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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
23/76

《エピローグ》 ダークヒーローが僕らを守ってくれている

 窓辺からの突き刺すような太陽光が、クロスのまぶたに柔らかな圧力を加えていた。


 それは昼少し前くらいの太陽の傾き。秋特有の冷え込んだ午前中の気温。

 はるか遠くから聞こえてくる船の汽笛。

 嗅ぎ慣れた芳香剤の匂い。

 体を支えるボンネルコイルスプリングベッドの感覚。

 胸を押し潰すようなハードレザーロングコートの重み。

 顔を締め付けるラバーフェイスガードに、それを隠すマフラーのやわらかさ。


 そして聞き覚えのない、普段誰も押す事のないインターホンの音。


 その機械合成されたインターホンの音色が目覚まし代わりとなって、クロスの頭を覚醒させる。

 クロスは自分の部屋のベッドから起き上がると、目じりを押さえて眠気を押し出していく。


 インターホンの音の連打が早くなった。それと同時に、聞き覚えのある声がスピーカーから聞こえてきた。


「クロスさ~ん! 遊びに来たよ~!」


 モリスの声だ。


 早く鍵をあけてやらねば、と、クロスはベッドから足を下ろした。


「違うだろモリス。見舞いに来たんだよ、一応な。一週間たったとはいえクロスさんはまだ怪我人だ」


 トミーの声もインターホンの向こうから聞こえてくる。


 クロスはもはや痛みもない腹部の怪我を手で抑えながら、ベッドから立ち上がった。


「もう怪我はフューチャーピンクのナノマシン治療で治ったんでしょ?」

「確かに私の治療で怪我は治っていますが、血を二リットル以上流したんです。しばらくは安静にしてもらわないと困ります。あと、私のことはフューチャーピンクではなく、本名で呼んでもらえませんか?」

「そうだった、ごめんねサクラっち!」

「サクラっち……。あの、モリスさん、確かに今の見た目は小学生ですけど、本当は三十代後半のおばさんですからね? それは忘れないでくださいね?」


 どうやら扉の向こうには、フューチャーピンクであった女子小学生、桃塚さくらも一緒に来ていたらしい。


「せやかて、ついついヒーロー戦隊の頃の名前で呼びたくなっちゃうもんやな。うちかて一週間たってもいまだに慣れへんもん」

「慣れてくれなきゃ困る。こんな最初の一歩ですらうまくいかないと先が思いやられる」


 ミリタリーイエローであった関西系の女子中学生の声に、レッドが返答した。


 どうやら玄関の向こうには相当な人数が集まって来ているようだった。


「おぉう! おぉう! ク、ク、クロス、さぁぁんっ! 来ちゃいましたょお、私たぁち! 我らが信徒たちがぁ! 今ぉ日はあなた様とぉ親睦を深めようと企画されたわけでしてぇ!」

