第十二話 深まる謎! 燃え上がる正義! 見えない邪悪はどこにいる! 終焉の第一幕 開演!
「なあ、おい、カタギレッド。本当にこの採石場であっていると思うか?」
四十八人のヒーロー戦隊の集団の中で、フューチャーブルーが言った。
「くどいやないかフューチャーブルー。こいつは確かな情報や。もともとジャスティスイエローの情報は毎度毎度正確やが、今回はあっしの方からも別の情報筋から裏付けとってある。あの採石場のどこかに、怪人のアジトがあるのは間違いないで」
カタギレッドはドスの利いた、低くかすれた声でそう答えた。
雑多なヒーロー戦隊が行軍する中で会話しているのは、カタギレッドとフューチャーブルーだった。
そのカタギレッドの返答にフューチャーブルーは少しばかり考え込むと、さらなる疑問をカタギレッドに向けて問いかけた。
「……その情報筋、っていうのは、もしかして怪人ファントムのことじゃないか?」
「なんやフューチャーブルー。ファントムんこと知っとったんか?」
「ああ。私の所にも匿名で情報が届いていた。その人物を調べたところ、怪人の裏切り者ファントムという名前にたどり着いたんだ」
「せやったんか。今時珍しい怪人やでほんまに。正義感にあふれた怪人は昔からボチボチおったが、怪人の情報を売り渡す裏切り者なんてファントムくらいや。おかげであっしらも、今回だけで十匹の怪人を殺ることができた」
「……それを不気味に思わないのかカタギレッド? 目的の分からない相手から送られてくる情報だぞ?」
「有益なものにはなんにでも飛びつくのがカタギやで? まあ、たしかに、うちらをいいように扱おうっていう魂胆は見えとったよ」
「なんだ、そこまで気付いていたか。私もやつの情報には不気味さを感じていた。まるで怪人の情報をエサにうまく操つられているかのようだった。だが、いくつか不可解なことがある。やつが怪人の裏切り者だとして、最初は内部抗争からの味方殺しかと私は思っていたんだ。ヒーロー戦隊を利用して自分に従わない怪人を減らし、最後に嘘の情報にはめて私たちを殺害することで、自分が第二の怪人王になるつもりなのだとな。しかし今回送られてきたのは怪人のコアの情報だ。コアを破壊すれば怪人は一斉に死滅するのに、なぜ自分にまで危険が及ぶ情報まで送ってきた?」
「……今回のこの情報こそ、最後の嘘の情報、っていう可能性はあらへんのか?」
「その可能性はもうない。お前に話し掛ける前にさっき確認した。あの山の中に本物の怪人のコアが隠されていることを私のヒーローデバイスが観測している。もし今回の情報が罠だったとしても、本物のコアを使ってまで決戦を挑むのはどう考えても自殺行為だ」
「ついさっき観測、っちゅうことは今回始めて封印が解かれたっちゅうことやな。最近現れた黒いコートの怪人が何か関係しとるんとちゃうんか?」
「黒いコートの怪人か。タイミング的には一番怪しいんだがな」
「せや、怪人ファントムはその黒いコートの怪人やろ? ジャスティスレンジャーをまとめて打ち倒したらしいし、腕に覚えがあるんやろうな。あっしらヒーロー戦隊をまとめて相手にする自信があるからこそ、ほんまもんのコアを囮につこうてるんとちゃうんか?」
「……いや、その可能性も怪しいところだ。まず、最初に届いた怪人ファントムの匿名メールは2年前だ。つまり怪人王ゾシマの登場とほぼ同時だな。それから2年間も歴代怪人の軍団の中で、しかも怪人王の側近並みに情報を集めることができるのは相当古参の怪人でなければ不可能だ。少なくともゾシマの登場以降に生まれた怪人では、怪人社会の内情をすぐに把握して情報を横流しすることなんてできはしない。だが黒いコートの怪人は古い時代の怪人ではないことは確実だ。過去の怪人は今回のように怪人王が復活させなければ勝手に生き返ることはありえない。しかし復活の儀式の関係上、復活した怪人は我々も全て把握することができる。だが、その中に黒いコートの怪人は含まれていなかった」
