第二十一話 ブゥードゥーキューティクルズVS剣道怪人キクチヨ! 二階服飾売り場での死闘! 斬撃戦のボレロ!(後編)
「なにを遊んでいるサムライ。……狩るぞ」
「やってみるでござるよ!」
キクチヨが双刃竹刀をひるがえし、左手を前に、竹刀を後ろに構えて、全方位対応のカウンターの姿勢を見せる。
そのキクチヨの熟練した動きを見て、黒衣の女性は正眼に構えていた七支刀の剣先を落とした。
「……ふむ、お前を正面切って倒すのは骨が折れそうだな」
「お互いさまでござるよ! ようやっと拙者とつり合える強者が現れたでござるな!」
「私は効率の悪いことは嫌いだ」
黒衣の女性はそう言うとその場で七支刀を振り上げた。七支刀の先が天井に突き刺さると、その剣先を中心に直径十メートルほどの黒い魔法陣が描かれる。
「黒陣! 第三翼・形成展開! 風化し劣化せよ!」
「むっ! 天井が!!」
キクチヨは危険を察し魔法陣の範囲から飛び退いた。
黒い魔法陣が輝くと、蛍光灯が割れ、天井板が茶色い染みを生み出していき、次の瞬間には一斉に崩れ落ちた。
天井は魔法陣の範囲だけ丸くくり抜かれ、黒衣の女性の頭上にクッキーのように脆くなったコンクリートと鉄筋が降り注いでいく。
周囲にもうもうと灰色の砂埃が吹きすさび、視界を奪っていく。
「これは目くらまし……? いや、違うでござるな!?」
キクチヨは駆け出した。しかし、間に合わない。
「な、なんっ!? 床が急に、歯槽膿漏でも起こし――っ!?」
「これで、二人目」
天井から落ちてきた歯医者怪人の首が、七支刀によって切り落とされた。歯医者怪人は成す術なく黒い靄となって爆散。灰色の砂埃と混じり合ってしまう。
「歯医者怪人殿ぉぉぉ!」
「影、滅すべし」
七支刀の剣先が、再びキクチヨに向く。鋭い眼光をキクチヨに向け、黒衣の女性は憎しみのやや混じった闘志を見せた。
「ディアブロ! 突然割り込んできて何のつもりだ!」
「イソロク、影を断つのにルールも口上も無用だ。次を斬るぞ」
イソロクの困惑の混じった声に、黒衣の女性、ディアブロ・キューティクルがそっけなく答えた。
「キクチヨ! 援護する! ノウゼンカズラの蔓よ! 伸びろ!」
フラワーレッドが手を振るうと、ディアブロの周囲からノウゼンカズラの蔓が生えてくる。
しかしその蔓は無数に生えてくるものの、振り払われた七支刀に斬り飛ばされ、少しずつ移動するディアブロを捉えられない。
「行くでござるよ!」
キクチヨが駆け出すと、地面から生えたノウゼンカズラの蔓は道を空けていく。
「咲き誇れ太陽の花! ひまわりシード! 爆・散!」
フラワーイエローが地面に手を付くと、ディアブロの周囲にヒマワリが咲き誇る。ひまわりは開花と同時に中心部の種子をショットガンのように飛散させた。
「ぐっ!」
さすがにその散弾までは避けきれず、ディアブロは体を丸めて防御する。
「ディアブロ!」
「おっと、君たちの相手は私が請け負おう」
参戦しようとしたイソロクをフラワーブルーが牽制する。後手に回ったことに苛立ちを見せながら、イソロクは軍刀を振り上げた。
そんな時だった。ディアブロがふとつぶやいた。
「攻撃の瞬間こそ、もっとも防御の薄い瞬間だ」
「……ん? 包帯……? うぉっ!?」
突然、衣料品の隙間を縫って絹のような光沢のある白い帯がフラワーレンジャーめがけて伸びてきた。
最初に気付いたフラワーブルーはなんとか回避することが出来たが、植物を生成し操作していたフラワーレッドとフラワーイエローはその包帯にからめ捕られてしまう。
「な、なんだこれは!?」
「よくやった。アンジェロ」
「…………」
衣料品の山の中から現れたのは、虹色の光沢を放つシルクの包帯を体に巻いたキューティクルズだった。
へそ出しタンクトップのような形で包帯は胸部に巻かれ、肩や腹部は素肌をさらしている。そして不気味なことにその素肌は透き通った色白で死体のようにも感じられた。腕部は指から上腕部まで包帯が巻かれており、指先からフラワーレンジャーを拘束している包帯が伸びでいる。背中からも八本ほど包帯が伸びており、その包帯はマントのように垂れ下がって風にあおられて静かに揺れていた。そしてなぜか下半身だけシルクホワイトのデニムジーンズ姿である。顔は完全に包帯によって隠されており、口が動かせないのか一切しゃべることなく、目も隠されているので感情の機微がまるでわからない。そんな不気味なキューティクルズだ。
