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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
28/76

《エピローグ後日談3》 さてレッド、本当の黒幕について教えておこうか 【トミーによる世界観解説】

「さてレッド、本当はこんなオシャレな場所でカフェモカ飲みながら話す内容じゃないんだが、お前には本当の黒幕の存在と世界の仕組みについて教えておこうと思ってな」


「黒幕だと!? イエロー以上にそんなやつがいるのか!?」


「……声が大きいんじゃないか? ここは公共の場だからちょっと落ち着いて話をしようぜ?」


「あ、すまない。だが、本当になんでここなんだ? つーかこのカフェ、周りはカップルと女子会だらけだぞ」


 レッドはなんとも引きつった表情で周囲を見渡していた。


 そのカフェテリアはショッピングモールの中央噴水広場の大部分を占領した、大型休憩区画だった。

フードコートとはまた別の休憩所であり、最大手コーヒーチェーン店が過去最大級の出資をした百人規模を収容可能な大型店舗だ。


 空間を贅沢に活用した観葉植物による区画分けがなされており、買い物客の雑踏から切り離されて落ち着けるよう工夫されている。

 さらには有名デザイナー設計による布張りのイタリアンチェアが贅沢に設置され、造形の豊かな洋菓子とブランド品のコーヒーが楽しめる少しお高めの休憩所だ。


 だが高級路線からの脱却を目指すという企業側の思惑上、プチ贅沢の範囲に収まった価格設定をしている。

 当然集まってくるのは雰囲気に吸い込まれてきたカップルにかっこよさに引かれてきた女子集団、さらには気取りたいマダムに写真を熱心に取るブロガー。

 つまりは意気揚々と話題性を求めてくるシンプルな客たちだ。


 そこでヒーロー戦隊と怪人という特殊な組み合わせが重要な会話をするには、少し煌びやかすぎる場所にも思えた。


「意外かもしれないが、ここは怪人王ゾシマが密会用に調節したエリアなんだ。つまりはブラックゾーンになっていて、監視カメラ怪人の能力でここだけ監視カメラの録画ができていないんだよ。さらにはリラックス効果のある観葉植物でお客さんを落ち着かせて、この店のケーキは俺が能力で作ったものを卸しているから、どんな会話だろうと雰囲気とケーキに熱中して周囲に気が回らないようにさせている。俺はスイーツを食べた相手をある程度操ることができるから、聞き耳を立てられていてもすぐにそれを遮断することができるんだ」

「ちょっと待て、操るって――」

「大丈夫だ。店に卸したケーキではなにも悪用できないよう調節してある。怪人王ゾシマはそういうことには厳しかったからな。何せ正義の六法全書を自作するほどの男だ。怪人の能力の悪用を見抜く目があった。そして頭も良かった。街の複数箇所に完璧なセーフティゾーンを用意していたんだ。人が多くてヒーロー戦隊のレーダーに感知されず、雰囲気にのまれて他人の会話なんて耳に入らない。その上、複数人が会話していても違和感がない場所。そういったセーフティーゾーンをな。他にもいくつかの人気のカフェと飲食店が密会場所に調節されていて、ポリスレンジャーの捜査術をも攪乱できていたってわけさ」


「驚いたな、この店はホワイトとも来たことがある。しかしそんなことまるでそんなこと気付かなかった」

「まあ気付かれないようにしたわけだからな。ジャスティスレンジャーを影から操る黒幕の情報管理術だ。本当に徹底していたよ。だがこれからはヒーロー戦隊とも共同で使っていくつもりだ。今度他の場所を教えるから積極的に活用してくれ」


「ああ、それはありがたい。イエローに情報が漏れるのは極力避けたいからな」

「それもあるが、今は単純に居心地がいいっていうことがメインだ。俺たちの目標は怪人とヒーロー戦隊の融和だからな。イエローはあくまで不安要素でしかない。融和のためには緊張を解いて会話を弾ませてやる必要がある。他の三組の怪人とヒーロー戦隊の混合グループはこのやり方でおおむね良好な関係が築けたみたいだぜ。スポーツレンジャーと剣道・水着怪人たちのグループが毎回勝負事に発展しているみたいだが、ゲーセンでの話だからあまり気にしなくてもいいだろう。必要なら俺が手を加えてくるから問題はない」


