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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.アイドル魔法少女キューティクルズ編
74/76

《サイドストーリー》クロスさんの平和だが安全ではない日常【コメディ】

 黒いハードレザーのロングコート、素顔を隠すフードとマフラー。そしてタンポポ柄のポップなエプロン。

 クロスは自宅マンションのキッチンで料理をしていた。作っているのはプチサイズのサンドイッチ。


 大柄な男性であるクロスが、チミチミとした動きで小さなサンドイッチを量産している。その姿は違和感の集合体とも呼称できるほどアンバランスさに満ちていた。


「ンム」


 ミリ単位まで調整されたちいさな三角サンドイッチ。食パン八分割サイズのそれを三ケタほど作り上げると、クロスは飾り気ない大皿の上に手際よく並べていく。


 その合間にチラリとテーブルの上の携帯端末を見ると、画面には昨日送られてきたユダからのメールがずっと表示されていた。


『キューティクルズのみんなと仲良くなったから、みんなで遊びに行くね~! プレゼントしたエプロンつけてれば、きっと怖がられないよ~!(*^^*)』


 何かと人付き合いの良いユダが、クロスとキューティクルズの仲を取り持ってくれる計画を立ててくれたらしい。


 キューティクルズでクロスが一般人であることを知っているのは、サファイア・キューティクルことアオバだけである。

 クロスの正体自体は民間に知られなければ問題ないので、キューティクルズとはぜひとも仲良くしたいと考えていた。だがクロス一人ではキューティクルズの誤解を解くどころか悪化させる可能性が大いにあったので、ユダの提案が実質最後のチャンスである。


「……ンッン~♪」


 クロスが珍しく鼻歌を歌う。


 友達が遊びに来る、という特大イベントに胸が躍るのだ。年齢=ボッチであるクロスにとって、交友関係がつながるということは黄金よりも価値のあることなのだ。


「ンッンングッグ グォボァゴォッ♪ ……ムゥ」


 鼻歌ついでにアイドルソングを歌ってみようとしたが、デスメタルもびっくりのグロールボイスが出てきたので中断した。

 自分で聞いて自分で引くほどの唸り声。沸き立つ気持ちを精神力で抑えつけ、怖がられないことを第一に考えようと冷静さをなんとか呼び起こした。


 するとちょうどそのタイミングで玄関のチャイムが鳴った。


「クロスさーん! 来たよー!」


 ユダの声。


 クロスはとにかく第一印象が大切だと思い、作ったばかりのサンドイッチの皿を手に持って玄関に向かった。武器も凶器も持っていませんという意思表示である。


 鍵をかけていなかった玄関の扉はすでにユダが開け広げていた。


「キューティクルズのみんな! ここがクロスさんのお家(ハウス)だよ!」

「いやおかしいだろ! 廃屋とかじゃないのかよ!?」


 トリガーハッピー・キューティクルの声。

 

 玄関先でサブマシンガンを構え、クロスの姿を見ると銃口を下ろして突っ込みを入れる。トリガーハッピーは変身しておらず、ジーンズジャケットを着た小柄な二十代後半くらいの女性だった。


 ユダの後ろにはぞろぞろとキューティクルズのメンバーが集まってきていた。

 先頭がいまサブマシンガンを消失させたトリガーハッピー。その後に続いてファッショナブル・キューティクルズのローズと、スーパースター・キューティクルズのアオバ。

 続いてクッキング・キューティクルズから青いセーター姿のパティシエ。赤いアンドロイドのゼロワン。オーロラ・キューティクルズからレポーターのシアン。最後にビースト・キューティクルズのタイガー、ヒグマ、フクロウの小学生三人組が姿を見せた。


「何がどうなっているんだ!? エプロン!? こいつもっと超常的な人物(バケモノ)だっただろ!?」

「だから説明した通り、クロスさんは普通の一般人なんだって」

「僕も最初は驚いたんですけど、本当にその通りなんです」

「おかしいだろーが! あの暴れっぷりを思い出せよ!」


 トリガーハッピーが混乱したように驚愕する。クロスはトリガーハッピーが落ち着くまで緊張した面持ちでじっと直立不動を保った。


「どう考えても“実はいい人でした”が通用するキャラじゃなかったよな!? 先週のショッピングモールで私らが手も足も出なかったバケモノだろ! だったらもっとこう、日常的にチェーンソー持って襲いかかってくるとか、生きた人間をフックに吊るすとか! そういう伝説的な殺人鬼であるべきなんじゃないのか」

「ところがどっこい、実はいい人でしたー!」

「だからありえないっつてんだろが!?」


 トリガーハッピーが驚愕で目を見開いて突っ込みを入れる。


 そこでアオバがローズに助け舟を求めた。


「えーと。ローズさんはこれを見て分かってもらえましたか?」

「ええアオバさん。疑ってごめんなさい。まさか本当にマンションに暮らしているなんて思わなかったから。私も絶対、湖畔の廃屋とか、不気味な洋館とかで死体に囲まれて住んでいるものとばかり……」

