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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.アイドル魔法少女キューティクルズ編
46/76

第十四話 戦いの火蓋! それは幕間にして幕開けであり、終局へ続くエチュード!

「なんだなんだ? なんでスポーツレッドがこんなタイミングで登場するんだ?」

「おいおい、キューティクルズの必殺技を撃ち返しちゃったぞ? これはあれか、俺の獲物に手を出すな、ってやつか?」

「だとしても仲良くすべきだよな。なんか怪人を助けるような形になっちゃってるし。出てくるタイミングも遅すぎ」


 ギャラリーの男性客たちが遠巻きに疑問を口にする。


 ピンチにヒーロー戦隊が登場する。それはいつもの流れであっておかしなことではない。赤いスーツを装着したヒーローがいつものように敵に立ち向かう、いつものようなシーンだ。


 だが、ヒーロー戦隊が助けた相手が怪人であることが異常だった。

 怪人とキューティクルズが逆ならばきっと違和感などなかったであろう。ゆえに観衆は、間違えたのかな?さっさと振り返って背後の怪人倒しちゃえよ、と、ささやかな突っ込みを心の中で入れていた。


 だがスポーツレッドは振り返らない。背後に横たわるウェットスーツを着用したサメを守るように立ち構え、同じ正義の味方であるはずのキューティクルズに赤いバットを向けている。


「バカ野郎! なんで出てきやがった!?」


 サメの姿の水着怪人がスポーツレッドに怒りをぶつけた。


友達(ダチ)がやられそうになっているのに黙って見ていられるか!」

「いつからお前なんかとダチになった! お前には世間体を気にするっていう頭脳はないのかこのマヌケェ!」


 水着怪人は唾が盛大に飛び散るほどの剣幕で怒鳴りつける。


 そんな会話内容にギャラリーたちは不審なものを感じ取った。


「おいおい、スポーツレッドとあの水着怪人がダチって、どうなってんだ?」

「ちょっと待て、もしかしてスポーツレッド、このままキューティクルズと戦うつもりなのか?」

「おい! どういうことなんだよスポーツレッドー! お前らの敵はそっちの怪人だろー!?」


 ギャラリーはレッドに疑問を投げかける。


 するとレッドは大きくバットを振るってギャラリーに向き直ると、逆切れするように叫んだ。


「うるさい! こいつはもう俺の友達(ダチ)になった! これからは怪人とヒーロー戦隊が普通に友達になってもいい時代が来たんだ! お前たちも覚えておけ、怪人ってのは悪い奴らばかりじゃない! もう俺は何人もの怪人の友達を作っているし、他のヒーロー戦隊も怪人と友達になろうと努力している! これからはそういう時代なんだ!」

「バカ野郎! もう黙れスポーツレッド!」

「言ってなにが悪い! 友達を作ることはいいことだろうが! ヒーロー戦隊はこれからガンガン怪人と仲良くなっていく! みんなも覚えておいてくれよ! 俺たちはもう、殺し合いをしないんだぜ! へへっ!」


 スポーツレッドはギャラリーに向けて親指を立てて見せた。フルフェイスのヘルメットをかぶっていながらも、その下には爽やかな笑顔をしているのだと容易に想像させるほど、すがすがしく言い切っていた。


 そんなスポーツレッドの様子を見たローズは、ほんの一瞬だけ小さな笑みを口角に浮かべると、すぐに真面目な表情に戻して叫んだ。


やはり(・・・)そういうね! スポーツレッド!」

「やはり?」


 スポーツレッドは疑問符を浮かべてローズに向き直った。


「みんな! よく聞いて! ヒーロー戦隊は、何かよからぬ作戦を考えている可能性があるわ!」

「はぁっ!?」


 スポーツレッドは驚愕した。想定外の誤解を生むであろう口撃が飛んできたからだ。


「実は昨日の、スーパースター・キューティクルズ誘拐事件は、怪人だけの仕業じゃなかったの! 法律戦隊ジャスティスレンジャーの、ジャスティスイエローも実行犯に加わっていたのよ!」