「助かるな。俺はいつも助けられてばっかりだ。ヒーロー戦隊のリーダーを任せられているっていうのに情けない」

「そんなことはないさ。旗を持った人間はこれからの方向を示してくれる事が仕事だ。こういう親睦会もあんたが言いだしたことだし、立案と指針が出来るなら充分だって。調節とかは俺のような裏方がやる仕事で他のグループもフラワーブルーやスポーツブラックといった二番手が調節に苦労しているって話だからな。今のところ親睦会は軌道に乗っているみたいだし、あんたはもっと堂々としてもいいんじゃないのか?」


「そうか?」

「ああ。逆にリーダーが堂々としていなければ困るのは俺たち後ろの連中だ。嘘でもいいから自信満々でやってくれよ?」


「……おっし! 分かった! これからはいつも道理の調子でいく! 絶対に平和な世界を創ってやるぜ!」

「ははっ、その調子で頼む。それでこそ熱血の代名詞であるレッドの名を継ぐものだ。だが、まずは怪人の成り立ちについて知ってもらわないとな。これはまだ研究途中なうえに割と難しい話が混じってくるが、大丈夫か?」


「難しい話?」

「単純に高校では習わない内容が絡んでくる。意外なことに哲学やゲシュタルト心理学とかいった分野が怪人の成り立ちには大きく関わっているんだ」


「哲学だと? ……これでも一応、検事を目指しているだけあって学力にはそこそこ自信はあるが、基礎知識はないから解説してもらいながらでもいいか?」

「学力がいいなら助かる。歴代のレッドは極端な天才かバカで二極化しているからな。じゃあまずは基本になる言葉を説明しておこう。この世界を形作っているのは、アニマとマナ、それとイデア、この三つが組み合わさって世界を形作っている。すべての基本はこの三つだ」


「早速知らない単語だな」

「学者連中が格好つけてつけた名前だからな。まあ分かりやすく言ってしまえば、アニマは魂、マナはエネルギー、イデアは形の本質と概念だ。……だがまあ、はっきりいってこれらの単語は覚えなくてもいい」


「覚えなくてもいいのか?」

「ああ。怪人の生い立ちについて説明するのに必要なだけだからな。まずイデアについてだが。そうだな、例えて言うならば天井の材木の木目が人の顔に見えることがあるだろ? 黒い点が三つあれば顔に見える、それが顔の形の本質、つまりはイデアが働きかけて俺たちにそう見せているんだ。そこにマナ、エネルギーが入り込むとその顔の模様は動きだす。さらに魂、アニマが入り込むと意志を持って喋り出すんだ。こうして生まれたものが妖怪だ。俺たち怪人のご先祖様だな。昔はヒーロー戦隊の代わりに陰陽師やお坊さんがいて、そんな妖怪と戦っていたんだ」


「へえ、それが進化していってヒーロー戦隊と怪人になっていったのか」

「進化とは少し違うな。人類の数が増えていくにつれて、イデアとマナの数が爆発的に増えたことによって生みだされたのが怪人だ。意外かもしれないが、正義と悪の永遠の争いを生み出している真の黒幕は、地球なんだ」


「地球!? なんで地球が黒幕なんだ!? 地球に意志があったのか!?」

「いいや地球に意志はない。ただ存続のために進化しただけなんだ。地球上の生命を増やすためにはマナが必要になる。すべての生命は生まれた時に僅かなマナを地球から預かって誕生し、成長に沿ってマナを増やしていって、死んだ時に地球にマナを倍返しする仕組みだ。地球はその増えた分のマナを使って新たな生命を生み出していく。だが人類の文明の発展によって生命体の数よりもはるかに多くのマナが地球に溜めこまれるようになった。人類の生命の消費サイクルは半端じゃないからな。そうしてあふれてきたマナが生命体以外のイデアにとりつき、生命体として活動を始めた。それは付喪神になり、妖怪になり、怪人になる。こうして変質したマナは絶対的な普遍性を失い、暴走する。俺たちはその暴走したマナを概念エネルギーと呼んでいる」


「概念エネルギー? マナとは違うのか?」

「マナは完全に地球の管理下にあって見ることも触れることも出来ないから、俺たちが自由にいじれるエネルギーじゃないんだ。つまりマナは地球が許可した用途にしか活用できない。だが、概念エネルギーは俺たちが生み出すイデアに合わせて変質する。そして万物の源であるマナの要素を受け継いで、どんな物質や性質にも変化するのさ。俺たちが生み出すイデア次第で、炎にもお菓子にもなるのが概念エネルギーだ」


