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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
9/76

第七話 集結、ジャスティスレンジャー! 正義とは! 悪とは! ジャスティスレッドのキンタマつぶれた!?

 太陽もすっかり沈んでしまった時刻。駅裏の雑居ビル街は、夜になって輝きを増していた。


 看板がネオンと電飾でまばゆいばかりに光を放ち、客引きの黄色い声が夜空に反響する。


 三件目の店を探す酔っぱいサラリーマンが頭にネクタイを巻く伝統芸能を見せて花道を歩くと、あちこちで「おにいさん!」「寄っていかない!?」「この店には可愛い子いるよ!」「8000円で一本どう!?」と歌舞伎のかけ声に似た手馴れた叫びが響き渡る。換気扇からは強烈な酒の匂いとカラオケの音色が溢れだし、連なった行燈提灯がぼやけた光で足元を照らす。


 そう、夜の雑居ビル街はお酒臭い大人の世界。接待と笑いの満ち溢れる楽園だった。


 その数ある酒場の一つに、こっそり雑居ビル四階の一室に看板を置いたカフェバーがあった。

 本来ならばデイタイム営業を基本とする若者向けのカフェバーであったが、この店に限っては今のようなナイトタイムでも営業も行っていた。


 店内は赤く艶のあるヴィンテージウッドを壁材に使った落ち着きのあるヨーロッパ風の内装。フランス製の円形カフェテーブルが四つに、カウンターバーにはチェアが六脚。赤レンガの壁にはアンティークの壁掛け時計。カウンターバーの棚には有名どころのコーヒー豆の入った大きなガラス瓶が並べられ、空いたスペースには模造品のランタンや英書などがインテリアとして置かれていた。


 そしてカウンターの向こうに使い古されたコーヒーミルやサイフォンがコーヒーの芳醇な香りを教えてくれる、中小規模ながらも趣のあるカフェテリアだった。


 カウンターバーの向こうには髪をポニーテールに結った女性店員がコーヒーを抽出している。


 彼女はバーテンダーの証である黒いジャケットと蝶ネクタイを身につけていた。その女性バーテンダーの胸のプレートには“新名”と名前が書かれていたが、どうやら個人経営のカフェバーであるらしく、彼女以外の店員は存在していないようだった。


 しかし、ナイトタイムにコーヒーを楽しみに来る客などいるはずもなく、ましてや雑居ビルの四階にある目立たないカフェバーに気付くものすらいない。経営的な視点から見ればこの時間帯の営業は明らかな失策だったといえよう。


