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ダークヒーローが僕らを守ってくれている!  作者: 重源上人
VS.法律戦隊ジャスティスレンジャー編
13/76

第十一話 集まれ怪人! 作戦会議だ! とりあえずみんなで絶望しようか!

「そんな! ジャスティスレンジャーだ!」

「それだけじゃないよ! オーパーツレンジャーにカタギレンジャー、歴代のヒーロー戦隊たちが、全部ここに集まって来ている!」


 モニターに映し出されたのはジャスティスレンジャーを筆頭とした、ここ三十年間に活躍した四十八人のヒーロー戦隊たちだった。

 その極彩色の軍勢はいずれもすでに変身済みで、武器も剥き身のまま手に持って歩いて来ていた。


「ど、どうしようモリス!?」

「どうするもこうするもないよ!? まずはみんなを復活させないと!」

「そうか、そうだね! すぐに全部のチップを割らないと!」


 そう言うとユダは地面に散らばったチップを両手でかき集めはじめた。


「ま、まってユダっち! 出来れば優しく割ってあげてね! これ、思いのほか痛いから!」

「分かった!」


 そう言うとユダは、地面に散らばったチップを集めて一つの山を作っていく。


「……ちょっと待ってユダっち! その集めたチップをどうするつもり!?」


 何をするのかとモリスが疑問に思った時、すでに遅い。


 「えいっ!」


 ユダはそのひとまとまりになったチップの山に足を乗せると、遠慮もなしに思いっきり踏みつぶして破壊していった。


「ユダっちぃぃぃぃぃぃ!?」


 モリスが絶叫する。


 バキバキバキバキ、と、洒落にならないくらい小気味のいい音が、ユダの足元から響いた。


「わっ! わっ! わ!」


 ユダの足の下で爆竹がはじけるような勢いで黒い煙が炸裂していく。


 モリスやトミーのチップを割った時とは比べ物にならないほどの電流が弾けて、やがて黒い煙が周囲を包み込むほどまで広がると、中から複数人の絶叫が響いた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぇぇぇぇぇぇ!」

「か、体がぁぁぁぁぁぁぁ!」

「痛ぁぁぁい!?」

「骨がぁぁぁぁぁぁ! わしの老骨がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 黒い煙の中から地面に這いつくばって現れてきたのは、多種多様な人々であった。


 和服の老人、海パン姿の男、キャバ嬢らしきドレス姿の女、剣道着姿の男、サンタクロース、歯科医師、忍者、神父服の男、魚屋の店主、アメフト選手、防火服を着た消防士。

 そんな老若男女問わない十一人の男女が、全身の痛みに悶えて地面を転がった。

 

 その人物たちの姿を見たユダは、喜びの声を上げた。


「わぁ! 懐かしい! みんな、生き帰れたんだね!」

「今死ぬところだ! ああ、体中が痛ぇ! しかもなんだよこれ、最悪の状況じゃねえか!? なんだよこのヒーロー戦隊の数!? どう考えてもこれ、またすぐに封印されるオチじゃねえか!?」


 這いつくばった人のうちの、海水パンツを履いた男性がモニターを見て叫んだ。


「おいっつううぅ。……う、うむ、まずは生き返らせてもらえたことを感謝するでござるよ。ユダ殿と申されたか、ところでいったいこの状況、なにがどうしたというのでござるか?」


