第十六話 落ち着けユダさん、今日は決戦前の話し合いだったはず! 混迷狂乱のジプシー・ロマ!
「どうするでござる、どうするでござるか!? キューティクルズはどうして攻撃してくるのでござるか!? 拙者たちはどこに行けばいいのでござるか!?」
「知るか! おい! ジャスティスレッド! 今回の件は一体どういうことなんだよ!」
「俺だって完全な情報は知らないんだ! とりあえず今分かることは、キューティクルズを裏で操っている黒幕がいるってことだ。その黒幕を追いかけていたイエローがキューティクルズに攻撃を仕掛けたから、キューティクルズは勘違いをして……。いや、黒幕がキューティクルズを操っているから攻撃を仕掛けてきているのか? すまん! やっぱり今は、まだよくわからない!」
「おいぃぃぃっ!」
ヒーロー戦隊と怪人達は、かつての決戦の場であった地下シェルターの中に集まり、怒号を混じらせながらも話しあっていた。
彼らはいずれも変身前の私服姿で、今日という休日を利用して親睦を深めていたという経緯もあり、誰もが比較的おしゃれな服装で揃っていた。
集まっているのはあの決戦に集った怪人達10人とヒーロー戦隊24人である。
職場からそのままやってきたかのような、白衣にマスク姿の歯医者怪人。サンタクロース姿のなまはげサンタ怪人。アメフト選手のアメフト怪人。紺のスーツに七三分けの外回り営業マンである消火器怪人。忍者のコスプレのガマガエル忍者。刺繍を縫いつけた改造法衣を着たディスコジョッキー神父。剣道着の剣道怪人。尻に食い込むブーメラン水着を装着した水着怪人。
そこに私服のユダとトミーが加わる。
ヒーロー戦隊には、格闘技系の道着をそれぞれ着た格闘戦隊ファイトレンジャーの5人(その内一人は相撲取り)。スポーツ系のユニフォームを着た運動戦隊スポーツレンジャーの5人。花屋の店員である植物戦隊フラワーレンジャーの3人。味気のないラフなスーツ姿の教育戦隊ティーチャーレンジャーの教職員5人。さらにミリタリーレンジャーから女子中学生であるセラとドーラの2人。
そして私服姿の法律戦隊ジャスティスレンジャーの4人である
今日は親睦会を開いていたはずだった。だがおかしなことに、呪いでも掛けられているかのように誰もが仕事着かコスプレ姿である。
おしゃれな私服姿だったのは、ユダとトミー、ジャスティスレンジャーの5人、セラとドーラの合わせて9人だけ。
印象付けの為に自分の特性に合った衣装しか着れない、全くを持って酷な業界である。
「うちらはサムライ・キューティクルズと戦ったんやけれど、あっちの方も今一つ情報がないみたいやったで? なんでも怪人に襲われたから怪人を倒しに行こうって話が伝言ゲームみたいに流れてきて、本筋も分からないままに駆り出されたっつー話しとった」
「ゲコ、拙者たちもそうだったでゲコ。ブードゥー・キューティクルズは、何も知らない、と」
「怪人に襲われた? そんなはずはない。怪人達がキューティクルズを襲うメリットなんて何一つ無い。俺の知っている限り怪人にそんなバカなことをするやつはいないぞ?」
ドーラの言葉にトミーが冷静な否定をした。
「どういうことだかわかるか、トミー」
ジャスティスレッドがトミーに尋ねる。
「イエローが謎の黒幕を追っているって話だったな。キューティクルズはその黒幕に騙されている可能性が高い。ヒーロー戦隊の技術、特に必殺技は莫大な富を生むことがあるからな。それを狙ってキューティクルズをけしかけたんだろう」
「じゃあキューティクルズを説得すれば解決できるな。幸いなことに、昨日クロスさんが助けてくれたサファイア・キューティクルズが説得してくれるって話らしいからな」
「そう簡単にいくだろうか? 騙されている人間は自分が信じているものを信じるものだからな。どんな騙され方をされたのかもわからないが、そんな簡単に説得できるとは思えない」
トミーは深く疑念を抱くようにしてうつむいた。