 だが、そんな人気のないはずの店のカウンター席に、四人の男女が座っていた。


「あいたたた、全身がいてぇ……」


 カウンターバーに頭を突っ伏した赤いジャケットがトレードマークの青年・赤井和人がそうぼやいた。

赤井は片手で頭を抱え、もう片方の手でわき腹を支えて痛みをこらえていた。


「大丈夫ですか、レッドさん?」


 その隣に座った白石つかさことホワイトが赤井の背中をさする。ホワイトは気遣うように赤井のうつむいた顔を覗きこみ、心配そうに見つめていた。


「ヒーロースーツを着ていてよかったな。あのヘルメットとスーツがなければ即死だった」


 カウンターバーの端の席に腰かけた青柳瞬ことブルーが、赤井の様子を見て肩をすくめた。


「珍しいわね、あなたたちがやられるなんて。一体どんな怪人だったの?」


 カウンターの奥に立つ女性バーテンダーが赤井の前にホットココアを差し出しながら、そのついでに四人に問いかけた。


 その問いにはホワイトが答える。


「レーダーに反応しない怪人だったんです。身長も一般人みたいな人で、でも、実力は怪人以上でした」


 ホワイトは感じたままの感想を言う。その答えに続いて、ブルーが話し始めた。


「実は俺、その怪人について思いあたる節があるんだ。元怪人だったニーナさんなら何か知らないか? 怪人ファントムの噂について?」

「ええ! ファントム!?」


 バーテンダーのニーナは驚きで肩をビクッとすくませた。手に持った淹れたばかりのコーヒーを一滴ばかり床にこぼしてしまう。


「その反応は、何か知っているようだな。俺も詳しくは知らないから、なんでもいいから教えてくれないか?」


 ブルーはバーテンダーのニーナの目を見つめて言った。


 ニーナはそのブルーの質問に困惑した。


「え、ええ、まあ知ってはいるけれど、どうしてここでその名前が出てくるのかしら?」


 ニーナはブルーの質問が相当予想外のものであったらしく、逆に質問を返してくる。


 するとブルーの隣に座っていたパープルが、話に参加しようと割り込むようにブルーに聞いた。


「ねえブルー? 怪人ファントムって何?」

「怪人王ゾシマの子供の噂だ。実はあいつには子供がいたらしいんだが、そいつは怪人になることなく人間としてこの街で生活をしているらしく、だれもその正体は知らないんだ。それで付いた仮の名前が怪人ファントム。俺も噂でしか知らない存在だ。だが、今回の怪人はまさしくその噂の怪人ファントムじゃないかと俺は考えている。おそらく怪人ファントムは変身しなくとも怪人と同等かそれ以上の力を持っている怪人だろう。だから今回のあいつはレーダーにも反応しないし、あの怪人王ゾシマ並みに強かった。そう考えれば納得できるだろ?」


 そこまで説明を聞いて、バーテンダーのニーナは無いあごひげを撫でるような動作を見せて考え込んだ。


「怪人ファントム……。う~ん、私もこの街に住んでいるという事くらいしか知らないのよねぇ。……イエローだったら何か知らないかしら?」


「イエローなら知っているのか?」

「あら? イエローはあなたたちの中でも一番の情報通じゃない。いつも怪人の情報はイエローが仕入れてくれていたでしょ? 今日イエローがあなたたちと合流しなかったのも、怪人の情報を集めてくれていたからなのよ?」


「そう言えばそうだったな。ついでに言えば、俺たちの中でも一番の熱血漢だしな」

「こらこら、ブルーったら。熱血漢だなんて男っぽい呼び方をしたらまたイエロー怒るわよ?」


「それは恐ろしい限りだよ。噂をすれば、早速そのイエローが来たみたいだぜ」


 ブルーは親指を立てて、背後のこの店舗の入り口の扉を指さした。


 扉の向こうからエレベーターの到着するチンッとした音が小さく鳴る。


 この四階フロアにある店舗はこのカフェバーのみなので、わざわざこの階に下りてくる客は彼らの関係者以外にありえなかった。


 やがて廊下を歩く音が聞こえてくると、このカフェの扉についている呼び鈴を鳴らして、その客が入ってきた。


「よう」


 その客は金髪のストレートヘアーを伸ばした釣り目の女性だった。外国人に似た顔鼻立ちにモデルのような整った体形。だが来ている服はミリタリー仕様のファーコート。歩き方もどこか男っぽく、剛毅な性格が見て取れた。


「聞いたぜ、おまえら、怪人にやられたんだってな?」


 イエローは近くのテーブルから椅子を引っ張ってくると、カウンターの近くに椅子を置いて勢いよく座った。


「ああ、面目ないがコテンパンにやられてしまった。だが相手の目星は付いている。怪人ファントムについて、イエローは何か知らないか?」


 イエローはファントムという名前を聞いて、僅かに眉をひそめた。


「ファントムだと? ……ずいぶん大層な名前だな? オペラ座在住のニートのことか?」

「いや、怪人王ゾシマの子供のことだ。俺も名前までしか知らないが、今回の件はそいつの仕業だと考えている」


 そのブルーの説明に追加するように、バーテンダーのニーナがカウンターから身を乗り出してイエローに話し始めた。


「今回の怪人はどうやらレーダーに映らなかったらしいのよ。ゾシマの子供はこの街で人間として暮らしているらしいから、きっとそいつの仕業らしいってことになったの。イエローは何か聞いていないかしら? 怪人ファントムの噂」