 地面に伏せた人たちのうち、剣道着を着た男性がユダに声をかけた。


 だが、その問いかけに対してユダは戸惑うしかない。


「私にも分かんないよ。もしかしたら、尾行されちゃったのかも……」

「尾行じゃないな。尾行ならすぐにヒーロー戦隊を全員集めるなんてできないだろうからな。おそらくどこかから情報が漏れたんだ」


 トミーが冷静な推理を下す。


 だが、原因がどうであろうとヒーローたちが山道を登って来ているという事実は変わらなかった。


 その絶望的状況の中で、希望的観点はないのかと、海パンの男性が再び声を荒げた。


「そんなことはどうでもいい! おいトミー、本当にヒーロー戦隊はこの基地に向かって来ているのか? 他の怪人を追ってきたとかの可能性はないのか?」

「モニターがヒーロー戦隊以外を映していないから、その可能性はないな。と、いうか、ここのコアが感知されたからサイレンが鳴ったわけだしな」

「じゃあなんだ、ここがバレているのは確定か!?」

「ピンポイントで確定しているはずだぜ?」

「くそったれ! あいっつ、あいたたた!」


 海パンの男性は地面に伏せたまま床を拳で叩き、そのまま腰をおさえて再び地面に肩をつけた。


「ま、まずいでござるよ。全身が痛くて、起き上がれん。拙者、武士とは言え、これは我慢できぬでござるよ!」


 剣道着姿の男性も無理やり膝をついて立ちあがろうとしていたが、全身の痛みが辛いのか、半身を起したままの姿勢でそれ以上体を起こすことができない様子だった。


 その行動をいさめるように、近くで倒れていた老人が言葉を放った。


「慌てては行かんぞ皆の者。わしはこうして生き返ったのは実は三度目じゃが、毎度毎度一時間ほどは動けんかった。しかもその時、腰を真っ二つに折られて以降ぎっくり腰が持病になってしまったほどじゃ。無理に動けばそれだけ回復が遅くなる。みな、ヒーロー戦隊が来るまで安静にするのじゃ」


 老人が冷や汗をかきながら全員に注意喚起を行う。


 だが、現状そんな安静にする余裕はどこにもなく、慌てたモリスが反応を返した。


「これ、一時間も回復に時間がかかるの!? ヒーロー戦隊はもう二十分もしないうちにここに来ちゃうよ!?」


 そのモリスの予想到着時間はおそらく正確であった。クロスとユダがここに上って来る時もいまヒーロー戦隊が通ってきている道と同じ道を通ってきたのだが、それもだいたいニ十分ほどであった。


 だがその絶望的な時間の中で、腰をさすっていたトミーが希望を見つけたかのようにハッと顔をあげた。


「そうだ! なあ、あんたはジョージ・マッケンジー爺さんだよな! たしかオーパーツレンジャーの時代から兵器を開発していたんだろ。そんなあんたなら知っているんじゃないか、ここには秘密兵器が隠されているって!?」

「秘密兵器! なにそれ! どんなの!?」


 モリスが秘密兵器に興味を持って反応した。


 秘密兵器といえば無条件で強力な品物。この最悪の状況を打破するには、それ以上頼りになるものはない。


 しかし、その秘密兵器について語るジョージ・マッケン爺の表情はどうにも重々しかった。


「まず、わしの本名を変なところで区切らんでくれ。わしの名前は城島健二じゃ。……秘密兵器は確かにあるぞ。わしも開発にいくつか助言した。だがの、いまだ未完成の代物じゃ。この場では使えん」

「未完成なの!? じゃあ動かないの!?」

「いや、起動はするのだが……。それは怪人王ゾシマが考案した秘密兵器なのじゃが、未完成品ゆえに名前すらもない。もし完成していれば、ヒーロー戦隊の変身を強制的に解除することが出来たらしいのじゃが……」

「なにそれ! そんな兵器があれば、勝ったも同然じゃない!」

「落ち着くのじゃ、未完成品と言ったじゃろう。変身が解けるのは、ヒーロー戦隊だけじゃない。……わしら怪人も、その効果を受けるのじゃよ」

「ええ!? ……じゃあ、たとえ使ったとしても」

「うむ。こちらは12人。あちらは53人。たとえわしらが全員問題なく動けたとしても、勝てる気はせんのぅ」


 ジョージ・マッケン爺の表情は悩ましいものだった。


 怪人がヒーロー戦隊相手に勝てる道理などない。それはヒーローたちの強力な装備を喪失させても同義で、12人対53人では生身での戦いでも勝てる要素はない。しかもこちらには老人など戦えない人も含まれているのだ。


 それゆえに怪人たちは希望を完全に失い、場の空気は重いものに変わっていた。


 だが、ユダだけがそこで何かを思いついたようにクロスを見て、そして叫んだ。


「勝てるかもしれない!」

「なんじゃと!」


 ジョージ・マッケン爺が驚きの声を上げる。ユダはクロスをじっと見ており、その視線につられてジョージ・マッケン爺もクロスを見た。


「オゥフ…………」


 クロスはその視線に気圧されるように、半歩その身を引き、冷や汗をかいた。


「私たちにはクロスさんがいるもの! クロスさんならきっと勝てるよ! クロスさんは変身しなくてもものすごく強い、一般人の人だから!」

「なに!? 一般人じゃと!」

「ユ、ユダ殿! 一般人をここに引き入れるのは、さすがにまずいのではなかろうか!?」


 周囲がそのユダのアイディアに戦慄する。


 怪人にとって一般人を仲間にするのは禁忌であり、暗黙の了解として浸透していた。それゆえにクロスの存在を見た怪人たちは、誰もがその見た目が一般人に見えないと思いながらも、この場から排斥すべきではないかという意見ですでに固まっていた。