「……つまり黒いコートの怪人は新参で、ファントムは古参の怪人っちゅうわけやな? しかしそう考えると不自然やな。復活した怪人のメンツはあっしも見たが、こんなふうに怪人を裏切るような頭脳派は居なかったで?」
「それは私も思った。今回生き返った怪人は凶暴性の少ない連中ばかりだ。怪人王を裏で操れるような頭脳派の怪人はいなかった。さらに言えば古参の怪人がいまさら裏切る理由が分からない。そもそも本来、歴代の怪人王が体内に隠しているはずのコアが剥き身で隠されている時点で、第二の怪人王になるのは資格さえあれば非常に容易なはずなんだ。しかし今の今まで誰も怪人王にはなっていない。資格を持っていないのに怪人を裏切っていたとなると、さらにわけがわからなくなる。怪人ファントムにとって怪人を裏切るメリットが一切ないんだ。もしかすれば自分も含めて全部の怪人を殺すつもりなのかもしれないが、そんな自己犠牲の塊のような怪人がいると思うか?」
「んなら怪人ファントムは生身の一般人っちゅう可能性はあらへんのか? あっしはそんな噂も聞いたで? 生身ならコアが破壊されても関係ないんやろ?」
「生身か、そういえばその可能性もあったな。しかし、だとすれば怪人を裏切る動機はなんだ? コアを破壊して怪人を全滅させて、そいつにはいったい何のメリットがある? 怪人王の側近として協力しておきながら、なぜ裏切った?」
「……んなら、一番ありえそうで、一番ありえない可能性が残っとるで」
「なんだ?」
「怪人ファントムは、どこかのヒーロー戦隊のスパイなんや」
「なんだと!? そんなこと、あり得るのか?」
「一番ありえそうな話やないか? コアを破壊して一番得をするのはうちらヒーロー戦隊や。ヒーロー戦隊のスパイが怪人の中にいるっちゅうんなら、これまで匿名で情報を送ってきたのもうなずける。怪人たちに自分のこと知らされるわけにはいかんからな。怪人王ゾシマの子供っちゅう情報はどっかから尾ヒレがついたんやろ。問題は、どこのヒーロー戦隊がそんなえぐいこと考えついたか? っちゅうことやな」
「たしかにそうだな。こう言ってはあれだが、ヒーロー戦隊の中でそんならしからぬ作戦を考えるのは私かお前ぐらいなものだからな」
「残念だが今回の件はうちらやないで。ほかにありえそうなのはポリスレンジャーやけれど、あいつらは今回4体しか怪人殺ってへんらしいからな。スパイがいるのにその討伐数は不自然や。ギャンブルブルーも頭脳派やけどもこういった真似はせえへんし、2年前から続く話やから同じく頭脳派でも新参のジャスティスイエローもありえへん。そうなると、どこのだれがスパイを送ったんやろうな?」
「……私には見当もつかないな。正直、今回の戦いは不気味すぎる。なぜ、怪人王ゾシマはコアを隠したのか。怪人ファントムとは誰なのか。駅前でジャスティスレンジャーを襲った黒いコートの怪人は何者か。なぜ、ヒーロー戦隊に有利な情報ばかりがこうも簡単に集まるのか」
「裏で何かしら糸引こうとしとるやつがいるんは確かやな。目的が分かればまだ安心できるんやけれどなぁ……。せやけどブルー、今回の件、別にそれほど気にする必要はないとちゃうんか?」
「なに? それはどういうことだ」
「見えもせん陰謀を考えても意味がない、っちゅうことや。ヒーロー戦隊の歴代の戦いに置いて、罠を前もって見破った試しがないんや。どうせ今回も罠にかかってから力技で押し切るしかない。それがヒーロー戦隊らしい戦い方やろうし、それ以外で解決した事件もない。陰謀なんて黒幕が出てきたらペラペラと種明かししてくれるんや。うちらはそんな陰謀を真正面から喰い破ってやるべきやろ?」
