第十八話 希望! そして勝利への道! 我らよ!新しい未来を切り開け!
「お待たせしました! 今、治療します!」
クロスのすぐ隣に薄ピンク色の白衣を来た女子小学生がしゃがみ込み、傷口にその小さな手を添えた。
ユダは彼女が医療を得意とするフューチャーピンクだと察すると、邪魔にならないようにクロスのそばから僅かに身を引く。
「早く! クロスさんの怪我を治して!」
「ええ、分かっています! 傷口を見せていただきます! …………うっ! これは、ひどい! 体の内側を、鉄の円盤みたいなものでズタズタに引き裂かれている! 誰がこんなひどいことを!?」
フューチャーピンクはユダを見た。
「えっ!? あ、それは……。え、ええ~っと…………」
フューチャーピンクの指摘を受けたユダは、明らかに挙動不審な動きで、ふわふわと視線をさまよわせた。
そしてユダはふと、視界に入った暴れまわるジャスティスイエローの姿を睨んだ。
「ジャスティスイエロー! 私はあなたを、絶対に許さない!」
「おう、こら! 勝手に私のせいにしてんじゃねえよ!」
ジャスティスイエローがユダを睨み返し、片手間にゴミの弾丸をはじき落としながら叫んだ。
意外とこんな離れたところにまでイエローは神経をとがらせていたようでユダは想像だにしていない突っ込みをくらい、「あ、あう」と小さくつぶやくと視線をジャスティスイエローから外してうつむく。
「……と、とにかく治療しますので、邪魔にならない所に離れていて下さい」
「はい……」
ユダはフューチャーピンクに押し出される形でクロスから離れた。
クロスの背中はフューチャーピンクによって支えられると、傷口の上に手が添えられる。
フューチャーピンクの手から淡い桃色の光が輝き、傷口を覆った。
「グ、グゥゥッ!」
クロスはうめく。
フューチャーピンクが放った光は未来医療技術ナノマシンによる治療だ。本来、痛みは発生しない治療法だが、どんな医療技術であろうとも体内で擦れ動く鉄の硬貨を抑制出来るわけではない。
現状フューチャーピンクが行うことができるのは止血や自己治癒の強化、それと細菌感染の予防といった応急処置だけだった。
本来ならば体内の鉄貨を抜き取らなければ治療は行えないのだが、止血と感染予防のためフューチャーピンクは手を離すことが出来ない。
そうして人手不足によって手詰まりになりつつあった時、さらにもう一人、軍人風の服を着た少女がクロスの元に駆け寄ってきた。
「フューチャーピンクさん。わたしもお手伝いさせていただきます」
「あなたは……、ホワイトミリタリーさん! よろしくお願いします!」
フューチャーピンクの背後から駆け寄ってきたのは、カーキー色の軍服風ジャケットにカーゴパンツという服装の、胸に赤十字の代紋をつけた衛生兵然とした中学生の少女だった。
緊急の応急処置を得意とする戦場の衛生兵らしく、創傷の被覆のための止血材を手早くその場に広げると、ピンセットを使ってクロスの体内の10ペニヒ鉄貨を抜き取り始めた。
「ウ、グッ!」
「ク、クロスさん! 頑張って!」
ユダがクロスの背後から応援する。それでクロスの激痛が収まるわけでもないのだが、ユダはクロスの手をギュッと握って声援をかけ続けた。
二人の正義の味方による治療は麻酔など使用しないヒーロー戦隊仕様のため、その激痛は火傷の疼痛に慣れたクロスにとっても耐えがたいものであった。
そんな治療のさなか、突然、白いローブを幾重にも重ねた、宗教の教祖じみた不気味な老人も走り寄って来た。
「おお! おお! あなた様がぁ、先ほど我々をコテンパンにのしてくれた、怪人の恩方であろうかぁ! 吾輩、フューチャァァァーホワイトとぉ申しましてぇ! あなたぁ様にはぁぜひとも協力をぉ――」
「ここは医療の現場です。帰ってください」