「ムゥ……」


 クロスは困ったような声を鳴らす。しかしクロスの一挙手一投足が怖がられる可能性を秘めているので、まだクロス側から歩み寄ることは出来ない。クロスだって学習するのである。


 するとユダが先陣を切ってクロスに駆け寄り、皿の上のプチサンドイッチに目を輝かせてみせた。


「サンドイッチおいしそう! さっそく一切れ食べていい?」

「……(コクン)」


 クロスがうなずくと同時にユダはサンドイッチを二つ手に取ってみせた。


「これは、みんなの分? キューティクルズのみんなー! 早く入っておいでー! 歓迎してくれるってー!」


 ユダがニコニコ笑顔で後方に声をかけると、キューティクルズの面々も多少警戒しながらも玄関から上がってくる。


 一番最初に入ってきたのはトリガーハッピーだったが、その表情はいまだ疑い深いものだった。


「そのエプロンが人体解体のための皮エプロンで、サンドイッチの中身が人肉だったら、私はすごく納得できたんだがなぁ」

「……ムゥ」


 トリガーハッピーが信じられなさそうな目でクロスを見ながらも、多少警戒を解いてくれたのかクロスの隣を通り過ぎて部屋に入っていった。


「すごいデス! 部屋が普通デス!」


 アンドロイドのゼロワンは動かない表情の代わりに大きな身振り手振りで驚きを示して見せた。


 クロスの部屋は住宅モデルルームのように片付いている生活感のない空間だ。それゆえに本人の見た目との乖離があまりにもひどかった。部屋のデザインだけならいわゆる包容力のある大人の男性のような印象を受ける。


 ちなみにクロス本人の好みで部屋をアレンジすると実用的になりすぎて殺風景になるので、内装を生活雑誌に頼ったのが原因でもある。


 するとクロスの脇に張り付いていたユダが声を掛けてきた。


「本当はキューティクルズのみんな連れて来たかったけど、仕事があったりクロスさんがトラウマだったりで、それぞれのキューティクルズの代表一人ずつしか呼べなかったんだ。ごめんなさい」

「……」


 クロスは首を横に振った。ユダに謝られるようなことはなにもない。


「ありがとー、クロスさん! それじゃあ私は今日カメラ持ってきてるから、これでクロスさんがみんなと仲良くなってるところを写真に撮るね! この写真でクロスさんの優しいところを見せれば、他のキューティクルズも仲良くなれると思うんだ! いい考えでしょ!」


 ユダは高級そうなデジタルカメラをポケットから取り出した。それと同時に試写するようにクロスの顔を撮影する。


 フラッシュがたかれてクロスが眩しそうにしていると、ユダは隣を通り過ぎたゼロワンに対してふと思い出したように話しかけた。


「そう言えばゼロツーさんはどうして今日これなかったの? 連絡もらえなかったんだけれど」

「ゼロツーは常に体から病原菌漏れているので団体行動出来ないのデス。だからお誘いメールは返事無しで全部欠席デス」

「じゃあサムライ・キューティクルズさんたちも?」

「サムライはイソロクのお見舞いデス。正気に戻って測量やお茶を点てなくてもよくなった今の間だけしかイソロクに感謝の気持ちを伝えられないってことで、ずっと看病しに行っているらしいデスよ」

「ん~、それなら仕方ないか」

「どうせ数年もすれば元通りデスから、また人格なくしてから声を掛ければ(こころよ)く遊びに来てくれマスよ」

「数年……。はやく仲良くなりたかったな~」


 ユダは残念そうに自分のこめかみをなでる仕草を見せる。


 すると、部屋の中でパティシエ。キューティクルが大きな声を響かせた。


「うそっ! これ、あのおっかない人が作ったお菓子!? まさ同業者(プロ)!?」


 私服姿のパティシエはテーブルの上の軽食群に驚く。そのミリ単位で調整された軽食たちはほとんど美術作品の域である。


 クロスがインターネットで調べた、女性受けしそうな軽食の数々。

 一口サイズで色とりどりのキッシュにアップルパイ。ほんのり焦げ目の付いたチーズトースト。そしていまクロスがテーブルに置いた大量のプチサンドイッチ。


 クロス渾身の歓迎用おつまみだ。わざわざこの日の為に皿と調理道具一式とオーブントースター二台を追加購入しただけのことはある。


 だがそれだけでは終わらない。クロスは冷蔵庫を空けると、対キューティクルズ用最終兵器を取り出してみせる。


「ああー! マカロンだー!」

「がるるぁ! 甘い匂い!」

「ハラショォォォ! マカロンゥゥゥ!」


 タイガーとヒグマの女子小学生二人組を筆頭にユダまでもが一斉にマカロンの皿に飛びついてきて、クロスは危うく大皿をひっくり返しそうになった。


 クロスはマカロンの大皿をそのまま二人に手渡すと、新たに二つのマカロンの大皿を冷蔵庫から取り出してテーブルに置いた。大人数でも充分満足できる量のマカロンだ。この為だけにオーブンを二台追加購入したといっても過言ではない。それだけの価値はある最高級の洋菓子だ。