「……ずいぶんと脳天気だな。確かに負けることはないにしても、コアの破壊が長引いたらお前たちだって面倒なことになるんじゃないのか?」
「まあせやけど。うちらはそれ以外にも金を稼ぐ方法があるからまだまだ余裕があるんや。面倒な契約のあるあんたらとは違ってな。せやから、今日はただ勝利を楽しもうと思っとったんよ。それに……」
カタギレッドはやや肩をすくめると、同時に先頭を歩いているジャスティスレンジャーの背中を見た。
「それに今回の主役はジャスティスレンジャーや。うちら古株のヒーロー戦隊は下手にいじらずに見といてやらなあかんよ。うちらが主役だったのはもう二十年も昔の話や。年寄りは年寄りらしく、若い衆を引き立ててやるのが筋ってもんやで」
カタギレッドはジャスティスレッドの背中を見た。
カタギレッドの朱雀の刺繍の入っている背中に比べるとジャスティスレッドの背中はずいぶんと小さく幼く見えたが、その若い背中をカタギレッドは温かく見守った。
ジャスティスレンジャーはこの集団の先頭で五人横一列に歩いていた。
ヒーロー戦隊全体はバラバラに行軍しており、後方では一部遠足気分なヒーロー戦隊もいたようだったが、旗頭となるジャスティスレンジャーはまるで模範を見せるように一糸乱れぬ陣形を維持していた。
そして広大な採石場の荒野にたどり着いた頃になって、ジャスティスレンジャーは五人同時にぴたりと足を止めた。
「……あいつだ」
ジャスティスレッドが言う。
ジャスティスレンジャーの視線の先を覗くと、そこには黒いレザーのロングコートに、フードとマフラーで顔を隠した、異様な風体の男が立っていた。
「おう、あれが例の黒い怪人か?」
「ああ、そうだ」
歩いて近づいてきたカタギレッドの言葉に、先頭のジャスティスレッドが短く返した。
ジャスティスレンジャーを中心に、歩いてきた後続のヒーロー戦隊は左右に広がって陣形を整えていく。
そのヒーロー戦隊が陣を整えきらないうちに、ジャスティスレッドが怪人に向かって叫んだ。
「おい、そこの怪人! 貴様のその後ろの丘にコアがあることは分かっているんだ! お前たちにもう勝ち目はない! お前が何者かは分からないが、それでもしゃべることくらいは出来るだろう! ならばせめて名乗りくらいは上げたらどうだ!? 誰の記憶にすら残らずに消えてしまうのはお前だって嫌なはずだ!? お前は何者だ! お前はいったい、誰なんだ!」
「…………」
レッドの叫びに、黒いコートの怪人はまるで反応を返さない。そうして反応を待っているうちに、ヒーロー戦隊たちは横一列に整列し終えていた。
いつまでもしゃべる事のない黒いコートの怪人に痺れを切らし、ジャスティスレッドはさらに一歩踏み出し、より強い言葉で話しかけようとした。
「待ちたまえ、ジャスティスレッドくん」
だが、オーパーツレッドが前に出て手をかざし、ジャスティスレッドの言葉を遮った。
そのフルフェイスのマスクにゴーグルを取りつけたかのような、格好のいいとは言えないデザインのヒーロー戦隊・オーパーツレッドは、逆にその洗練されないデザインを年季があると思わせるほどの威厳を見せながら、ジャスティスレッドを諭すように言った。
「他人に名前を聞く時は、まずは自分たちから。正義の味方が礼儀を忘れてはいけないよ? ……オーパーツレンジャー! 整列!」
「はい!」「ええ!」「ああ!」「おう!」
オーパーツレンジャーが返事を返し、全員一歩前に進み出て、それぞれ名乗りを上げていった。
「古代の炎で全てを焼き切る! 暗闇から生まれた炎の力! オーパーツレッド!」
「いにしえの水で全てを断つ! 超古代文明の水の力! オーパーツブルー!」