「ええっ!? どういうことですかローズさん!」


 シアン・キューティクルが信じられなさそうにローズに尋ねる。


 そんなシアンの驚きを見て、トリガーハッピーも小さな笑みを浮かべた。そしてローズの作った流れに合わせて声を荒げて叫ぶ。


「おいっ! 私もそんなことは聞いていないぞ! つまり昨日の襲撃は、ヒーロー戦隊に裏で糸を引いているやつがいるってことか!?」


 ローズはトリガーハッピーにチラリと視線を向けた。そして何かを示し合わせるように小さくうなずくと、断言するように言った。


「分からないけれど、これではっきりした! ヒーロー戦隊は怪人と共謀している!」

「おいっ!? ちょっと待て! 昨日のキューティクルズ襲撃の話は聞いたが、あれは怪人王イエローが勝手にやった話だろう!? 俺たちは関係ないはずだ!」

「しらじらしい事を言わないで! 怪人なんて悪党を守るなんて、自分からやましいことがあると言っているようなものよ! みんな気付いて! ヒーロー戦隊と怪人が手を組んで世界征服を始めたら、誰がそれを止めることが出来るっていうの!?」

「はあぁっ!?」


 まさかの発想の飛躍にスポーツレッドは戸惑いだす。

 

 スポーツレッドはまだ怪人と友達であるとしか説明していない。

 そしてローズもまた、可能性の話しかしていない。


 しかしその可能性をまるで確定された事実であるかのように解説している。そしてそれは合理性を持っており、ローズのキューティクルズとしての権威もあって当然のように受け入れられる事実となった。


 この場に怪人王イエローがいれば露骨に顔をしかめたことだろう。

 このローズの解説は、扇動だった、と。


「スポーツレッド! 答えてもらうわよ! あなた達は怪人と仲良くなって、なにをしでかすつもりなの!」

「待て! 誤解だ! 昨日の一件も俺は何も知らないし、ここの怪人たちも無関係だ! 少なくとも今の怪人達に悪事を働こうとするやつはいない!」

「怪人と仲良くしようとしている時点でそんな言葉に説得力はないわ! 水面下で協力関係を結んでいるなんて、なにか後ろ暗いことがあるから隠していたのでしょう! それも友達だなんて親密な関係になっているなんて、いつの間にヒーロー戦隊は悪に染まってしまったというの!」

「ち、違う! 俺たちは……! 怪人も、俺たちも、誰も、悪なんかじゃない!」


 スポーツレッドは口ごもりながらも反論した。

 だが、スポーツレッドの言葉は倫理性に欠け、キューティクルズもギャラリーも説得するには至らない。


 悪ではない。悪という概念はただの決めつけにすぎないというのに、それを覆すほどの説得材料がない。

 それが悪というレッテルの重さである。いざ悪というレッテルを張られそうになって、スポーツレッドはたどたどしく答えるしかなかった。


 このままでは勘違いされたままでは、攻撃を浴びせられてしまうことだろう。かつて散々行ってきた行為がスポーツレッドにも降りかかってくる。

 それは歩み寄りも意見の擦り寄せもできない、白黒はっきりした善悪の戦いである。


 周囲の観衆もキューティクルズもスポーツレッドと戦う流れに入った事を肌で感じていた。

 後はローズによる戦闘開始が飛び出すのを待つばかりであった。


 だがローズが剣の(つゆ)を払っていざ何か言おうとした瞬間に、空の高々とした場所から声が響いた。


「そこまででござるよっ! チェストォォォォ!」

「なっ!? うおっ!?」


 スポーツレッドは太陽光に隠れて振り下ろされてきた双刃竹刀の斬撃を飛びのいて避けた。


 スポーツレッドは砂浜に胴体から倒れ込み、斬撃を放ってきた相手を信じられないように見た。


 そんな新たな乱入者に、地面に倒れ込んだままの水着怪人が称賛の声を上げる。

 

