鎖は解かれ、動き出す。
7月始めの投稿です。
今週来週と投稿ペースが落ちるかも知れません。
というか場面的に一話一話あたりの文字数が増えて投稿数が落ちているんですよね……
その上リアルの方が忙しくなりそうで……
まあ、週一は投稿していきたいとは思っています。
……あれ?文字数このままで週一ってあまり変わらないのでは……
そ、それではどうぞ!
今回は覚醒回です!
最初はイリス視点となっております。
(ここ、は──?)
「──おい、どうかしたか?」
思考を巡らせるわたしに、零刀は声をかけた。
「──え?」
「おい、本当に大丈夫か?腹減ってぼーっとしてるのか?」
「うん、少し」
(そうだ、これは『記憶』だ。このやりとりにも覚えがあると思ったら……あの時だ)
「あー、その、なんだ。この前も言ったが備蓄がもう無くなりそうなんだ」
現状を理解し始めたわたしに、視線を背けながら零刀は言う。
──そう、今のわたし達にはほとんど食料が残されていなかった。
零刀が備蓄が少なくなってきたと気づいた時点で既に食料を補給出来る環境の階層でなく、後戻りも出来ないこの迷宮の仕組みを考えると絶望的だった。
それでも食べる量を減らし、ここまで凌いでいたのだが遂に底を尽くところまで来ていたのだ。
でも、これは『記憶』。
零刀の言っていたことを引用するならその『記憶』に該当する『魔素配列』を『見て』いるだけに過ぎず、こちらからは干渉することが出来ず、また『記憶』から干渉されることも無いので、苦痛すら感じることは無い。
──だからこそ、あの時口にした恥ずべき言葉も取り消すことは出来ない。
景色がブレ、場面が変わる。
途中、『魔樹』の皮などを食べてでも食い凌ぎ、やっとの思いで階層主の『皇帝粘魔』を倒しやってきた階層は暗く瘴気に淀んだ階層──不死者の階層だった。
「まさか……本気で兵糧攻めか……?」
この時のわたしはもう、限界だった。
「もう……むりだよ……」
「あ?」
「もう、無理って言ったの!こんなの、もう耐え切れない……」
遂に限界を超えたわたしから、堰を切ったように言葉が溢れ出す。
「あなたが食料を管理してる。それならあなたがあれだけ戦えていたのも理解できる……」
「……それは俺が少なくなった食料を隠し持っていて食ってるって言いてぇのか?」
「そう、それならあれだけ戦えていたのも説明がつく。それに、あなたなんて再生するのだから自分を食べることだって出来るもの」
──冷静になって考えてみれば【真偽の魔眼】を使えばわかることであったし、何より『理不尽』を嫌う彼がこんなことをするハズも無い。
それだけの思考が回らないくらいに私は追い詰められていたのだ。
──そしてわたしは、言ってはいけない事を口にした。
「生きるのがこんなにも苦しくて、こんなにも辛いなら──」
それは特に、助けてくれた彼の前では絶対に言ってはならないこと。
「──あの時、助からずに死んでいればよかった!!」
──それを口にした瞬間、身体に衝撃がかかる。
続いて、胸元を強く引かれ彼の顔が目の前に来る。
「そんなこと知ったこっちゃねェ。前にも言ったハズだ。弱肉強食、強くなけりゃ生き残れねェ。それがこの世界の理だと。それは生死に関わる事でも同じだ。あの時から俺が強者なことに変わりない。すなわち俺が理だ。だから、俺はお前が生きることを『否定』することを、認めない」
そう言ってわたしから離れると
「ほらよ」
と言って何かを投げてきた。
──それは、鱗に包まれたナニカの腕だった。
「本当にやばくなった時用に残しておいたやつだ。食え」
限界だったわたしは、気がつけばその肉に食らいついていた。
「……火くらい通せってんだ」
──それからというもの一日一回、肉が出てくるようになった。
何の肉なのかわからかったが、食べれることに感謝し、毎回味わって食べた。
しかし、しばらくそれが続いて少しの余裕が生まれてきた時、疑問が生まれた。
──何故、腕や脚ばかりなのだろうか
と。
骨も大きく無く、食に向いているのだが、未だにその胴体を見たことがない。
──それから少しして、夜になると彼がどこかへ出掛けていることに気がついた。
夜はもっぱら地中に『錬成』で居住スペースを作り、そこで寝ている。
──慣れると案外いいものだ。
最初はトイレかと思ったが、それにしては遅すぎる。
疑問に思ったわたしは【千里眼】で地上を探した。
そしてすぐに見つけることが出来た。
なにせ、不死者の大群と戦っていたのだから。
程なくして殲滅し、それらを【喰らった】のを見届け、ふと疑問を覚える。
何故戦っているのだろうか、と。
その疑問に答えが出る前に、彼が膝を着いたのが見えた。
そして服を脱ぎ始めた。
慌てて【千里眼】を解こうとしたが、何の前触れもなく零刀の腕が肥大化したのを見て、止める。
そしてその腕を、彼は何もためらうこと無く切り落とした。
腕からは血が吹き出るが、すぐさま腕として『再構成』される。
明らかに手慣れている──慣れ過ぎているその光景を見て、理解出来た。
理解出来てしまった。
──何故、腕や脚ばかりなのだろうか。
──何故、胴体部分を見たことがないのか。
その理由は、今見ている光景にあった。
胴体は、いつも見ていたのだ。
──いつも、一緒にいたのだ。
再生するのだから食べられる?