「うわ、プロでも難しいマカロン手作り!? ヤバっ!」


 パティシエ・キューティクルが再び驚く。


 マカロンはお菓子の中でも最高難易度の調理過程を誇るることで有名だ。メレンゲの立ち具合、湿度、オーブンの温度、どれも最適な状態でなければボソボソとしたクッキーのようになり、あの独特のパリパリ感と芳醇なアーモンドの香りは再現できない。


 だがクロスはプロの動画から科学的な考証と立ち回りを完全に再現し、本職と同等レベルでの作成を可能とした。ミリ単位でプロの所作を真似て、コンマ秒単位で焼き、科学的な状況分析で微調整する。


 もっともマカロンを焼く時間を使って投資・投機をして数億稼ぎ、そのお金でマカロンを買えばもっと早かった。

 だがクロスは誠実さを見せるためにあえて行動で示してみせた。それも全てキューティクルズに好印象を持たれたいがため。これで交友関係が成り立たないならクロスに打つ手はない


 ハードレザーロングコートの上に花柄エプロンという変な姿でなければもっと印象は良くなったかもしれないが、これは計画の発案者がユダなのでその点は致しかたがないともいえるだろう。


 だが、マカロンを貪る女子小学生の二人の警戒は解けたようだった。タイガーとヒグマは飢えた獣のように手づかみでマカロンを口に放り込んでいく。


「がるるる! んまい!」

おいしい(フクゥスナ)! マカロンっ!」


 クロスは二人の食べっぷりを満足そうに見る。過剰に作成しておいて正解だったと確信した。このペースならば二人に全部食べられたとしても一時間は持ちこたえられそうだった。


 しかし、ローズの後ろに隠れていたフクロウはいまだに不安そうな目でクロスを見ている。


「ふぇ……。だ、大丈夫でしたか? この人、本当に、怖い人じゃないんですか?」

「ムゥ……」


 クロスは小さくうなずいて肯定はしてみせる。


「でも、体からすごい血の匂いが……」

「ム……!?」


 クロスはあわてて体臭を気にしはじめた。


 血の匂いは確かにする。だがだからといって、こればかりはいたしかたないことであった。

 先週の戦いの怪我もまだ治療段階。その上、全身の火傷を被膜している浸出液も元々は血液である。おかげでいつだってクロスは血生臭い体臭だ。一日三回のシャワーでも残念ながらこの血の匂いは落とせない。


「がるぁ! 血の匂い! 腐肉の匂い!」

「ロシアの大地を思い出す! 野性の生活懐かしい!」


 だがタイガーとヒグマがマカロンから離れてクロスの匂いを嗅ぎ始める。

 突然近付いてきた小動物のような女子小学生二人に驚き、クロスは半歩後ずさった。


「あらあら~、困らせちゃだめよ~」


 すると廊下の奥から、巨大な木箱を抱えたアザラシが現れた。


「飲み物、ここに置くわね~。これはおもてなしの軽食かしら? ありがとう、おかげで私たちの水分補給もはかどるわ~」


 アザラシは木箱を床に置き、釘の打ち付けられた蓋を力づくで引っ剥がす。その木箱の中には、緩衝材と一緒に大量の酒瓶が詰め込まれていた。


「酒で水分補給って、むしろ脱水症状起こすんじゃね?」

「ハッピー? 脱水起こしたなら、もっとお酒を飲めばいいじゃない」

「殺す気か! てかこの量、ここで飲み会でも始める気か?」

「なんやかんやで前回の戦いの打ち上げしてなかったでしょ~? だから、ここでしましょう。お姐さんの四トントラックの上にまだまだ積んできているから」

「四トントラッ……!? 酒の風呂にでも入るつもりかよ!?」

「ハッピーも持ってくるの手伝ってくれるとうれしいわ~。ワイン、ウイスキー、コニャック、バーボン、テキーラ、日本酒、焼酎、手指消毒用アルコール、全部そろっているから安心してね~」

「このアルコール中毒(アルカホリック)め。もう勘弁してくれよ。前回は駅裏のバーでバスタブ一杯分飲んだあげく、キッチンのサラダ油まで飲み干して怒られたばかりだろ?」

「それはそれ、これはこれ。人はね、お酒を飲まないと死んじゃう生き物なのよ~」

「……まぁ、いつものことか。もうあきらめる。しょうがないから車から持ってきてやるよ」

「ありがとうハッピ~」


 トリガーハッピーはお酒を取りに玄関に歩いていった。

 アザラシは振り返り、クロスを見た。


「……えっと、クロスさんだったかしら? このお酒でお互い殴り合ったことは水に流しましょう~。お互い聞きたいこともあるでしょうし、私たち古参組キューティクルズと向こうでお酒でも飲みながら話し合わないかしら~?」

