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 ぼくを置いて國寺くんは電車の中を進行方向とは逆に走り出した。

「ちょっ、國寺くん!」

 ぼくもすぐさま追い掛ける。乗客が奇異の目をぼくらに向けるが、まあ、致し方ない。

 ――誰が、いたんだ?

 國寺くんは誰を見たのだろうか? ホームには誰がいたのだろうか?

 走りながら考えるのは苦手だ。なんとか國寺くんとの距離を縮めながら、その背中に問うた。

「どうしたの、國寺くん」

「ホームに、崇城が、いた」

 ――えっ?

 まさに、なんで彼女が? だ。

「黒木。アイツの家、まだまだ、先なんじゃないのかよ」

 振り向かずに訊いてくる。そう問われても、ぼくは根拠もない否定しか出来ない。

「まあ、なんでもいいさ。わざわざ電車賃を掛けなくても、よくなったんだから」

 結局、ぼくらは電車が止まるまで走り続けた。最後尾の車両に入ったところで、突然國寺くんは立ち止まった。優先席付近のドアが開くのを待った。

 ドアが開くまでもなく、ぼくは長い前髪を垂らしたポニーテールの女の子を車窓に捉えた。

 ドアが開き、彼女は下を向きながら乗り込んでくる。制服ではなく私服で、鞄も何も持っていない。

「おい、オマエ」

 國寺くんが少々荒い息で呼び掛けた。別に名指しされたわけでもないのに、崇城さんはびくっと体を震わせた。さっと振り返り、國寺くんと目が合った。するとたちまち電車から降りてしまった。

「あっ!」

 國寺くんも飛び出る。ホームのアナウンスが発車を告げる。ぼくは慌ててプシューと言い出したドアから飛び出た。

 國寺くんは下車した場所にいた。足下では崇城さんが倒れていた。國寺くんを見上げて、恐怖の呈を顔に表している。

「……逃げようとして転ぶって、どれだけのろまなんだよ」

 呆れ声を國寺くんは零す。

「――……――」

 崇城さんが何かを言ったが、それは電車の走り出す音で掻き消された。

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