「よっしゃあ、よくやったキクチッ……! 誰だお前は!」


 双刃竹刀を持って立ち構えていたのは、金髪碧眼のイケメン白人男性であった。

 それも並のイケメンではない、俳優業のような整った容姿と、屈強な肉体を持ったイケメンである。そんなイケメンが海パン姿で現れたのだ。


「ブーメランパンツ殿! 早く拙者の剣道着を返してほしいのでござる!」

「お前、外国人だったのか!?」

「だから剣道着を脱ぎたくなかったのでござるよ! 実は拙者、アメリカ人とロシア人とフランス人とイタリア人のクォーターでござる!」

「なんだその歩く世界平和みたいな家族構成! 国籍どうなってんだ!?」

「国籍も魂も日本人でござる! 家族全員サムライ大好きで日本在住でござるよ! だから早く、拙者の本当の姿を返してほしいのでござる!」

「あ、ああ! わかった!」


 水着怪人が軽く顎を引くと、白人男性の姿が一瞬にして黒い(もや)につつまれ、ささやかな爆発音とともに剣道着ベースの武者大鎧の怪人が再び姿を現した。


「さあスポーツレッド殿! 拙者たち怪人と友達になったなどと、勘違いも(はなは)だしいでござるよ! こんなタイミングで出てこられては迷惑千万! こうなってはいたしかたない! キューティクルズもヒーロー戦隊もまとめて斬り伏せて、活路を開くのみ! 水着怪人殿、早くその理性の鎧を破り捨てるのでござるよ!」


 敵意はないが、焦りが混じった声で剣道怪人が言う。

 その声色には絶対にヒーロー戦隊を巻き込まないという、強い意志が剣道怪人の声には籠っていた。


 キクチヨは双刃竹刀の切っ先をスポーツレッドに向け、キューティクルズにも警戒を向けながら、足元の水着怪人をかかとで小突いた。


「無茶言うなキクチヨ! このウェットスーツはどう頑張っても壊せねえよ!」

「考えてはだめでござる! その鎧は凝り固まった理性という常識で出来た鎧! なればそれを破り捨てることができるのは、服を着る事のない獣の野性でござる!」

「獣になれってことか!?」

「そうでござる、理性を捨てるでござるよ! 幸いなことにそのサメの頭、飾りではないのでござろうからな!」

「そうか! そうだよな! 今の俺はサメだった! サメがウェットスーツを着ているなんておかしい! こんな邪魔くさいもの、食いちぎってやればよかったんだ! うがぁぁぁぁ!」


 水着怪人は体をねじると、自分の尾びれに食いついた。さっきまで鋼鉄の堅さまで凝り固まっていたウェットスーツは薄いゴムのようにやわらかくなり、牙を突き立てるとたやすく穴をあけて引き千切れていく。

 尾びれが解放されると同時に足が人間らしい元の形に戻り、尾びれも腕に戻ると水着怪人は自分の胸倉を掴んでウェットスーツを引きちぎった。


「くっ! こんなに早く理性の鎧の弱点を看破されるなんて!」


 ローズが引きちぎられるダイバースーツを見て歯噛みをする。

 

「うおおおお! 解放された! ならばまずやるべきことは、スポーツレッド、お前をぶっ倒すことだぁぁぁ!」

「なにっ!? やめろ!」


 水着怪人は片手のビーチボールの取り付けられた手を振りかぶり、真っすぐにスポーツレッドを殴った。


「ぐっ!?」


 スポーツレッドはとっさに赤い野球バットを構えて身を守る。だがそのビーチボールは硬く、スポーツレッドのバットを押し込むようにガードを貫通して、火花を散らすほどの衝撃を与えて強く殴り飛ばした。


