神野零刀の消失
誤字、脱字、誤用等がありましたら感想で、ご報告して頂けると幸いです。
(─いったいどれほどの時間喰われていたのだろうか)
暗い中、ひたすら肉を喰われていた零刀はふと、そんなことを思う。
途中からは『魔力操作』による『自己修復』の強化も疲労が溜まるためやめてしまっている。
『自己修復』自体が体力を使い、体に負担をかけることもあり、疲労が溜まりすぎると『自己修復』の効果がどんどん弱くなってしまうというのが理由だ。
それでもまだ生きている─否、生かされている。
『魔力量』が残り僅かとなれば、無属性である【魔力譲渡】を使い無理矢理魔力を回復させられる。
それにより『自己修復』で回復の繰り返しである。
喰われては回復、喰われては回復の繰り返しで気がつけば『自己修復』、『痛覚耐性』ともにLvは10まで上がっている。
それ故に、死ぬこともできずにこの永遠ともに思われる地獄から抜け出せずにいる。
それでも─
(─そろそろ体力も尽きる。これで『自己修復』も機能しなくなり、この苦しみから解放される─)
─さあ、殺してくれ。
ふと、トラが弾かれたように顔を上げ、出入口の方を見る。
耳をすますと、獣の吠える声が僅かに聞こえる。
「お…い、」
零刀の声にトラが振り向く。
その表情はまるで死なせるなんてもったいないとでも言っているかのようで
(まさか、まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか)
トラが顔を上げたことにより、僕を見下ろす形となる。
「まて…よ、ころ、せ。ころせよ、殺してくれよ!」
零刀の懇願する声を無視してトラは踵を返し、吠える声の方に向かって走り出す。
「殺せよぉぉおおお!」
零刀の悲痛な叫びが響き渡った。
………………………………………………………………………………
(なんで、こんなことに…)
しばらくして、止血し終わった零刀は、動かずに思考を巡らせていた。
(どうして、こんな理不尽な目に遭わなきゃならない!?僕が、何をしたっていうんだ!!?)
やりようのない怒りがこみ上げてくる中、ふと、思う。
(─そう、か。何もしなかったから、か。
─だからと言って、この状況を受け入れることはできない)
零刀の耳にズシン、ズシンと、いつか聞いたことのあるような足音が聞こえてくる。
(─そうだ、認めることはできない)
足音が止まり、ふと顔を向けるとそこには中位悪魔が立っていた。
「なにも、せずにひ、てい、なんてされ、て、たまるかっ、てんだ」
ボロボロの身体を無理矢理に動かして言う。
「グルラァァアアア!」
そんな零刀を嘲笑うかのように、中位悪魔は雄叫びを上げて零刀を殴り飛ばす。
「ガハッ、ゲホッ」
何とか膝を着いて立ち上がろうとするが、もともとの疲労もあり、立つことはできない。
中位悪魔はゆっくりと歩み寄る。
ふと、丸い球体が悪魔の視界に入る。
それは先程まで戦いで使われていた鉄球のようで─
悪魔は反射的にしゃがむことで攻撃を回避しようとした。
─その時には、零刀の身体はまるで最初の戦闘訓練の時のように自然に動いていた。
『魔装』で、コーティングし、『魔纏』で全力で鋭さを持たせ、手刀の形にした右手で悪魔の下がった首目掛けて放たれた貫手が貫き、悪魔の首が飛ぶ。
悪魔の身体がゆっくりと倒れ込む。
そして
「…限界、か」
悪魔の身体が倒れた隣に零刀も倒れ込む。
(回復するにも残り『魔力量』はなし、か。万事休すだね。まだ、やりたいことがあったなぁ。食べたい物もあったなぁ。読んでない本もあったなぁ)
─死にたくない、なぁ
ふと、そんなことを思う。
(さっきまであきらめてたのにな。まだ、生きたいと思うなんてね)
自分の心変わりに苦笑する。
(でも、まだ生きることが許されるなら─)
零刀が、悪魔に手を伸ばす。
(─それにかけるのも悪くない)
死んだ悪魔の身体に─肉にかぶりついて、喰らった。
何度も、何度も何度も何度も何度も。
それは傍から見れば狂気を感じるであろう。
それでも、必死に喰らいついた。
何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も…
ドクン!
「ぐぅっ!」
零刀の身体に異変が生じる。
「ぐあああああああああああ!」
ドクン!
身体が燃えるような、それでいて冷えていくような感覚が、それでいて、身体中の、細胞のひとつひとつが壊れていくかのような痛みが走る。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」
(痛い、苦しい、熱い、寒い、気持ち悪い、なんだよ、これ)
それでも、溢れ出る魔力を『自己修復』に使い、傷を治していく。
(まだ、痛い、苦しいってことは、生きてる。だからこそ、忘れてたまるものか、この痛みを、苦しみを、怒りを!)
その痛みは、苦しみは、深く刻まれていく。忘れないように、深く、深く。
─一定量以上の経験を検出しました。技能『記憶管理』を固有技能『完全記憶』に進化させます。
記憶をたどって、腕などの元の形を思い出し、溢れ出る魔力そのものを『錬成』して、修復させる。
─一定量以上の経験を検出しました。技能『自己修復』を固有技能『再生』に進化させます。
─特殊条件のクリアを確認。固有技能『再生』を固有技能『再構成』に変化させます。
零刀の手足の先から耐え切れなくなったらかのように崩壊し始め、光の粒子となって漂う。
まだ崩壊の始まっていない右腕を天井で見えない空へと向け、叫ぶ。
「…てやる、……してやる、壊してやる!こんな理不尽、ぶっ壊して、否定してやる!これが運命だとしても、そんな運命、ぶっ壊してやる!僕の道を邪魔するものなんて全部全部、何もかも、ぶっ壊してやる!俺が─」
──零刀の身体は崩壊し、そこにはおびただしい量の血と悪魔の死体以外、何も残っていなかった。
次回、零刀の過去が明らかに!?(なるかもしれない)