ホワイトミリタリーは腰のホルダーからナックルナイフを取り出し、背後も振り返らずにフューチャーホワイトの喉元に刃を押し当ててけん制した。ホワイトミリタリーは苛立ちを隠そうともせずにフューチャーホワイトを睨みつける。
「おお! おお! ホワイトゥミリタリーさぁん! 私は別にぃ、妖しいぃものではありませんよぉぉぉぉぉ!」
「……なんですかあなたは。あまりうるさくすると後で治療しますよ?」
ホワイトミリタリーは不快感をあらわに眉をひそめて、その白い法衣の老人をさらに鋭く睨んだ。
ナックルナイフのグリップをさらに強く握り、老人の顎に穴を開ける勢いでさらに刃を押し付ける。フューチャーホワイトは顎を刃で押し上げられて、口を強制的に閉じさせられた。
その隣で女子小学生のフューチャーピンクが、その老人が自分と同じフューチャーレンジャーの一員であったことに気付くと、心底嫌そうな顔をして叫んだ。
「ちょっとフューチャーホワイトさん! 本気で邪魔です! 消えて下さい!」
「おお! おお! 手ェ厳しい! だがまずは、吾輩の話を聞いてたもぉれ! 我はまた、神の啓示の如き、すぅんばらしいアイデェィアを、見出したもおぅてぇぇぇ!」
「……何ですかこの人」
「ホワイトミリタリーさん! 勘違いしないでくださいね! この人は私たちフューチャーレンジャーの中でも特殊なんです。変態はこの人だけなんです!」
ヒーロー戦隊の二人は僅かにフューチャーホワイトから距離を取る。
フューチャーホワイトはそれを是と見たのか、白の法衣を大きくなびかせながら、無駄に一回転してクロスの上を飛び越えて正面に移動し、その充血した赤い目を覗きこむようにして膝をついた。
「私は変ェ態ではなく、れっきとした神ィ父ですよォ! それに、治療の邪魔はいぃたしませんっ! 吾輩は、あの憎き怪人王、ジャスティスイエロォーを打ち砕く術ェを見出したのですぅ~!」
そう言うとフューチャーホワイトは、クロスを正面に見据えて、両手をクロスのフードに向かって伸ばした。
「さっ! さぁっ! そ、そのご尊顔んぅ! 触れてもよろしいィでしょうか!」
「やめて! クロスさんに触らないで!」
クロスの背後に立っていたユダが、フューチャーホワイトの手を掴んで止めた。ほとんど無条件反射的な行動だった。
「大ィ丈夫ですよ、お譲さん! 危害ィを加えるつもりはございません! ちょぉっと吾輩が彼の方に触れるだけでぇ! たった、たったそれだけでぇ! な、な、な、なあぁんとっ! あの怪人王ジャスティスイエロォーに、勝ァってしまうぅんですよぉぉぉぉ!」
その胡散臭さ全開の説明に、その場の全員が顔をしかめる。
だが、ふと気がついたようにフューチャーピンクは目を見開き、その真意に驚いた。
「あっ! もしかして、ホワイトさんのあの能力を使って!?」
「ええっ! ええっ! そうです! その通ぉりです! おそらく! 多分! もしかして! 間違いなく! そのとうとぉぉうりなんですよ!」
法衣の男はその場でくるりと一回転して掴まれていたユダの手を振りほどくと、再び両手をクロスの眼前に近付ける。男の両手がクロスのフードをめくり上げ、クロスの頭部があらわとなった。
クロスは驚き、反射的に顔を退けた。
「ウッ!」
「えっ!? うそっ!?」
「……こ、これは」
女子小学生のフューチャーピンクは驚き、飛び退いてクロスから離れる。
衛生兵風の女子中学生のホワイトミリタリーはその場から動かなかったが、クロスの黒ずんだ穴だらけの頭部を見て、やはり驚きで反射的に顔から距離を離していた。
クロスは抵抗しようと顔を離すが、フューチャーホワイトの手は止まらない。
「さあァァァ! 失礼ィ致します!」
フューチャーホワイトはクロスのマフラーとフェイスガードをもまとめて抜き取った。
クロスの素顔が光に触れ、格子状に穴のあいた頬やむき出しの表情筋があらわとなる。