「ぐぁあああ!」


 その一撃に手加減はない。観衆やキューティクルズに善悪の区別をはっきりさせるために放たれた渾身の一撃だ。スポーツレッドは三メートルほど吹き飛ばされ、受け身を取った。


「この! うぉぉぉぉぉ!」


 スポーツレッドは怒声を上げて立ち上がる。そして赤い野球バットを力強く握りしめて水着怪人を睨んだ。


 スポーツレッドは反撃に出る。誰もがそう思った。


 水着怪人もそんなスポーツレッドの行動を見てほっとする。そして次の一撃で関係の決裂を決定づけようと、まだスポーツレッドが反撃できる程度のビーチボールの拳を放った。


「これがマヌケの代償だ!」


 小さく跳躍し、まっすぐに振り下ろされてくるビーチボールの拳。


 だがスポーツレッドはバットを振り上げなかった。それどころか、赤い野球バットをそこらに投げ捨て、突然、前かがみに構えた。


「んなっ!?」


 水着怪人は驚く。


 ビーチボールの拳はノーガード戦法を取ったスポーツレッドの額に叩きこまれた。重々しい打撃の衝撃が腕を伝わり、小さな火花が飛び散った。


 だが、スポーツレッドはその重いビーチボールの拳を頭一つで完全に受けきっていた。弾かれることなく押し返し、そして頭をビーチボールにすりつけたまま叫んだ。


「いつまでそうやって言い訳して戦うつもりだ! もう世界のルールは変わったんだ! 俺たちはもう戦わなくていいんだよ!」

「バ、バカ! お前はもう黙っていろよ!」


 水着怪人は渾身の演技を台無しにされて焦った。怒りを込めてビーチボールの拳に力を込めるも、スポーツレッドの石頭はびくともしない。


「俺は黙らない! たとえ悪だと罵られようと、俺は絶対に友達(ダチ)を裏切らない!」

「熱血かっ!? もうちょっと大人になれ! せっかく気を効かせてやったっていうのに、全部台無しにする気かよ!?」

「そうだよ! 全部台無しにする! 仲良くするって言ったからには、仲良くする。それが覚悟だ!だからお前も覚悟を決めろ! 俺たちは仲間になったんだから、この場は協力して切り抜けるぞ!」


 スポーツレッドはビーチボールを手で振り払うと、正面に水着怪人がいるのに追撃を警戒せず、キューティクルズに向き直った。


 水着怪人はそんなスポーツレッドにこれ以上攻撃を仕掛けることができず、苛立った。


「ああ、チクショウがぁ! なんでも友情と努力で解決できると思っているから古臭いスポーツ脳は大嫌いなんだ! 全部台無しだよこんチクショウ!」


 いまさら演技も意味がない。

 こうなったからには仕方なく、もうどうにでもなれという粗暴な気持ちに切り替えて、水着怪人はスポーツレッドの隣に並び立ち、ビーチボールの拳をキューティクルズに向けた


「うぉぉい! まじかよ! 怪人とヒーロー戦隊が共闘するとか、どうしてこうなった!」

「これは、キューティクルズまずいんじゃないか!」

「ヒーロー戦隊と怪人が手を組んだら本当にもう誰も勝てない! 闇落ちするにしても、いくらなんでもヒーロー戦隊がするのは最悪すぎだろ!?」


 ギャラリーは戦慄する。ローズの意識誘導もあり、ヒーロー戦隊はギャラリーにとって完全に悪側であると判断されてしまったのだ。


 その様子を見た水着怪人は歯がみをした。このままではヒーロー戦隊側にも悪いうわさが流れる。そうなれば、平穏に仲良くすることなどもはや夢物語となることだろう。


「くそっ、くそっ、くそっ! スポーツレッド! 後でお前らも悪役扱いされるようになっても俺はもう知らんぞ!」 

「いいから足並みそろえろ! 団体戦は連携が命だ! キューティクルズは強敵だ!」

「うるせえ! 俺は競泳水着は作れるが、デザイナーであってスポーツ枠の怪人じゃねえんだよ! お前の熱血なんかに合わせてられるか! お前が俺に合わせやがれ!」


 だが水着怪人はそんな思考を追い払った。今は目の前の問題を解決しなければならない。

 