 だが、事情を知っているモリスはユダに理解を示し、周囲を説得できないかと思い立った。


「そうだよ! クロスさんなら秘密兵器の影響を受けても戦えるよ! 私が封印されてた時、ジャスティスレンジャーを正面切って倒してたすごく強い人だもん! 今ここでみんなが仲間だって認めてくれたら、まだ私たちに勝ち目があるかもしれないよ!」


 モリスは希望のこもった声で言う。だが、当然のようにトミーが反対した。


「ばか! 一般人を仲間にすることは俺たちにとって禁忌だって言っただろ! 怪人王ゾシマの言葉を忘れたか!?」

「その怪人王だって死んじゃったじゃない! 別にいいでしょ! 禁忌を破ることより、死ぬことの方が怖いんだから!」


 モリスは叫ぶように場の全員に反論した。だが、モリスの考えに賛同する怪人は居らず、そのモリスの考えには否定的な表情を見せるものがほとんどだった。


 中でも長老じみた雰囲気をもったジョージ・マッケン爺が、直接言葉にしてにモリスの考えを否定する。


「落ち着くのじゃモリス。わしらは本来、生きていることのほうが間違っている存在。我らのような死ぬ運命の泥船に、未来ある生者を乗せてはならんのだ」

「じゃあ、私たちに死ねっていうの!」

「左様。元々怪人は死ぬのがさだめ。運命を受け入れ、華々しく散ることこそ怪人の生きざまじゃよ」

「そんなのお断りだよ! だったら私にだって考えがあるよ! 出てこい、ダストホース!」


 モリスが叫んだ瞬間、錆びたステンレスカラーのダクトホースが背中から触手のように伸びて出てきた。


「な、何をする気じゃ! モリス!」


 ジョージ・マッケン爺はそのホースの先を向けられるのではないかと思い身構えた。


 だが、そのホースの銃口は意外にも、クロスの顔面にまっすぐ向けられた。


「ヴォッ!?」


 クロスもまさか自分にその銃口を向けられるとは思っておらず、一歩後ずさった。


「このクロスさんはね、怪人になれる才能があるんだよ! 私のチップを割られたとき記憶が混濁して、少しだけクロスさんの過去を見ることができたの! その過去には、私たちと同じ怪人になれるだけの絶望の暗闇があった! クロスさんには才能がある! 今死ねば、確実に怪人に生まれ変われるはず! もしここでクロスさんが怪人になったのなら、だれも仲間にすることに文句は言わないでしょ!?」

「な、モリス! お前はまさか、恩人を殺す気なのか!?」


 トミーが近寄ると、モリスはトミーにも片方のホースの銃口を向けた。


 怪人たちの中に動揺が走る。モリスを静止しようにも復活の反動で痛みを負った体では、とっさに駆け寄ってモリスを止めることができる者などいなかった。


 モリスの背中から生えたバズーカ砲並みの威力を持つダクトホースは砲塔の奥を赤く熱していき、いつでも発射可能な状態に移行していく。そしてモリスの目にも、発射することを躊躇わないであろう意志の強さが表れていった。


「ごめんなさいクロスさん。でも、怪人になることは何も悪いことじゃないの。怪人になることは、絶望から抜け出して第二の人生を歩めるチャンスでもあるのだから!」


 モリスがクロスの充血した目をまっすぐに見つめて言った。


 ダクトホースの穴の奥が赤く光り、発射の前動作として空気中の塵を僅かに吸い込んでいく。ホースの奥の光は段々と赤みを増していき、まるで奥に溶鉱炉があるのではないかと思えるような熱を放った。