その異様なクロスの素顔は、肝の据わったホワイトミリタリーですらもとっさに逃げれる姿勢にさせるほどだった。
「あぁんっ! なんて素敵なご尊顔ん!? お願いほっぺた触らせてぇぇぇぇ!」
しかし老人は狂乱するようにして、両手でクロスの穴だらけで黒ずんだ顔を掴んだ。
クロスの頬は鷲づかみにされ、強い圧力が掛けられる。
だが老人は触れた瞬間にクロスの顔から手を離した。
老人の手とクロスの顔の間に、治らぬ火傷による浸出液が糸を引いていた。
「うぅん!? ネ、ネバァ、ネバァ!? こ、こ、これはぁ!!」
法衣の男は粘液の引いた手をワキワキと動かす。蜘蛛のようその指を動かすと、指先についた浸出液が繰り糸のように宙で泳いだ。
クロスはその男の驚愕する表情を見て、そして飛び退いた女子小学生のフューチャーピンクや距離を取ろうとする衛生兵風少女のミリタリーホワイトの表情を見て、視線を下に向けて落ち込んだ。
歯がみをして、自分の顔が汚らしいものであったことをただただ呪った。素顔をさらすこと自体十年来無かったことなので、その驚嘆と奇異の視線を向けるフューチャーホワイトの反応は、久方ぶりクロスの心に突き刺さるものがあった。
だが突然、クロスの背後にいたユダが、その細い両腕でクロスの顔を囲うように、抱きついてくる。
「ひどいこと言わないでください! クロスさんの顔は、気持ち悪いものじゃありません!」
ユダの腕にクロスの顔はキュッと締め付けられた。
細く、やわらかな圧力がクロスの顔全体に広がる。ユダは浸出液で服が汚れることもいとわずに、クロスに抱きついていた。
クロスはユダに守られるように背後から抱きかかえられる。醜い顔は、ほとんど隠されていた。
「ユ、ダ……」
ユダに顔全体を隠されたまま、クロスはユダの名前を読んだ。守られている、という感覚が、クロスの中で暖かく響いた。
「違います、違いますよォ! この、ネバ、ネヴァ~! 癖ェに、なるゥ~!」
フューチャーホワイトはユダの手を無理やりに押し広げ、再びクロスの頬を掴む。
今度は耳ごとクロスの側頭部を抑えつけて、両手でクロスの頭部を引っこ抜きそうなほどの力を込めた。
「グッ!?」
その瞬間、巨大な、思念のような精神的なエネルギーが、クロスの頭の中に鉄のハンマーのような衝撃力を持ってして入り込んできた。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?」
クロスの両目が出血しそうなほどに赤く染まった。
そして実際に血液が涙腺から流れ出た。激しい頭痛がクロスを襲い、クロスは反射的にフューチャーホワイトの両手を掴んで引き離そうとする。
「やめて! クロスさんから手を離して!?」
ユダもまたフューチャーホワイトの手を掴み、力づくで引き離そうとした。
だが、フューチャーホワイトは両手を頑なに離そうとはしない。
「さぁ、さぁ、さぁ、あなたは、ク・ロ・ス・さァん! あなた様の天才ィ的な頭脳を持ってして、ジャスティスイエロォーの、お姿を見て下さぁい!」
フューチャーホワイトはその場で拝むように頭を下げた。
そうすることでフューチャーホワイトの背後に見える、獅子奮迅の猛攻で暴れまわっていたジャスティスイエローの姿がクロスの瞳に映った。
その瞬間だった。
今まさにイエローに攻撃されていた黄色いスカーフを巻いた女子中学生の瞳が、一瞬にして赤く充血した。
「あれっ!?」
女子中学生の動きはとたんに機敏になり、壁となる何かを能力で生み出そうとした動きをやめ、紙一重の半身回避でイエローの斧を回避した。
黄色いスカーフを巻いた女子中学生は呆然とした視線をジャスティスイエローに向けて見せ、その場で驚きながらも困惑していた。
「な、なんやこれ……!? 頭が、すごいスッキリしとるで!」
