危機
テンプレ、私は好きです。
「……では、あなたは【禁忌】などに関しても他人を実験材料にしたりせず、自分を使ったと」
「ああ、そう言っている」
「……ハッキリ言って正気を疑いますが……真実のようですね。これで、あなたへの疑惑は晴れました。お疲れ様です」
「ホントだよ……ったく」
いくつもの『称号』に関する質問にすべて答え終えた零刀は疲れたように一つため息を吐くと、体を伸ばす。
「いやぁ、お疲れ様です。我々からしても疑惑が晴れて良かったです。長時間拘束してしまい、申し訳無い」
「いや、これがアンタらの仕事だしな。それに関しては文句は言わねぇ、言わねぇが……こいつしか居なかったのか?」
そう言って示すは、ロープで椅子にぐるぐる巻きにされている【鑑定師】、レーネだ。
あの後、現状を見かねたイリスが『魔眼』のチカラを使って拘束し、その間に椅子にぐるぐる巻きにしたのだ。
「それで、俺らはもう行っていいのか? 」
「ええ、構いません。今回はかなりご迷惑をかけているから、入街税は私の方から出しておきます」
「ああ、悪いな。実を言うとそこまで懐が温かく無くてな。さて、俺らはもう行く」
「はい、それでは──ようこそ『モニア』の街へ!我々はあなた方を歓迎します!」
「おう、ありがとな」
「あのー、この縄解いてくれません?」
「「「お前はしばらく反省してろ!」」」
──こうして【外道】と『魔王』は、人里に足を踏み入れた。
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「さて、さっそくだが俺らは今、危機に瀕している」
朝、ベッドに腰掛けた零刀は、早々にそんなことを言い始めた。
「危機?」
「そう、実は──」
そこで少し間を置いて、一言。
「──お金がねェ。稼がないと生活ができん。昨晩使いすぎた」
昨晩宿をとった後、お金を払って宿備え付けの酒場で食事をしたところ、味は薄いながら調味料のありがたみを感じ、さまざまな店を回って調味料を買ってしまったのだ。
「……盗賊から奪った資金は?」
「盗賊やってたくらいだからな。潤沢なワケがねぇだろ。なのにあれだけ使っちまうなんて……クソっ、あの【変態】のせいでテンションがおかしくなってたのか?」
「ん、【変態】ゆるすまじ」
ちなみにこの時ちょうど、なんの因果か、はたまたまこれまでの行いかやっと解放された変態に【変態】の『称号』がさずけられていたのは、この二人の預かり知らぬところである。
──と、言うわけで、今二人がいるのは剣と盾のマークの建物。
「まあ、異世界モノではお馴染みの『冒険者│組合』だな 」
「『冒険者│組合』 ……簡単に言うといろんな依頼をこなすことで報酬が手に入るっていう仕事斡旋所みたいな所?」
「ああ、そうだな。ちなみに他にもいろいろな『組合』があるらしいが世間一般で『組合』って言うと『冒険者│組合』になるらしいぞ?だから、『錬成師組合』とは混同されないから安心しろ」
「ん、わかった」
「はぁ、無駄なテンプレは起きねぇで欲しいが……どうなる事やら……」
「『てんぷれ』?」
「ああ、こっちの話だ。行くぞ……念の為少し『瘴気』を滲ませておくか 」
そう答えながら入り口を開ければ、中にいた全員の視線が集まる。
(……そこそこ『できる』ヤツもいるな。固まってるうちの何人かは彼我の差のわかる実力者、後のヤツらは気付きもしない程度の馬鹿か……あ、馬鹿がこっちに来やがった。テンプレか?)
