思う者たち、そして──
どうも皆様こんばんはー!
私はナリアでごさいますよー!
少し遅れてしまっています、何せわたくし、書きだめできないタチでして!
修正点が、見つかると、なかなか、上げられない、のです!
それでは! どうぞ!
私のテンションが高いのは紅茶が美味しかったからです。
「何やってるんだ零刀のヤツ……!」
もどかし気に隆静が床を叩き叫ぶ。
ろくに反撃もせずに攻撃を受け続けている光景を見て耐えられなくなったのだ。
「……イリスさん、僕の【魔法】をあの場所に届けることはできないかな?」
そんなとき、光輝が思いがけないことを口にした。
「……単純なものなら」
「なら──『此れは闇裂き道切り開く光輝の剣』」
光の剣がいくつも宙に現れる。
「これをお願いしたい」
「これじゃ、アレには通じないけどいいの?」
「零刀くんにこの思いが通じればいい。だから、頼む」
「……わかった」
イリスのチカラで飛ばされた【光剣】が【邪神】を撃つ。
「……やっぱり全く効かないか」
「イリスさん、これも頼む!」
「……ん」
隆静の魔力が込められた大盾が零刀のの眼前に現れて攻撃をさえぎる。
「一瞬で砕かれた……ほとんど効果なかったか?」
「そりゃあ伊達にも【神】を名乗ってる存在なんだから、おかしくもないでしょ」
少し落ち込んだ隆静に鈴がさっぱりと告げる。
「……私も何か飛ばしてもらった方がいいのかな」
「必要なさそうですよ坂本さん。だってほら、神野君はしっかりとこっちを向いている」
桜の言うようにイリスによって映し出された彼はこちら側を見て笑っていた。
「……伝わったみたいだな」
「うん」
能動的に動き始めた零刀を見て頷く彼らだが、零刀が次にした行動に再び戸惑いの声を上げることになる。
──零刀が愛用している二振りの剣を手放したからである。
「……そっか。レイちゃんはもうその段階なんだね」
「鈴、何を……」
「武器は足枷なんだよ。例えるなら、レイちゃんは今まで割り箸で戦っていたようなものなんだよ。相手が振るうのはそれ以下のつまようじくらいかな。もちろん、振るう人もそれ相応。どれだけ気を配って戦っていたんだろうね」
それがどれだけ苦痛だったか。
理解はできずとも、想像を絶するものであろうことは予想できる。
どれだけもどかしかっただろうか、どれだけ息苦しかっただろうか。
どれだけ──生きづらかっただろうか。
「これだけ強くなったレイちゃんが『理不尽』を否定することにこだわり続けるのは、もしかしたら『理不尽』に感じるくらいじゃないとじゃれつくことすらままならないからかもしれないね」
「──ヒトも精霊も、【魔王】も【光神】【闇神】も【最強】も。どれも『創造主』様と対等には慣れなかったのですよ。弱すぎたのです。あなたたちも──私たちも」
コチラの世界に戻されたハクアが悔し気に呟く。
「……剣の君たちもわかってたんだね」
「それは、そうだろ……! 剣として振るわれてる私たちが、気が付かないわけがないだろ! 壊さないように、気まで使われて……!」
クロアの感情が、弾ける。
剣として、それは『恥』に等しい。
ここに作成者の力不足はない。
零刀の『生体魔素』を用いて作られた彼女らはいわば『神野零刀』の写し身。
『成長する剣』として作られた彼女たちは零刀と同じ速度で成長して行く──
──零刀が己の許容量を超えて『理不尽』を喰らい続けた結果、【己ヲ喰ライテ糧トナス】という自己完結するための『権能』など手に入れなければ、そんな未来もあったのかもしれない。
零刀は進み続けてしまったのだ。
その先に何があるかさえわからない『ハズレ』た道を、ひとりで。
立ちふさがる障害物すべてを『否定』して──
「だめ、そこから先は──!!」
イリスの叫びに視線を上げれば、映像の向こうで零刀を刺したシリウナの姿があった。
「なんで、どうして……? 私を置いていくの? ここまで、私も見えるようになったのに!? 置いていかないで……私をもう、ひとりにしないで……」
悲痛な声が響く。
涙がにじむ。
心が軋む。
されど、彼は止まらない。止まれない。
「…………、……わかった」
映し出されていた光景が、消える。
「なん、で。イリスさん……?」
「……ここから先は見せられない、見ることもできない」
脱力し、座り込んでしまったイリスが言葉を紡ぐ。
「どうして……?」
「ここから先は、私でも『眼』が届かない」
「どうして……?」
「何より、零刀が『見てほしくない』って言った」
「──例え見れたとしても、この場にいる誰も耐えられなかった。それが真実です」
あちらから帰ってきたシリウナが無慈悲に言い放つ。
「それは、どういうことだ……?」
「リュウセイさん、でしたっけ? アナタは正常ですか?」
「……自分ではそう思っている」
唐突に何を、と顔をしかめる隆静だが、そんなことは気にせずシリウナは続ける。
「だからです。正常ならば、見れば正常じゃあいられなくなる。狂っていたら、自分がまだ正常によっていたと自覚する。そう言った領域なのです」
「どう、いう……」
「それが理解できるなら、レイさんの隣で一緒に戦っていたんじゃないですか? それ以上の答えは持ち合わせていないので」
そう言い切ってシリウナはイリスに歩み寄る。
「イリスさんはこれからどうしますか?」
「……この世界を、歩いて回ってみたいと思う」
「おや、レイさんのいない世界に価値はないって言ってませんでしたっけ?」
「……言った。けど、零刀がこの世界を救ったのなら、どこかに価値があったのかもしれない」
どこか遠くを見ながら、イリスは言う。