 キューティクルズはすでに戦闘の構えを取っていた。

 ローズとジャスミンは剣の切っ先を向け、ギャング・キューティクルズの二人は銃を構え、オーロラ・キューティクルズは拳を握る。


 フクロウ・キューティクルズだけは全員揃っていないことに負い目を感じているのか、背中の翼を畳んで隙間から顔だけ出していた。一応最後尾に並んではいるが、数あわせですから、モブとして扱って下さいと言わんばかりに不安そうな表情でこそこそしている。

 

 そしてだいたい全員の戦闘準備が整った所で、ローズが宣戦する。


「みんな! 覚悟を決めて! 奴らは今まで戦ってきたどんなシャドウよりも強敵よ! でも逃げるわけにはいかない! それが正義の味方の責任だから!」

「逃げるわけがねえ! 私は弾がばら撒ければ満足だ! 強ければ強いほど、長い時間(あいだ)殺し合いを楽しめる!」

「ローズさん! 私たちオーロラ・キューティクルズは最後まで戦います! 時代がどれほど深い闇夜に覆われようとも、そんな夜だからこそオーロラは輝くのだから! ヒーロー戦隊が悪に落ちるような世界ならば、私たちはそんな世界を照らすべく戦います!」

「(あうぅ……。逃げたいよぉ……。でも、逃げちゃだめなんだろうなぁ……。だれか先に逃げ出してくれないかなぁ……。その後ろについて逃げて行きたいよぉ……。だれか助けてぇ……)」


 そうして両者の準備は揃った。剣やバットを構え、互いに睨みあう。

 

 一瞬即発の状況が続き、そして戦いの口火を切ったのは、高いリーダーシップの適正をもつローズの声であった。


「みんな! 行くわよ!」


 ローズは剣を振り払い、それを脇に構えて駆け出していく。

 それに合わせて他のキューティクルズも追随して突撃していった。


 ヒーロー戦隊と怪人はそれを迎撃する構えを取り、それぞれバットと拳を振り上げた。


 そんな瞬間だった。


「そこまでデス!」


 機械で変調されたかのような少女の声が響いた。

 それと同時にキューティクルズとヒーロー戦隊との間にプラズマの球体が発生し、中から電流を巻き散らかしながら新たなキューティクルズ二人が転移してきた。


 キューティクルズの突撃は急停止させられ、ヒーロー戦隊と怪人たちも様子見で後退した。


「メタリック・キューティクルズ!? どうしてあなた達がここに!?」 

「もうノルマを果たしたからデスよ。ローズさんもなにをやっているんデスか? 今日はあくまで手付け。本番は今夜デスたよね?」


 そう言ったのは白いプラスチックの肌に赤いドレスアーマーを着た機械の少女であった。


 デトロイト・メタリック・キューティクルズ。それは赤と青の機械的な二人組。


 最初に声を出したのは赤が基調のアンドロイド・キューティクルだ。白いプラスチックの肌に、機械的で硬質な赤いアーマード・ドレス。胸部に印字された01(ゼロワン)の文字。おかっぱヘアーのような薄手の頭部装甲。


 アンドロイドとはすなわち人造人間であり、人に近いロボットであるということだ。動きや仕草は人間に近いものの動くたびに機械の駆動音がなり、声を出しても唇は動かない。顔にはパーツとして取り外しできるよう縦に線が入っている。人型をしているが社会に潜入できるような作りではなく、戦闘用に改造された機械であることはすぐに理解できた。