だが、情報不足の現状ではどれほど深い考えを積もらせようとも答えが出ることはなかった。
そんな状況を打破するかのように、核シェルターの出入口の坂を下ってくる人物が現れる。
それは高い身長で黒いハードレザーのロングコートを揺らし、フードとマフラーで顔を隠す威圧感のある人物。物静かでありながらも強い存在感があり、この場の全員の視線は自然とその人物に集まった。
「あっ! クロスさん!」
ユダが嬉々とした声を上げ、クロスに駆け寄っていく。
坂を下りてきたのはクロスと、ショートヘアーのボーイッシュな少女であるアオバだった。
クロスはある程度まで近付いてくると、飛びついてくるユダを腹部で受け止め、周囲に赤い視線を向けた。
「クロスさん、どうしよう! モリスが封印されちゃったんだ! 助けに行かないと!」
「ム……」
クロスは小さくうなずいた。その情報はすでに把握済みだったと暗に答える。
そんな慌てたユダの肩をクロスは軽く叩いて落ち着かせていると、その隣を通り抜けてきたアオバがクロスの前にまで歩いて出てきた。
アオバはヒーロー戦隊と怪人に向けて真っすぐな視線を向けると、男らしく叫ぶように言った。
「みなさん、今回は僕たちキューティクルズが迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」
アオバは深く頭を下げて謝罪する。
ヒーロー戦隊と怪人達はその様子に驚き、あまりにも突然の謝罪にたじろいだ。
「お、おう?」
「えっと、あんたはサファイア・キューティクルさんだったよな。今回の件について何か知っているのか?」
水着怪人が戸惑った声を鳴らし、トミーが尋ねた。
「僕も詳しくは知りません。ですが、キューティクルズは騙されているんだと思います。キューティクルズは凶暴な女の子たちが多くて、情報収集も苦手な人が多いから、騙されているのに気付いていないんです。僕がキューティクルズを説得します! みんな素直だから、言えば分かってもらえると思います!」
「あー、それはいいが、黒幕はどうするんだ?」
そのトミーの問いかけに合わせて、クロスが1枚のメモを差し出してきた。
『それは私がなんとかする 目星は付けてきた』
「なんだって! クロスさん、黒幕の正体を知っているのか!」
ジャスティスレッドの問いに、クロスは視線をレッドに向けるとボールペンをポケットから取り出して、メモに新たに文字を付け足した。
『黒幕には手を出すな イエローに迷惑がかかる』
「イエロー!? あいつは一体、なにを考えて――っ!」
『関わるな』
クロスは首を横に振った。新たに書き加えられた文面は、クロスにしては強い口調で書かれていた。
レッドがクロスを見上げると、クロスの赤い目はやや威圧的に輝いている。そんな無言の圧力がレッドにそれ以上言葉を続けさせなかった。
『黒幕は私が退治する みんなに手出しはさせない だから今はキューティクルズと仲良くなることだけを考えてほしい』
「どうして……、一体どういうことなのか説明してくれないのか?」
『何も説明するつもりはない だが信用してほしい』
クロスはただ赤い視線をレッドに向ける。
レッドはその視線を受けると、ほぼ直感的に即決断した。
「わかった。全部クロスさんに任せる。俺たちはこれからどう行動すればいい?」
クロスは小さくうなずくと、メモのページをめくって再び文字をつづった。
『なるべく全員で行動し キューティクルズからの宣戦布告を受けたらまずは接触して そしてこのアオバさんと協力して説得を試みてもらいたい』
「了解した。キューティクルズは今夜何か仕掛けると言っていたから、俺たちはここらで待機する。クロスさんはどうする?」
『アオバさんを護衛しながらここでは無い場所に身を隠し 情報を集めておく 決戦場所が決まったらアオバさんを合流させる』
「アオバさんは俺達と一緒じゃダメなのか?」
