12
ぼくを置いて國寺くんは電車の中を進行方向とは逆に走り出した。
「ちょっ、國寺くん!」
ぼくもすぐさま追い掛ける。乗客が奇異の目をぼくらに向けるが、まあ、致し方ない。
――誰が、いたんだ?
國寺くんは誰を見たのだろうか? ホームには誰がいたのだろうか?
走りながら考えるのは苦手だ。なんとか國寺くんとの距離を縮めながら、その背中に問うた。
「どうしたの、國寺くん」
「ホームに、崇城が、いた」
――えっ?
まさに、なんで彼女が? だ。
「黒木。アイツの家、まだまだ、先なんじゃないのかよ」
振り向かずに訊いてくる。そう問われても、ぼくは根拠もない否定しか出来ない。
「まあ、なんでもいいさ。わざわざ電車賃を掛けなくても、よくなったんだから」
結局、ぼくらは電車が止まるまで走り続けた。最後尾の車両に入ったところで、突然國寺くんは立ち止まった。優先席付近のドアが開くのを待った。
ドアが開くまでもなく、ぼくは長い前髪を垂らしたポニーテールの女の子を車窓に捉えた。
ドアが開き、彼女は下を向きながら乗り込んでくる。制服ではなく私服で、鞄も何も持っていない。
「おい、オマエ」
國寺くんが少々荒い息で呼び掛けた。別に名指しされたわけでもないのに、崇城さんはびくっと体を震わせた。さっと振り返り、國寺くんと目が合った。するとたちまち電車から降りてしまった。
「あっ!」
國寺くんも飛び出る。ホームのアナウンスが発車を告げる。ぼくは慌ててプシューと言い出したドアから飛び出た。
國寺くんは下車した場所にいた。足下では崇城さんが倒れていた。國寺くんを見上げて、恐怖の呈を顔に表している。
「……逃げようとして転ぶって、どれだけのろまなんだよ」
呆れ声を國寺くんは零す。
「――……――」
崇城さんが何かを言ったが、それは電車の走り出す音で掻き消された。