「ローズさん、我々の方でここから逃げ出そうとしていたホステス女郎蜘蛛を封印することに成功しました。これ以上の戦闘は不要です」


 アンドロイドの隣の、青を基調としたサイボーグ・キューティクルが言った。


 サイボーグ・キューティクルはシリコンの半透明な皮膚の下に機械の部品をチラつかせるより近未来的なキューティクルズである。造形的にはアンドロイドよりも人間的で、伸縮性のある青いプラグスーツを身に纏い、多少動いても機械音が聞こえてこない程度には優れた内部機構を持っている。アンドロイドと比べると顔もやわらかい素材で作られており、声に合わせて唇も動いた。


 だがサイボーグとはすなわち改造人間であり、動きや仕草は完全に人間のものであるのは当然だ。だが良く見れば瞳がカメラのシャッターのようであったりと機械としての特性は大いに残しており、まるで人類の進化系の一端でもあるかのようにも思えた。


 そんなサイボーグはポケットからフロッピーディスクに似たCDディスクを取り出す。ディスクには宝石型の八角印の内側に蜘蛛の絵柄のピクトグラムが描かれていた。


「あれは女郎蜘蛛殿のマークでござる!」

「あいつ、封印されたのか!? つーか逃げようとしてたのか、したたかな野郎だなおい!」


 剣道怪人と水着怪人が驚く。


 さらには少し遅れて、砂浜に黒い染みが現れた。その暗い染みは渦を巻き、静かにゆっくりとブラック・キューティクルを押し出すように昇降させて登場する。


「ローズさん、私たちの奇襲の方も成功しました。ジャスティスレンジャーも現れましたが、ゴミ怪人をこの通り封印済みです」


 ブラックは手に持った六角水晶を掲げて見せた。その黒く薄い色合いの水晶の中には、同じくゴミ怪人のピクトグラム化されたマークが描かれていた。


「バカな!? お前たちはジャスティスレンジャーのチームにも攻撃を仕掛けたのか!?」


 スポーツレッドが驚く。

 ブラックは振りかえると、スポーツレッドに向けて言った。


「あなたは、スポーツレッドさんですね。私たちはスーパースター・キューティクルズを攻撃した怪人を追って戦っています。どうか私たちと共に戦いませんか?」

「断る! その怪人とやらが怪人王イエローならいいが、他の怪人達に手出しはさせない! その封印された怪人たちも今ここで返してもらう!」

「それは残念です。そして、この封印した怪人たちも返すわけにはいきません。では、後日お会いしましょう」

「待て! 逃げる気か!」

「ローズさん、ヒーロー戦隊と怪人は今夜、キューティクルズ全員で一斉に相手します。そのためメタリック・キューティクルズの転送装置で今はこの空間から脱出してください。私は先に設営に行っていますので」