 その本気の度合いがうかがえる動作に、場の全員は戦慄した。


「やめろ! モリス!」


 トミーが叫ぶ。


 だが、モリスはダクトホースの下を片手で支えて構えると、問答無用で発射できる姿勢に移った。


「圧縮完了! ブレイズアップ・ダストシュート!」

「モリス! やめて!」


 ゴミの弾丸が発射されようとした瞬間、ユダが、モリスとクロスの間に割って入ってきた。


 ユダはダクトホースの発射口の、文字通り目の前に立って射線を遮ると、クロスをかばうように両手両足を大きく広げて立ちかまえた。


「邪魔しないでユダっち!」

「邪魔するよ! そんなの、間違っているもの! クロスさんは私たちの……! いえ、私の友達だから! 友達を傷つけるっていうのなら、私はモリスを許さないよ!」


 ユダはモリスを睨みつけた。


 モリスはその眼力に押されるようにウェーブのかかった髪を揺らして後退したが、踏みとどまると逆にユダの目を睨み返す。


「じゃあ、誰がヒーローたちと戦ってくれるの!? 今の私たちにはだれよりも強い怪人の味方が必要なんだよ!? 他に方法があるっていうなら、言ってみてよユダっち!?」

「そ、それは……」


 ユダは視線を落として口ごもった。代案などすぐには思いつくはずがなく、そして今の状況を変える方法も思いつかず、ユダは両手を広げたまま苦々しい表情で固まった。


 ユダがモリスに睨みつけられて、ほんの三秒ほどの時間が流れた。


 その時だった。意外な声がユダの背後から響き、その流れを変えた。


「…………ユ、…ダ」

「……えっ?」


 ユダの背後から、びっくりするほど低音の効いた、ぐぐもった声が聞こえてきた。


 ユダがその声に驚いて振り返ると、黒いレザーの手袋をつけたクロスの大きな手が、ユダの肩に乗った。


 そして、クロスはユダの隣を通り抜けていく。


「…………」


 クロスは無言でユダの肩をおさえて背後に押しのけ、そしてモリスに向かって歩いていく。


「えっ!? こ、来ないで、クロスさん!」


 クロスはモリスに近づいていった。モリスはその姿に恐怖し、一歩後ずさった。


 無言で近づいてくるクロスのプレッシャーは、敵意のあるなしに関わらず強烈なものだった。

 モリスはあわててダクトホースの発射口をクロスの眉間に向け直して威嚇した。


「来ないでっ!」


 モリスが叫ぶ。発射口の奥の赤い光を威圧的に輝かせ、蛇が牙を見せつけるように発射口を掲げる。


 だが、クロスはその発射口をこともなげに片手で押しのけた。そのクロスの手に強い力は込められていなかったが、ダクトホースはそのわずかな力に押されて横に動いた。


 モリスは再び発射口をクロスに向け直せないでいた。いや、出来なかった。


 モリスは全身が硬縮したかのように動けなくなっていた。別にクロスが何か特殊な事をしたわけではなかったが、どんな抵抗をしても無駄なのではないだろうかという、圧倒的なまでの【質量感】の差のようなものを感じて、モリスは怯えたのだ。


 モリスとクロスの体格の差はもちろんのこと、クロスの赤く煌めく目は殺人鬼の風格をはるかに超えて恐怖的なものだ。黒いレザーの重々しいコートも弾丸だろうとはじき返してしまえそうなほど重厚感があり、その上、身長も肩幅もモリスの1・5倍。至近距離まで近づくと、さらにその倍はありそうなほどの体格差だった。