 イエローは少し考え込み、そして話し始めた。


「……ゾシマの野郎の子供か。だとしたら私も少しだけなら聞いてはいるが、……だが今回の件はおそらくそいつとは無関係だぜ?」

「なぜだ?」


 ブルーは疑問を返した。イエローはブルーだけを見つめて話し始める。


「その怪人ファントムが私の知っている人物なら、そいつが私たちと戦う理由がない。私の知っている情報だと、怪人ファントムは怪人を毛嫌いしていたと言ってもいいくらいだ。なにせ私に怪人の情報を横流ししていたのは、その怪人ファントムなんだからな」

「は!? 何だと!」


 ブルーは予想だにしなかった答えに驚愕した。


「そう驚くなよブルー。そういうやつがいなけりゃ怪人の情報なんてまず入ってこないんだからな」

「そうじゃない、なんでゾシマの子供が俺たちに情報を流すんだ!?」


「そりゃ簡単さ、怪人が増えすぎると世界が滅びるからだよ。あいつらの中にも世界の崩壊を危惧するやつがいて、その中の一人がそいつさ。最初は私も罠を疑ったが、奴の情報は正確だった」

「ちょっとまて、じゃあ、今日俺たちを襲ってきたのは何者だったんだ」


「さあな。私にもわからん。だが、通りすがりの一般人ではないことは確実だろう。おそらく新入りの怪人だ。そういうやつは情報が入るまで時間がかかるから、私の情報網でもすぐに正体まではわからない。だがそういうやつほど情報の回りも早いから、手に入り次第、すぐに知らせてやるよ」


 イエローはそこまで言いきると、視線をニーナに移して別の内容を話し始めた。


「そういやニーナ。頼んでおいた品は入手できたか? 決行は明日だから今日中に欲しいんだが」

「ええ、それに関してはもうバッチリよ。どうぞ」


 バーテンダーのニーナはカウンターの下にしゃがみ込み、小さな紙袋を取り出してカウンターの上に置いた。


「なぁに、これ?」


 すると近くにいたパープルが不思議がって、紙袋を手にとっておもむろに開けてしまう。


「あっ! ちょっと!」

「おい! 勝手に開けるな!」


 ニーナとイエローが同時に叫んだ。


 だが、もう遅い。パープルはすでに紙袋に手を突っ込んで、中身を取り出してしまっていた。


「え、ちょっ!? 銃!? 本物の、銃!?」


 紙袋の中から出てきたのは、銀の色合いをした鋼鉄製の小型リボルバーだった。

 警察官の持つニューナンブリボルバーよりもやや大きく、銃身の短い拳銃だ。手に握るとパープルの手がやや下がるほどずしりとした重みがあり、六連装のシリンダーには真鍮色の銃弾がすでに装填されている。


「お、おいイエロー! こんなもの何に使うんだ!」

「落ち着けブルー、そいつは、モデルガンだ! 今回情報を得るために、小道具として使おうと思っていたんだよ!」


「小道具だと? イエロー、お前はいつも俺たちに隠れて情報を集めているが、一体裏で何をしているんだ?」

「あの、イエロー? ……一緒に入っていた、これも小道具?」


 パープルはさらに、紙袋から赤い楕円柱状の棒を取り出した。パープルがその棒の根元のボタンを押すと、勢いよく鋭い刃が中から飛び出す。それは俗にスティレットナイフと呼ばれる名称の、通り魔殺人御用達の飛び出しナイフの一種だった。