「ン、ムゥ……」


 クロスは困ったようにうめき、メモを書いた。


『申し訳ない 未成年だ』

「うそぉっ!?」


 アザラシが本気の驚き声を上げる。目を見開き、自分より身長のあるクロスを不思議そうに見つめていた。


 すると、そのメモを見たユダが嬉々としてクロスの袖を掴んだ。


「そうだよ! クロスさんは私たちと同じ十代なんだ! だからこっちで一緒にお菓子食べよ! トミー君からお菓子の差し入れももらっているよ!」


 ユダはクロスをぐいぐいとテーブルに引っ張っていく。テーブルにはいつの間にか箱から開封された大きなホールケーキが二つ追加されていた。


「うわ! おいしそうなイチゴケーキ! うう、僕がアイドル業じゃなければカロリー制限気にせず食べてたのに」

「大丈夫だよアオバちゃん! これはトミー君の特製で、一個でマイナス100キロカロリーなんだって!」

「え、マイナスってなに!?」

「怪人の能力で作ったからなんでもありなんだよ! 食べたら食べた分だけ痩せるケーキだってさ!」

「うそ!?」


 アオバがテーブルのイチゴケーキをみて驚愕する。そのカロリーマイナスという魔法の特製は、ローズやアオバなどのモデル・アイドル業の女性を釘づけにした。


「それは本当なのユダさん!?」


 掴みかかる勢いで尋ねてきたのはローズだ。


「もちろん本当だよ! トミー君はダイエット系嫌いだから低カロリー系はまず作らないんだけど、今回はパーティーで気兼ねなく飲み食い出来るよう特別に作ってくれたみたい! ただ、熱量と脂肪を奪うから小学生以下と空腹の人は食べちゃダメだって!」

「そうだとしてもこれは革命よ! このケーキは今後ももらえるたりするのかしら?」

「うーん、トミー君しか作れないし、ダイエット系食品は本当に嫌いだからもう作ってくれないと思う。今回だけ特別だって。でも高カロリーケーキならいくらでも作ってくれるって」

「高カロリーはちょっと……。でも分かったわ。怪人と仲良くしておいて損はないってことね」


 ローズはかなり本気の眼差しでケーキを見つめていた。女性にとってはまさに革命。甘味を食べながらダイエットできる。お酒の多いこの状況ではキリストやブッダよりもありがたい救世主である。


「ム……」


 ケーキの追加でテーブルの上が手狭になっていた。だがクロスも今日は大人数が来ることは想定済みだったので、クロスはテレビの裏側のパーテーションをスライドさせ、さらに八畳ほどある奥の部屋を解放した。

 当然その部屋にもテーブルと軽食類を準備済み。抜かりはない。もともとファミリー向けのマンションなので十五人くらいまでは余裕で飲食出来るスペースだ。


「あら~、飲み会スペースを確保してくれたの?」


 今日の目的は飲み会ではなかったはずだが、いつの間にか飲み会をするという雰囲気で固まっていたようだった。アザラシはすでに酒びんを片手に握っていて、いくつもの栓抜きとコルク抜きをテーブルの上に置いて回っている。


「これは、私も今日は飲もうかしら? カロリー気にしないで飲むなんて高校以来ね。アザラシ、テキーラもらえるかしら。あとレモンと塩もあれば最高なんだけど」

「テキーラにレモンと塩とは(つう)ねローズ。私ももう我慢できないわ。もうボトル開けちゃいましょう」

「……ムゥ?」


 クロスは想定とは違うキューティクルズの様子にやや困惑して困った声を上げた。


 キューティクルズの年長者組は目的を忘れて木箱から酒を取り出してガンガン栓を空けていくつもりのようだ。未成年者にはペットボトルのジュースを手渡し、スナック菓子の袋を開封してテーブルに並べていき始めた。


 そうこうしているとローズとアザラシがウォッカとテキーラの瓶をガツンとぶつけあわせて勢いよく喉に流し込んでしまう。その様子にキューティクルズらしい優雅さなんてない。


 どうやらキューティクルズはあの決戦の後、緊張が解けて肩の荷も全部下ろしてしまい、羽目が外れてついでに頭のねじも落としてきてしまったようだ。


 今はまだ許容できるが、木箱の中から見え隠れするメチルアルコール※1の工業用一斗缶も飲み物として提供するようならクロスは全力で止めに入らなければいけないだろう。どうやら少々危険な存在かもしれなかった。


(※1:メチルアルコールはお酒に含まれているエタノール(いわゆるアルコール)とは違い、失明などの中毒症状を起こす)


