【魔王】対【邪龍】、そして……
長いです。
文字数でいうといつもの二倍です。
それでは、どうぞ。
【魔王】と【神話最悪の邪龍】の戦いの初撃は、傍から見ても理解し難い所から始まった。
「っ!?」
「グルォオ!?」
イリスと邪龍が眼を合わせた瞬間、ちょうど中間点で何かがぶつかったのか紫色と金混じりのスパークが発生したのだ。
しかし、当事者たちは何が起きたのかを理解していた。
「わたしの『魔眼』と『邪眼』が、ぶつかり合って相殺された……?」
「ガァァアアアア!!」
理解したからこそ、目の前の小さな存在と互角の攻撃であったことに邪龍は怒りを覚えた。
邪龍が『瘴気』を纏った爪を振るう。
『瘴気』を纏った爪撃は『爪術』の補正と『瘴気操作』によってイリス目掛けて飛翔した。
「この程度でダメージになるなんて、思わないでもらいたい」
イリスの姿が消え、邪龍の頭上に現れる。
「──【魔砲】!」
魔力の砲撃が、邪龍を叩く。
しかし堅牢な龍の鱗を砕くまではいかず、邪龍は体勢を崩すだけにとどまる。
邪龍は反射的に上空に向けて【吐息】を放つがその時にはもうイリスの姿は別のところにあった。
「硬い……普通に撃ち込んでも、大したダメージにはならない。なら──全力で、ぶっ潰す!」
紫金の魔力が、物理的な圧力を伴って吹き荒れる。
「──この前は、全力出して楽しむ前に終わったから不完全燃焼。だから、せいぜい頑張って、生きろ!」
数多展開された【魔法陣】が、邪龍を包み込む。
「──【属性魔槍】!」
【魔王】という『性質』を解放したその威力は、『選定試験』のときの比では無い。
「グルゥ……グルァァアアア!!」
しかし、邪龍は咆哮を上げながらその包囲網を突き破って現れる。。
その身には紫色のモヤを纏っており、それに触れた【魔法陣】は全て機能が停止し、崩壊していく。
「……零刀と同じ、『瘴気』? ……厄介な……」
【転移】して体当たりを躱したイリスが、ポツリと愚痴る。
「グルァアア!!」
そんなイリス目掛けて邪龍は『瘴気』混じりの【炎】を吐き出す。
「【空間眼】、【転移眼】『合成』──【空間転移眼】」
それに対してイリスはその【空間】ごと【転移】させ、その【吐息】を邪龍にそのまま送り返すが──
「……やっぱり効いてない」
しかしそれでありながら、イリスは悲観するどころか口角を上げ、笑みを深める。
「──やっぱり、こうでなくっちゃ。【空間転移眼】」
イリスの傍に、黒く耀く大剣と大盾が現れた。
大剣は全長五メートル程もあり、盾もまた同様の大きさである。
もちろん、零刀特製の『黒耀石』ものである。
「【空間転移眼】を解除……【念動眼】と【魔法眼】を『合成』──【念魔動眼】」
落下し始めていた剣と盾が、空中でピタリと止まる。
「踊れ、乱れ、荒れ狂え、『黒耀ノ大剣』」
その言葉と同時に大剣が宙を滑り、邪龍へと斬りかかる。
「グルォオ!?」
突然なんの脈絡も無く飛んできた大剣を驚きながらも回避するが、その剣は絶え間なく邪龍を襲う。
「ふふふ、また避けた、また避けた。次はどうかな?躱せるかな?」
イリスは嗤いながら、『黒耀ノ大剣』を使って攻撃を繰り出す。
「ガァッ!!」
邪龍も【瘴闇属性魔法】で紫色の矢などを飛ばし、攻撃するが──
「無駄。【黒耀ノ大盾】」
傍にあった盾が、その尽くを防いでいた。
「おい、このままならもしかして……」
「ああ、勝てるかも……」
そんな声がチラホラと上がり始める。それだけこの光景には、希望を持たせるモノがあったのだ。
「グル、グルラァァアアアア!!」
邪龍が、紫色のモヤ──『瘴気』を放出し、口元に圧縮の後放ったそれは光線となってイリスを襲う。
「【咆哮】か!」
それを【黒耀ノ大盾】が、正面から受け止める。が──
ビキリ!