「あ、ああ。……そいつもあれだ。よく演劇とかで使うあれだよ。腹に刺すと、腹から内臓の飛び出すおもちゃだ」

「それは本物の凶器じゃないか!」


 ブルーが鋭い突っ込みを入れる。明らかにイエローの言い訳も苦しくなっていたが、当のイエローはすました顔で受け答えを返した。


「別にいいじゃねえかよ。今回これをうまく使えば怪人のアジトも割り出せそうなんだ」

「おい、今回ばかりはその情報収集に俺も連れて行け! いつもは秘密だなんて許容していたが、今回は違法性があるかもしれない!」


「おいおい、怪人を殺るのに違法もくそもねえだろうがよ。あいつらは本来存在すらしない幽霊どもだ」

「だからといって脅しは違法だろう!」


「なにを言っているんだ? 幽霊相手に法律が適応できるわけがないだろ? お前だって、今日学校の出席簿から名前が二つ消えていることに気付いているはずだ。世界中の人間が今日殺した怪人二人分の記憶を無くして、代わりに怪人だった生徒が実は十年前に死んでいたってことも思い出しているはずだぜ? つまり奴らはゾンビですらない。お前が懸念するような死体損壊罪にもあたらないさ」


「そういう問題じゃない! たとえ本来は存在していない連中だろうとも、刃物やモデルガンを使うのは立派な傷害罪だ!」

「おう、だったら法廷で証明するか? どうやって証明するつもりだ? 怪人に対応した法律は一つもない。怪人の人権を認める法律すらひとつもないんだ。あいつらは殺されるためだけにある存在、いや、殺される必要がある存在だと言ってもいい。手段なんてどうでもいい話だろう?」


「怪人にだって人権はあるはずだ! いくらこれから殺す相手だからって、乱暴な手段をとっていいわけじゃない!」

「怪人に人権なんてねえよ! 全部殺してハッピーエンドだ! いまさら子供みてえなこと言ってんじゃねえよブルー。現に私の六法全書は私からヒーローのパワーを奪い取ったりはしないだろ? 法律的に違法なら、今の私はジャスティスレンジャーで居られないぜ?」 


「それは、……そうかもしれないが!」

「なら話はここで終わりだ! 結論を出すのはお前じゃない、六法全書だ! 正義は全部この六法全書に詰まっている。それでもまだ文句があるなら、その六法全書に直談判をすることだ」

「……っく!」


 ブルーは言葉に詰まって苦々しい表情になった。


 ジャスティスレンジャーにとって六法全書は絶対の存在。その六法全書を引き合いに出されて反論されては、さすがのブルーもそれ以上追及することは不可能となっていた。


「……なあ、イエロー。その、六法全書についてだが、俺も一つ、イエローの個人的な意見が聞きたい事があるんだ」

「なんだレッド? いまさら私に六法全書の何が聞きたい?」


 レッドはうつ伏せた姿勢から身を起こす。だが、視線はテーブルを向けたままイエローを見ようとはせず。テーブルの木目だけをじっと見てレッドは話し始めた。


「まず聞きたいんだが、その協力者だったゾシマの子供も怪人だったら、やっぱり最後には倒すのか?」

「なにいまさらな事言ってるんだレッド? そりゃ当然だろ? 殺すのは最後になるだろうが、怪人はみんな死刑だってこの六法全書に書かれている」


 レッドは首を左右に振った。


「いや、この六法全書にはそんなことは書かれていない。ただ、一つ。正義の法第一条、悪は滅ぼさなければならない。その役目は、ジャスティスレンジャーが負う。この一文があるだけだ。俺たちはこの悪を怪人のことだと解釈してきた。だが、これは間違っていたんじゃないのか?」

「間違っていただと? それはどういうことだレッド?」


「今日襲ってきた怪人の一人が、俺の知り合いだったんだ。いや、むしろ恩人だった。決して悪人なんかじゃないひとだったんだ。その人から優しさや正義を教わったから俺はジャスティスレンジャーになれたと言っても過言じゃない。そんな人が、怪人だからって悪と定義されいいわけがないんじゃないのか?」


