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『理不尽』、故に

もう九月ですか……早いですね。


今回は少しばかり文字数が多いです。


それでは、どうぞ!

「──さあ、下準備を始めようか」


そう言いながら、『黒剣』『白剣』を抜く。


「レイ、さん。待ってください。さすがのあなたでも、あの『災禍』相手では……」


「あ?ってウル!?なんかスゲェことになってんなァ、オイ。ちょっと待ってろ」


剣を大地に突き刺し、手でそっと触れる。


「【喰らえ】っと。これでよし。ごちそうさま」


「レイさん?何を……!痛みが、少しだけ軽くなった?」


「『瘴気』は取り除いたが、受けたダメージまでは抜けねェからな」


「あ、ありがとうございます」


「……で、あれが唐揚げ──じゃなくて、【災禍】──『天鯨』か?」


『天鯨』、またの名を【災禍ノ鯨】。

この名はかなり有名で、零刀がいた王城の図書室にあった本にも書かれていた名前だ。


「って言うことはこいつらが刺身──じゃなくて、『災厄』、『天泳鮪てんえいマグロ』か?」


「ええ」


「イリスー!」


先ほど切り落としたマグロを一瞥し、声を上げる。


「ん、呼んだ?」


「いや、言った俺が言うのもなんだが……なんで聞こえてんだ?」


「音を視た。名付けて、【千里音視眼】」


「……お前ってネーミングが安直過ぎるよな」


「……で、これはどういう状況なの?」


「イリスさんに、ドラちゃんまで?どうして……」


「いや、私は気付いて無かったんだけど……なんかコイツが『大豆に続いてマグロか!コレは行くしかない!という訳で、ちょっと行ってくる』とか言って飛んでったのよ」


「いや、マグロ見つけたら当然の反応だろ」


「……そうなの?」


「いや、知らないが──」


そう言いながら地に刺さった剣を抜き、一言。


「──アイツは美味い」


その言葉に、イリスがピクリと反応する。


「言いたいことはわかるな?」


「ん、アレは食料、一匹も逃がすな。これは──」


「「──戦闘では無く、我らによる一方的な、食料の確保」」


二人で視線を交わし、笑みを浮かべる。

しかし、次の瞬間にはその笑みは獰猛なものへと変わり──


「「さあ、殺戮を始めようか」」


目を爛々と輝かせた二人の捕食者が、獲物目掛けて飛び出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なに、これ……」


私は、目の前の光景が信じられなかった。


「ギュアアアァァ……」


「ギュァアア!」



──私達があれだけ苦労してどうにかしていた『災厄』が、



「オラァ!」


彼が剣を振るえば頭がきりおとされ、彼から生えている触手、触腕が振るわれれば縦に真っ二つ。


「【鏡面ミラー】、【集束魔光砲】」


彼女の眼前から光線が放たれれば『天泳鮪』が撃ち抜かれ、その先に展開された【魔法陣】に反射し、他の『天泳鮪』を撃ち抜いていく。



「もう!あんた達、もう少し周りに気を使って戦いなよ!」


降り注ぐ血肉は少し大人びたドラちゃんが『植物』を操って他の『精霊』達に当たらないようにしている。



「ドラちゃん……?その姿は?」


「あのレイトって奴のせいで、『進化』したんだよ。やっぱ、この姿になるとアイツの『生体魔素』が混じってるせいか口調が乱れるな。ったく」


「レイさんが?」



ここでも、彼の名前が出てくる。

彼は一体何モノなのだろうか?