 単純な話、16歳程度の女子高生のモリスと、不死身の殺人鬼じみたクロスとでは、格が違って見えるのも当然なのだ。


「…………」


 クロスの黒い手が無造作に、モリスの頭部に向かって伸びてゆく。


「ひっ!」


 モリスは怯えて自然と目を閉じた。反射的に両手を引き、モリスは背中を丸めて身構えた。


 だがクロスの手はモリスの頭に優しく乗ると、ポンポンと軽く叩くように頭を撫でただけで、すぐにその手は離れていった。


「……え?」


 モリスはそのクロスの意外な行動に小さく声をあげて驚いていた。


 モリスが再び目をあけた時には、クロスはモリスの隣をすでに通り過ぎており、この怪人のコアのある大部屋から出て行こうとしていた。


「クロスさん! どこに行くの!?」


 ユダが叫ぶ。


 だが、クロスは振り返ることなくこの大部屋から出ると、出口のある方角へ進んでいく。


 大扉の向こう、コンクリートの上り坂の先にクロスは歩いて消えていくと、室内はシンッと静まり返った。


「……これは、……俺たちに愛想を尽かして、帰っちまったんじゃねえのか?」


 海パン姿の男が言う。


 誰も反論することは出来なかった。だれもクロスの真意を判断することができず、ただ押し黙るしかなかった。


「そ、それはまずいのではないでござらぬか! 拙者、武士とは言え、この状況はまずいと思うのでござるよ!」


 剣道着姿の男性が口火を切ると同時に、堰を切ったかのように怪人たちの大声が響いた。


「おい、モリス! どうしてくれるんだよ! あんなに強そうな助っ人に逃げられちまったじゃねえか!?」

「待つでござるよブーメランパンツ殿! 切腹するのであれば、拙者が腹を切るでござる!」

「俺に変なあだ名をつけんじゃねえ剣道野郎! おいマッケン爺! 何かほかに秘密兵器とかはないのか!?」


 海パン姿の男性に呼びかけられて、ジョージマッケン爺は顔をあげた。


「そんなこと急に言われても、ないものはない」


 ジョージマッケン爺は当たり前のようにそう答える。


 その返答を聞いた海パン姿の男は勝手にヒートアップしつつあった。その状況が収拾付かなくなる前に、トミーが先陣切って渦中に飛び込んだ。


「みんな! とにかく今はバリケードを作ろう! 秘密基地の扉を閉めて、ヒーロー戦隊に罠を仕掛けるんだ!」

「罠って、どんな罠しかければいいんだよ!? 俺はそんなもの作ったこともないぞ!」

「そんなもの、バリケードを作りながら考えればいいんだよ! 何もしないでいたら俺たちは死ぬぞ! 死にたくなければ今すぐ動くしかない! 罠の指示は俺とマッケン爺で後々出すから、まずはとにかく入口に向かって進むんだ!」

「勝手にリーダーぶってんじゃねーよトミー! そんな即席の罠でやつらが倒せるかよ! そんなことより、そこの怪人のコアを誰かが吸収して怪人王の力を手に入れた方が早いんじゃねーか!?」

「それこそ無理な話だ! 怪人王になるには資格が必要だ! 怪人のコアに選ばれた人間じゃなければ怪人王にはなれないぞ!」

「ああそうかよ! じゃあなんだ、チンケな罠仕掛けて待つしか手はないって言いたいのか!」

「ああそうだ! その通りだ! 言っておくがまだなにも始まっていないんだからな! まだだれも戦っていないんだ! こんな下らない仲間割れをしている時間だって惜しいくらいだ! これから始まる最終決戦をケチなものにしたくなかったら、いいからお前も今すぐ手伝え!」

「ああわかったよクソッタレ! やってやるよ! やってやるしかないんだろう! やってやるからお前は派手な罠を今すぐ考えろ! こうなったら意地だ! 最後くらい派手にぶっ飛んでやる! 怪人はやっぱり、最後には派手に爆発しないといけねーもんな! ……最悪だぜチキショウ!」