「さあみんなもどんどん飲み物を空けちゃって! 今日ははっちゃけるわよ!」

「うぉい! 私に酒持ってこさせて勝手に始めてんじゃねえよ!」


 玄関から大きな木箱を抱えたトリガーハッピーも帰ってきた。木箱を部屋の隅に置くとクロスを押し除けてすでに開いている木箱を目指す。


「あらハッピーありがとう! あなたも早速開けちゃって! 今日は一人ボトル三本がノルマよ!」

「分かっているから道開けろぉ! おい家主! カラオケあるかカラオケ! 私らは酔ったあとは歌って暴れるからな!」

「オォウ……!?」


 クロスは困り果てて返答できない。

 トリガーハッピーも木箱に手を突っ込むや否や、歯で高級そうなワインのコルクを抜いてラッパ飲みしはじめた。


 クロスもいくらなんでもこんな事態までは想像できなかった。

 顔合わせの為の軽食会すっ飛び、過程行程諸々を無視して突然飲み会がはじめられた。気付けば上品さの欠片もないウィスキーがぶ飲み大会。クロスのミニサンドイッチは酒のつまみになって消えていく。


「さあみんな! お酒持ったわね!? 今回の戦いお疲れ様! 遅くなったけどクランクアップの打ち上げよ! 今日は思いっきり羽目を外しましょう! かんぱ~い!」

「「「かんぱーい!」」」


 ローズの乾杯の音頭を皮切りに、クロスとの顔合わせという当初の目的はとうとう記憶の底に滅却された。



        ▼       ▼



 ……それから二時間が経過して、クロスの部屋が超・酒臭い。


 部屋の真ん中に日本酒の大樽。その樽からローズが木製のますで日本酒をすくい上げて豪快にグビグビやっている。


 その大樽は鏡開きに使われる上げ底の日本酒樽ではない、文字通り蔵出しで一バレル分ある大樽である。その重さは実に160キロ。それがすでに半分まで減っていた。


 見渡せば床に広げられ散らばったスナック菓子、無数に転がった酒の空瓶。キッチンのカウンターの上には正気を疑うほど大きな業務用ビールサーバー。それでいて五つ並んだ大きな木箱の中からはまだまだ新しいボトルが出てくる。だが、現在下着姿のアザラシが一瓶22秒ほどのラッパ飲みで空きビンを積み重ねていくので四つの木箱はすでにほぼ空だ。


 状況が酷いのは酒だけではない。クロスのフードはとっくに引っぺがされて火傷の素顔を晒されていた。しかも悪ノリでクロスはおかっぱのカツラが乗せられ、口紅と頬紅まで塗られて化粧も施されている。