「あっ! ごめんなさい。それは僕がクロスさんにお願いしたんです。僕の仲間二人を誘拐したのは怪人王イエローで、さらわれた仲間を助けるためにギリギリまで探そうと思って。ヒーロー戦隊の人たちはイエローと接触するわけにはいかないから、僕とクロスさんだけで探そうとしたんです」
アオバが答えると、クロスがその隣で同意するように頷いた。そしてクロスは新たにメモを書き足す。
『アオバさんにはボディガードとして雇われた 怪我をさせるつもりはない』
「そうか、クロスさんなら安心だな。よろしく頼む」
クロスは、分かった、と言う代わりに小さく頷くと、アオバの手を取り、出口に向けて歩き出した。
「待ってクロスさん! 私もついて行っていい?」
ユダがクロスの背中を追って駆けよってくる。
クロスは振り返ると、手のひらをユダに向けてその動きを制止した。
「私にも出来ることはあると思う! 邪魔にはならないから!」
クロスは首を横に振った。アオバの手を離して、クロスはメモに文字を書く。
『無駄に危険な目に合う必要はない』
「そんなことは気にならない。私は、クロスさんと一緒にいたい!」
「あの、ユダさん、でしたっけ。僕の話聞いてました? 怪人王イエローと会うかもしれないんですよ?」
アオバがやや戸惑った様子で説得しようとする。
だがユダの様子は変わらなかった。
「大丈夫。怪人王は怖くない」
「それに、お友達がキューティクルズに封印されたんじゃなかったでしたっけ? それはいいんですか?」
「あっ……。そ、それは……」
ユダが口ごもった。
そんなユダに助け船を出すように、トミーが代わりに答えた。
「……あー、封印されたってことは、俺たちからすれば、一番安全な状態にあるようなものだから安心していい。えっと、例えて言うならば、さらわれたピーチ姫かな? 人質は絶対に殺されることが無い分、戦いで消滅の可能性の俺たちの方が危険だといってもいい。ブラックホールとかいろんな技が世の中にはあるからな。だが今回は味方にヒーロー戦隊もいるから負けることもないし、まず大丈夫だろう」
「ほんとっ! じゃあ私、クロスさんと一緒に行ってもいい?」
「いや、それは勘弁してさしあげろ」
「え、どうして?」
「ユダさんはおとなしくしておいた方がいい。ほぼ確実に、碌なことにならないから……」
「えーと、じゃあ、私、クロスさんの近くでおとなしくしている。……それじゃダメ?」
「お願いだからやめてくれ。クロスさんの計画とか隠密性とかもろもろ消し飛んでしまう」
トミーは目頭を押さえて、疲れたような声でお願いした。
ユダはそんなトミーに不満そうな視線を向け、さりげなくクロスの隣に移動し、クロスの腕を両手で掴んだ。
クロスは戸惑い、驚きで体を引いたが、ユダの小さな手を無理に引き離したりなんて事は出来なかった。
そんなユダの様子を見たアオバが、困った声を出す。
「う~ん、どうしよう。怪人の人と一緒にいると、僕たち怪人王に余計にマークされるかもしれないんだよなぁ」
アオバは腕を組んでユダを見た。
だがユダはその気持ちを崩すつもりはないようで、アオバにも視線を向けるとより強くクロスの腕を掴んだ。
そんなとき、何かを思いついたようにアオバが言った。
「あ、そうだ! クロスさん命令! 命令なら何でも聞いてくれるでしょう? ユダさんにはここで待っていてもらって、僕たちは早く行くことにしよう!」
「ム、ムゥ?」
クロスは突然のアオバの命令に戸惑った。
「ほら、クロスさん。僕の命令ならなんでも言うことを聞くって、昨日言ってたじゃん!」
「えっ? クロスさん、そんなこと言ったの?」
「うん、そうだよ! 証拠もある! クロスさん、メモ帳かして!」
「オ、オゥフ……」
クロスは手の中のメモ帳をアオバにひったくられた。アオバはメモ帳をペラペラとめくると、とあるページを開いて、その内容をユダに見せつけた。
それは先日の、アオバを落ち着かせるために書いたクロスの文言だった。
『いいや どんな命令でも聞き入れる 君は雇い主だ そういう上下関係にしよう』