 海パン姿の男はそう叫ぶと、我先にと出口へ腰を抱えて歩きだした。それに続いて他の怪人も復活の反動を抑えて身を起こし、這うなり歩くなりして出口に向かう。


 切り札不在で始まる最終決戦。希望もなく、自分たちの中に抱えた絶望の力だけを糧に怪人たちは動きだしていた。


 敗北が確定していながらも、それでも立ち向かえる勇気はひとえに怪人としての矜持が全てだろう。全ての怪人が誇りだけを胸に、ただがむしゃらに戦おうとしていた。


 そしてだれもが生き残ろうとはしていない。絶望を受け入れる覚悟こそが怪人が怪人たる所以だった。ゆえに怪人たちは、希望のない決戦に怖気づくことなく身を投じていった。


 命を捨てた先に見える真実の力。希望になど頼らず、暗闇の中で戦う蛮勇の勇気。絶望の力の原点が、ここにはあった。


 その絶望の光を受け、怪人のコアはかつてないほど黒い光を放っていた。

 新たなる怪人王の到来は、そのコアだけが感じていた。



        ▼       ▼



 クロスはコンクリートの坂を上っていた。大きく開いた秘密基地の出口からは、眩しいばかりの光が吹き下ろされてきている。

 しかしどれほど明るい陽の光を浴びても、クロスの深く被られたフードの奥の素顔までを照らすことはなかった。


 ゆっくりと坂を登るクロスは、たとえ本人にその気がなかったとしても、太陽すらも威圧するように光をはじいて前に進んでいた


「…………」


 クロスはなぜこのような行動をとったのか? それはクロス自身にとってもはっきりとした結論を言うことはできなかった。


 ただ、自分よりもはるかに小さな体で、精いっぱいクロスを守ろうとしたユダの姿を見て、クロスはまるで使命を背負ったかのように《守らなくては》と、思ったのだ。


 故に進む足取りは堂々としたもので、クロスのふむ一歩一歩の歩調は覚悟を決めた戦士のように迷いのないものだった。


「クロスさん! クロスさん!」


 背後からユダが走ってくる。ユダはクロスの少し手前で立ち止まり、息を切らしてクロスの少し後ろで呼吸を整えると、ユダは発声一番に謝罪した。


「ごめんなさい! モリスがあんなことをしたのは、私たち怪人の勝手な掟のせいなの! クロスさんが悪いことなんて一つもない! 私は、クロスさんのこと、本当の仲間だって思っているから!」


 深く頭を下げたユダが、早口にそう言う。クロスはそのユダの反応に少し面食らっていた。


 正直クロスにとって、モリスにホースを向けられたことは何を謝ることがあるのだろうと思えるような、些細・・なことだっだ。


 たとえあの至近距離とはいえども、キャノン砲程度の遅い・・弾丸ならば、クロスにとって避ける・・・ことはたやすいものだった。つまりあのモリスの行動は、クロスには怪人になるかならないのかの裁量を迫る行動であって、たとえ発射されても、クロスは避ければいいだけのことだったのだ。


 だが、ユダはそのモリスの行動を、まるで大仰な問題であるかのように謝罪し、クロスに許しを求めていた。それがクロスには理解できなかった。


「本当に、本当にごめんなさい! なんて謝ったらいいか、もう言葉もないくらいだけど、どうか、私たちを嫌いにならないで! それと、それと…………、クロスさん、今すぐ逃げて!」

「!?」


 クロスは驚いた。意外なことにユダはクロスを説得しに来たわけではなく、逆に逃げるように提案してきたのだ。


「もう、ヒーロー戦隊が来るまで時間がない。このままここにいたら、クロスさんはきっと流れで私たちと仲間だと思われちゃう。もちろん私はクロスさんのこと仲間だと思っているけど、でも、クロスさんにとってはそんなことはないはず。だって一般人の人だもん。こんな戦いに巻き込まれて、いいわけがない。……本当にごめんなさい。クロスさんに頼り切っていた私が全部悪いの。私は、反省しなきゃいけないと思う。……お礼の一つも出来なくてごめんなさい。せめて取っておきの裏道を教えるから、そこを使って街まで帰って欲しい。レーダーに反応しないクロスさんなら絶対に見つからない道だから。……もし、生き残ることができたら必ずお礼しに行きます。……今まで本当に、ありがとうございました」


 ユダはクロスに対する負い目を考え、段々しりすぼみになりながらも、クロスに対して感謝の言葉を贈ってきた。


「…………」


 クロスにとって、そのユダの気持ちは、普通には考えられないほどに嬉しいものだった。


 誰にもかばってもらえる事のなかったクロスの人生の中で、初めて、生きてほしいと言われたのだ。その歓喜は表情に出ることこそなかったが、クロスはユダに、命をもらったのだとさえ思えるほどの感動を感じていた。


 生きる価値もない引きこもりニートで、母親にさえ重荷をかけていたクロスの存在が、今、生まれて初めて感謝され、そして守られたのだ。


 クロスは涙を流しそうになっていた。誰かに心配してもらえることが、これほど心地の良いものであるとは思っていなかった。


 ゆえにクロスはその感謝を示すためにも。胸元からメモ帳とペンを取り出して、手早く一文を綴り、破いたメモをユダに手渡した。


「……こ、これは?」


 手渡されたメモを見て、ユダは疑念を呈した。メモにはこう書かれていた。


『下にいって、モニターを見ていてほしい』


 ユダはその意味をすぐに理解することができなかった。だが、クロスは詳しく説明せずにメモ帳をしまい込むと、振り返り、出口に向かって歩いていった。


 ユダはその後ろ姿を追いかけることも出来ず、クロスの姿が光の中に消えていくまで、ただその後ろ姿を見つめていた。


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