「誰がおぬしの信徒でござるか! 拙者は侍でござるよ!」

「て、ゆうか、まだクロスさん寝とるんとちゃうの? やったら起こすのはかわいそうやない? また後で来てあげたらいいんちゃう?」


 クロスの様子を心配する声がドアの向こうから聞こえてくる。どうやら妙に濃いメンツばかりが扉の向こうには集まってきているようだった。


 クロスは玄関にたどり着くと、急いで手を伸ばしてドアロックを外した。


「あっ! クロスさん!」


 ユダの嬉々とした声が扉の奥から聞こえてきた。


 クロスはドアチェーンも外し、ノブをひねって扉を押し開けた。


「クロスさーん!」


 ドアを開けた瞬間、勢いよくユダがクロスの胸に飛び込んでくる。


「グッ! ……ムゥ」


 僅かばかりの鈍痛がクロスの胸に響いた。


 大きく開かれた玄関の向こうに目を向けると、十人程度の元怪人と元ヒーロー戦隊が笑顔でクロスを待ちかまえていた。


「おっ! 起きていたか。もし寝起きだったのならすまないな」

「……ムゥ」


 トミーの言葉にクロスは小さく首を振って答えた。


 寝起きだったのは間違いないが、ずっと寝ていたわけではない。今日来るかもしれないという旨のメールを受けて、焦って着替えて準備して、結局二度寝した挙句の寝起きだ。


 つまりいつ来るのか分からなかったので、クロスは朝から準備して待機していたのだ。


 胸元に張り付いていたユダが顔を上げ、クロスを上目遣いで見ながら言った。


「実はね! 今日はヒーロー戦隊のみんなとショッピングして、親睦を深めようって話になったんだ! それでね、クロスさんもどうかな? もしクロスさんが大丈夫なら、一緒に行きたいと思って!」

「ほんとは病み上がりのクロスさんを誘うつもりはなかったんだ。けど、体力が戻っていたら誘おうって話になってな。どうだろうか? 結局イエローも一週間音沙汰ないみたいだし、無理にとは言わないんだが」


 レッドが言う。


 クロスは迷うことなく、ホワイトボードのマーカーペンを手に取り、玄関に掛けられたホワイトボードに文字を綴った。


『自分も行きたい』

「ほんと! やった!」

「よかったねユダっち! 今日はフルメンバーだね!」


 モリスが玄関に入って来て、嬉しそうな笑顔でユダの肩に手を乗せた。


 それに追随して割り込むように、白い神父服の男も玄関に入り込む。


「いえぁあ! それならばクロスさぁん! あなた様のぉ、天才的なその頭脳ぉぅ! 私とぉいっしょにぃっ! 金儲けのために使いませんかぁ! その頭脳があれば賞金の掛けられた難解数式も一発ですしぃ! 野球をすればメジャーでも全打席ホームランっ! 使い方を間違えればぁ、何百億何千億と稼げちゃいますぞぞぉ!」


 神父服の男が狂乱と表現できるほどの動きで、クロスの眼前に肉薄する。クロスは少しばかり後ずさり、神父服の男と距離を取った。


 しかし関西系の女子中学生も玄関に入り込んでくると、女子中学生は神父の肩を掴んで引き寄せた。


「やめんかこの俗物神父! 今日は妙に喰いついてくると思ったが、結局はそれが目的やな! あんたはちょっとこっちにきいや! 今日こそはうちが説教したるで!」

「おぉ! おぉ! 中学生ェごときが、この宗教ォのカァリスマである吾輩にぃ説教とは! 釈迦に説教とはこのことですぞォ!」

「あんたのどこがお釈迦様やねん! ただの変態やろが!」

「では! 馬の耳に念仏ですなぁぁぁぁ!」

「馬が宗教を語るなやボケぇ! さっさとそこから出てこんかぁ!」

「あぁんっ! 耳っ! 耳を引っ張るのはやめてぇぇぇぇ!」


 白い神父服の男は女子中学生に両耳を掴まれて後ろ向きに引きずられていく。廊下に集まっていた何人かが二人のために道をあけ、やかましい宗教家はすぐにクロスの視界からは消え去っていった。


