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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
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第十五話 希望の先にある絶望! 敗北の怪人たち! 黒い電流の貫く未来が訪れる!

「これが、コアか……。これを壊せば、怪人たちは全部消えるんだよな」


 ジャスティスレッドが秘密基地の奥で、正八面体の宙に浮く黒いクリスタルを見てつぶやいた。


 ジャスティスレンジャーの二人はすでにコアのある区画まで侵入していた。クロスはそこらの床に投げ捨てられており、ひどい失血ゆえに呼吸を乱しながら横たわっている。


 だが、そのクロスの様子に目を向ける者はいない。ジャスティスレンジャーの二人はついに見つけた怪人の源を見て、特に会話することなくコアの前に立ち、そして互いに感慨深く怪人のコアを眺めていた。


「…………っく!」


 ジャスティスレッドは斧を握る手に力を込めた。しかし、ついにその斧を振り上げることはできなかった。


 レッドが黒く明滅する怪人のコアを眺めていると、不思議と脳裏にユダの顔がフラッシュバックして破壊を押しとどめさせる。さらにはそれだけではなく、このコアを破壊すれば一体どれだけの怪人が消失するのか、その結果をも想像してしまいレッドは自分自身の行為を恐ろしく感じて二の足を踏んでいた。


 ジャスティスイエローは言っていた。自分たちの学校にもすでに三人の怪人が潜んでいると。


 それはもしかすれば自分の担任教師かもしれなかった。もしかすれば自分の前の席の女子生徒かもしれなかった。もしかすれば購買のおばちゃんかもしれなかった。彼らはいずれも悪事とは無縁の、自分にも優しくしてくれた人たちだ。

 そんな人たちが、コアを破壊すれば無条件で悪と断罪されて消えるかもしれない。すでに極悪人だけが怪人になるという幻想は消え去っている。ユダという怪人がその実例だ。


 死刑を執行するという言葉の意味を、レッドは重く背中に乗せて考えなければならなかった。


 レッドはついに耐えきれなくなり、横を向いてジャスティスイエローに向かって訪ねた。


「イエロー、コアを破壊するのは、やめないか?」


 その問いを聞いたイエローは、レッドに視線を向けずに答えた。


「ああ、いいぜ。コアは破壊しないでおこう」

「いいのか!? って、いいのか!?」

「二度も言うなよ。私は最初からそのつもりだったぜ?」


 レッドは大仰に驚いていた。あれほど怪人を嫌っていたイエローが、びっくりするほどあっさりと、レッドの受け入れがたい意見を受け入れたのだ。


 だがイエローの返答は、レッドの考えを真っ向から打ち砕く、シンプルな答えだった。


「このコアは私たちで回収する。このコアさえあれば、エネルギー波をたどって完璧な怪人レーダーが作れるはずだからな。つまりは新しい怪人が生まれてもすぐに殺しに行くことができるようになるってわけだ。ほかのヒーロー戦隊には秘密で、この怪人のコアは私が独占して研究する」

「秘密でっ……!? 研究っ!? おいちょっと待て! なんだそれは! 俺はそんな話は聞いていないぞ!」

「当たり前だ。誰にも言っていない秘密の作戦だからな。……まあ安心しろ、他のヒーロー戦隊を出し抜く形にはなるが、だれにも迷惑はかけないさ。上手く研究が完成すれば私一人でも怪人狩りも回せるようになる極秘計画だ。いろいろと事情があってくわしく説明できないが、とにかく今は私を信用してくれればそれでいい」


 そこまで言うとイエローは、クロスの血で赤く染まった手で六法全書を開いた。


 するとその瞬間、六法全書の空白ページが勝手に開き、烈風の勢いで空気を吸い込んで怪人のコアを取り込んでいく。


 ジャスティスレッドは驚いた。そして、ジャスティスイエローもその現象に驚いていた。


「六法全書が、怪人のコアを吸収した!?」

「……今の反応は私にとっても意外だったよ。てっきり六法全書とは反発すると思っていたんだがな。……案外この二つの本質は同じなのかもしれない。おかげでレーダーの開発手順が10工程はすっ跳んだぜ。これは幸先がいいぞ」