「なんだ! 急に動きがっ……!? くっ! 一次元《線》・ムーブ!」
イエローは異変を察し、慌てて場所を移した。
誰の視界にも映らない無限の長さの線に変身して、イエローは誰もいない広がった場所へと移動する。
「グゥウゥゥゥゥゥゥッ!」
クロスが苦痛にうめく。
その時、クロスは激痛を感じながらも空間の計算を無意識に行っていた。
イエローの視線の動きから、その場所へ移動することを事前に察知し、誰よりも早く瞬間移動後のイエローの姿を視界に入れていた。
そしてその瞬間だった。
その瞬間移動したばかりのイエローにもっとも近い場所にいた航空自衛官やダクトホースを生やしたモリスもまた、目が赤く充血していった。
「えっ! 後ろ!?」
「こっちか!?」
航空自衛官とモリス、さらには同じく目を赤くしたチョークを構えた男性教師、固定銃座型ピッチャーマシンを構えた野球選手といった、遠距離アタッカー組が死角にいたはずのイエローに気付き、即座に振り返った。
「なにっ!?」
ジャスティスイエローは驚愕した。不意を突くはずが、逆に不意を突かれる結果となった。
一斉にゴミの弾丸や小型バルカン砲、爆発するチョークなどを打ちこまれて、イエローの全身が爆炎で白く包まれる。
濛々とした煙がイエローを包み、数秒のあいだ集中砲火は続いた。
さらに砲撃が止んでから数秒の時間を経て、煙は分散して晴れあがっていく。
「……何だ? その動き、その赤い目、……一体どういうことだ?」
ジャスティスイエローは煙の中から無傷で現れた。両手を前につき出し、二次元平面の壁で一切の攻撃を防ぎ切っている。
だが、その無傷であるイエローに驚きを示す者はなく。むしろイエローの姿を視界から外してでも、この場の全員が互いに顔を合わせたりなどして、自分の赤くなった目の変化を確かめていた。
不気味すぎることに、気がつけばこの場の変身を解いている全員が発光せんばかりに目を爛々と赤く輝かさせていた。
当然、ただ目が赤くなっただけではない。赤くなった目はただの副作用。その真価は、目に過負荷を与えるだけの異常な処理速度の頭脳にあった。
「わぁお! 気持ち悪いくらい世界がよく見えるよ! これは私の頭がおかしくなった訳じゃないよね!?」
「すげえ、計算機の中にいるみたいだ。今なら円周率も完璧に答えられそうだ」
「いろんな数字が見える……。スポーツレッドの鼻の毛穴、185個もあったんだ……」
「や、やめろスポーツピンク! 勝手に人の毛穴を数えるんじゃない!?」
高校生野球部の選手が、慌てて自分の鼻を両手で隠した。
「なんでみんなの目が、クロスさんそっくりになったの?」
ユダが驚愕して言った。
その瞬間、ジャスティスイエローがハッと気がつき、クロスとそのクロスを鷲掴みにするフューチャーホワイトを見た。
「まさか、これは貴様の能力か、フューチャーホワイト!?」
クロスの顔を掴んだままのフューチャーホワイトは、グリンと頭を反り返ららせて、のけぞった姿勢でイエローを見た。
「イエスッ! 吾輩のテレパシィー能力で、彼の方の偉大なる頭ゥ脳ォを、この場の全員にぃ、宗教ッ、したのですよ!」
素晴らしく聞き取りにくい話し方でフューチャーホワイトは解説をする。
この場の全員はその脳の変化に対応すべく、各自で自分の手を見たり天井を見たり。試しにビリヤードのボールを九個放り投げて、全て片手の上に重ねてバランスをとってみたり。携帯端末を開いて株価の乱高下を予測してみたり。深く思考してブツブツブツブツと数字を唱えてみたり。と、その能力の把握に努めていた。
その能力の異常な性能に慣れるまでこの場の全員は戸惑っていた。
だが、それと同時に確実な活路と希望を見出していた。
「これなら、この力があれば、ジャスティスイエローとは互角以上に戦える!」