 全員の視線が引きずられていく神父に集まっているうち、クロスは視線を玄関先のホワイトボードに向け、新たに文字を綴った。


『少し準備してくる 外で待っていてくれ』

「あ、うん、分かったよクロスさん! みんな! クロスさん準備するから、外で待っててって!」


 ユダが真っ先にクロスの文字に気付き、この場の全員に呼びかける。そしてそれと同時にユダはクロスから離れた。


「そうか。じゃあ、俺たちも外で待ってるよ」


 レッドが答える。レッドもクロスの部屋の玄関を離れ、そのレッドの動きにつられるように、場の全員も同時に歩きだしていった。


 クロスの部屋のドアがゆっくりと閉まる。


 閉まりゆく玄関のドアから、最後に廊下に出ていったユダだけがクロスの顔を名残惜しそうに眺め、ドアの向こう側で笑顔で手を振っていた。


 そのユダの笑顔は驚くほど純粋で楽しげだった。


「…………」


 その笑顔を見て、クロスは久しく感じた事のない、達成感のようなものをその胸に感じていた。


 孤独の中で生きて、母親以外に笑顔を向けられた事のないクロスにとって、そのユダの幸せそうな笑みは、この上ない報酬と呼べるものだった。


 誰かを幸せにする。平常な一般人ならばそれはさほど難しいものではないが、見る者に恐怖を与えるクロスにとっては、そのたった一つの笑顔を向けられることも奇跡なのだ。


 クロスは目を開いて、今を見た。


 生まれて始めての友達との買い物に、クロスはこの上ない期待を禁じえないでいた。興奮こそ表面的にはなかったが、内心では、(服はこのコートでいいのだろうか?)(今朝シャワーを浴びたとはいえ、体の匂いはきつくないだろうか?)(みんなには何が食事でもおごった方がいいのだろうか?)(お金はいくらぐらい必要になるだろう?)と、多様な思想が騒乱する状態だった。


 ともかく、クロスは室内に戻り、必要だと思われるお金の詰まった財布や、部屋の鍵を取りに向かって歩いていった。


 その時だった。


 コンッ コンッ 


 誰かがクロスの部屋の窓を叩く。


 クロスの部屋はマンション一階の角部屋であり、窓の向こうは駐車場だ。


 ヒーロー戦隊か怪人の誰かが気を急かしているのだろうか? そうクロスは思い、リビングのテーブルの上の財布と鍵を取った後、窓辺に近づきカーテンを開いた。


「ようっ」

「ヴォッ!?」


 窓の外で片手を上げて挨拶したのは、ジャスティスイエローだった。


 全身黄色のライダースーツに、脇に抱えたヘルメット。大きめのスポーツサングラスで両目を隠し、それに付随して耳にはインカムが取り付けられている。


 そしてイエローはリラックスした様子でベランダの手すりに片肘をつき、ブロンドの髪を風で揺らしながら笑ってクロスを見ていた。


「安心しな、今日は別に襲いに来たってわけじゃない。ただ様子を見に来ただけだ」


 そう言うとイエローは手すりから片手を下ろした。クロスに向かってイエローは正面を向くと、ヘルメットを足元のバイクに引っ掛けて、今度は両肘を手すりに乗せてクロスを見た。


「まずは窓を開けてくれないか? ……そんなに警戒しないでもいいぜ。今の私は冷静だし、暴れるつもりもない。こいつを見てみろ」


 そう言うとイエローは、ポケットから携帯端末ほどのサイズの、ミニチュアサイズのジュークボックスのような機械を取りだした。


「これは小型化した強制変身解除装置だ。私のコアのエネルギーを使い、常に私の怪人の能力を阻害させている。つまり、今の私は怪人王の姿に変身することはできないってわけだ。人間形態ならお前の敵じゃないだろ? 今日はただお前と話しに来ただけなんだ」


 イエローはまるで友人と対話するかのような感覚でクロスを説得していた。


 クロスは戸惑ったが、敵対の意思がないことを感じ取ると、すぐに窓を開けた。


「ありがとよ。さっきも言ったが、今の私は冷静だ。むやみやたらにだれかを殺すつもりはない。今日だってあいつらを襲いに来たわけじゃないぜ。腐っても私は正義の味方だからな。秘密基地では頭に血がのぼってあんなことを言っちまったが、感情に流されて本当に悪の道に落ちたわけじゃない。……まあ、あれだけ派手に啖呵を切った手前、あいつらには恥ずかしくて言えた話じゃないんだがな」


 イエローは微笑むようにそう穏やかな声で言うと、まるで憑き物が落ちたかのような笑顔をクロスに向けた。


「お前も言わないでくれよ? あいつらには悪役が必要なんだ。私のようなイカレた悪役がな。悔しい話だが、私や私のお父さんがずっと望んでいた状況がいま現実に成り立っている。怪人とヒーロー戦隊が仲良くショッピングするなんて正直あり得ない話だからな。そんな平和が成り立っているのに、それを無理やり引き裂こうなんて野暮な真似はしたくない。……悪役なんて気にくわないが、そんな平和の緊張感を保つためにはしかたがない。私もあいつらのために、一肌脱ごうっていうわけなんだよ」