「ゲコゲコ! 勝手に逃げるなでゲコ! 水遁! 水圧レーザーの術!」
「ここまで追ってきたか、しつこい」
アンジェロ・キューティクルを追いかけてきたカエル忍者が現れ、技を放つ前にディアブロがカエル忍者めがけて七支刀を振り下ろした。
カエル忍者はどこからともなく取りだした忍者刀でその斬撃を受け止め、まるで忍者のようにバク転を繰り返して場所を移すとキクチヨと合流した。
「カエル忍者殿!」
「すまないゲコ! こいつら薬物も幻覚剤も効かないから手こずっているゲコ!」
「……すぐに倒せない相手ばかり残すと実力者ばかりがそろってきてしまうな」
ディアブロは困ったようにカエル忍者を眺めた。
「こうなったら本気でゲコ! 水遁! 水道管炸裂の術!」
「ちっ!」
ディアブロがその場を飛び退くと、その足元を通っていた水道管が炸裂した。水流の薄い刃が縦に飛び、切り裂くように床から噴き出した。
「ゲコゲコ! 水変化の術! 電気分解!」
水道管を破裂させて発生させた水は空気に触れた瞬間に霧状になっていく。水が瞬く間に水素と酸素に分解されているようだった。
「うぉっ! みんな逃げるでござるよ!」
「ファイア・パウダー! 煙よ、俺たちを包みこめぇぇぇ!」
とっさの判断で消火器怪人が両手から煙を噴霧させ、自分と剣道怪人、フラワーレンジャーを包み込む。
「行くでゲコ! 火遁! 百円ライターの術!」
カエル怪人がポケットから百円ライターを取り出して着火すると、水素が燃焼して強烈な爆発を起こす。
爆炎は衣料品店の隅まで包み込み、可燃性の物はだいたい燃やしつくすほどの炎のうねりであった。
「ゲンパク! しゃがめぇ!」
「うっ! 熱ぃ!」
イソロクがゲンパクに突撃して地面に伏せさせる。
水素燃焼による爆発だったため、爆炎は基本的に天井沿いに広がっていった。燃える空気が津波のように天井を押し寄せ、柱を避ける姿はまるで大蛇であった。
しかしそんな炎もは消火器怪人が放った煙の範囲内だけは侵食することができない。消火器怪人の煙は爆風にもびくともせず、風圧を無視してもうもうと立ち上がって爆風を押しのけていた。
「助かった、消火器怪人」
「俺の煙はゴムの様に硬い! この程度の爆炎ならすぐに消火できる。拡散! ファイアーレス・パウダー!」
消火器怪人の消火は素早かった。広がった白煙は瞬く間に炎を押しのけていき、触れた瞬間に炎から熱量を奪っていく。そして煙の膜は物理的なやわらかさがあり、燃焼物を覆うと酸素を奪って即座に沈下させる。そうして煙が通り過ぎた時には、一瞬にして初期消火が完了していた。
ついでとばかりに煙はサムライキューティクルズもそこらに押し出していく。酸素を奪う消火法だったため、炎と合わせて一瞬で酸欠に持ち込んだのか力無くサムライ・キューティクルズは転がって言っていた。
やがて白い消火粉末は拡散して視界が明瞭になってくると、周囲には圧力鍋爆弾など目ではない惨状が広がっていた。
所々焼け焦げた衣類、床の水道管から漏れだす飲料水。砕け散ったショーウィンドウ。
だが、そんな惨状の中心に、あきらかに不釣り合いな石造りの仏像があった。
「ゲコゲコ! これであいつも吹き飛んだでゲコ!」
仏像が喋った。よく見ると仏像はカエルの顔をしていた。
「おい! 危ねえじゃねえか! 俺がいなかったら大火事だぞ!」
「お前がいたからやったんでゲコ! 水浸しにするより炎の方が安全だったんでゲコ」
カエルの像は表情を変えずに言ってのける。
そんな瞬間だった。
ほんの僅かばかりの油断の隙に、七支刀がカエルの仏像の首筋に思い切りよく叩きつけられた。
「ゲコォッ!?」
「ちっ! 堅いな」
ディアブロはカエル忍者の背後にすでに立ち、刃をこれでもかと石像に押し付けている。
ただしディアブロも無傷ではなく、服と顔の右半分に炭化した焦げ跡を作っていた。しかしその焦げ方は不自然で、特に顔の皮膚は木材を炭化させたような焦げ方だった。