──そんなつもりで言ったのではない。
何故、打ち明けてくれなかったのだろうか?
──おそらく、わたしに嫌悪感を抱かせないためであろう。
こんな時間に出かけていたのは何故か?
──おそらく、自分を再生するための『生体魔素』を少しでも多く集めるためであろう。
『生体魔素』の保有量が少ない不死者からでも。
そこまでする彼の優しさに、そして抱えていた苦しみを思い、わたしは彼が帰ってくるまで静かに泣き続けた。
結局、彼にわたしは何も言えなかった。
そして思ったのだ。
──いつか、あの時のお礼を言おうと。
(それまでに彼を知って行こうと。その優しさを持ちながら、あの『本質』をどうして得てしまったのかを。そして、これから先を見続けて行こうと──)
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閉じていた瞼を、開く。
頭のない零刀をその瞳に映した瞬間魔力が溢れ出し、紫色の氷が砕け散る。
「あ、あああ……あああああああああああ!!!」
続いて『黒剣』から伸びる黒い鎖を視界に入れる。
(……『対象のしがらみや呪縛を【破壊】する鎖』。なら、もうわたしにこの鎖は必要ない!)
黒の縛鎖が破壊される。
──【魔王】の覚醒を確認しました。
能力が強化、解放されます。
──『全魔眼』より対象『神野零刀』から【破壊の魔眼】を習得しました。
──対象の特性より【混在眼】を習得しました。
──【魔王】における『王』の効果により強化されます。
──【魔眼合成】を習得しました。
──また、同対象より【異形の瞳】を習得しました。
(今、必要なのは──)
悪魔へと、視線を向ける。
そのイリスの背後では空間にヒビが入り、砕け始めている。
──【異形の瞳】が顕現します。
「──この身を焦がす怒りと、成すべきことを成すためのチカラだけだ!」
パリンッ!と割れた空間から、金色の虹彩に縦に割れた瞳孔を持った巨大な『眼』がひとつ、現れた。
その眼はギョロリギョロリと数回その眼球を動かすと、悪魔へと視線を向けた。
「──『否定しろ。異形の瞳は【破壊】と【死】を映し出し、破滅を今ここにもたらさん』」
【異形の瞳】に紫と紅が少し混じる。
それに悪魔は何かを感じ取ったのか、開いた口に魔力を集わせる。
「──【破滅の光線】!」
「ガァァアアア!」
【異形の瞳】からは黒く輝く光線が、悪魔からは紫色の光線が放たれる。
それはちょうど中間でぶつかり合い衝撃を放つ。
(この間に零刀を──【鑑定眼:簡易】!)
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神野 零刀 Lv115 Age16 男
体力 100/180000
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(良かった。まだ生きてる)
それを確認したイリスはホッとした様子で片眼に【再生の魔眼】を展開し、【魔法眼】で【治癒】を『付与』して零刀を治療し始める。
「零刀……生きて……!」
【異形の瞳】の視界を通してあと少しのところで【破滅の光線】が打ち消されたのを確認する。
(あとすこしでも届かなければ意味がない。それにあっちもそうだけど連発はできない……なら!)
「【複眼】」
イリスがそう呟くと瞬きするかのように割れた空間が一度閉じる。
次にそこに現れたのは先程と比べれば小さいが、ヒトの頭ほどもあるひとつの眼球だった。
しかし、それは互いを押しのけるかのようにひとつ、また一つと現れる。
少し経てばそこには大きさがまちまちの眼球の集まりがあった。
「【再生の魔眼】【魔法眼】を『転写』──」
【複眼】の色が変わり、零刀へと視線を向けたのを確認し、再度悪魔へと自分の視線を向ける。
(──わたし自身が叩く!)
悪魔はカタチの変わった【異形の瞳】を警戒していたようだが、痺れを切らしたのかイリスへと向かって物凄い速さで駆け出した。
普通の人間であれば視認することさえ難しい程の速度だが、移動している以上イリスの『眼』に見えないものは、ない。
「【空間眼】【固定の魔眼】、【障壁の魔眼】を『合成』。──【空間障壁眼】」
悪魔の拳がイリスの眼前で止まる。
空間を固定することで障壁を作り出したのだ。
(二つ目の『合成』は出来ない、かなら──)
悪魔を囲うように【空間障壁】を張り巡らせようとするが気付かれ、逃げられる。
「使い慣れてない『魔眼』のせいか【障壁】の生成速度が遅い……」
忌々しげに悪魔を睨みつけるイリスだが、ふと思いつく。
(【存在眼】と【鑑定眼】を『合成』──【存在鑑定眼】これなら!)