 イエローが笑うたびに白い歯がチラリと見える。その笑顔を見る限り、イエローが気のいい女性にしか見えないのが逆に不気味だった。


 そのイエローの笑顔の奥にはどれほどの激情を隠しているのか。そう考えると、爆発するのが分かっている分、時限爆弾を相手にした方がまだマシだった。


 そしてチラリチラリと見え隠れするイエローの怒りは、少しずつ隠しきれなくなっていった。


「とはいえ、私だっていつまでも影の悪役をやるつもりはない。これが破綻する日はいずれ来る。永遠の平和なんてありえない。少しずつほころびが生まれてきて、結局は瓦解するんだ。甘ったれのくせに理想だけが立派なあの男じゃ、崩壊だってそう遠くはないだろうしな。そうなってからが私の本当の出番だ。あいつらの関係がほころびだらけで協調出来なくなったその日に、私は正義の味方として復活する。分裂したあいつらを一人ずつ千切って踏みつぶし、世界に真の平和を取り戻す。……分かっているだろクロス? 私は、……頭がおかしい。ほんの少しの綻びでもあいつらを殺しに行くぞ? ほんの少しでもだ。いや、綻びがなくてもあいつらを殺しに行くかもしれない。拷問だろうと監禁だろうとなんでもする。……だからクロス。お前があいつらを守れ。私を止められるのはお前だけだ。私の手元に強制変身解除装置がある限り、あいつらは能力を使えない。生身での戦いに置いて、銃弾だろうと避けられるお前だけが、私と正面切って戦えるんだ」


 イエローはそう脅すように言うと、僅かばかり口角をあげて、ついに本性を見せたかのように酷薄な笑みをクロスに見せた。


「……正直、自分でも不思議に思うんだ。本音じゃ、この平和な世界を守りたいはずなのに、悪を殺せと私の中の正義が叫ぶのさ。こんな生っちょろい平和なんか破壊して、悪を滅ぼして真の平和を打ち立てろ、ってな。そんなもの間違っているって知っているはずなのに、時々、どっちが正しいか分からなくなってくる。だからクロス、お前だけが頼りだ。私には間違っていてもそれを押し通せるだけの力がある。何人だろうと何百人だろうと殺す自信がある。だからクロス、お前が判断して私を止めろ。お前が正しい平和を見極めて、そして守るんだ。それが出来るのはお前だけだ。こんな事、無関係の一般人に頼むことじゃないとは思うが、それでもお願いするしかない。平和の未来は、お前が背負え」


 イエローは真摯な目を……、それ以上に脅迫的な視線を、クロスに向けた。


 クロスはすぐにうなずくことが出来なかった。それを察したのか、イエローはクロスに対して決定的な宣言を告げた。


「いや、いまさらお願いする必要なないな。お前はもう運命に巻き込まれた。無関係ではいられない。……見ろ。これがその証拠だ」


 そう言うとイエローは、サングラスを取り外した。


 そのイエローの双眸は、ネオンのような黄色に発光して輝いていた。眼球の虹彩がまるで蓄光塗料で塗り固められたかのようにぼんやりとした光を放っている。

 その光は間違いなく、怪人王に変身していた時のイエローの眼光とそっくりだった。


「この両目だけが、理由は分からねえが、怪人王に変身した状態のまま変化しねえんだ。時間を操る能力で腕の傷も目の傷も全部治したはずだが、なぜかあんたにやられたこの目だけが完璧には治らなかった。……勝手な話だが、この目にはお前との因縁のようなものを感じるんだ。結局のところ、私が殺し合う相手はレッドなんてガキじゃなく、最終的にはお前なんだってな」