「あまねく闇の全てを照らす! 歴史に埋もれた光の力! オーパーツイエロー!」
「いかなる暗雲も風で切り裂く! 大空に隠れた風の力! オーパーツグリーン!」
「深き大地は命の重み! 人の子知らざる大地の力! オーパーツブラック!」
「太古の力で体を包み、現世の闇を打ち払う! いにしえ戦隊オーパーツレンジャー!」
オーパーツレンジャーの背後で爆発が起こった。
「宇宙の光よ、この身に宿れ! 未来の力、フューチャーレッド!」
「科学の力よ、この身に宿れ! 理化学の力、フューチャーブルー!」
「医療の技術よ、この身に宿れ! 現代医学の力、フューチャーピンク!」
「戦争の歴史よ、この身に宿れ! 火薬の力、フューチャーグリーン!」
「大いなる神よ、この身に宿れ! 宗教の力、フューチャーホワイト!」
「歴史の力で悪を斬る! 未来戦隊フューチャーファイブ!」
フューチャーファイブの背後で爆発が起こった。
「背中に背負うは赤の朱雀! 炎の長ドス使い、カタギレッド!」
「背中に背負うは青の青龍! 氷のチャカ使い、カタギブルー!」
「背中に背負うは黄色の黄龍! 雷のヤッパ使い、カタギイエロー!」
「背中に背負うは緑の玄武! 猛毒のレンコン使い、カタギグリーン!」
「背中に背負うは白の白虎! 鋼鉄のワッパ使い、カタギホワイト!」
「悪の組織にケジメをつける! 任侠戦隊カタギレンジャー!」
カタギレンジャーの背後で爆発が起こった。
「赤いサイレン心に響く! 一番乗りはレッドポリス!」
「青のバイクで悪を追いこむ! 二番手カラテのブルーポリス!」
「緑のハジキに魂乗せて! 三薫三沐のグリーンポリス!」
「ピンクの愛で取り調べ! 信頼の四訓ピンクポリス!」
「黒の捜査で闇夜を暴く! 五導の暴力ブラックポリス!」
「110番の叫びを聞いて、やって来ました正義の味方! 警察戦隊ポリスレンジャー!」
ポリスレンジャーの背後で爆発が起こった。
「戦車の力をこの身に宿す! 特攻一番、レッドミリタリー!」
「ヘリコプターの力をこの身に宿す! 大空飛翔、ブルーミリタリー!」
「列車砲の力をこの身に宿す! 一撃粉砕、イエローミリタリー!」
「ゲリラ兵の力をこの身に宿す! 乾坤一擲、グリーンミリタリー!」
「衛生兵の力をこの身に宿す! 愛情一番、ホワイトミリタリー!」
「正義の弾丸、装填完了! 最強の威力偵察部隊、ミリタリーレンジャー!」
ミリタリーレンジャーの背後で爆発が起こった。
「炎のカラテで悪を殴る! 熱き心のレッドファイター!」
「水のジークンドーで悪を突く! 清き魂のブルーファイター!」
「雷のサンボで悪を締める! 正しき技のイエローファイター!」
「音のカポエラで悪を蹴る! 優しき規則のオレンジファイター!」
「黄金のスモウで悪を押し出す! 強き力のゴールデンファイター!」
「正義のこぶしに力を込めて! 悪と戦う五人の戦士! 格闘戦隊ファイトレンジャー!」
ファイトレンジャーの背後で爆発が起こった。
「野球の力で怪人をホームランッ! スポーツレッド!」
「サッカーの力で怪人をシュート! スポーツブルー!」
「テニスの力で怪人をサーブ! スポーツイエロー!」
「バスケの力で怪人をダンク! スポーツグリーン!」
「ビリヤードの力で怪人をショット! スポーツブラック!」
「流れる汗が悪を貫く! ダーティープレイは許さない! 運動戦隊スポーツレンジャー!」
スポーツレンジャーの背後で爆発が起こった。
「できた役は五光の花札! 大穴狙いのレッドギャンブラー!」
「できた役はロイヤルストレートフラッシュのポーカー! 逆転狙いのブルーギャンブラー!」
「できた役は国士無双のマージャン! 一発狙いのイエローギャンブラー!」