その音を聞いた瞬間、咄嗟に盾を斜めにして受け流す。
「──なるほど、『瘴気』は『黒耀石』の『性質』……【循環】を妨げる、と。だとしても、どうということは──!!?」
【重力の魔眼】を全力で使用して、上に落ちる。
次の瞬間、イリスが先程までいた場所を黒いナニカが薙ぎ払った。
「グルル……ガァア!?」
邪龍も遅れて気が付き、下方に回避するが僅かに翼が掠める。
──その黒いナニカに触れた部分は、瞬く間にボロボロになり、崩れ去った。
「ガァァアアア!!?」
あまりの痛みに、絶叫する邪龍。
「──危なかった……当たってたら、わたしでも死にかねない」
「──俺の方は流れ弾が直撃してるんだがな」
その声に振り返れば、黒と紫の翼に紫色のモヤ──『瘴気』を纏った、零刀がいた。
「なんか、ポーションを作ってたらよ、紫色の光線が飛んできてな?直撃したんだわ。……で、やったのどいつ──」
「ん、あれ」
驚くほどに冷たい声で紡がれた言葉に、即答するイリスであった。
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その場にいた者達は、皆唖然として空を見上げていた。
最初に、【神話最悪の邪龍】が現れて絶望した。
次に、それと対等に戦えるものが現れ、希望を見出した。
そして今──その【神話最悪の邪龍】すらも超える、禍々しく【死】を纏ったナニカが現れたのだ。
その場にいる『冒険者』や『錬成師組合』の人たちの心の内は例えるなら
▼唐突に『魔王』が現れた。
↓
▼『魔王』と渡り合える『勇者』が現れた。
↓
▼希望を持った瞬間、『大魔王』どころか『魔神』が現れた!?
と言ったようなレベルである。
もう無茶苦茶である。
その場にいたモノたちは『人』『魔物』に関わらず、圧倒的で絶対的な【死】の気配に、誰もが身じろきひとつできなかった。
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「……一応確認はしておくか、『解析』」
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暴君 LV250 Age 5050
種族:瘴邪死龍〔魔物〕
称号:【神話の存在】 【理不尽】 【神話最悪の邪龍】(【"30hsの眷属】)
体力 68000/900000
魔力量 60000/800000
魔力 400000
筋力 450000
敏捷 400000
耐性 500000
魔耐性 450000
〈固有技能〉:瘴闇属性魔法 (瘴炎属性魔法) 瘴気操作 【瘴纏 瘴気生成】 瘴気耐性 眷属 邪眼【毒 石化 麻痺 恐慌 静止 】 自己再生 (偽装)
〈技能〉: 爪(牙)術Lv10 魔力操作Lv8
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「カッコ表示になんのは確か……『偽装』されてるヤツだったか。なんか微妙なところばっかだな。まあ、知性が高いワケでもねェしそんなもんか」
「グルォォオオオオ!!」
翼を『自己再生』し終えた邪龍が雄叫びを上げ、口元に紫光を蓄え始め──
「うるせェ」
「グガァア!?」
零刀が腕を振るうと同時、何かが割れる音が鳴り響いたかと思うと何かに打たれたたかのように邪龍が仰け反った。
もちろん、口元にあったエネルギーは閉じられた口の中で炸裂するわけで、
「ギャァオオオオ!!?」
「ふむ、『空間』を【破壊】して攻撃を届かせるのもできるのか」
紫光に咥内から貫かれ、悲鳴を上げる邪龍だが、それに対して零刀は──
「オイオイ、この程度で済むと思うなよ?」
そう言いながら、邪龍を殴り飛ばした。