それで見えた『ステータス』は──
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暴君 LV200 Age 3678
種族:to2pgt'm悪魔〔魔物〕
称号:【創られた存在】 【理不尽】 【暴君】
体力 890000/900000
魔力量 450000/500000
魔力 400000
筋力 450000
敏捷 400000
耐性 500000
魔耐性 450000
〈固有技能〉:暴君【属性魔法無効、物理攻撃耐性、超速再生、思考支配】
〈技能〉:
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──『理不尽』としか言えないものであった。
「なに、これ……」
思わず、声を漏らす。
(コレに、わたしじゃあ勝てない……でも、零刀が居れば──)
悪魔を覆うように数多の【魔法陣】を展開する。
「──それが、どうしたァ!」
【無属性】の【魔弾】が放たれるが、悪魔に当たるよりも早くその囲いから抜けられる。
──その先で、色とりどりの【魔法陣】が展開される。
「【色彩覆う世界】!」
様々な【属性】の色が爆発する。
(コイツに【属性魔法】は通じない。でも──)
イリスの姿が消える。
悪魔に当たる前に【属性魔法】が無効化されていくそのスペースに現れる。
「──これでいい!」
「ガァ!?」
悪魔の眼前に現れたイリスはニタリと笑みを浮かべて眼前の【魔法陣】の輝きを強める。
「零距離なら、少しは効くハズ!【魔砲】ッッ!!」
極大な白色の光線が放たれる。
「グゥッ、ガァァアアア!」
咄嗟に腕を交差させ受ける悪魔だが勢いを抑えられずに飛ばされる。
「逃がさない!【転移】!」
飛ばされる先に【転移】で先回りする。
「──そこにあるのなら、チカラを貸して!」
そのイリスの言葉に応じるかのように空間が裂け、巨大な腕が現れる。
「【強化の魔眼】──『強化』、『強化』『強化』『強化』『強化』!はぁぁああ!」
重ねて巨腕を『強化』し、イリスが拳を振るうとそれに合わせて巨腕も振るわれ悪魔を飛んで来た方向に殴り飛ばす。
──当然、殴り飛ばされた悪魔は【魔砲】の中を進んでいくことになる。
「ガァァアアアアアアアア!!」
光線の中を突き進むこととなった悪魔は苦痛に声を上げるがやがて光線の根元を抜け、外に出た──
「──まだ、終わりじゃ、ない!」
──その先にはイリスがいくつもの【魔法陣】を重ねて展開し、待ち受けていた。
「消し、飛べ!【魔重砲撃】!」
それはもはや【光線】とは言えるものではなく、指向性を持った爆発とでも言えるものであった。
「グガアアアアアア!」
それは容赦なく悪魔を包み込み、余波の光が、周囲を白く染め上げていく──
──しばらくして、光が治まった。
そこには砲撃の余波によって消し飛ばされた地面と壁があった。
(終わった……後は零刀を──)
そう言って振り返ろうとした瞬間、怖気が走った。
「──えっ?」
イリスが再度前を向くと目の前には手があり、続いて衝撃が身体中を駆け巡った。
「ぐっ、かはっけほっ」
数瞬遅れて、顔面を鷲掴みにされ地面に叩きつけられたことに気がつく。
「なんで……まだ、生きて……!」
よく見れば悪魔も身体中がボロボロで片腕も吹き飛んでおり満身創痍ではあったが、その傷が逆再生のように治っていくのが見えた。
(まさかっ、片腕を犠牲にして傷を抑えて──!)
続いて「ミシリッ」とイヤな音がイリスの頭から鳴った。
「っ!はな……せ!」
華奢な腕で手をどけようとするが紫色のモヤに包まれた腕はピクリとも動かない。
──この時、『魔眼』を使って吹き飛ばすという選択肢が思いつかなかったのはこの悪魔が持つ【思考支配】の影響なのであろう。
最初のように完全に支配するのではなく一部の思考を抑えることに集中させれば【魔王】として『覚醒』したイリスにも有効であったのだ。
「グルアアァ……」
憤怒に彩られた目をさらに血走らせながら、さらに手にチカラが込められる。
(まずい、このままじゃ頭が潰される!?)
そう思い、死を覚悟して目を瞑った。
瞬間、イリスの耳に風切り音が聞こえたかと思うと、手から解放される。
「──えっ?」
驚きつつも何が起きたのかを確認すべく首を起こすと黒い外套を纏った見覚えのある後ろ姿が眼に入る。
「レイ──!」
名前を呼ぼうとして言葉に詰まった。
何故なら──
「アアアアァァァ……」
──その零刀は袖からは腕の代わりに先が刃物のようになっている触手が見え、首から上がなく、その断面を紫色のモヤが覆っていたのだから。
誰も主人公が覚醒するとは言っていない。
……まあ、最後に変な姿で登場してますが。
ハッ、変な姿で登場……まさか、変た──ん?誰だ?……ゴフッ!
▼ 落龍に50000ダメージ。
▼ 落龍は力尽きた。