「おいおい、善人ぶった人間が裏では悪人だったなんてよくある話だぜ。それにだ、現実の死刑囚にだって完全な悪人なんて存在はいないんだ。善人だろうが悪人だろうが、死刑と決まれば死んでもらうのが世の常。怪人は死刑。このルールはなにも間違っちゃいない真理だよ」


「……いや違う。冤罪ならば無罪にしなければならないはずだ。だから、少し考えてみてくれないか。本当に悪は怪人なのか? 俺たちは、何か勘違いしているんじゃないのか?」


「勘違い?」

「ああ、勘違いだ。今日の駅前の戦いだってそうだ。俺たちはあのお菓子怪人が、また人を襲いに来たのだと思って戦いを挑んだ。だがあの怪人だってもしかすれば、駅前で暴れていたヤンキー三人を善意で倒すつもりで出てきたのかもしれない。それを俺たちが勘違いしたんだ。海の時だってそうだ。水着怪人が復活して誰かれ構わず水着姿にしていた時も、俺たちは海で怪人が暴れていると思って戦った。あれも実は、あの怪人は海水浴の楽しさを伝えたかっただけかもしれないだろ? 悪魔参謀が復活してきた時なんかは問答無用で戦ったが、それも本当は戦う必要なんてなかったんじゃないか? もしかしたら話し合いで終わっていた可能性もある。俺たちは全部勘違いしてきたんだ。もっと、最良の選択肢があったのに気が付かなかった。その可能性だってあるはずだ。もし怪人が全部悪人じゃなければ、俺たちは考えを改める必要がある。悪とは何か、一度見直すべきなんだよ」


 レッドはそこまで言うと、その自分の言葉を自分の中でもう一度反芻させ、何かを確かめるようにうなずいた。そして、それが一つの確かな疑問として固まった時、レッドはイエローに視線を向けた。


 イエローは不気味なほど無表情だった。怒っているとも、呆れているともとれる表情で、ただ静かにレッドを見ていた。


 だが、やがてイエローはレッドに対して手招きをした。


「なあ、レッド。ちょっと立ってみろ。んで、こっちに来い」

「……? ああ」


 レッドは疑問に思いながらもバーチェアから腰を下ろすと、イエローの正面に立った。


 するとイエローはなんの説明もなく突然。


「ふんっ!」


 椅子に座ったままレッドの股間を思いっきり蹴りあげた。


「ハウゥンッ!」


 レッドの口から肺の空気をすべて押し出したかのような絶叫が飛び出し、レッドは膝をついて崩れ落ちた。


「うお! 大丈夫かレッド!」

「イエローさん! 何やっているんですか!」

「おっと、すまねえな! あんまり女々しいこと言うもんで、てっきりタマ・・が付いていないのかと思ったぜ!」


 イエローは談笑するように言った。だがその目も口元も一ミリたりとも笑ってはいなかった。


「いいかレッド、それとお前らもよく聞け! ……死刑は、殺人だ!」

「!?」


「なにが怪人は悪じゃないと思うだ!? じゃあなんだ! お前らは勘違いで人を殺してたっていうつもりか!? ならどうする、僕たちが間違っていました、これからは仲良くしましょう、とでも言うつもりだったのか!? バカかてめえらは! そんなことがあってたまるか! あいつらは死刑囚で、判決はすでに下されているんだよ! なんで六法全書が怪人にしか反応しないと思う! なぜ六法全書でしか怪人は殺せないと思う! 六法全書は怪人を悪と認めているんだよ! これ以上の証明がどこにある! いい加減目を覚ませバカレッド!」

「ぐ、ぐぐぐ……」


 レッドは痛みに震えて反論を返すことができなかった。そのうずくまるレッドに、ホワイトが寄り添って背中をさすっていた。


「レッドさん。大丈夫ですか?」

「……ああ、大丈夫だ。…………いや、やっぱり大丈夫じゃない、潰れてはいないが、死ぬほど痛い。だが、おかげで、少し目が覚めたかもしれない。たしかにイエローの言う通りなんだ。六法全書こそが正義。六法全書が認めたことなんだ。ジャスティスレンジャーである俺は、それを、信じなければならないよな」


