『救済』、そして……
今週は一部ずつになりそうです。
「はァ、めんどくさい事になっちまったな。なんで余計なコトに首を突っ込んじまったんだか……」
そう言う零刀だが、『どうしてか』など自身でわかっていた。
「『正義の味方』が助けてくれるのを待つ、ね。まあ、いないわけじゃあ無いんだろうが、少なくとも俺のところには来なかったからな」
過去の自分と同じことを思い、口にした少年と自分を重ねてしまったのだ。
「……まァ、自分事だった俺に比べて他者を助けようとしてたんだ。俺よりも立派だろ。それに──」
翼を勢いよく左右に広げると、紫紅の瞳を爛々と耀かせながら言う。
「──俺が、『理不尽』から逃げるなんて、してやるものか」
そして、紡ぐ。
「──『我が行使するは強大なチカラ。誰もが抗うことは叶わず、ただただ、そのチカラを前に屈する──』ッ!」
それが始まると同じくして、零刀のカラダに異変が起こり始める。
──黒くヒビ割れ、崩壊し始めたのだ。
(──ッ!耐えられない『カラダ』なんぞ、『否定』しちまえッ!)
それに構うこと無く、再び紡ぎ続ける。
「『──それは生きとし生けるもの全てにおいて等しく降りかかり、例え生けぬものであっても訪れるそれは──【死】』」
言葉を紡ぐごとにヒビは広がり、黒が零刀を侵蝕していく。
──『世界の意思』より警告。
──『そのチカラの行使は『世界法則』並びに『理』を乱す危険性があると判断。停止を要求』
「──知った事かッ!」
突然聞こえてきた声に噛みつき気味に返答する。
──『強行する場合、強制排除のためにありとあらゆる『災害』を引き起こします』
「うるせェんだよ!『世界の意思』だかなんだか知らねェが……俺の道を妨げるなッ!」
そう叫んでさらにチカラを込め、ヒビ割れ砕けたカラダは漆黒に染まっている。
──『強行したとしても、カラダが──』
「──【己ヲ喰ライテ糧ト成ス】!」
『世界の意思』の声を遮るように叫ぶと、カラダの表層が砕け、黒一色のカラダが現れる。
どうやら、黒の外套──『深淵』ごと肉体を喰らったようだ。
背の翼は既に崩壊し、噴出される【黒】と【紫】が翼のように拡がっている。
「──ッ、肉体なんて、喰っちまえば関係ねェだろ!」
──『権能』【己ヲ喰ライテ糧ト成ス】より、『固有技能』『深淵』を習得しました。
──『何故、矮小な人間風情の為に……』
「ちげェよ、俺の勝手だ。俺が、やりたいからやるんだ。俺の道を阻もうとする、この『理不尽』を『否定』する為になァ!」
──『それは、傲慢が過ぎるぞ』
「知った事か。今さらだ。俺は『正義の味方』なんかじゃねェからな!」
──『技能』『傲慢』を習得しました。
──『称号』【背理】が贈与されます。
──特殊条件を確認。
──『傲慢』『深淵』が統合され、【背理】及び【禁忌】【喰らう者】【適応者】【不明】【外道】【至りし者】及び『変質異貌』より、変異します。
──『権能』【昏キ底ヨリ嘲笑ウ】を習得しました。
それが流れてからはもう、『世界の意思』は聴こえなくなっていた。
「そろそろ急がなくちゃあいけなかったし、ちょうど良かったか。──『強大過ぎるチカラは誰しもから畏れられ、止められぬそれは山車とも言われ、それの齎す【死】はいずれ救いともなった。ソレは、『秩序』の維持、守護の一面でもあった』」
そして、最期に紡がれるソレは──
「──【死による救済】」
──この街に、その強大過ぎるチカラを解き放った。
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「なに、あれ……」
宿の一室、その中から壁に開けられた大穴を通して見ていたシリウナがポツリと呟く。
その視線の先には、漆黒の体躯に黒。その背には紫の放射状に、街を覆うかのようなカタチ無き『翼』。
その中で爛々と耀く【紫紅】の瞳。
そして、ソレから感じる、圧倒的なチカラ。
「こんなのと比べたら、さっき感じていた【死】なんて生ぬるい……さっきのと違って、抗うことさえ叶わないような……」
そう言っているうちに放たれた、『紫色』のソレは、街全体に降り注いだ。
──無論、シリウナたちにも。
「あ……」
屋根などを無視して降り注ぐソレが確かに触れた時、シリウナは自覚した。
──確かに今、【死んだ】のだと。
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「これでこの街は、【死】に包まれた」
そう言って街を見下ろせば、そこは全てが【紫氷】に包まれた街並み。
下に見える家畜も建物も、子供たちもが全て、だ。
「これで俺が触れれば、全てが【死】に絶えるわけだが……『我は汝の【生】の終わりも中間も、また【死】始まりもみとめはしない』──【破壊者の異貌】」
その言葉と共に黒紫の両翼が街へと叩き付けられた。
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「……ん」
「お、目が覚めたか?飯ができるまで少し待ってろ……よし、できた。野菜炒めだ」
そう言って野菜炒めの皿をさし出す。
「ありがと……ん、おいし」
「そうか……それなら良かった。そうだ。唐突だが、今日街を出るぞ」
「わかった」
「……何も聞かないのか?」
「なにか理由があるんでしょ?それを、無理して聞くわけにはいかない。零刀も私のこと聞かないでくれたでしょ?」
「……そうか。まあ、最悪の場合を考えたら、スグにわかるんだろうけどな……」
「……ん?シリウナは?」
「それに合わせての買い出しだな……っと、ちょうど帰って来たな」
「ただいまです。あ、イリスさん起きられたんですね。ということはレイさん。もう行きますか?」
「そうだな。イリスも食べ終わったみたいだし、行くか」
そう言って荷物を割れ目に入れると、その場を後にする。
──その背をイリスは『眼』で見るが、ノイズが混じって見えなかった。
(……?人が、外にいない?)