 イエローが研究者調の言葉で呟く。


 怪人のコアの吸いこまれた六法全書のページには、飛び出す絵本のように黒い正八面体が半分頭を出していた。


 レッドはその本から飛び出した黒水晶をじっと見つめた。

 そうしていると精神的に不安になり、レッドは我慢できなくなってついある疑問を吐きだした。


「なあ、イエロー。怪人ってのは、やっぱり悪なのか? 本当に全部が全部、悪い奴らしかいないのか?」


 そう苦悩の混じった声色でレッドは重々しく尋ねた。


 隣にいたイエローはそのレッドの疑問に対して、即座に当たり前といわんばかりの返答を返す。


「何を言っているんだレッド? そんなわけないだろう? 怪人の中にも善人だって結構いるぜ?」

「お、おいイエロー? おまえ、それがわかっているなら、どうしてそんな簡単に善人だって殺してしまえるんだ? 善人は、俺たちが守るべき相手じゃないのか?」

「なにもおかしなことはないと思うがな? 前も言ったが、現実の死刑囚と一緒だよ。善人だろうが悪人だろうが、死刑と決まったら首を切り落とす。それだけだ」

「悪人じゃなくても、法律は処刑してしまうっていうのか?」

「怪人は死刑。それが法律だ。いまさら子供じみた論争はやめてくれよ。過去の判例にのっとって、怪人は死刑にすればそれでいいんだよ」

「……本当に、それでいいのか?」

「それでいいのさ。怪人が増えれば世界が滅びる。何度も言わせるなレッド」


 ジャスティスイエローは呆れたようにレッドを見て肩をすくませた。そのイエローの答えは一つの結論を提示している。いまだ結論を決めかねているレッドには、反論する余地すらもなかった。


 その瞬間だった。静寂の極みにあった核シェルターの中に、ガタゴトとただならぬ異音が響き渡った。


「なんだ!?」


 レッドが驚く。

 その異音は、壁に取り付けられていたエアコンの室外機のような通気ダクトから響いていた。


 最初は故障したかのようにも見えた。だが、やがてそのダクトは濁流のように黒い煙を吐き出し、弾丸のように吸気口は吹き飛んでバラバラに砕け散る。


 通気ダクトの吹き飛んだ後、大きく開いた吸気口から先ほどの黒い煙が勢いを弱めてモクモクと吐き出されていった。その黒い煙は空中でひと固まりにまとまっていくと人の形に集約していき、そして意思があるかのように手足を形成していくと、やがてしわがれた老人の声でしゃべりだした。


「くっ! 遅かったか!」


 その黒い煙は鈍い鉄灰の色の大兜に、黒いマントを着こんだ老人の怪人に姿を変えた。それは現役怪人最古参の歴戦の怪人、悪魔参謀だった。


 悪魔参謀は完全に固体化すると、金属の大鎧をすり合わせるけたたましい音を鳴らしながら着地して、ジャスティスレンジャーの二人を視界に入れた。


「悪魔参謀か! そう言えばあいつは体を煙に変えられる怪人だったな。あの狭い通風ダクトを通ってくるとは、少しは考えたか!」


 ジャスティスイエローがその悪魔参謀の行動を批評するように言った。


「その怪人のコア、どうするつもりだジャスティスレンジャー!?」


 悪魔参謀が叫ぶ。


 その悪魔参謀の声は、緊迫感が伝わって来るほど焦りに満ちていた。


「喜べ悪魔参謀! 私が完成品の怪人レーダーを作ってやるんだよ! そうなればもはやお前らに逃げ場はない! クリスマスまでには完成させて、お前たちの大好きな絶望をプレゼントしてやるよ!」

「そんなことさせぬぞ! お前は一つ勘違いしているが、ここから出られなければそんな計画は成り立たぬ! そのコアはここで奪い返させてもらうとしよう!」

「おいおい。おまえたった一人で、私たち二人と戦うつもりか!?」

「誰が一人で来たと言ったかの? おい! 早く出て来るのじゃ!」


 悪魔参謀が背後を振り返ると、背後の通気ダクトからごそごそと音が鳴った。


「うんしょ、うんしょ! 脱出!」


 その背後の通気ダクトから、人間形態のモリスが這って出てきた。モリスは埃で胸の部分を灰色に染めながらもダクトから抜け出し、二メートルほどの高さの出口から飛び出すと空中で前転して着地する。


「くちゅんっ! ……すごく埃っぽかった」


 さらに通気ダクトから、人間形態のユダも這い出てくる。


 そのユダもダクトから飛び降りてくると、さらにそれに続いて変身を解いた消防士や海パン姿の男も次々と抜け出してきていた。


 大柄な怪人はダクト内を通れない。ゆえに変身を解いて、怪人たちは通気ダクトを抜けてきたのだ。


 ダクト出て着地した怪人は順に悪魔参謀を中心に横一列に並び、各々自由に戦闘態勢をとって構えた。


「我々は合計十三人。ジャスティスレンジャーの二人が相手とはいえ、この人数差ならばさすがに充分じゃろ。さあ、コアを返してもらうぞ!」


 悪魔参謀が叫んだ。

 怪人たちはいずれもまだ変身していないとはいえ、総勢十三名という数の優位は揺るぎようがない。


 いや、揺るぎようがないはずだった。


「なにを勘違いしているんだ? もうお前たちに希望なんて無いんだよ!」


 だが、劣勢に立たされているにも関わらず、ジャスティスイエローはまるで余裕を崩さずに返答する。


 イエローは六法全書を目の前に掲げ、片手でコアの封印されているページを開いた。

 するとその瞬間に、六法全書の黒いコアの浮き出したページから電気の弾ける音が鳴った。


「な、なんじゃっ!」


 悪魔参謀が驚く。


 六法全書の黒いコアから、漆黒の電流が溢れ出た。その電流の放電とほぼ同時に、悪魔参謀をはじめとしたユダやモリスたちの体の内側から、黒い電流が同様に放出される。


 心臓を貫くような黒い放電が空気中に飛び出し、怪人達はそのあまりの激痛に叫んだ。


「ぬぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ござるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