私には、理解できない。



『ギュォォォオオオオオ!』



『災禍』が、霧をばら撒く。


「レイさん!その霧には『瘴気』が──」


「ああ、気づいてる」



その一言を残して、霧に呑まれる。


「レイさん!」


「──ん、大丈夫」


私の声に、隣からイリスさんの声が返ってきた。


「見てればわかる」


その言葉に返答するかのように、黒い炎によって濃霧が二つに割れた。


──それが斬られたのだと気がついたのは、中に真っ二つになった『天鯨』の姿があったからだ。


「……思ったより硬かったから、【破斬】まで使っちまった」



「ちょっ、これはさすがにキツいんですけどぉ!【霊森スピリチュアル・フォレスト】!」


蒼く透き通った樹木が大量に伸び、落下する巨体を受け止める。



「ナイスだ!イリス!取りこぼしは無しだぞ!」


「ん、わかってる!」



群れのリーダーが倒され、逃げ惑う『天泳鮪』を倒して行く。


その様はまさに、最初に宣言していたように『戦闘』ではなく、まさしく一方的な『蹂躙』であり、それは一見『食物連鎖』のようにも思えるが、実質は違う。



なぜなら、その頂点であるハズのモノが、その外側から喰われているのだから。




それを見て、私は──



「ああ、なんて世界は、『理不尽』何でしょうか」



先ほどと同じ言葉を零し、笑みを浮かべた。



------------------------------------------------------------



「ふぅ、これで最後か。そっちはどうだ?」


「ん、終わった。多かった」


そう言う二人は既に掃討を終了しており、片っ端から回収していた。


「【食料庫フードストレージ】っと、これでいいな。残りはあの大和煮──じゃなくて鯨だが……アレはドライアドに手伝ってもらった方が早いか」


「ん、あっちに集まってる」


イリスの指を指す方を見ると、『王位精霊』が集まっているところに探しているドライアドも居た。


「さんきゅ、おーい、ドライアド……って、なんでそんなに物々しい空気なんだよ。なんかあったのか?」


「レイくん……ウルが、ウルが!」


よく見るとウルは横たわっており、心なしか透けて──否、確実に透けている。


「ボクが戻ってきた時にはもうこんなで、何もできなくて、それで、それで!」


「ワタシも、【魔力譲渡】したりしたけど、効果なかった」


「あたしは【火】だからなにもできないし、どうすることもできねぇ。でも、このままだと、ウルが!どうすれば!」


「これはさすがに、『擬似神化』を使っても無理そうね」


各々が、己の無力さに打ちひしがれる。


代表として苦労し皆をまとめあげ、それでいて『親友』でもあった彼女たちの辛さは同じ立場にならなくてはわからないだろう。



「みん、な。そんな顔しないで、ください。私は、この選択で皆を救えたのならば、後悔は、ありません。強いて言えば、私が居なくなってからのあなた方が、心配ではありますが……」


そう言ってニコリと笑みを浮かべる。


「──皆さん、今までありがとうございました」


「ウルーーー!」


そんなウルにニアが抱き着き──



「オラァ!」


「──ゴフッ!」



──切る前に、零刀に蹴り飛ばされ、女性が出してはいけないような声を上げつつ吹き飛ぶ。



「ドライアド、あの鯨を回収したいんだが……取り込み中か?」


「うん、今はちょっとね。さすがに、見ればわかると思うけど……」


そう言いながら視線をウルに移す。


「ウル、死ぬのか?」


「私を形成するモノが、壊れ始めてますからね。さすがに、助からないでしょう」


「──そうか。なァ、俺は無意味な【死】ってのがどうにもな。丁度『精霊』ってのは喰った事が無いんだが……」


「……別に構いません。あなたのおかげで、助かったようなものですから。どうぞ、お好きに」


「──させ、ない!【土針アースニードル】!」


「──【変異錬成】。なァ、俺たちの話を聞いてたか?俺の要求に、コイツは応じた。だろ?」


「さすがに、ボクも親友がどうにかされるのを黙って見てられないよ!【暴虐の雷嵐】!」


「──イリス、手を出すな。『呑み込め、壊せ』【黒炎】」


雷を伴った嵐を、黒い炎が多い尽くし、喰らい尽くす。


「──【鋼鉄手甲アイアン・フィスト】!」


「──【深淵アビス】」


「キャッ!」


鋼鉄を纏い、巨腕となった拳が零刀向けて放たれるが、左手で触れたかと思うとそのまま威力を返され、吹き飛ばされる。


「くっ、動けない?地面にも、潜れない……」


「【纏わり付く死ナローイング・デス】。お前の行動、殺させてもらった」


紫色のモヤが纏わりついているアンから視線をハズし、ウィンへと視線を向ける。


「……後はお前だけだが……どうする?」


「くっ、それでも、ボクはウルを見捨てない!」


「……そうか、なら仕方ないな」


そう呟いて、左眼の眼帯をずらす。


「う、あ……」


何かを感じ一歩後ずさるが、それ以上動けなかった。


それどころか、次第にチカラが抜けていき、膝から崩れ落ちてしまう。


「……こんなもんか」


眼帯を元に戻しながら一人呟くと、ウルへと視線を戻す前に、ドライアドへと視線を向ける。


「……お前は、どうにかしないのか?」


「……私は、このまま苦しんで死ぬよりは、マシかなって」


「そうか」


そして今度こそ、ウルを見る。


「……優しいん、ですね」


「何言ってんだ。俺はお前の友をぶっ飛ばしたんだぞ?」


「でも、誰も殺していない。それに彼女たちは、ではありません。──親友・・、です」


「──そうか、いい親友を持ったじゃねェか」


そう言う零刀の隣には、黒い龍の顎が浮かんでいる。


「覚悟はいいか?」


「ええ」


「なら、諦めるなよ。その親友たちのためにも、な──【喰らえ】」



言葉に応じた龍の顎が、バクリと、【水属性王位精霊】、『ウェルシュ』を喰らった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



──暗い暗い、それどころか黒一色の空間を漂う。



──どこまで続いているのかは、わからないけれども、それに対して不思議と恐怖を感じることは無い。



──そんな中、漂う流れに身を任せていると、風景が変わった。



暗く紫色に淀んだ、常にナニカが蠢いているていて、 蠢いているナニカは見方によっては腕のようにも見えるし、ところどころ貌のように見えたりもする。そんな空間に。



──これは確かに、理解できそうに無いですね。



そんなことを思っていると、目の前にナニカがナニカを互いを貪り喰っている光景が映り込む。



──あら、少し散らかっていますし、もったいないですね。



それが零すモノを見て、そんなことを考えていると、あることが思い浮かぶ。


──そうですね。いいことを思いつきました。私は【水】ですし、生命を生み出した根源でもあり、清浄を表す。ならば、これを掃除するのも間違ったことではありませんよね。



そんなことを思いながら、手を伸ばす。



──レイさん、驚いてくれるでしょうか?



