだ」
さっきの優しさはやはりレアものだったらしく、いつもの人を射る声で國寺くんは問う。崇城さんは息を呑み、ふわふわ視線を彷徨わせた。
「それは……」
「言えないのか」
疑問形になっていない國寺くん。詰問である。
「……先輩の家へ」
「万永さんの家か」
崇城さんは頷く。
……どういうことだ?
「アンタは万永さんを突き落としたんだろう。その謝罪にでも行ったのか」
そんな一つしかない可能性を言うみたいな口調にならなくても……。
「突き落とした? ワタシが?」
崇城さんはうろたえた。ぼくと國寺くんは自然と顔を見合わせた。
「万永さんは言っていたぞ。『崇城に落とされた』って」
國寺くんの言葉――万永さんが國寺くんに伝えた言葉を聞いて、崇城さんは目の焦点を失っていた。
「ワタシは突き落としてなんかない。……なんで、先輩、そんなことを」
崇城さんの狼狽加減は、嘘をつくときに見せるそれとは別物に思えた。