「ゲコゲコ! 驚いたでゲコ! だが今の拙者は、お前の剣など効かないでゲコ!」
「その石の首、すこし欠けたみたいだが?」
「跡が付いただけゲコ! この調子で削るなら何日もかかるでゲコよ!?」
「では、削ってやろう」
ディアブロは七支刀を地面に突き刺すと、そこを中心に黒い魔法陣が形成されていく。
「黒陣! 第一翼・形成展開! 一秒は、百時間になる!」
「ゲコォ!?」
「影の生は、一秒ですらも贅沢。悪は滅せよ!」
魔法陣が輝くと円柱状の輝きがディアブロとカエル忍者を包んだ。一瞬にして無音にして無数の斬撃が魔法陣の中に現れ、半秒経たずして石像は粉みじんに砕け散った。残りの半秒は全ての斬撃が地面を叩きつける斬撃に変わり、細かな石片すらも許されず砕いているのだとよくわかった。
「カエル忍者っ!」
消火器怪人が叫ぶ。
たったの一秒後、魔法陣は消え去った。後に残ったのは百時間経って衣装の損傷具合が増したディアブロと、傷だらけになった床だけだった。
「ふぅ……。アンジェロ、封印したか?」
「…………」
どこからともなく傷一つ無い包帯姿のアンジェロが姿を現すと、腰からキーホルダー状にデフォルメされたカエル怪人のミニチュアを手に持って掲げた。よく見ればアンジェロのデニムジーンズのベルト部分には他にもミニチュア化された歯医者怪人にDJ神父の姿もあった。
「さて、次……」
まるで休憩を挟もうとする様子もなくディアブロが七支刀を掲げようとすると、ディアブロの腕が関節部から折れた。
「なっ!?」
突然の骨折に消火器怪人が驚く。
「ちっ……。この体では耐久力がまるで足りないか。アンジェロ、替えの体を出してくれ」
「…………」
アンジェロはコクンと頷くと、背中の包帯を操り人ひとり包めそうなミイラ型の繭を作りだす。そして間を置かずに繭を崩していくと、中から墨字で呪言の書かれたマネキンを出現させた。
「贅沢は言えないな」
ディアブロは七支刀をマネキンに手渡すと、自身の体は地面に溶けるように黒い靄となって消え去っていく。地面に出来た黒い浸みはゆっくりとマネキンの足元に進んでいき、侵食するようにマネキンを黒く染め上げていった。
全身が黒く染まるとマネキンは当然のように七支刀を握り、ボロボロの外套を形成させ、当たり前のようにディアブロとして傷一つ無い姿で現れた。
「……さて、次を狩るか」
「させぬでござるよっ!」
キクチヨが飛び出し、双刃竹刀を振り下ろす。その斬撃は受け止められ、続けて繰り出される連撃が再び二人を殺陣の世界へと引きずり込んでいく。
「耐えてくれキクチヨ! 俺が増援を呼んでくる!」
消火器怪人はそう叫ぶと、ためらうことなくその場から駆け出していった。
「待て! お前の能力で何とかできないのか!?」
そんな消火器怪人を掴んで、フラワーレッドは引きとめた。
「俺じゃ無理だ! 俺はティーチャーレンジャー時代の怪人で戦闘経験すら少ないんだからな! フューチャーレンジャー時代の、しかも当時ですら近接戦闘なら無双だったキクチヨが、近接戦闘で互角の相手と戦っているんだぞ! 俺が戦えるわけがないだろう!?」
「だが、今は多少でも戦力を減らすべきではない! 私たちはあっちのアンジェロ・キューティクルを狙うから、君は剣道怪人と協力して……!」
「バカ野郎! 本気でヒーロー戦隊に勝つ気でいた世代と、やられ役の俺たちの世代を一緒にするんじゃねえ! 主人公気取りで格好付けたら普通に死ぬんだよ俺たちは! だから俺は、格好悪くても逃げて助けを呼んでくる!」
「あ、おいっ!」
消火器怪人はフラワーレッドの手を振り払うと一目散に駆け出した。あまりの潔よさにそれ以上追及することは出来なかった。
「まずいぞレッド。キクチヨくんが挟み撃ちに!」
「しまった!」
フラワーレッドが振り返った時、剣劇を繰り広げるキクチヨの背後で、包帯の翼を大きくひるがえしたアンジェロが遠距離攻撃を放つ体勢を取っていた。
肋骨のように包帯は弧を描いてしなり、そのシルクの光沢はまるで刃のように輝いている。
「……これで四人目。やれ、アンジェロ」
「…………」
アンジェロは無感動そうに、八つの包帯の刃を散弾のように付き放った。