 怪人たちの心臓から噴き出した黒い電流はさらに全身を巡っていくと、過分な電気は空気中に散電していく。


 トミーや海パン姿の男性もまとめて電流を噴き出させると倒れ伏し、通気ダクトに引っかかっていた剣道着の男性もぶら下がって動かなくなった。


 ジャスティスイエローはその様子と六法全書のコアを眺め、感嘆の声で叫んだ。


「ひゅ~! こいつは便利だ! 理論上できると分かっていたとはいえ、魂に直接電流を送りつけることが出来るとは!? このコアさえあれば、もう怪人は全員殺したも同然だぜ!」


 イエローは上機嫌になってさらに勢いよく六法全書から黒い電流を放電させる。怪人たちは電撃の溢れ出る心臓を抑えて地面に這いつくばった。


 その様子を十分堪能したイエローは、見下すような視線で怪人達を見た。


「これが怪人の末路だ! 地面を這いずり、絶望を胸に死ね!」

「ぐ、くっ!」


 悪魔参謀が地面に倒れたままで拳を握る。立ち上がろうと地面から顔を離すも、15センチと浮き上がらないうちに悪魔参謀の顔が再び地面に触れた。その後ろで体を痺れさせているユダやモリスも同様に力を込めていたが、電流に体を灼かれて僅かたりとも動けない。


 しかし、ふとユダたちを内側か灼いていた黒い稲妻が大きく電圧を弱め始めた。イエローはその電流の減少を確認すると六法全書の表紙を閉じ、そして六法全書を巨大な両刃斧に変形させてそれを手に握った。


「……ちっ! 残念だが、この電流だけで殺し切ることも出来ないみたいだな。まあ、処刑はやっぱり斧が一番だ。レッド、手分けしてこいつらの首を切り落としていくぞ!」

「イエロー! 待て! こんな一方的に……! 動けなくなった相手にトドメなんてっ!」

「いつもやってることだろうが! 処刑は相手が動けなくなってからだ! いつもの戦いを思い出せ! 怪人の処刑は勝利が確定した後の一番楽しい時間だぞ!」


 イエローはゆっくりと一番近くにいた悪魔参謀に近づいていった。歩きながらに両刃斧を振り上げ、そして悪魔参謀の目の前で大上段に構える。


 悪魔参謀は体を地面に伏せたまま何とか顔を上げ、ジャスティスイエローを見上げた。


「わしは……、わしは、また、負けたのか……? 土壇場になって、また、逆転されたのか?」

「そうだよ、死ね!」


 イエローは無情にも、悪魔参謀の頭を頭蓋から真っ二つに叩き割った。


 裁断された悪魔参謀は黒いすすのようになって爆散。その飛び散った黒い靄は霧散して、悪魔参謀は跡形もなく消滅した。


「おいレッド、お前も早く手伝え!」

「だめだイエロー! こんな処刑、俺は、手伝えない!」

「いまさら変な意地張ってんじゃねぇよ! 次殺るぞ、次!」


 そう言うとイエローは流れ作業でもするように斧を持ち上げ、近くに這いつくばっていたユダの前にまで歩いていった。


「うっ……!」


 ユダはジャスティスイエローを見上げてうめく。


 イエローはユダの目の前で立ち止まり、両刃斧を両手で硬く掴み直すと慣れた動作で高々と持ち上げていった。


「やめろイエロー! その人は、だめだっ!」 

「怪人をえり好みしてんじゃねぇよ! こいつらの数を減らさなければ世界が滅びるんだ、いい加減覚悟を決めやがれタマナシ野郎!」


 イエローの振り上げられた大斧の刃は、真っすぐにユダの頭蓋に向けられる。そして斧はゆっくりとイエローの頭上高くまで振りかぶられていった。


「やめろっ! やめてくれ!」


 レッドは懇願するようにイエローに向かって叫んだ。


「うるせえぞ! お前も黙って仕事しろ!」


 しかしイエローは一切妥協しない。大きく振りかぶった大斧の先に電流を帯電させると、人間形態のユダの眉間に狙いを定めた。


 斧の先に十分な電力がたまっていくと、待ったもなしに斧を握る力を強く加える。


「やめろォォォォォォォォ!」


 レッドは叫び、ついに耐えきれずに激情に任せて行動していた。


 赤い長銃を取り出して、背後からイエローの黄色いヘルメットに押し当てる。


「……それは何のつもりだ、レッド?」


 イエローは斧を持ち上げた姿勢でぴたりと止まった。そのレッドの意外な覚悟に、イエローは振り返ることもなくレッドに対して聞き返していた。


 ジャスティスイエローの声は重々しくゆっくりとしていた。


 だがレッドは迷うことなく長銃のコッキングを引いてエネルギーを込める。荒い呼吸でレッドの肩は上下していたが、しかしその照準がイエローのヘルメットから外れることはなかった。 


 レッドの決意は戸惑いを含んでいながらも、しかし、強固なものだった。


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