「──誰が吹き飛んでいいって言ったんだ?」
しかし、吹き飛び切る前に残った尾を掴み、引き寄せる。
それをまた殴りつけ、吹き飛ばしたかと思うと『空間』を割って先回りする。
「オラァ!」
そして飛んできた邪龍を蹴飛ばすと、そのまま頭を鷲掴みにして大地に押し付けながら翼で加速し移動する。
「や、やべぇ!こっちに来るぞ!」
「どうすんだよ!」
「逃げるしかねぇだろ!」
「グギャッ!?」
「グォォオオ!」
大地に引きずるということは、そこには『冒険者』やら『魔物』やらがいるわけで、それに轢かれそうになったモノたちが大慌てで逃げ始めた。
しかし、足の遅いオークなどといった『魔物』たちは逃げきれずに轢かれ、吹き飛ばされていた。
──そこから先は、殴る、蹴る、投げる、吹き飛ばす、叩きつける、掴む振り回す、斬る、刺す、抉るという暴力の繰り返しであった。
いくら頑丈で『自己再生』も持っている邪龍であってもそれには耐え切れず既にボロ雑巾の様な有り様である。
知性の高い人間と違い、安全圏まで逃げ切ることができず巻き込まれた『魔物』たちは当然、帰らぬ存在となった。
そのせいで辺りの大地は赤く染まり、地獄絵図となっている。
「ここらで幕引きとするか」
その言葉と共に、右掌に【紫】を纏わせる。
「零刀、コイツ相手に『瘴気』は──」
「──【死瘴打】!」
「ガァァアアアア!!」
紫纏う掌打が、邪龍を打ち抜いた。
邪龍はその衝撃で吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。
「──で、最後に言い残すことは?」
「グ、ガァァ」
「まあ、何かあったとしても何言ってるかわからんがな」
そう言って零刀は黒白ふた振りの剣でトドメを指した。
静かな戦場であるが故に、これが聞こえた者達の心は「なら何故聞いた!?」と統一されていた。
そしてイリスは──
「……零刀に当たったの、たぶんわたしが受け流したせい。ってことは、黙っておこう」
ひとり静かにそう決め、これからは零刀を怒らせないようにしようと決意していた。
「ふー、スッキリ……とはこの惨状を見た上では言えねぇわな……せっかくだ。残さず喰うか」
『空間』が割れ、そこからいくつもの龍の顎が現れる。
「──『喰らい尽くせ』【喰らう者】」
その言葉を待っていたかのように、龍の顎は縦横無尽に駆け回り、各々が喰らい始めた。
(あー、『大発生』で『緊急依頼』として出されているんだとある程度の素材と『魔石』は残しておいた方がいいな。ま、邪龍は俺が倒したんだし全部喰ってもいいだろ)
そんなことを考えている間にも、周囲の魔物達は死骸だろうとまだわずかに生きていようと構わずに喰らっていく。
「なんだよアレ……龍か?」
「いったいどうなってんだ?」
「これは、世界の終わりか……」
「もう勘弁してくれよ!」
「魔物を、喰ってる……?」
目の前で起きている事態に理解が追いつかず、戸惑いを隠せない。
「あー、だいぶミンチになってるのもいやがるな……【龍顎】だとちとキツいか……試してみるか。【悪食】」
──瞬間、黒いモヤが現れ地を覆う。
それが晴れれば辺りにあった血の匂いが消え、それと共にそこら中にあった魔物の死体と血液が跡形も無く消えさっていた。
「死体が、血がが無くなってる……」
「なん、で?」
「龍の首も、消えた……」
「生き残ったの?私たち!!」
現状を理解しきれずとも己の無事に各々が歓喜し始める。
「こりゃあ、いったい……」
「──てめぇが、この街の『組合長』か?」
いまだ戸惑っていた男はその声を聞いた瞬間、濃密な【死】を感じた。
そちらを向けば、空に浮かぶ黒紫の翼を持つ、『理不尽』の姿があった。