「そうだともレッド。たとえ親や恩人でも、六法全書が認めた相手は殺すべきだ。私はたとえ親だろうと怪人を殺す覚悟があるぞ。なにせ、俺たちが殺すことをやめたら世界が滅びるんだからな」

「ああ、怪人を倒さなきゃ、世界が滅びる。それを忘れていたんだ俺は。だったら、弱音は吐けない」


「ああそうだ。その通りだ。……実を言えば、私もお前と同じような悩みをしたことがある。だが私は、その悲しみを乗り越えて恩人を殺した。今ではいい経験だったと思うよ。きっとお前も、私と同じになれるさ」


 イエローは椅子に深く腰掛け直すと、目をつぶってなにか瞑想しはじめた。何かを想起するように、イエローは瞑想に耽っていた。


 すると、腕を組んで考え込んでいたブルーも、ふとつぶやいた。


「……俺には、分からんな。恩人を殺すなんて」


 その声を聞いたイエローは、薄く開けた目をブルーに向けた。


「ブルー、それでもいいさ。こんな悩み、知らない方が幸せなんだ」


 イエローは重く沈んだ声で言った。想いを馳せたかのようなイエローの声は、その覚悟の重要性を暗に示していた。


「私も覚悟しとこうかな……。騙されていたとはいえ私も一時期、自分を怪人だと思っていたし、怪人の知り合いもいたしね。……もうみんな死んでるけど」


 パープルも同じく一度目を閉じて何かを想起し始める。かつて怪人王ゾシマに騙されていた頃の、怪人の知り合いを思い出しているようだった。


 パープルの思い出の持つ重みは深いもののようで、目を閉じたパープルは表情なく静かに想い始めた。


「私には怪人の知り合いなんていませんが、私も覚悟しておこうと思います。レッドさんが覚悟したんです、彼女である私も覚悟しないわけにはいきませんから」

「はあ!? ホワイトお前、レッドと付き合ってんの!?」


 突然、イエローが目を見開いて驚いた。どうやらイエローには寝耳に水の関係だったらしく、イエローはその身を乗り出してホワイトを凝視していた。


 その様子に、ブルーが驚きながらも呆れていた。


「お、おいおいイエロー、いまさらかよ。多分知らないのはイエローだけだぜ」

「ブルー、お前知ってたのかよ! いったいどういうことだよ! ちょっとこっちで詳しく話聞かせろ!」


 イエローはブルーを引っ張って壁際まで引き寄せ、レッドに聞こえないよう小声で聞いた。


「なあ、あいつら、いつから付き合っているんだ?」

「ゾシマを倒した後で、レッドの方からホワイトに告ったんだよ。今じゃ両想いカップルだ」


「まじかよ、いいのかよそれ…………。じゃあなんだ。レッドは……、あいつはいまだに、ホワイトが、……ホワイトが実はだってことに、気付いていないのか?」

「しっ! 聞こえるだろ! まあ、つまりは、そういうことだ」


 ブルーとイエローは後ろを振り返った。そこにはレッドの手を握る、ホワイトの姿があった。


「レッドさん、ごめんなさい。いつか勇気を持てた時に、私の秘密を教える約束でしたけれど、いくら覚悟をしても、まだ勇気が持てないんです。あと、もう少し、もう少しの間だけ、私に覚悟が出来る日が来るまで、待っててもらっても、いいですか?」


「ああ、いいさ。誰にだって言いたくない秘密の一つや二つはあるさ。言いたくなければ、言わなくてもいいんだ」

「レッドさん……。ありがとうございます。私、レッドさんの彼女になれて、本当に良かったです」


 ホワイトはレッドの二の腕に顔をすりよせた。ホワイトがレッドの腕で涙をぬぐっているかのようにも見える。その二人の様子を、ブルーとイエローはなんとも言えない表情で見やっていた。