『私が護衛では不安のはずだ だから絶対服従する どうか安心してほしい』
「ええっ! クロスさん、絶対服従するの!?」
「そうだよ! 僕の命令だったら、この場で犬の真似だってして見せるんだよ!」
「オオゥ!?」
クロスは驚愕してアオバを見た。さすがにそんな命令をされることはないだろうと思うが、実際のところクロスの心拍数は自然と高まってしまっていた。
「クロスさん、犬の真似までするの!?」
クロスは全力で首を横に振った。
「そう! 僕の命令は絶対だからね! だから僕が命令するから、ユダさんはクロスさんについてはこれないんだよ!」
「そんな! ずるい!」
「ずるくないよ! だってそういう契約だからね! クロスさんは僕のボディーガードだから! そうでしょうクロスさん!」
「ム、ムゥ……」
クロスは戸惑いながらも、ボディーガードであることは肯定しなければならず、控えめにうなずいた。
「ほら! 絶対服従してる!」
「オオゥ!?」
クロスのうなずきは独自の解釈からそのまま服従への肯定であると認識された。
そんなクロスに、ユダは懇願するような視線を向けた。
「そんな……。じゃあクロスさん! 私のボディーガードにもなってよ! ボディーガードになったらなんでも命令を聞いてくれるんだよね!?」
「……ウ、ムゥ」
クロスはポケットから再びボールペンを取り出すと、ユダに腕を掴まれたまま、片手でアオバの持っていたメモ帳に新たに文字をつづった。
『なんでもは さすがに出来ない』
「ええ!? アオバさんだけ特別なの!?」
「オゥフッ!?」
ユダは悲しそうな目でクロスを見上げていた。
クロスはそんなユダの視線に追いやられるようにのけぞり、オロオロと首を振って小さな否定を返した。
「ふふんっ! わかったでしょ! クロスさんは僕の命令にだけ服従するんだよ!」
「そんな……。クロスさん……。あんなことや、こんなことを命令されるかもしれないのに!」
ユダのつぶらな瞳がクロスを貫く。
そんな暴走を始めたユダを止めるため、トミーがクロスの為に助け船を出した。
「落ち着けユダさん。アオバさんは常識人だ。誰かに迷惑をかけるような命令なんてしないはずだ。ユダさんだって逆の立場なら、仮にも異性であるクロスさんにあんなことやこんなことなんてしないだろ?」
「あ、うん……。それも、そうだね」
トミーによる説得に納得し、ユダは伏せ目がちになってうなずいた。多少は納得してくれたようだったが、それでもやはり不満げだった。
「ゲコ!? 男女二人、どんな命令でも受け入れる関係……、未来が見えた! これはエロい!」
「おうゴラァ! ガマガエル忍者ぁ! 余計なこと言うんじゃねぇ!」
ギャラリーと化していた怪人の中から、突然そんな言葉が飛び出した。
「ええっ!? クロスさん! アオバさんにエロい事されるの!?」
「ヴォッ!?」
懸念が再燃する。ユダは心配そうにクロスを見つめ、何かにハッと気付いたかのような表情になると、アオバに対して警戒する視線を向けた。
「し、しないよ! 僕、そんな命令なんてしないから!?」
「声、上擦ってるよ!?」
「絶対しないってば!」
アオバは両手を前に出して左右に振り、全力で否定する。
「僕がそんなエロい命令なんてするわけないじゃないか! するとしたら、クロスさんが勝手にそんな行動した時だけだよ!」
慌てたアオバの口から出てきた言い訳は、新たな爆弾を生み出した。
「えっ!? クロスさんから求められたらアオバさんやっちゃうの!?」
「いぃぃっ!? 違っ! 僕からそんな命令なんてしないって意味で……、その、僕の命令をクロスさんが勝手に無視したりしない限りって、そんな前提の話を言いたかったわけで!」
「じゃあ命令を無視されたら、エロい事やっちゃうの!?」
「いや! しないよ! しないって! たださ、クロスさんが力尽くで迫って来たら、きっと逃げようがないんだろうなー、って!」
「ええぇ! クロスさん主導でエッチしちゃうの!?」