「俺たちが生み出すイデア?」

「つまりは能力の事だ。俺ならお菓子のイデアに概念エネルギーを流し込んで、お菓子の概念の当てはまるものなら自在に生成することができる。怪人王ゾシマは絶望を核に俺たちの人間性に概念エネルギーを流し込み、俺たち怪人を生み出せる。怪人は能力を活用することで、溢れたマナである概念エネルギーを消費している。いや、消費するように仕向けられている。概念エネルギーはガンガン消費していかないとすぐに溢れるらしいからな。怪人の望む形の力を与えてわざと消費させているんだ」


「そうだったのか。俺たちの力の元なんて考えたこともなかった。なにかしらの不思議な力かと……。それなら、俺たちヒーロー戦隊も同じ仕組みなのか? 怪人が能力を使うだけでも概念エネルギーは消費出来るんじゃないのか?」

「ヒーロー戦隊は少し特殊だ。怪人が好き勝手に能力使うだけじゃ概念エネルギーを消費しきれなくなった時、地球はマナを消費するために正義という概念に目をつけて正義の味方を生み出したんだ。殺し合わせることで積極的に概念エネルギーを消費させようとしたってわけさ。怪人の本質が悪と定義されたのもこれのせいだ。正義の味方は安定して怪人を撃破できるように、地球のマナによる加護を受けているから物理的に敗北することもあり得ない。これがあの無敵のヒーロースーツの正体さ」


「そうだったのか……。しかしそれなら、俺たちと怪人が戦わないと地球にとって不都合なんじゃないのか? 概念エネルギーが溢れたらまずいんだろ?」

「おそらくすぐには問題は起こらないと思うぜ? 実はあんたらも知っての通り、ヒーロー戦隊以外にも他の正義の味方が生みだされている。大昔には悪いドラゴンに立ち向かう英雄という形で、ヨーロッパなら悪い魔法使いと善良な魔法使いという形で、そして近代では悪魔と悪魔払いという形で。いろんな存在に形を変えて世界中で正義と悪の存在は生みだされている。現代ではヒーロー戦隊シリーズのほかにも魔法少女シリーズや、アメリカではアメリカンヒーローシリーズが同じように悪と戦ってエネルギーを消費しているんだ。ヒーロー戦隊シリーズだけがその消費活動から抜けてもすぐに問題は起こらないんじゃないか? まあ他の大多数の正義の味方はもともとなにも問題ないからいいんだ。問題あるのはインフレによって科学技術が進化してしまうヒーロー戦隊シリーズのみだ。魔法少女シリーズは魔法自体がそもそも中世ヨーロッパで開発されつくされていて真新しいものがなにも発明されなかった上、魔法は実用性が蒸気機械以下だとすでに証明されているからな。アメリカンヒーローシリーズのマッチョマンたちも応用できたとしても生体科学方面でしか役立たない。しかも百万人に一人だけが超能力に目覚めるような微妙なものばかりだ」


「特別なのはヒーロー戦隊だけか?」

「いまのところそうだな。正直、これからどうなるか分からないところも多い。ヒーロー戦隊が消費活動をやめたことで概念エネルギーは溢れると、地球の預かり知らぬところで超能力者や怪人が生まれてしまうだろ? そうしたら地球はそれに対応した新しい正義の味方シリーズを生み出そうとする。今はまだジャスティスイエローが怪人王として生きているから、ジャスティスレンジャーシリーズも活動中という判定を地球がしているかもしれないが、怪人を倒さなければそれもどうなるか分からない。溢れた概念エネルギーがすべて怪人王イエローに集中してとんでもないインフレを起こすかもしれないし、地球がジャスティスレンジャーに見切りをつけて新しいヒーロー戦隊を生み出すかもしれない。新しいシリーズが生まれたとして、それがヒーロー戦隊の特徴を受け継いだ場合は最悪だ。能力のインフレが尋常じゃないことになってるだろうしな」


「それは、まずいな。やはり俺たちは多少なりとも戦わなければいけないのか?」

「いま言ったのは最悪の事態だ。正直、まだどうなるか分からない。地球が何かしらの干渉をしてくる可能性もあるし、なにも起こらない可能性もある。理想的な事を言えば、ヒーロー戦隊シリーズが活動停止扱いになって、技術革新の起こらない新しい正義の味方が誕生する可能性だってあるんだ」


