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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
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《サイドストーリー》 とある神父のクスリとくる笑い話 【ブラックジョーク】

 ある所に敬虔な神父がいた。神父は筋骨隆々な神の像の前に座し、こう言った。


「おお、偉大なる我らが主よ。私の孤児院に一人、だれにも愛される事を知らず、誰にも助けてもらえなかった子供がいます。その子は今、稀有な難病にかかり、どうにか生きようともがいています。その子が言うのです。神父様、助けて下さい。僕を路地裏から助けてくれたのは神父様だけです。だから神父様、僕をもう一度だけ救ってください。死にたくないという僕のわがままを許して下さい。……と。…………神よ、どうかお願いいたします。その子は私が言えば貴方様の従順なしもべとなるでしょう。私がそうなれるよう導きます。ですからどうか、神よ、奇跡を、その子の元にお与えください」


 神父はそう語ってから深く跪き、長い時間をかけて神に祈った。


 それから三日ほどして、神父は神の像の前で再び語り始めた。


「おぉ、神よ。あの子はとうとう喋ることも出来なくなり、病院に移されました。病院のベッドの上で痛みに身をよじるばかりで、死の淵で苦しんでいます。どうか神よ、お救いください。その子の手術には莫大なお金が必要なのです。私にはお金がありません。病院のベッド代も満足に払えていないのです。……ですから私は、その子の為に、その子と同じように一切の食事を断とうと思います。一切の消費を断ち切り、その子の為にお金を貯めようと思います。……おぉ、神よ。どうか哀れなあの子をお救いください」


 神父は再び神の像の前で深々と頭を垂れた。

 寒々しい教会の冷え切った神の像はなにも語ることはなく、慈愛のほほ笑みだけを神父に向けていた。


 それからニ週間ほどして、やせ細り、骸骨のような顔になるまで衰弱した神父が、神の像の前で跪いた。


「……おぉ、神よォ。売れるものは全て売りました……。街の全ての人々に声をかけ、集められるだけの寄付を集めました……。ですが、まるでお金が足りないのです。あの子はもう、動くことすらありません。どうか神よ。愛されなかったあの子に、貴方の愛をお与えください。たった一つの奇跡を下さい。そのためならば、私のこの身を、犠牲にしてもかまいません。私はあの子の病が治るまで、今後は一切の水すらも飲まないことを誓います。どうか奇跡を、あの子に――」


 神父がそう語った瞬間、教会の扉を勢いよく開けて、12歳から14歳ほどの年齢の子供たちが、神父の祈る教会の中に飛び込んできた。


「やっぱり神父様ここにいたよ! みんな早く!」

「神父様! 無理をしないで! 晩御飯食べないと死んじゃうよ!」

「神父様! 神父様ぁ」


 孤児と思われる子供たちが神父を取り囲む。深く祈りをささげていた神父は子供たちに介抱されてよろめきながらも立ち上がった。


「おお……。申し訳ない。私は大丈夫だよ……。だからそんなに心配しないでおくれ」


 神父は子供たちを不安にさせないよう笑顔を作り、子供たちのその優しさに感謝の言葉を述べた。


 しかし神父は晩御飯に手をつけることはなく、コップ一杯の水すらも飲むことはなかったという。




 それからさらに五日ほどして、点滴袋をぶら下げた吊るし棒を杖代わりにした神父が、滂沱の如く涙を流しながら教会に飛び込んできた。


 神父の顔色は死体のように灰色、青白い血管が浮き出るほどやせ細り、顔の皮膚は頬骨に張り付いていた。


 しかしその表情は歓喜に満ち、狂気に近いまでの感謝を叫ぶように吐き出した。


「おォォ! 神よォ! 感謝いたします! 私を救い、そしてあの子の治療費まですべて出していただいたあの恩御方ぁ! あれは貴方様の使徒でございましょお! これほどの奇跡はございません! これほど感謝した日はございません! 明後日に、手術していただけます! 私も明後日で報われます! か、神よぉ! ありがとう、ございます!」


 神父はボロ雑巾を絞るようにありったけの涙を流し、自分の法衣に染み込ませた。

 手に持った点滴袋の杖にすがりつき、そのまま崩れ落ちるように膝をついた。


 そして二日後。その子の手術の日。神父は長い期間の断食と断水でもはや生命維持も厳しくなってきた頃、40人ほどにもなる孤児院の子供たちと一緒に、教会の中で神に祈っていた。


 神父の声はかすれ、ひび割れそうなほど乾いた目は白濁し、枯れ木よりも細くなった腕は支える子供たちの体温すらも感じることは出来ない。


 教会の後ろの方ではテレビ局のクルーが大きなカメラを回している。さらには複数のテレビ局のカメラが神父の顔を両サイドからアップで写し、多くの人々が何か言葉をささやき合っていた。


しかしその声は神父には届いていない。


「おォォォ……! かぁ、神よぉ……! 感、謝……いた、し、ますぅ…………!」


 神父は雄々しき神の像を仰ぎ見た。白濁した神父の目は、真っ白に染まっていく視界の中で、神の像だけをくっきりと見ていた。


 その時、神の像はゆっくりと動いた。


 信じられなかった。神の像に白い翼が大きくひるがえり、御影石の皮膚は白磁の色合いに変貌し、像の台座から神は飛び降りた。


 神父は神の姿を見て、感涙した。


「……おぉ、神よ」


 神は神父の前に立ち、腕を組んで構えると、荘厳な威圧感のある声で、こう言った。


「サイコロで1が出たから、やっぱりその子には死んでもらうわ」


 神父の涙は引っ込んだ。



 神父が次に目が覚めた時、病院のベットで点滴を受けていた。

 3週間かけてリハビリを受け、神父は神職に戻ると、すでに土に埋められた子供の為に小さな葬儀を再び執り行った。


 神父は神を怨むことはなかった。だが、それ以降、神の像の前で祈ることは無くなったという。


 数え切れないほどの寄付金を得た神父は孤児院の数を増やし、ついに三つの孤児院を管理する大司教へと役職を上げた。


 大司教は子供たちの前で言う。


「あぁ! みなさんっ! 神ォ信じなさぁい! 信心深くあればぁ、神は下りぃられるのですっ! オォ、神よォ! 貴方はいつも正しいぃぃ!」

 

 気が狂ったように感謝をするその神父の表情は、笑顔で楽しげで、まるでピエロのようだったという。



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― 新着の感想 ―
[一言] ピエロって泣いてるんだよなあ
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