イリスが外に出て最初に思ったことは、外に人が見えないことであった。
『魔眼』で周りの家屋内を見れば居ることはわかるのだが、何故か皆息を潜めるようにして外に出ようとしていないのだ。
(どうして……?)
そうして答えの出ないまま、街門へと辿り着いてしまう。
「レイさん、兵士が多い気がしますが……」
「そうだな。ま、『害意』や『悪意』は感じねぇしな。『殺気』もねぇだろ?大方この前ので動けないヤツが多い間、コイツらが警備するとかだろ」
「私の『本能』もそう言ってますし……そうですよね」
その会話にまた違和感を覚えて、一瞬その『眼』で覗こうかと考えるが、恐らく『本能』でバレるだろうと思い止める。
「自然体で行けば何ら問題は無いだろ」
そう言って門の目の前まで進み、門番に話しかける。
「なぁ、俺ら、出たいんだが──」
「あ、ああ。構わないんだが……その、少し書類を持ってくるから待っててくれ」
そう言って駆けて行ってしまう。
──次の瞬間。
「レイさんっ!?」
悲鳴混じりのその声を受けて、自らへと視線を落とすと、そこには真っ赤に染まった槍が生えていた。
「──ッ!?ガフッ!?」
「うわぁぁああああ!!」
それに続けて何本も何本も、続けて周りの兵士が突撃し、零刀を刺し貫く。
「──レイさ……っ!こっちもですか、イリスさん!」
「──【転移眼】!」
二人の方にも兵士が突撃してきたのに対して、イリスの【転移眼】で距離を取る。
「っ、なんでレイさんから離れて──」
「今は全体から、わたしの『眼』で見えることの方が優先。その方が有利に戦える。それに、零刀が本気で暴れるなら、わたしたちは邪魔になる」
イリスがそう呟いた瞬間、奥から一人の男が現れた。
「──私はこの『レラント』の領主、『チーケー・シー』だ!貴様らには『反逆罪』の容疑がかけられている!大人しく罰せられるが良い!」
「一応聞いておこう。どういう事だ?」
「貴様らはこの街を実験場とし、毒などをばら撒き、この街を陥れようとした!ならば裁かれて当然だろう!」
「……それが、事実だと?」
「事実かどうかなど、この際関係無いのだよ。これにて民は安心し、我は国から恩賞が貰えるのだからな」
「そう、か──」
「ぐぁ!?」
槍の刺さったままに身体を回転させ、周りの兵士を吹き飛ばす。
──瞬間、この場の空気がガラリと変わる。
つまり、【死】と【破壊】の充満する空気にだ。
「──このッ、脆弱な人間風情がァァアアアア!!」
それは、零刀が今まで、一度も口にしなかった言葉。
──しないようにしていた言葉。
だってそれは──
──絶対的に、『人間』と『自分《零刀》』との境界線を明確に区別してしまうものであったから。
「ガァァアアア!!」
零刀に突き刺さったままの槍が黒く染まり、そこから黒い雷が荒れ狂う。
「ぐわぁあああ!!」
「ぎゃあああ!!」
──悲鳴が止み、雷が止み、土埃が治まればそこはちょっとした更地になっていた。
「ひ、ひぃぃ!わた、私は貴族だぞ!こんなことをして、ただで済むと──」
「──邪魔だ」
腰を抜かしてもなお喚いていたソレを、触手で横薙ぎにして吹き飛ばす。
「イリス、シリウナ。お前らが俺に、コイツらみたいに『恐怖』を抱いているなら、それが辛いなら俺についてくる必要は無いからな?」
『害意』などに敏感な零刀が気づけなかったのは、ただ単に先程の兵士たちに『害意』は薄かったからだ。
そして、その代わりに『恐怖心』によって『排除』するという行為が行われただけなのだ。
「……ん?何が?わたしは、零刀について行く。わたしは『魔王』だよ?」
「正直言えば、恐怖を感じないわけではありませんが……私はあなたの所有物ですし、私にとってあなたは恩人ですから」
零刀の問いかけに、二人は笑顔を持ってそう答える。
「そう、か。ありがとうな──」
そう言いながら、『空間』を割って|UMA(馬)と馬車を取り出す。
「うわっ、なんですかコレ……絶対普通の馬ではありませんよね……」
「──すまないが、あとは頼んだ」
「……零刀!?」
「レイさん!?」
そう言い残すと、その場に倒れ込んでしまった。
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──草木が生え、穏やかな風が流れる地。
その中央にある木下でウルはもの悲しげな顔をしていた。
「……せっかくレイさんが助けてくださったのにも関わらず、この扱いですか。やはり、人間など滅ぼしてしまうべきだったのでしょうか?……いえ、元はといえばレイさんも人間。ならば、全ての人間がこうではありませんよね」
そこまで言って、ふと思い出す。
「そう言えば、シリウナさんでしたっけ?彼女はまたここへと来てみたいと言っていましたね。ですが果たして来ることができるのでしょうか」
そう言いながら歩みを進め、目を細める。
「──果たしてその時には、ここにこの地は残されているのでしょうか」
──その視線の先では地が崩壊し、形容しがたいナニカが蠢いている姿があった。
新しい『権能』、どう言った能力かわかるでしょうか?




