その名をば、ケモノという
少し時間が空いてしまいましたが頑張って書きました。
今回で『魔王戦』は決着ですね。
書くの大変だった。
……だって主人公がいきなり凄いことになるんだもの。
変なところとかあったら感想でお願いします。
それでは、どうぞ
「ガァ"ァ"ァ"ァ"……」
ケモノは自分の獲物である【理不尽】へと視線を向けると突然、横に飛ぶ。
身体がアンバランスな為か転がりつつも体勢を立て直す。
先程までいた場所は既に石化している。
「グルルルル……」
ケモノが一つ唸り声を上げると、黒い鱗に覆われた尾が生える。
自分を異なるカタチに変質させることで自分を強化し、適応させているのだ。
そしてさらに脚が兎のように飛ぶことに優れたカタチに変わっていく。
地を抉りながら、飛ぶ。
『魔王』に視線を向けられ、『魔眼』の効果が及ぶ前に飛び、躱していく。
先ほどとは違い尾でバランスを取り、触手や触腕で支えながらジグザグに跳びながら走る。
「グルァァアア!」
右腕の爪を叩きつけようとするが、何重にも張られた【障壁】を3分の1ほど砕いて止まる。
続いて左の爪を叩きつけようとするが、今度は【衝撃の魔眼】によって吹き飛ばされたが、すぐに触腕の鍵爪で地面を削りながら勢いを殺し、触手で体勢を整えて着地する。
──その零刀の周りを囲むように、いくつもの【魔法陣】が生み出された。
すると、零刀の着ていた黒耀の外套が変化し、トゲのような鋭利なカタチになると、魔力が流れ込み黒い雷
を纏わせ──
「グルォォオオオ!!」
──放たれた黒雷が、辺りの【魔法陣】をひとつ残らず【破壊】し尽くす。
砂煙が零刀を覆うが、晴れる前に『魔王』目掛けて鍵爪の付いた触腕を伸ばし、振るう。
それは再度【障壁の魔眼】によって一枚目の障壁に食い込むだけで終わるが──
──その触腕を強く引く事で今度は零刀が飛び、さらには背中のいくつもの翼や羽から黒い魔力を放出して増した勢いで障壁をいくつか砕く。
再び【衝撃の魔眼】で零刀を吹き飛ばそうとするが、零刀は触腕や触手を地面や障壁に突き刺すことで耐え、障壁を爪で切り裂き、牙で喰い破っていく。
何度も襲い来る衝撃に耐え続け、最後の障壁を喰い破り、爪を立てようとした瞬間、零刀のいる【空間】そのものが捻じれて歪む──
──次の瞬間には零刀の姿は無く、呼吸を乱す深い緑色の瞳の『魔王』のみが残されていた。
その眼は【封印の魔眼】と呼ばれ、膨大な魔力が必要な上にしばらくの間対象を視認し続けなくてはならず、ものすごい集中力が必要ではあるががやろうと思えば対象を【空間】ごと別の【空間】に封印することすらできる程に強力な『魔眼』であった。
故に、『魔王』でさえ呼吸を乱し、肩を上下させる程のものでもあった。
が次の瞬間、その『魔王』の目の前の【空間】に亀裂が入った。
『魔王』がその場を飛び退くとその亀裂から大きな鍵爪が現れ、その隙間からは何本もの触手が生え、その亀裂を無理矢理こじ開けていく。
そこから這い出てきたのは──
「グルォォォオオオオオオ!!!」
──さらに紫色の瘴気と黒い魔力を身にまといより人から離れ、よりバケモノへと近づいた零刀であった。
零刀が走り出すと『魔王』は焦ったように【魔法眼】で【魔法】を連射するが黒い雷で【破壊】され、それを抜けたものも触手で叩き落とされる。
そしてそのまま距離を詰めた零刀はその首目掛けて爪を振るうが──
「──ッ!!」
──突然動きを止めると、これもまた突然現れた巨大な右腕が振るわれ、殴られる瞬間に自ら後ろに飛ぶことでダメージを抑えて飛ばされる。
そのまま転がり少し地を滑って止まる。
(──いいのか?このままで)
横になったままの状態で、零刀の僅かな理性が問いかける。
(アレを、そのままにして……殺して、それでいいのか?)