 そこまで言い切るとイエローは、ベランダから手を離して、足元に駐車させていたスポーツタイプのバイクに飛び乗った。


「正直、嬉しかったんだ、私を止めてくれたことがな。もしもあの時、私が怪人もヒーロー戦隊も全員窒息死させていたら、きっと私の心にはむなしさしか残らなかった。お前が私の前に登場してくれて、そして戦うことで、私は初めて自分の中の殺意をすべて吐き出すことができたんだと思う。本当に勝手な押し付けで申し訳ないが、これからの私の殺意も全部お前にぶつけてやるつもりだ。お前なら全部ぶつけても死にはしないだろう? それぐらいの責任は負ってもらうぜ? なんせお前は…………私にとっての、ヒーローなんだからな」


 イエローは最後に小さな笑みを浮かべ、キーを回してバイクのエンジンを掛けた。


「話はそれだけだ。私が脅しに来たってことはお前の口からあいつらに伝えてくれ。今の平和が失敗したら、もう次はないってな。……私はこれからアメリカ国防総省ペンタゴンの連中と、まあ、平和的な話し合いをする予定があるから、残念だが今日はもう行くぜ」


 イエローはバイクのヘルメットをかぶった。そのヘルメットの色合いは黄色。そのヘルメットはどことなく、ヒーロー戦隊のフルフェイスヘルメットにデザインが似ていた。


 よく見れば着ているライダースーツもヒーロー戦隊の全身タイツに僅かに似ている。本革で厚みのあるそのライダースーツではコスプレじみたヒーロー戦隊の雰囲気を出すことはできないが、ジャスティスイエローだったころのイエローの姿を自然と彷彿とさせていた。


「……今思えば、通りすがりで困っている人を助け、最後には勝利を奪い取っていく。あんたこそが一番、正義の味方らしかったのかもな」


 イエローはそうほほ笑んで言うと同時に、バイクのエンジンを鳴らした。強力な馬力を感じさせる力強い排気音が鳴り、次に続く言葉はかき消された。


 ただ、唯一、「次は、負けないぜ」との、小さな最後のつぶやきだけは、何とかクロスの耳に届いていた。


 イエローはアクセルを踏み込み、前輪が浮き上がるほどの勢いでバイクを加速させる。一瞬の勢いで駐車場から飛び出し、道路に飛び出すと派手なラインディングを見せつけて公道に消えていった。


 イエローの姿が見えなくなるとバイクのエンジン音は見る見るうちに小さなっていき、ほんの一分もしないうちに海風の音に混じって聞こえなくなった。


「…………」


 クロスはバイクのエンジン音が完全に聞こえなくなるまでの間、静かにその音だけを聞いていた。


 怪人王ジャスティスイエロー。正義と悪の狭間に立ち、自らの責務ゆえに親を殺した絶望の権化。果たしてその力は偉大なる正義の審判者として名を残すのか、それとも閻魔大王もびっくりの死刑執行人と成り果てるのか。その未来はクロスの背中に背負わせることとなった。


 クロスは考え込んだ。


 重大な役割を担ってしまったことへのプレッシャー。

 過大評価とも思える自分の強さ。

 守るべき仲間の命。


 正直、今までのんびりニート暮らしをしてきた男には重すぎた責任だった。


 しかし、その責任は背負わなければならない。それだけの価値はあるだろう。


 そう、今でこそクロスには…………、たくさんの友達がいるのだから。


「ね~! クロスさん! まだ~!」


 玄関の扉を僅かに開けて顔を出したユダが、そうクロスを読んだ。


 19年間徹底して友達付き合いのなかったクロスにとって、たくさんの友達が、クロスの名を呼びかけてくることは、それ以上に心地の良いことはない。


 仲間の数というものを神格視しすぎているきらいはあるが、それでも共依存できる対象があるということは素晴らしい。クロスは友達を守るためだったら命だって捨てれる気がした。少なくとも孤独なあの頃に戻るよりははるかにましだ。


 そう考えるからこそ、クロスはジャスティスイエローとだって戦えるのだ。


 クロスは振り返り、守るべき仲間たちの姿を見た。


 そして光の差し込む玄関に向けて、歩き出していく。


 溢れるようなみんなの笑顔を見ればわかる。


 未来はきっと、輝いている。



 ダークヒーローが僕らを守ってくれている【完】

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