 酒で正気を失ったキューティクルズがクロスをおもちゃにしたのだ。クロスは困った声を上げることしかできず、されるがままにされるしかなかった。


「へぅ……。アザラシお姐さん、日焼けしましたか?」

「ムゥ……」


 よろめきながらクロスに近付いてくるのは、熱気で顔を赤くしたフクロウだ。


「あうぅぅ? 真っすぐぅ、歩けない」


 酩酊したフクロウがおかっぱヘアーのクロスに近寄り、足をもつれさせて腕の中に倒れ込んだ。


 今日はもはや軽いテロ行為とも呼べる酒の量が用意されていた。当然そんな酒臭い空間にいれば、飲んでいなくても酒は回ってくる。


「あむ、あむあむあむ」


 フクロウがクロスの服の袖を甘噛みしはじめた。だがクロスには懐いてきた子供を押し退けられる勇気などない。袖がよだれでべたべたにされようがされるがままだ。


「あらあら~、懐かれたわねぇ~」


 下着姿のアザラシが酒びん片手にクロスを羨ましそうに見ている。下着姿なのは王様ゲームにレズビアン(ローズさん)が混じっていたことが原因である。

 黒の扇情的な下着で豊満な胸を強調しながらクロスの肩に腕をかけ、母性溢れる手つきでフクロウの頭を撫でた。


「あーずるいー! クロスさん、私もー!」


 するとクロスの胸にユダも飛び込んできた。クロスはやはり困った声を上げる。


「がるるぁ♪」

「はらしょぉぉぉ!」


 すると、タイガーや裸エプロンのヒグマもなにかの遊びと勘違いしてクロスの胸に飛び込んでくる。


 その勢いでクロスは床に押し倒されそうになるが、なんとか持ちこたえた。だがそれをいいことにちびっこ3人組が有り余る元気を乗せてクロスをぐいぐい押していく。


「あらあら~、タイガー、ヒグマ、がんばって~」


 するとクロスの背後のアザラシが助力してくれた。豊満な胸をクロスの背中に押し付けて後退するのを防いでくれる。

 クロスは双方からのやわらかな圧力に押し潰されるが、出来ることなどなにもない。豊満な女性とちびっこ女子にサンドイッチにされるのを耐えるしかない。


「おっしゃちびっこども! そのままそいつを押さえつけてろ! ベットの下からエロ本探すぞエロ本!」

「ム、ムゥ?」


 すでに酔って千鳥足のトリガーハッピーがしゃがみこみ、ほふく前進でクロスのベットの下に潜り込んでいく。


「ワォ! エロ本探し面白そうデス! 私もエロ本探すのデス! ……でも、体が動かないデスね、カメラにノイズがガが、あら、ラらラらラ~?」


 酔っ払いの如くよろめいたゼロワンが勢いよく頭から大型液晶テレビに突っ込み、深々と首まで突き刺さった。一瞬の電光、それと同時にガラス片が床に散らばる。


「飲み過ぎよゼロワン。大丈夫?」

「大丈夫デ~ス、充電デス、ただの」


 頭をテレビ画面に突き刺したままゼロワンは返事をする。


「ごめんなさいねクロスさん、さっき扉をへし折った冷蔵庫と一緒にあとで弁償するから許してね」

「ム……」


 クロスは穏やかにうなずく。もとより金銭面に困っていないので賠償すら必要ない。クロスはやろうと思えば仮想通貨のブロックチェーンにウイルスを仕込んで預金口座をカンストさせることも出来るのだ。冷蔵庫やテレビなどそれこそいくらでも壊されて構わない。


 そんなこともあってクロスはキューティクルズの醜態を無制限に許容していた。


 オーロラ・キューティクルズのシアンはさっきから酒を飲んではトイレで吐くという古代ローマ貴族のような奇行を繰り返している。トリガーハッピーは赤ワインをボトルで飲み、口の端からワインをこぼして床を赤く染めながらベットの下に潜る。酩酊したパティシエ・キューティクルは大鍋に入れたワインでパスタを茹でていた。しかし、ガスの元栓が閉まっているので冷たいワインの中を堅いパスタがぐるぐる回っているだけだ。


 いろいろと大参事なのだが、クロスからすれば笑顔で溢れていることがどうしようもなく素晴らしい事のように思えた。誰かが火炎瓶でも作り始めない限りは、この状況を感受しようと思えるほどだった。


「おおっ! ベットの下に怪しげな箱が! どれどれ……」


 トリガーハッピーがベットの下でクロスの小物入れを発見したようだった。

 クロスは基本的に必要最低限の品しか購入しない。本はもちろん、普通の学術書ですら丸暗記しているので書籍の一冊すら部屋には無い。それゆえに大したものは見つからないだろうとクロスはトリガーハッピーに好き勝手させてみせた。


 トリガーハッピーが箱から見つけたのは、古ぼけた七夕の短冊だった。


 “海で泳いだり 友達とおしゃべりしてみたい”