変質して、身体から生えるようになっている黒耀石に自分を写しながら、再び問いかける。
(それでいいのか?何も知らずに、知ろうとさえせずに何もかもを【否定】するのは、俺の嫌う、俺が【否定】する【理不尽】そのものなんじゃあねぇのか?)
自分に、自分の本質に問いかける。
(俺がしてきたことはなんだ?俺に降りかかる【理不尽】を【否定】して喰らってきた。そしてそれを糧として力を自分のものとして進んできた)
纏っていた黒い魔力が零刀に吸い込まれていく。
(糧としたものは俺のもの……即ち俺だ。なら──)
異なるカタチに変質した零刀の身体に、ヒビが入る。
「──俺が何よりも、【理不尽】に負けるわけにはいかねェだろ!」
変異していた零刀の身体が【破壊】され、黒い魔力と紫色の瘴気が拡がる。
「──『生命、それは生きとし生けるもの全てが持つものである。それは【理不尽】に置いても同じ。だからこそ我はその生を【否定】する。それは生を【否定】するとともに【死】を与えると同義である。だからこそ、我は自らをも【否定】し、ここにそれを表す剣を成す』」
零刀の左手に漂っていた黒い魔力と紫色の瘴気が集まると、魔力の色が黒から白に変わる。
まるで、その色すら【否定】したかのように。
「──『錬成』」
魔力と瘴気が混ざり合ったところに現れたのは紫色の線が入った白色の剣。
「白色の剣だから白剣ってところか」
それができると腰あたりから触手を伸ばし、少し離れたところにあった黒剣を絡めて引き寄せ、右手に収める。
「もう、終わりにしてやるよ」
そう言った。
「さて、いきなりってのもあれだが──『我は距離さえ否定する』【離壊】」
零刀の目の前の【空間】が割れ、そこに身体から生やした触手を突っ込む。
すると、『魔王』の付近の【空間】も割れ、そこから触手が現れて拘束した。
「いきなり過ぎるかもしれねェが……まあ、意外とあの時の感覚でぶっつけ本番でできるもんだな」
あの時というのは【空間】を【破壊】して出てきた時のことだ。
そしてそのまま駆け出す。
その零刀を『魔王』は黄色い瞳で見つめていた。
「──【麻痺の魔眼】か。なら──【|黒耀の壁(オブシディアンウォール】」
零刀の目の前に黒耀石の壁が現れると『魔王』が一瞬身体を震わせて、動きを止める。
「やっぱ『魔眼』相手には鏡ってな。まあ、どっちかと言うと黒耀石の性質の【鏡写】の効果が強ェのもあるんだろうがな」
【鏡写】、それは自分自身の内面などを写す、自分を見直すと言う意味の込められた『性質』だ。
だからこそ、それを見た『魔王』は自分の使った【麻痺の魔眼】にかかってしまったのだ。
距離があと少しという所まで来たところで、再度【空間】を引き裂いて腕が現れ、零刀を殴り飛ばそうとするが──
「──『その行動に【死】を』」
──白い剣に触れると瘴気が溢れその腕に絡みつくと、その腕の勢いが【死】んだ。
『魔王』が【障壁の魔眼】で障壁を張る。
「大丈夫だ、心配するな。俺がその【理不尽】を【否定】してやる」
腕の横を歩いて通り抜けると、少し怯えた表情の『魔王』にそう言うと、右の黒剣に黒い炎を、左の白剣には紫色の氷混じりの風を纏わせた。
「ハァァアアア!」
黒剣で障壁を【破壊】すると、続けて左の白剣を『魔王』の胸に突き刺した。
「ラァ!」
その白剣を勢いよく引き抜くと、その剣先に紫色の氷に包まれたアメーバのようなものがともに引き抜かれた。
それを上に投げ飛ばす。
「この【理不尽】を喰らい尽くせ!【喰らう者】!」
零刀がそう叫ぶと同時に零刀から黒い魔力が溢れ出て竜の顎を形取ると、それに同調するように口を大きく開いてそれを丸呑みにした。