「それなら、ヒーロー戦隊ではない正義の味方を生み出せればすべて解決できるのか。……なんだか身代わりを立てるようで感じの悪い話だがな」

「可能ならな。だが、それには別の問題も発生してくる」


「別の問題?」

「技術革新を心待ちにしている各国の政治家に企業の存在だ。ヒーロー戦隊の消失は世界的に見てそれこそあってはならない人類全体の損失になる。何せ実績が実績だからな。おいそれと消失を許してはくれないだろう。新しい悪役を立ててちょっかいを出してくる可能性もあるし、必要とあらば戦争だって起こるんじゃないか?」


「ちょっと待て、それはまずいんじゃないのか!?」

「いや、俺たちの方にちょっかいを出してくる可能性は低いぜ。奴らが最初に狙うのは怪人のコアを持っているイエローの方だ」


「イエロー? ああ、怪人王のコアを破壊すれば新しい怪人王が生まれて、新しいヒーロー戦隊も自動的に生まれるからか」

「ああ、今はまだ様子見でしてるだろうが、イエローまで俺たちと仲良くする動きがあれば、ヒーロー戦隊シリーズ消失の可能性を考えて怪人王の暗殺を企ててくる可能性が高い」


「お、おい、なら、俺たちが逆にイエローを守らなければいけないってことか!?」

「落ち着けレッド。冷静に考えろ。あのインフレしまくったスーパーモンスターをどうやって暗殺する? あのイエローが暗殺されるような女に見えるか?」


「……ああ、そうか。ほとんど不可能だな」

「そうだ。あれと正面切って戦えるのはせいぜいオーパーツレッドかアメリカ合衆国大統領くらいだ。まあ、それでも連中が暗殺を試みる可能性があるが、結果は想像がつく。問題はその後だ。怪人王イエローが倒せないと分かったら、俺たち怪人とヒーロー戦隊の分断を狙ってくるはずだ。どんな手段を用いてくるかもわからないし、どの組織が襲ってくるかもわからないから先手も打てない」


「それは、まずいな。だが、怪人と協力すればどんな敵とも負ける気はしないぜ!」

「見える敵が相手ならな。だがそもそも戦うことすらないかもしれない。相手からすれば俺たちと怪人を殺し合わせればいいわけだからな。そんな撃退すれば済むような分かりやすい悪役は送ってこないんじゃないか?」


「なら、頭脳戦になるってことか?」

「そうだな。むしろ情報が命の現代戦ってところか? しかしそういう難しい戦いは俺や他の頭脳派のヒーロー戦隊で対策を進める予定だから、レッドは難しいことは考えず融和に集中してほしい。融和が失敗してはそれこそ元も子もないからな。一応情報や対策は逐一報告するから、リーダーらしくどっしりと構えていてほしいんだ。特に情報が回り切っていない今の時期は特にな」


「よし、分かった。それじゃあ次回以降の親睦会の予定も立てておこう。他にもまだ親睦会を行っていないチームもあったから、そこにも俺が顔を出してきて、少し――」


pipipi! pipipi! pipipi!


「なんだ?」

「すまん、俺の携帯のメールだ。モリスからだな」


 トミーが懐から携帯端末を取り出すと電子音が止まる。そのまま手早い動きで端末のロックを解除し、トミーはメールの文面を読んだ。


「……ユダさんが暴走して、いろいろとやばいらしい。フード―コートに先に向かうから、合流しようってよ」

「ユダさんが暴走? 何かあったのか?」

「さてな。クロスさんを女子トイレにでも引きずり込もうとしたのか、それともいきなり水着を買って着替え始めたりでもしたのか、いずれにせよロクなものじゃないだろうな」

「いやいや、いくらなんでもユダさんがそんなことしたりしないだろ?」

「……ああ、そうか。お前もあの天使の笑顔にだまされた口だったな」

「だまされた? 何のことだ?」

「実害が何もなかったのなら気にするな。緊急事態みたいだし、俺たちも行こう」

「?」


 レッドは今一つユダの悪評にピンとこないようであったが、トミーの何事もなさそうにその場を動きだす様子を見てすぐに考え込むことをやめた。

 

 レッドも席から立ち上がり、まだ口をつけていなかったカフェモカを飲み干すと、トミーに続いて歩き出していった。 


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