「……なあ、本当にいいのか?」

「なら、どうしろっていうんだよ……」


 ブルーとイエローは顔を見合わせて、互いに冷や汗を吹き出しそうな微妙な表情になっていた。そのなんとも言えない表情に気付いたパープルが、二人に向かって大声で言った。


「こらー! ブルーとイエローも、何でそんな微妙そうにしているのさ! こういう幸薄そうなカップルは、私たちで応援してあげなきゃダメでしょうが!」

「パープル、そうは言ってもだな……」

「もう! レッド! ホワイト! あの二人は無視してもいいよ! 私は二人の仲を応援するからね!」


 パープルはレッドとホワイトに向きなおってキラキラとした目を向けた。それは乙女チックな妄想に期待を膨らませた、ちょっぴり邪悪なパープルの瞳だった。


「パープルさん、ありがとうございます! 私、レッドさんに認めてもらえるような、立派な彼女になりますね!」

「そうだよホワイト、その意気だよ! 恋の力はどんな障害だって乗り越えることが出来るんだよ! 純愛物から禁断物まで、すべての恋愛小説を読破した私が言うんだから間違いないよ!」


「はい! パープルさん! 私の女子力を磨くため、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますね!」

「任せてホワイト! 女子力の暗黒面、あますところなく教えてあげるからね!」


 ホワイトとパープルは熱い握手を交わした。女の子同士の心の友情が二人に黄金の絆を与えたかのような熱い握手だった。


「何かおかしいと思ったら、パープルが一枚かんでいたのか。……一つ忠告しておくがそんな恋愛、手伝ってもろくな結末にはならないと思うぞ?」

「それでもいいんですよ! むしろ、大好物です!」

「確信犯か! 最悪じゃねえか!」


 イエローが冷や汗をかきながら驚く。


 パープルは悪びれることもなく、ただ恋愛脳から生み出される情熱に身をゆだねて行動する。その姿はまさに小悪魔だった。


「ふふ、一瞬ヒヤっとしちゃったけど、やっぱりジャスティスレンジャーはこう仲良くなくっちゃね。……ところでみんな、今度お店で並べようと思ってるスペシャルブレンドがあるんだけど、飲んでみない?」

「ほんとですかニーナさん! ぜひ、飲んでみたいです!」


 ホワイトが真っ先に反応する。バーテンダーのニーナの提案で、店内は再びほんわかとした暖かい空気がまた訪れた。


「甘くないコーヒーだったら私も飲んでみたいな。前回みたいな練乳カフェオレは勘弁してくれよ」

「安心してイエロー。今回はジャスティスレンジャーの五人を題材にした、五色のコーヒーよ」

「わあ! おいしそうですね!」

「……ちょっとまて、ホワイトはいいかもしれんが、イエローの私は黄色いコーヒーか?」

「え? じゃあ、おれは赤いコーヒーか!?」


「安心して! どれも味は保証するものばかりよ。……ブルーだけ青汁のブレンドがうまくいかなくて、合成着色料使っちゃったけど」

「オーケー、ニーナさん。今回のブレンドは失敗だ。ただちにその罰ゲームアイテムを排水溝に捨てるんだ」

「そんなこと言わないでよブルー! 百聞は一見にしかず! 一度くらい飲んでもらうわよ!」


 そうニーナは言うと、バーカウンターの下にある冷蔵庫を開けた。


 その瞬間だった。


 バチンと電気のはじけるような音と共に全部の電灯が瞬くように輝き、蛍光灯は一斉に消灯して店内は完全な暗闇に包まれた。


 暖かだった雰囲気は消え去り、突然の出来事に空気が張り詰める。


 何かが、やってくる。

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[良い点] サブタイすげぇ面白い [一言] 友達に勧められたけどコイツら薄っぺらい正義だなぁ……
[良い点] 不覚にもサブタイで笑った
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