「違うゥ! だから本当にそんなことはしないって! お願いだから変な誤解はやめて!?」
アオバは頭を抱えた。どれほど言葉を重ねても説得できる道筋が見えてこなくなった。むしろ言えば言うほど誤解が深まっていく。
ユダはクロスを見上げて、そんなことクロスさんしないよね?、と涙目で懇願する凶悪な瞳を向けていた。
だがそのユダの瞳は節穴で、クロスの全力の否定やうろたえる仕草をすべて見逃している。まるで疑念が晴れる様子が無い。
「クロスさん、本当は、エッチな人だったの……?」
ユダの小さな手がクロスのハードレザーのコートの袖に深く食い込んだ。
クロスはさっきから首を左右に振っている。もちろん高速で。だがユダにそのジェスチャーの意図が伝わる様子が無い。
「ゲコォッ!? そう言えばアオバさんは中学生! そんな未成年に、クロスさんは力尽くで子種をブスリと……!」
「死ねェ! ガマガエル忍者ァ!」
怪人達が同士討ちを始めた。割と本気の拳がガマガエル忍者に集約していく。
「ゲコゲコゲコゲコッ!?」
ガマガエル忍者の人だかりが出来て、瞬く間に袋叩きにされた。振り上げられた拳が幾重にも重なってガマガエル忍者の頭上に落ちていく。
「クロスさん、こ、子種って……!?」
「ヴォォォォォ!?」
クロスは首の筋肉がはち切れんばかりの勢いで首を振った。
ユダの疑惑と不安に満ちた視線がクロスの心臓部を貫いていく。どれだけ首を振っても誠意が伝わらない。
「だぁぁぁっ! クロスさん、もう逃げるよ!」
アオバがユダとクロスの間に無理やり入り込んでくると、アオバはユダの腕を掴み、力尽くで二人を引き離した。
「きゃっ!?」
「クロスさん、先に逃げて! ここは僕が引きうける!」
アオバが男らしくユダの前に立ち、クロスを守るように大の字で立ち構えた。
「オッ、オッ……」
クロスは数歩後退するもすぐに逃げ出したりはしない。
そんなクロスに檄を飛ばすように、アオバは顔だけ振りかえって叫んだ。
「なにをしているの! 早く逃げて! 僕はすぐに後を追いかける!」
そんな死亡フラグじみた台詞をアオバは吐くと、精悍な視線でクロスを睨みつけた。
「オ、オ、オォォォォォ!」
クロスは振り返ると出口へ続く坂道を駆け上がっていった。
格好良さとか本来の目的とか、なんかもう色々とかなぐり捨ててクロスは走った。
その走る後ろ姿は痴漢冤罪の疑惑を掛けられた男性の逃げる姿に良く似ていた。少し前まであったはずの恐怖的な威圧感や、圧倒的な重圧感などもはもはや欠片も残っていない。
「待って、クロスさん!?」
「ここは通さない!」
アオバがユダの前に立ち、通せんぼした。その隣をすり抜けようとユダは動くが、アオバの手が素早くブロッキングして確実にユダの追跡を妨害する。
そうして生まれたユダの一瞬の隙を突き、背後からレッドとトミーがユダを羽交い締めにした。さらにその後に続いて、背後から覆いかぶさるように他のヒーロー戦隊や怪人たちも飛びかかっていく。
「あっ、なに!?」
「いまだ! 行けっ! サファイア!」
「ユダさんは俺たちが抑える! 早くクロスさんを追いかけろ!」
「あ、ありがとうございます! 怪人のみなさん、ヒーロー戦隊のみなさん!」
アオバは素早く一礼すると、クロスを追いかけて坂道を駆け上がっていった。
「みんな、離して! クロスさんを追いかけないと!」
「落ち着いてくれユダさん! ユダさんは俺たちと一緒にお留守番だ!」
「私、クロスさんと一緒がいい!」
「お願いだから自重してくれ! お願いだから!」
ユダは積み重なった人の山の下でもがいたが、とてもじゃないが抜け出すことなど出来そうにもない重量があった。たった一人を抑え込むにはオーバーすぎる対応だったといえよう。
「クロスさん! クロスさーん!」
ユダの悲痛な叫びが広い核シェルターの内部にこだまする。だがさすがにクロスがその声を聞いて戻ってくることはなかった。
ユダは遠くで響く核シェルターの自動扉の駆動音をに向けて、未練がましく手を伸ばしていた。