「むっ! はあっ!」
「なにっ!?」
キクチヨはその場で垂直にきりもみ回転しながら跳躍した。空中で体を横に倒して、被弾面積を激減させて回避したのだ。熟練殺陣師でも難しいアクロバティックな跳躍だ。
キクチヨの体は八本の刃の間をすり抜け、同時に胴体を狙っていた七支刀の薙ぎ払いも空を切った。
「突きぃぃぃぃ!」
「ぐぁはっ!?」
剣道有段者特有の甲高く裏返った声。キクチヨは着地するよりも早く、竹刀の先端をディアブロのおでこに突き入れた。
ディアブロは大きくよろめき、ニ、三歩後退してバランスをとる。
「くっ! ……尋常ではない手練か、やっかいだな」
「拙者は殺陣師としてこれ一本でやってきたのでござるよ! 小手先の連携で拙者に一太刀入れられると思わぬことでござる!」
キクチヨは双刃竹刀を振るった。
さらに間髪いれぬ包帯の連撃が続けられていたのだ。だが、素直に突き進んできた包帯は叩き落とされ、安直に巻きつこうとした包帯は手に掴み取られ、なんとか竹刀に巻き付いた包帯はくるりと回され即座に解かれてしまう。
「…………」
そんな状況にもアンジェロは機械のように無言で攻撃を放っていた。繰り返される連撃はAI のように学習を始め、キクチヨは少々達人気取ったことに後悔した。
「し、しかっ、し、これは小手先とは、言えぬでござるなっ!」
「いくぞ、アンジェロ。このまま力押しで倒す!」
そんな包帯の連撃にディアブロも加勢する。
キクチヨの殺陣は見事で、包帯をいなしながら七支刀の猛撃もさばき切ることが出来ていたが、しかし防戦寄りの立ち回りにならざるを得なかったのは致し方ない。
そんな瞬間だった。周囲で一斉に花火が炸裂するような光が散った。
「うわっ!?」
「なんだ!」
フラワーレンジャーが慌てる。その火花はなにもなかったはずの空間に一斉に咲き誇り、熱量も衝撃波もなくただきらめくだけの光だ。
そんな光を断ち切りながら、剣を紡ぐ手をキクチヨもディアブロも休めなかった。その火花に殺傷性がないことを本能的に感じ取り、むしろ光の発生を利用してフェイントの掛け合いを行っていた。
キクチヨの実力と、ディアブロとアンジェロの共闘での戦闘力は完全に拮抗し始めて行った。火花の噴出では、優れた達人である双方の関心を引くことはできない。命を掛けた駆け引きの中で、剣以外に集中を逸らすことは弱者の証であると互いに知っているからだ。
火花が止む頃には三人の殺陣は研ぎ澄まされていた。
極限まで効率化された刃のやり取り。十手先まで自然と見えるような、楽譜をなぞっているかのような達人同士の自然な殺り取り。
「ふっ! ……ふはははは! 楽しいでござるなぁ! ディアブロ殿!」
「楽しい、だと?」
「素晴らしき哉命のやり取り! 剣の道の行く末はただ一つ! たどり着きしはまさに修羅! 手前のような悪鬼羅刹と戦えば、活人剣など捨ててよかったと思えて候! これぞ剣に生きる道! サムライとは、結局のところ死ぬ事と見つけたり!」
「では死に狂え。何千回だろうと殺してやる」
ディアブロは七支刀を地面に突き刺した。その先端を中心に黒い魔法陣が形成されていく。
「黒陣! 第三翼・形成展開!」
「まずい! 逃げるんだキクチヨくん!」
フラワーブルーが叫ぶが、キクチヨはその場から竹刀を構えて離れようとしない。
黒陣が発動されようとした瞬間。アンジェロが背中からミイラ型の包帯の塊をいくつか取り出して魔法陣の中に投げ入れる。
魔法陣を取り囲むようにミイラは宙に浮かぶと、まるで照明のように輝いた。
「十体のマネキンが私のストックだ。お前のストックはその体一つ。一体どれだけ持つだろうな」
「三十六時間といった所でござろうかな? 拙者の戦える体力の限界はおそらくそこら辺。しかし剣を交えて己の限界を見ることが出来るのなら本望でござるよ。敗北の美学! 見せてやるでござる!」
「……下らないな」
ディアブロはそう言いながらも、少しばかり戦闘の興が乗ったのか僅かに笑顔を作った。
そして黒陣が完全にミイラを取り込み、いざ発動しようとした。
その瞬間だった。
「くらえ! 音速飛び膝蹴り!」
「なにっ!?」