「なんて頭脳だ。……少しだけ時間をくれ! 私が株を買えるだけの時間をくれ!」
「やめんかいブラックギャンブラー! 今は戦いに集中しろ!」
「世界の全てが計算可能なんて。……天才と呼ばれていた、自分が恥ずかしい」
「こんな卑怯臭い頭脳、信じられないな。これでは全員で戦いを挑んでも彼には勝てないはずだ」
「ちくしょう! 出来ることなら、期末テストの時にこうなりたかったぜ!」
ほとんどの戦士たちが完全に頭脳に慣れた頃、フューチャーホワイトがクロスの顔に両手を張り付けのけぞった姿勢のまま、全員に向かって叫ぶ。
「さァさァさァ! 遊びは終わぁり、よォォ! 我らよ! 怪人王ジャスティスイエローを見よっ!」
全員が一斉に首を回して、イエローを見た。
完全に統一された軍勢のような動きで、全員の体がイエローを向く。
その動きの不気味さには、イエローも思わず後足を引いてたじろいだ。
「くそ! だから宗教は嫌いなんだ!」
イエローは両刃斧を持ち直し、刃を下段に向けて防御的な構えを取る。
クロスの完全動体視力は攻防一体の卑怯臭い能力。それはすでにヒーロー戦隊との戦いにおいて実証済みだ。
そしてその能力がこの場の全員に付与されたのだとすれば、それはジャスティスイエローにとって冷や汗が吹き出るほど危機的な状況であることを示していた。
「全員構えぇえ!」
フューチャーホワイトが叫ぶと、一糸乱れぬ動きで一斉に武器をイエローに向けた。
集中砲火が来る。そう意識的に感じ取ったジャスティスイエローは、急いで瞬間移動可能な広さのある空間を探し出し即座に移動した。
「くっ! 一次元《線》! ムーブ!」
「左か!」「左ね!」「左だな!」「左よ!」「左に逃げたな!」「左!」「左だ!」
全員の声が一斉に重なって響いた。
ジャスティスイエローは空間を探す視線の動きを読まれ、瞬間移動と同時にその居場所を特定された。
イエローが場所を移した時にはすでに全ての照準はイエローを向いている。イエローはとっさに片手を相手に向けて、防御の構えを取った。
「っく! 二次元《平面》! ウォール!」
集中砲火がジャスティスイエローの体を包む。轟々とした爆炎が一瞬にして立ちこめるが、それでもイエローが無傷であることは誰もが予測できていた。
爆炎が白煙に移り変わった瞬間。拡散していく白煙が僅かに揺れる。
その白煙の揺らぎは、つまり煙の中でジャスティスイエローがなにやら行動している証明でもあった。
本来ならばその白煙の動きだけでは何も分からないが、クロスの頭脳はその白煙の引きこまれるような空気の流れから、中でイエローが大斧を振りかぶっているという動作まで計算していた。
「「「「「「「「「「撃ちおとせ!」」」」」」」」」」
全員が一斉に、白煙とクロスとの中間地点に視線を向けた。
白煙の中から勢いよく投擲された両刃斧は、クロスの頭蓋を叩き割る前に、その中間地点で撃ち落とされて地面に転がった。
「ちぃ! 厄介な能力だ!」
歯がみをするジャスティスイエローが消えゆく白煙の中から現れる。
イエローは両刃斧を投擲した時の姿勢から身を戻し、鋭く尖った爪を腰だめに構えて体勢を立て直していった。
「クロスとか言ったな! 最初から最後まで私の邪魔ばかりしやがって! 痛い目を見る覚悟は当然できているんだろうな!?」
「まずいよ! クロスさんが狙われている!」
「全員! あの赤目を守れ! 彼がこの戦いの勝利のカギだ! 絶対にイエローに攻撃させるな!」
全員がジャスティスイエローの攻撃意思を察し、誰もが同時に武器の照準をイエローの眉間に向け直した。
個々人の狙撃技能などもはや関係なく、その照準は一ミリの狂いもない状態でイエローの眉間の中心で固定される。
その赤目の集団の異常な統一感は、対峙するイエローが不気味さを感じるほどだった。