「おい、えらくべっぴんさんな嬢ちゃん連れてるじゃねぇか」
「おい、ビビってなんも言えねぇのか?なんか言えよ眼帯野郎!」
「てめぇ無視してんじゃねぇぞ!こりゃちぃっとばかし痛い目みてもらわなきゃ──」
いかにもと言った具合に絡まれているのをよそに
「ん、登録したい」
普通に受付に行っていた。
「あの、連れの方が絡まれていますが……宜しいので?」
「あ? 誰が絡まれてるって?」
受付の人がその声へと視線を向ければ、黒い外套に眼帯という特徴のある出で立ちが──
「って、あれ?だとするとあそこで絡まれているのは……」
「ああ、デコイだな」
作り方はいたって簡単。
『変質異貌』で形を作り、分離させます。
次にそれに、視覚による情報に対して【不明】を付与します。
そうすればあら不思議、『魔力』や『存在』は零刀のままで、視覚情報が更新され無いのでそこに零刀がいるように見えるわけだ。
「……まあ、触れられればわかるか。『戻れ』」
「おい!てめぇ何無視して受付に行ってんだよ!」
「はぁ、バカまでついてきやがった……で、何のようだ?」
「てめぇ、今までさんざん俺が言ってただろうが!」
絡んできた『冒険者』が剣を抜く。
「……コレで反撃した場合、俺へのデメリットは?」
「特にありません。最悪殺しても過剰防衛で済むでしょう」
「──ッ!もういい!ぶっ殺してやる!」
その男が剣を振り上げ、そこにある『害意』と『殺意』に眉をひそめ、「あ、コイツら殺してもいいかな」と思った瞬間、目の前を光る盾が遮った。
それに続いて肉を裂く音が響く。
「グッ、ハァ、ハァ……死んでねぇな?生きてるよな?」
「ランク『A』、【光盾】のタルドさん!?どうして……」
見ればそこには、背中を斬られた、盾を持つ男がいた。
「……コイツらは俺らの教育が足りなかった。今回だけは見逃してやってくれねぇか」
「タルドさ──」
「お前らは黙ってろ!!……済まない。これからはしっかり教育していく。だから、この通りだ」
斬りかかった男が何かを言おうとしたが、タルドがそれを遮り、頭を下げる。
「……ああ、別に構わねぇが……苦労してんだな。俺からすれば自己責任だとは思うが……とりあえずこれを渡しておく。飲んでおけ」
「これは……」
「試作品だからな。いい機会だ。さて、俺らはもう行くぞ」
「ん、零刀がいいなら、いい」
「……別室で行いますのでこちらへ」
そうしてこの場を離れる零刀をタルドは見えなくなるまで見つめ、見えなくなると途端に溜息をつき、痛みを思い出す。
「タルドさん、とにかく治療を──」
「ッ!それどころじゃ無かっただろうが!」
タルドが怒鳴る。
「『冒険者』は自己責任だが、他の『冒険者』や『一般市民』まで巻き込むなと言って聞かせたハズだ!なのに何故、よりにも寄って│あんなヤツ(・・・・・)に絡みに行った!?ある程度の絡みなら『新入り』の選別にもなるからと黙認していたが、相手を考えろ!!」
「それって、どういう──」
「お前ら、今俺が割って入らなかったら、確実に死んでいたぞ。いや、それどころじゃねぇ。もしそれでアレの怒りが治まらなければ他の『冒険者』まで……最悪この街そのものが滅ぼされていたかも知れないんだぞ。……あんなにも死を纏ったヤツを俺は他に知らねぇ。俺にはアレが『魔王』だと言われても疑わねぇだろうな」
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「ではまず初めに、お二人の『職業』をお願いします」
「「無職」」
「……『ステータスプレート』に記載されている『職業』をお願いします。お持ちでしたらそれを見せてくれれば」
「あー、そっちか……『錬成師』たな。これが証拠」
『ステータスプレート』を見せながら言うと、難しい顔つきになる。
「『錬成師』ですか……本気ですか?いえ、『ステータスプレート』があるので嘘かどうかを疑っている訳では無いのですが……」
「ああ、本気だ。それにこれでそこそこには強い自信はあるが……問題でも?」