------------------------------------------------------------



「さて、と。そろそろ人里目指して行きますか」


森を抜けた零刀は伸びをして呟く。


「……零刀、よかったの?」


「何がだ?」


「あんな、別れ方して……」


イリスは心配そうに零刀を見るが、本人は特に気にした様子はない。


「ああ、いいんだ。アイツらも時期に気づく。暫くして『精霊の森』が落ち着いたらたらまた来るぞ」


「……??どうして?」


「ん?だって──」



------------------------------------------------------------



「……やっと、動けるようになった」


そう呟きながら、アンは身体を起こす。


「……ニア、ウィン。二人とも、もう動けるハズ。おきて、今はやるべき事がたくさんある」


「ウルが、死んじまったんだぞ。なのに、なんで……!」


「──だからこそ!……だからこそ、ワタシたちがしっかりしないといけない。しっかりと、やるべき事をやらないといけない」


「ボクには、そんなに割り切ることはできない」


「それが、ウルが望んでいたことでも?」


「それは……」


ウィンの発言に、ドライアドが問いかける。

しかし、それに対する答えを見つけだすことはできない。


「それに、彼は無駄になるはずだったウルのことを、無駄にしないようにしただけだよ」


「じゃあ、あの行為が正しい事だというのか!?ウルを、喰らったことを?!」


「そこまでは言ってない。でも、死ぬ者を食べることは『生物』に、ましてや『人間』にとって必要なことだ」


「なら、ボクは『生物』なんてキライだ!『人間』なんて大キライだ!そんなモノが、他者の『親友』を喰らう様なモノが『人間』であるなら、ボクは『人間』を許さない!それほどまでに他者に害悪を与えるのであれば、君たちがそうならないように『人間』たちを────全滅させる!!」


ドライアドの一言から徐々にヒートアップして行き、遂にはここまで至ってしまった。


「そうだ、そんな『人間』なんて、あのレイトなんて──」


「──あのヒトが、何ですか?」


ゾクリ、背筋が震えた。

その声はどこかで聞いたことがあるハズなのに、聞こえないハズなのに確かに聞こえ、聞いたこともないような冷たさを秘めていた。


「全く、私だって感動の再開と行きたかったのですが──流石にあのヒトを、レイさんを『否定』することは許せません」


声の主へと視線を向ければ、見紛うハズもない、『親友』の姿──



「「「「ウル!?」」」」


「──はい、皆さんの『親友』であり、【水属性王位精霊】ウェルシュ。ただ今戻りました」



先程とは一転し、柔らかな声でそう言った。



------------------------------------------------------------



『親友』たちに揉みくちゃにされながら、私は笑みを浮かべる。


「泣かないでくださいよ。私はここにいるのですから」


皆を宥めようとしますが、それどころか泣き始めてしまいました。


──全く、どれもこれもレイさんのせいですからね。



そんなことを思いながら、彼女たちを抱きしめる。


「流石にいつまでもこうしている事はできませんよ。とりあえず後片付けをして、一旦落ち着いてからお話しをしましょう。早く終わらせれば、それだけ早く話せますよ?」


その言葉に彼女たちは頷き、行動に移す。



──今ここにあるどれもこれもが、何もかもがレイさんのおかげなのですよね。感謝してもし切れません。



忙しなく働く『精霊』たちを見ながら、一束だけ紫色に染まった髪にふれ、『ステータス』と呟く。



------------------------------------------------------------

ウェルシュ LV── Age──

種族:水属性精霊〔王位〕

称号:【精霊王】【水の理】【循環セシモノ】【零刀の眷属】


権能オーソリティ〉:生命ノ根源ヲ表ス者ライフソーサー 円環ニテ循環ヲ表スヨルムンガンド 我ハ水成リアムアウォーター


固有技能ユニークスキル〉:眷属


------------------------------------------------------------



「また会いましょう、レイさん。その時は、精一杯歓迎します」


その為にも、今は私も片付けをしましょうか。




ああ──



「──世界はなんて、『理不尽』なのでしょうか」


今回で『精霊の森』、零刀saidは終わりです。

少し短かったかも知れませんが、彼女らの登場シーンはまだあります。

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【『ハズレ』と言われた生産職でも戦いたい!!】
並行して書いているものです。

【ココロミタシテ】
何となくで書いた詩です。
これらもよろしくお願いします。
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