 短冊にはそう書かれていた。


 なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、トリガーハッピーはそっとその短冊を箱の中に戻す。


「……チクショウ! 酒だぁ! 酒をもっと飲むぞこのヤロウ!」


 バツが悪くなった事を隠すためか、トリガーハッピーはベットの下から出てくると酒の入った木箱に向かって歩いていった。


「はぁい、トリガーハッピー、焼酎どうぞ~」

「おう!」


 いつの間にか移動していたアザラシが酒瓶をトリガーハッピーに手渡し、当然のようにラッパ飲みをする状況を当たり前のように見守っていた。


「そう言えばハッピ~、あなたもあまりお酒に酔えない口でしょ~? 私たちはほとんど酔えないけど、一発ガツンと酔える方法があるらしいのよ~」

「へえ、あんたも酔えるような方法があるってのか?」

「もしかしたら私も酔っぱらえるかもしれないわね~。試してみたいと思わない?」

「ははぁ、いいぜ~! で、どうやればいい?」

「お酒に少し心の闇(・・・)を混ぜ込めば効くらしわ~。エメラルドのミドリちゃんが言うには、キューティクルズの自浄機能を乗り越えて脳髄までアルコールが届くとか」

「なんだ簡単じゃねえか! そんじゃ、今から全部の酒とジュースに混ぜ込んで乾杯しようぜ!」


 どうやらキューティクルズには学習すると言う知能は無いらしい。先日心の闇関連で痛い目を見たばかりだと言うのに、またもや危険な行為に首を突っ込もうとしている。


 クロスはあわてて二人を止めようとしたが、ユダを含めたちびっこビースト組がクロスを押し返して行動に出れない。


 そうこうしているうちに、木箱の中の酒が黒いオーラに包まれる。そんなあきらかにヤバそうな酒を掲げて、トリガーハッピーは他のキューティクルズ達にお酌をして回った。


「ほらお前ら、もう一回乾杯するぞ~! 今日はもう、嫌な事全部忘れるつもりで飲もうぜ~!」

「目指しましょ~、血中アルコール濃度100%~! ほら、ローズもどうぞ」

「あら、ありがとうアザラシ」

「子供たちもジュースを注いだからコップを掲げて~。乾杯するわよ~」

「がるるあぁ♪」

「ハラショー!」


 クロスの上からタイガーたちは離れて即座にコップを掲げていく。


「オォウゥッ!?」

「乾杯だって、クロスさん」


 クロスの上にはまだユダがいた。おかげでクロスは即座に行動が取れなくなっていた。


 ユダはユダでデジタルカメラを構え、キューティクルズが楽しそうに乾杯する瞬間をカメラに収めていた。


「キューティクルズの栄光に、かんぱーい!」

「「「かんぱーい」」」


 黒ずんだ酒とジュースが飲み干された瞬間、全員の意識が一斉に刈り取られ、大参事に発展することになるのであった。



        ▼       ▼




「う……」


 アオバは意識を取り戻した。

 フローリングに小さなよだれの水たまりが出来ている。体が鉛のように重く、顔を床から持ち上げるとひどいめまいがアオバを襲った。


「うぅ……。気持ち悪い……」


 アオバは周囲を見渡した。

 時計は午前十時半を示している。場所は昨日と同じクロスのアパートの一室だ。床には無数の酒の空き瓶が転がっており、スナック菓子の破片が無数に散らばって酷い有り様だった。


 すると、ソファーに寝ていたトリガーハッピーも目を覚ました。どういうわけだかキューティクルズとして変身しているようだった。


「うぐぁ……。吐き気がぁ……。そこにいるのは、サファイア・キューティクルか? なんだ、何があった?」


 トリガーハッピーに言われてアオバは気付いた。アオバもまた、サファイア・キューティクルとして変身した姿で寝ていたようだった。


「ハッピーさん、昨日のこと、何か覚えてます?」

「いや、なにも思い出せない。なんだ? この部屋、私らしかいないのか?」


 周囲を探るが、昨日暴れまくったキューティクルズの面々がそろって消えていた。クロス、ユダの姿もない。


「うう、さみぃ……。おい、窓割れてね?」


 視線を向けると窓が二枚とも盛大に叩き割られていた。よく見ると割れた窓の向こう側、ベランダに変身したアザラシ・キューティクルの姿があった。


「あ、アザラシさん!?」

「う、う~ん。あらあら~……。おはよう二人とも。……何があったのかしら?」

「僕にもさっぱりです」


 アザラシはふらつきながらも体を起して部屋に戻ってくる。歩くたびに散らばったスナック菓子を踏んで音を鳴らす。


「ああ~だめだ、気持ちわりぃ~。トイレお先に借りるぜぇ」


 ふらつきながらトリガーハッピーも廊下に向かっていく。変身した姿でありながら酷い千鳥足でトイレに向かうその姿はとても子供には見せられない酷いものだった。


「アザラシさんも記憶を無くしたんですか?」

「珍しいわね~、私がお酒に負けちゃうなんて。こんな気持ちの悪い二日目を迎えたのは二十年ぶりよ」

「二十年ぶりって……、確かアザラシさん、年齢……」

「あらあら~?」

「いえ、なんでもないです」


 アオバが首を横に振って否定する。アザラシはこの世に生れて産声を上げるよりも早くウォッカの蓋を開けて飲んでいたと豪語する人物だ。いまさら年齢など気にする要素ではない。


「うぉい! トイレにバス停があるぞ!?」


 トイレの方からトリガーハッピーの驚き声が聞こえてくる。


「これが本当のバストイレ、デスね!」

「うぉっ!? ゼロワン!? 首だけ!?」


 バスタブの中にゼロワンの頭部だけが転がっていた。吐き気が吹き飛んだトリガーハッピーはバスタブの中のゼロワンを持ち上げる。


「胴体はどうした!?」

「分からないデス! システムがエラーを吐きまくって直近の記憶にアクセスできないのデス!」


 頭部だけのゼロワンをもってトリガーハッピーはリビングに戻ってくる。ゼロワンの首は元々取り外し可能な機構があったためあまり辛そうな状態には見えなかった。


「あらあら~、これで全員かしら~。ローズたちはどこに行ったのかしら?」

「僕の最後の記憶は、昨日心の闇を混ぜたジュースを飲んだところで途切れてます。皆さんは?」

「私もデス! 断片的デスが、そこまで覚えているのデス!」

「バス停があるってことは、少なくとも私たちは一度外に出たみてぇだな。ちょっと、玄関の奥にも誰か転がってないか見てくるか」


 トリガーハッピーが玄関に向かっていった。玄関にはどういうわけだか三人分の靴しかない。

 これで他のキューティクルズやクロスが外のどこかにいる可能性がぐっと高まった。


 トリガーハッピーは玄関の扉を開ける。


「うぉぉっ!?」

「ハッピーさん!? どうしました!?」

「玄関前に、カーネル・○ンダースおじさんがいるぞ!?」


 全国十万人の酔っ払いの親愛なる友人にして日本最大の酔っ払い被害者代表、ケ○タッキーフライドチキンの創業者、○―ネル・サンダースおじさんの等身大人形が笑顔でそこにいた。