「あれが、ちょっと……?」
イリスがポツリと零すが、幸い誰にも聞こえてはいない。
「いえ、ただ『冒険者』は基本自己責任ですのであなたの身に何かがあってもこちらは責任を負いませんので悪しからず。で、そちらの方は『ステータスプレート』をお持ちでは無いようですが……『鑑定魔道具』の使用に料金が発生しますが宜しいですか?」
「なん…だと……クソっ、ここにまで金が必要だなんて……!なんて『理不尽』なんだこの世界は!」
「……無いようでしたら現物徴収もできますが」
見かねた様子でそう言うが、零刀は難しい顔をする。
「とはいえ、出せるものなんて……」
「零刀、あれは?盗賊を殺戮してとったやつ」
「ああ!それがあったな。これでどうだ?」
そう言って取り出したのは、イリスの言うように最近手にいれた鎧。
「これは、『帝国』の軍の……失礼ですが、これをどこで?」
「ん、ここの洞窟。盗賊のアジトだった」
出された地図をイリスが指しながら答える。
「協力ありがとうございます。他にも鎧を持っているのであれば出してください。こちらで買い取ります」
「あ、マジで?んじゃ、ほい」
零刀が軽く外套を広げれば、そこから十もの鎧が現れた。
零刀の外套──『深淵』は【倉庫】に繋ぐことができるので、このくらいは造作もない。
しかしそれを知らない受付嬢からすれば疑問の尽きない問題である。
「いったいどこからこの数を……とりあえずこちらで預かります。支払いはこの場所の調査が終わってからになるでしょう」
「……それにしても、今日の飯代にはならねぇか」
「ん、非常事態」
「……その代わりに今回の料金は無しにさせてもらいますので……では『限定鑑定』……犯罪称号無し、『職業』は『魔王』ですか、珍しい──って、『魔王』!?」
『魔道具』の『鑑定』結果に本来有り得ないものが映り、悲鳴に近い驚愕の声を上げる。
「あー、それか。俺も最初は驚いたんだが……どうやら【魔眼の王】っていう意味合いらしいぞ」
「えっ、……詳細表示』……本当だ。失礼しました。ああ、『職業』の詳細が見せるというのはあまり言いふらさないでください」
「そこら辺に興味はないな」
「はぁ……まあ、それならいいでしょう。とりあえず『仮証明』ができるまで『冒険者組合』について説明しましょう」
納得はしてないようだが渋々説明をし始めた。
要約すれば
・『冒険者』はランク制度であり、下からE、D、C、B、A、S、SSである。
ランクアップは一定回数クエストをこなすか実績で上がるが、Cに上がる時以降は試験を受ける必要がある。
・クエストには【常駐】、【一般】、【指名】の三つがあり、【常駐】【一般】の二つはランクがあり、『冒険者ランク』の一つ上までしか受けることができず、【指名】は個人やパーティーへと依頼であるため、ものによるがほぼどのランクでも受けられる。
とはいえ、本来実績を積んだ者達への【指名】が多いので、最初のうちは気にすることは無いという。
・『冒険者』の問題は自己責任である。
と言った感じだ。
「なぁ、質問いいか?」
「ええ、答えられる範囲でよければ……どうぞ」
「どんな人でも最初は最下位ランクからのスタート何か?」
「いえ、最初の『入会試験』をクリアしたあとに『ランク選定試験』を一度だけ受けられます。まあ、これでは『C』までしか上がりませんが……っと、『仮証明』ができました。どうぞ」
木の板に焼印がされただけの『仮証明』が手渡される。
「で、『入会試験』とは?」
「『採取系』、『雑務系』の二つと、『ランク選定試験』を受けるのでしたら『討伐系』も必要ですね。それらを最低一つずつクリアしてきて下さい。もちろん報酬も出ます」
「──よし、行くよぞイリス!今晩の飯代だ!これが無ければ飯抜き確定だ!!」
「……ご飯抜きは、ありえない!何がなんでも稼ぐ。例えここの魔物を全て、殺し尽くしたとしても!」
「あの、それはやめて下さ──って、行っちゃった」
報酬の辺りを聞いた二人は、すでにその場から駆け出していた。