「できた役は777(スリーセブン)のスロット! 確変狙いのピンクギャンブラー!」
「できた役は爆上がりのFX! 荒稼ぎ狙いのブラックギャンブラー!」
「命を賭けて悪と戦う、一発限りの正義のヒーロー! ギャンブル戦隊チップインヒーロー!」
チップインヒーローの背後で爆発が起こった。
「赤いバラを正義に捧げる。愛しき正義の心、レッドフラワー」
「青いスミレを愛に捧げる。清く正しい、ブルーフラワー」
「黄色いヒマワリを友に捧げる。暖かい優しさ、イエローフラワー」
「愛と心のフラワーレンジャー。世界に愛が満ちますように……」
フラワーレンジャーの背後で、花びらがフワァと舞い散った。
「国語の赤は生徒の努力! レッドティーチャー!」
「算数の青は心の足し算! ブルーティーチャー!」
「英語の黄色は魂の叫び! イエローティーチャー!」
「保健体育の白は清らかな愛! ホワイトティーチャー!」
「歴史の黒は隠されし真実! ブラックティーチャー!」
「PTAの力を借りて! 教育の力で世界を変える! 教育戦隊ティーチャーレンジャー!」
ティーチャーレンジャーの背後で爆発が起こった。
総勢四十八名。十組のヒーロー戦隊の名乗りが終わった。
そして最後の一組。中央に整列したジャスティスレンジャーも、少し間を落ちてから、覚悟を見せつけるように力強く名乗りを上げた。
「六法より与えられし、炎の憲法の力! ジャスティスレッド!」
「六法より与えられし、氷の行政法の力! ジャスティスブルー!」
「六法より与えられし、雷の刑法の力! ジャスティスイエロー!」
「六法より与えられし、光の社会法の力! ジャスティスホワイト!」
「六法より与えられし、闇の産業法の力! ジャスティスパープル!」
「六法全書の力を借りて、すべての悪を処断する! 法律戦隊ジャスティスレンジャー!」
ジャスティスレンジャーの背後で七色の爆発が起こった。
その爆発は苛烈なまでに大きく、小さな砂粒を黒いコートの怪人の足元にまで飛び散らせるほどだった。
「…………」
全部のヒーロー戦隊の名乗りを終えても、黒いコートの怪人は何も話そうとはしなかった。ただヒーロー戦隊全員の姿を真っすぐに見据え、静かに立っていた。
黒いコートの怪人はヒーロー戦隊を眺めていた。
フードの奥に隠れていた赤い目が発光しているかのように煌めいている。その赤い目はフードの中で蛍火のように揺らめき、暗黒に染まった影の深淵からはすべてを見透かすような視線を向けていた。
本来ならば、そこ立っているのは特別目立った装飾のない黒いロングコートを着ただけ男がいるにすぎない。だが、装飾過剰だった怪人王ゾシマと対比して、その男は真の邪悪であるようにも見えた。
「総員! 武器を取れ!」
ジャスティスレッドが号令をかける。
ジャスティスレンジャーを含めた五十三人のヒーロー戦隊が一斉にそれぞれの得物を構えて、すぐにでも突撃できる体勢を取った。
もはやジャスティスレッドも黒いコートの怪人の言葉を待つつもりはなく、上段に斧を構えて突撃の準備を整えている。
「…………」
黒いコートの怪人はその圧倒的な数の差を目にしてもまるで怖気づく様子を見せない。五十三人のすべての敵意が向けられているにもかかわらず、怪人は余裕を持って立ちかまえていた。
やがてその黒いコートの怪人は名乗りを上げる代わりに、ゆっくりと片腕をヒーロー戦隊に向けて伸ばすと、
……天に向けて、中指を突き立てて見せた。
その怪人の動作が、戦いの火蓋を切った。
「かかれーー!」
ジャスティスレッドの号令と同時に、すべてのヒーロー戦隊が黒いコートの怪人に向かって駆けていく。
武器に炎や雷をまとわせた極彩色の軍勢は、そのたった一人に吸い寄せられるように突撃していった。