 ブラックはそう言うと駆け寄ってくるスポーツレッドを無視して影の中に潜って消えてしまった。


「仕方ないわね。盛り上がってきたところだったのだけれど……」

「そう言わないでほしいのデス。一番の盛り上がりは、まだまだこれから! では、ワープホールを開くのデスよ!」


 ざらつく機械音声の声でアンドロイド・キューティクルが言った後、腕を軽く振り払った先の空間にプラズマの球体が発生した。


 その直径二メートルほどの放電を巻き散らかす球体にキューティクルズ達は迷うことなく掛け込んでいく。


「待て! せめて話し合いの機会はないのか!?」

「話し合いは禁止デス! では、バイバイなのデス!」


 アンドロイド・キューティクルが最後に飛び込むと、ほんの一瞬でプラズマの球体は消失した。見事なまでの撤収の速さであり、口論を交わす余地もなかった。


「……クソッタレがぁ! 全く持って、どういうことなんだよ!」


 少し時間を置いて、水着怪人が苛立たしく砂浜を蹴飛ばした。


 当然のように海辺にはキューティクルズの面影も残っていない。

 怪人たちは釈然としない理由で攻撃されて、人質まで取られてしまった。この状況に理解が示せるほうが稀有であろう。


 そんな中、変身せず水着姿のままだったスポーツブラックが近づいてきた。


「レッド! すでに私が他のチームと連絡を取っておいた! さっきの戦闘の状況も映像で記録しておいた! ほかのチームとも合流して今後の対策を練るぞ!」


 スポーツブラックが年齢相応に低く聞き取りやすい声で言った。

 そのスポーツブラックに向かって、スポーツレッドは振り返り即座に答えた。


「そうだな! 状況の整理が必要だ! あの秘密基地に集合できないか連絡してくれ!」

「了解だ!」


 スポーツブラックはうなずくとリストバンド型の変身アイテムを操作し始める。だいぶおもちゃじみた装備であったが、通信機器としては高い性能を持っているようだった。


「おいスポーツレッド! 今回のこれは一体どういうことなんだよ!」

「俺だってわからねえよ! とにかくこの南国空間を戻してくれ! 移動するぞ!」

「ちっ! わかったよ!」


 水着怪人が地面に手を触れると、そこを中心に空間が黒い靄となり霧散していき、瞬く間に荒れ果てたゲームセンターへと姿を戻していく。


「ちょっ! 俺たち水着のままだぞ!」

「うぉいっ! 元に戻すのなら服も返してくれよ!」


 ギャラリーたちは水着姿のまま駅前のゲームセンターの中に放りだされていた。

 スポーツブラックやスポーツイエローはきちんと元の黒のジャケットと黄色のテニスウェアに戻されていたので、意図的な手抜きであった。


「知るか! お前たちのオタクくさいなぞ捨ててしまった! その水着が嫌ならもっといいデザインの服を買ってこい!」


 水着怪人はそんなギャラリーに辛辣な言葉を投げかけ、振りかえりもせずゲームセンターの出口に向かってヒーロー戦隊と共に駆け出していく。


「待ってくれ! 駅前で水着とか俺たち変態集団みたいじゃないか!」

「だ、だれかあの怪人を何とかして……! ああっ! ヒーロー戦隊も去っていく!」


 ギャラリーたちは手を伸ばすも、その些細な救いの声にわざわざ振り返るヒーロー戦隊はいなかった。


 怪人とヒーロー戦隊たちは瞬く間に雑踏の向こう側に消えてゆき、あとにはビーチサンダルに海パン姿のギャラリーだけが残された。


「がるるぁっ!? 焼きそばが消えたっ!」

ダディシトー(Да ты что)(なんだ!)! ここはゲーセン!? なぜ焼きそばが消えた!」

「あらあら、いつの間にか色々終わっちゃってたみたいね。どうしましょ~」


 ビースト・キューティクルズの三人も水着姿で取り残されていた。液晶画面の砕け散った格闘ゲームの筺体の椅子にそれぞれ座り、困惑して辺りを見回している。


 だが筺体のボタンの上には焼きそばやラーメンの麺の破片がいくつか散らばっており、海での出来事が幻覚ではなかったことだけは一応示されていた。


「水着姿で駅前にいるのは少し恥ずかしいわね~。みんな、今から服を買いに行きましょうか?」

「服! 私、服、欲しい! 新しいの欲しい!」

「ハラショォォォ! 服は! 動きやすいのがいい! 頑丈なやつ!」

「あらあら、きちんとデザインは考えなきゃだめよ? 女の子なんですからね? それじゃあ、お手手つないでいきましょ~」

「がるぁ!」「ダー(Да)!」


 タイガー・キューティクルとヒグマ・キューティクルが叫びながらゲーム機を回り込んでアザラシ・キューティクルの手に飛びつく。アザラシは両手を強く握られるとゆっくりと椅子から立ち上がり、二人を引率して歩いて行った。

 

 そうして多少目立ちながらも雑踏の中に飛び出していくと、近くのファッションブランドショップに向けて堂々と水着姿のまま進んでいった。


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