「あ、ああ。そ、そうだが……」
「何どもって……って、ああ。【死】か。抑えるの忘れていたな……これでいいか。魔物に関しちゃ、一応『魔石』は残してあるから、分けておけ」
そう言って『空間』を割ると、そこから先ほど【喰らった】分の『魔石』が大量にこぼれ落ちる。
「なんだそれ……っておい!どこに行く!?」
「ある程度はストレスも発散できたからな。あ、一応言っておくが邪龍は俺のモノだからな?……で、てめぇはさっさと出て来やがれ!」
「ぐはぁ!」
そう言って歩みを進めると何も無いところを蹴り飛ばした。
そこから、紫色の肌をしたヒトが現れた。
「な、何なんだよ、お前。俺の、魔物達は、邪龍は、どこに……?『魔王』様から賜わった、チカラを使ったのに?な、何で……」
「やっぱ、人為的なものだったか……」
零刀はため息を吐きつつも、『解析』を使う。
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クァセ LV95 Age 23
種族:魔族
称号:
〈固有技能〉:瘴気喚起 調教
〈技能〉: 魔力操作Lv5 剣術Lv2
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「へぇ、光彩系統の『魔道具』か……『気配遮断』付きとは、いいものだな」
零刀はその『ステータス』を見ても思うことはなく、それどころか使っていた『魔道具』に興味を示していた。
しかし、一般的なヒトの反応はかなり異なるものであった。
「こいつ……『魔族』か!?」
震えながらブツブツと呟いている『魔族』を指して驚く『組合長』だが、流石と言うべきかすぐに冷静さを取り戻し、少し思案してから答える。
「そうだな、そいつの身柄は俺らが確保しておこう」
「そうか?それなら助かる。行くぞ、イリス。後で武具の感想が聞きたい」
「ん」
「何なんだよ……何なんだよお前は!お前さえいなければ、上手くいっていたのに!」
立ち去る零刀に対して、魔族の男──クァセは叫ぶ。
「そんなこと言われてもな……俺がここに居たってことは変わらねぇし、俺が『ここに居る』って事実をお前に『否定』される言われは無い」
冷たく言い放つ零刀に、クァセはビクリと身体を震わせる。
「俺にとっての『不利益』が発生した。その時点で──いや、その可能性があるだけで俺がそれを『否定』するだけの理由になる。ただそれだけだ」
そう言って、まだ残していた邪龍に歩み寄ると、再び龍の顎を生み出して【喰らい】始めた。
──レベルアップしました。
──『技能』、『瘴気生成』を習得しました。
──『技能』、『瘴気掌握』『瘴気生成』を統合します。
──『固有技能』、『瘴気支配』を習得しました。
──『固有技能』、『魔素支配』『瘴気支配』を統合します。
──『固有技能』、『魔瘴支配』を習得しました。
「……なんかすげぇ習得したかと思ったら統合されてひとつになったな……確認は後でいいか」
(そういや、コイツ『瘴気』に耐性があるハズだったんだが……普通に通ってたな。やっぱり俺の【死】は本来の『瘴気』とは異なるのか?……まあ、それも後ほど要検証だな)
「さて、もう帰るか。って言うか、俺らの宿の部屋吹き飛んじまったし、移動しねぇとだな」
「ん」
「なんだよ、それ……聞いてねぇよ。こんな辺境の街に、『魔王』様よりも【魔王】じみた存在がいるなんて!『魔王』よりよっぽど【魔王】らしいヤツ……なんて……」
その場にそんな呟きが残されるが、それに答えるものは誰もいない。
否、誰も答えることが出来なかったのだ。
──こうして『大発生』の一件は、幕引きとなったのであった。