「あらあら~、昨日の私たちは相当酔っていたみたいね~」

「少なくとも市内までは行ったみたいデスね? フライドチキンはこのアパート周辺にはありませんから」

「ちょっと足を延ばしてみんなを探さないといけないわね~。お姐さんの四トントラック、玄関まで持ってくるわ~」


 アザラシはポケットから車の鍵を取り出し、トリガーハッピーの隣を抜けて建物裏の駐車場を目指して歩いていく。


「(あら? お姐さんのトラックの鍵、こんな形だったかしら?)」


 アザラシは不思議そうに頭を傾げながらも、のんびりとした様子で廊下を歩いていった。


 戻ってきたトリガーハッピーはソファーに勢いよく座り、頭をかきむしる。


「何にも思い出せねェ。つーか、思い出したくねェ。絶対思い出したらヤバいやつだぜ」

「でも、いなくなったみんなは最低でも確認しないとですよね? 僕が今電話してみますか?」

「ああ、頼むかな」

「えっと、携帯は……、あれ? ポケットに何か入ってる」


 アオバは後ろポケットから携帯端末ではなく、代わりに小さな鍵のようなものを取り出した。


「なんだそりゃ? どこの鍵だ?」

「分かりません。僕の持ち物じゃないですねこれ」

「大きさ的にロッカーのカギか?」

「でもこの鍵に付いているロゴ、自動車メーカーのものじゃないですか?」

「ん? ああ、たしかにそのMのロゴマークはマキビシ自動車のやつだな」

「……すごくタイヤがパンクしそうな会社名ですね」

「逆だ逆。パンクしないタイヤを開発して、道路にマキビシを()いて売り上げを伸ばした会社だからだ」

「それは最悪ですね」

「大正時代の話だから気にするな。だがそうだとしら余計に分からねぇな。そのサイズなら車のカギとしても使えないだろうし。四輪バギー(ATV)あたりの鍵か?」

「う~ん、まるで思い当たる節がないですね~。……あれ? なんか他のポケットにも何か……?」


 アオバはさらに左右のポケットから銀色に輝く正四角形の何かを引っ張り出した。


「なんだろ、これ?」


 その正四角形の何かは個包装された袋だったようで、開けてみて中身を確認する。すると中からはピンク色で円形のゴム製品が出てきた。


 薄い膜の張られた丸いゴム。アオバはすぐにはそれがなにかわからず、数秒ほどいろんな角度で眺めてみていた。


 するとふと保健体育の記憶がフラッシュバックして、それが何なのかを思い出してしまった。


「はっ!? ちょっ、コンドームだこれー!?」


 アオバはあわててコンドームを壁に投げつけた。コンドームは音も立てずに跳ね返り、テレビの裏に落ちていく。


「なんで僕のポケットに!? うぇあ、めっちゃ入ってる!?」


 ポケットからは計六個のコンドームが出てきた。アオバは一つ残らず部屋の端に投げ捨てて顔を赤く染める。


「あー、準備がいいってのはいい事だが……」


 トリガーハッピーが呆れたように言った。


「僕のじゃないですよ!」

「だろうな」


 トリガーハッピーは肩をすくめてみせる。アオバはまだ服のポケットに入っている可能性を考えて体中をまさぐった。


「アオバさん、ゴムは一つくらいポケットに入れておくべきデス! 厚生労働省も推奨しています!」

「絶対イヤです!」


 アオバは耳まで真っ赤にして顔を振る。アオバにはまだまだ経験値が足りず、ゴムは所持不可能なアイテムであるようだった。


 すると、アオバの握りしめた携帯端末に一通のメールが表示されていることにトリガーハッピーが気付いた。


「おい、誰かからの連絡が入っているみたいだぞ」

「えっ! あ、クロスさんからだ」


 アオバは携帯端末に表示された文面を読み上げる。


「『早めに助けてくれ』えっ、ちょっ!?」

「うおおぉぉい! 大丈夫なのかそれは!?」

「昨日の深夜に送られてきたメールだ! えっ、これ一通だけ!?」

「連絡入れられるか?」

「……駄目見たいです。電源が切れているのか圏外で」

「まじかよ、いったい何があったんだ……?」


 するとそんなタイミングで、外からアザラシの困ったような声が聞こえた。


「あらあら~!? これは、どうしましょ~!」

「今度はなんだよ!?」


 トリガーハッピーは割れた窓から外を見る。


 クロスの部屋は一階の角部屋なので窓の向こう側は駐車場だ。アザラシの声は駐車場からのようだった。


「私の四トントラックが……」


 駐車場の昨晩四トントラックが駐車されていた場所には、代わりに白と黒のツートンカラーの古めかしいセダン車が駐車していた。


「パトカーになっているわね~」


 アザラシが手に持っていた鍵を挿して回すと、パトカーの扉のロックがカチャリと開いた。


 それを見ていた室内の三人は、口を大きく開けて額に手を置き、やっちまった感をありありと表情に出して、にがい声を深く吐きだした。


 大惨事である。


 後半は某有名コメディ映画リスペクト。何だかわかってもらえただろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] ハング...オーバー...
[一言] ジョーカーで一躍有名になった監督ですね!
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