掲げられた七支刀にオレンジ色の膝が突き刺さる。
「スプラッシュ・ジークンドー! 流水一文字蹴り!」
「サンダー・サンボ! ライトニング・ショルダータックル!」
「ちっ!」
ディアブロは突然の状況に焦りながらも蹴り技やショルダータックルを回避した。
「スポーツレンジャー殿!?」
「加勢に来た。余計な御世話だとか言わないでくれよ」
ブルーファイターがジークンドーの構えを取りながら言う。
「意外な増援だが、実力はそこそこか……。ならば、まとめて葬り去っても問題ないだろう」
ディアブロは七支刀を構えると、黒陣の発動準備を再開させた。
「レッドもゴールデンファイターもいないから俺たち三人だけだが充分足りるな。共闘して、こいつを倒すぞキクチヨ!」
「待つでござる! ヒーロー戦隊三人だけで一体どうするつもりでござる!」
「もちろん勝つんだ! 泣き言言わずに行くぞ!」
「黒陣! 第三翼・起動! 一秒間は百時間になる!」
魔法陣が光をあげて起動した。今度は周囲に十体のマネキンの入ったミイラを取りつけての発動だった。
たった一秒。その短い時間に、光り輝く円柱の中に電流と水流と斬撃が煌めく。
僅か半秒で周囲にあった七体のミイラ像が消失。そして残りの半秒であと三体も消え去った。
一瞬の出来事だったが色々あったかのようにも感じられた。
一秒の時間が過ぎ、魔法陣の円柱が消え去っていくと、あとに残っていたのは片腕を折って七支刀を杖に体を支えていたディアブロと、満身創痍のように肩で呼吸をしながらもなんとか構えを取っていたファイトレンジャーの三人、地面に膝をついて疲労困憊で立ち上がれ無さそうなキクチヨの姿があった。
「バカな……。不死身か……」
ディアブロが驚愕の声を漏らす。
「お、終わったのか……?」
「きつい、きつかった……。少林寺百錬房の修行が子供の遊びに見えてくる……」
気が抜けたのかファイトレンジャーも構えを解いて地面に膝を付いた。
「大丈夫かファイトレンジャー!」
「アロマセラピーの技がある! 今疲労を発散させてあげよう!」
フラワーレンジャーが本領発揮してファイトレンジャーの治療に当たる。
そんな最中、キクチヨがファイトレンジャーに感謝の言葉をつづった。
「助かったでござるよファイトレンジャー殿。交代制で助け合わねば百時間持たなかったでござる」
「もう二度とやりたくないな。気絶して目を覚まして戦って、これを百時間ずっとは無敵のスーツがあっても結構無茶だった」
ファイトブルーが愚痴に近い感想を口にする。
「……くっ。アンジェロ、なんとか魔力を回復させてくれ。このままでは転移すら厳しい」
「…………」
アンジェロが無感動そうにディアブロの背中に手を当て、介抱を始める。
「ぐっ! 回復されるぞ! ゆっくり休む時間はなさそうだ!」
「まて、無茶をするなファイトブルー」
「弱っている今が好機でござる。フラワーレンジャー殿、行くでござるよ」
キクチヨも震える膝を無理やり立ち上がらせ、双刃竹刀を杖にしても戦意を見せる。
「……くっ! 窮鼠、猫を噛む……か」
ディアブロも満足な回復もせずに立ち上がった。片腕は折れたままで七支刀を支える手だけを頼りに腰を浮き上がらせる。
「…………」
そんな様子を見てもアンジェロは不変の表情であった。その様子には不気味さしか感じられない。
「あっちの包帯キューティクルさえいなければ私たちの能力で封印は簡単なんだがな……」
「分かっているでござるよ。もうひと踏ん張りでござ……。……ん?」
アンジェロが突然、まるで無関係の方向に首を向けて何かを見ていた。キクチヨやフラワーレンジャーとはそっぽを向くような変な角度である。
「なんだ?」
ファイトブルーがそれにつられてアンジェロの視線の先を追った。
視線はこのショッピングモールの窓の外に向かっていた。
「な、なんだ!」
その視界に映る情報に驚愕した。窓の外で無数に輝く光、よくよく耳をすませばザワザワと騒音も聞こえてくる。
それにはディアブロも視線を向けて気付き、そしてやや困惑していた。
「……一体なんだこれは。……どういうつもりだ、……ブラック」
外に集まっていたのは、無数の群衆であった。