「それに、そこに気づけたら。零刀のことが理解できるかもしれない」
「なるほど」
「あとついでに、『魔族』の生き残りがいないかも探してみる」
「えぇ、そっちをついでにしちゃうんですね……じゃあ、私もついて行っていいですか? 一回おばあちゃんにケジメをつけに言った後が暇なんで。どうせ、レイさんが戻ってくるまで続けるつもりですよね」
「ん、わかった。せっかくだし、一緒にいこう」
「ま、待ってくれ! どういうことなんだ?」
話についていけない光輝が思わず声をかける。
「どういうこと、とは?」
「零刀君は、どうなったんだ……?」
「さあ? 知るわけがないでしょう」
背を向けたまま返ってくるのは冷たい答え。
「すぐに帰ってこないのは何らかの理由があるからでしょう? ならば、帰ってくるのを待つ間、私たちが自由に過ごしても問題ないでしょう? それともあなたは──心配じゃないのか、とか聞くつもりじゃあないですよね……?」
顔だけ振り返って続けた彼女に、浮かぶ表情はない。
しかしてそれが、彼らに何の期待すら抱かず、何の感情すら感じていない証左でもある。
もし彼らが、彼女にとって不利益となると判断された場合、何の躊躇もなく『消去』することだろう。
「……信頼してるのですね」
「そりゃあ、もう! こんな私だと知っても受け入れられる、大きな存在ですから!」
桜の言葉に一転、花の咲くようん笑みを浮かべてうれし気に笑う。
「……私もそろそろ行くとしよう」
瓦礫に腰かけていたラグナも立ち上がり、空を見上げる。
「──どうやら終わったようだ」
赤黒く、淀んでいた空が晴れ渡ってゆく。
「これは……」
「この世界に干渉していた【邪神】とやらのチカラが消えたからだろう。それで空が正常化したんだろう」
「──『正常』? これが?」
うつむいていた彩が声を上げた。
「……彩ちゃん?」
「レイくんのいない状況でこの世界が『正常』? そんなわけがないでしょ? 現に、レイくんが居なくなった瞬間、世界はリソース不足になって困窮した。世界はもう、レイくん無しでは存続すら危ういのに」
緩慢とした動きで顔を上げる。
「この世界は持って半年。それで終焉する。誰もそれに気が付けなかった。誰も何もできなかった。だから私は──【回復】させることにしたの。何もかも、すべて、最初から」
周囲の瓦礫が浮かび上がり──元ある場所へと帰ってゆく。
「これは、城が直ってゆく……?」
「いや、これは……物質の時間が回帰してる──まさか、さやちゃん!!?」
「──すべて、やり直せばいい。正しい結末が見れるまで……!」
遡行が、加速してゆく──
「──【森羅万象、混沌ニ帰セ】」
「──【万象よ、死に贖え】」
遡行が減速し、止まった。
戻ろうとする力を【死】で止めたのだ。
「──どうして邪魔をするの?」
「──クロア姉さま! アレを壊して!!」
「わかってる。これが、マスターに与えられた命令……託された願い──【理壊】!」
クロアの手が振れた瞬間──何かが砕け散る音がした。
誰も動けなかったその中で、確かに運命が変わった瞬間であった。
「──『傲慢』起動。彼の存在証明を示せ」
その中で鈴も行動を起こす。
そして、その中に答えはあった。
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邪神の玩具
あーあ、見つかっちゃったか。さすがだねぇー。
おめでとう、ハッピーエンドが見れるといいねえ。
誰にとっての華は知らないけど、ね。
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「なに、これ……」
「これが、零刀の怒ってた理由、みたいだね」
それを見て理解できないとのつぶやきにイリスが口を開く。
「まさか、まさかまさかまさか……いるのか、本当に……?」
「……鈴?」
己が身を描き抱き、がたがた震える異様な姿を見て、リアが問いかける。
「ああ、知らないって幸せだよなあ!? 全てが掌の上だったのか? どうせお前の仕業だろう!? 人類で遊ぶの、好きだもんなあ!?」
慟哭じみた問いかけをここではないどこかに向けて発する。
「どうせ見てるんだろ!? ここでないどこかで!いや……ここではない、どこか……?」
「り、鈴。何を言って……」
ふと至った答えに戦慄を隠せない鈴だが、周囲の者は理解できていない。
「まさか、戦ってるのか……? ここではないどこか……この世界の理の、外で……?」
それは
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「『理不尽』を否定する中でそれを成す自分自身が『理不尽』となり、それに気づいた彼は自分事【邪神】を『否定』する」
黒い装丁の本を閉じながら、黒いローブを纏ったソレは笑みを浮かべる。
「うーん、今回の彼は悪くなかったねぇ。一瞬とはいえコチラ側に足を踏み外したんだ。『否定』も行き過ぎれば『肯定』にもなる。それが『理』という枷から解き放たれたら、ねぇ?」
クツクツと笑いをこぼすソレはしかし、と表情を戻す。
「ここまでの変化があるのならもう少し繰り返させても問題なさそうですね。あの娘の前の記憶も戻しておくとするか」
もう一度本を開いてある文を指でなぞろうとして──ふと思い返す。
「見てみればあっけないものだな。まあ、個と個の戦いなんて準備と強さと運で大体が一瞬で終わる。殺し合いなら特にそうだ。何か一つのミスが命取りになる」
「──そうだよなあ。たった一つのことが命取りになるよなあ」
聞こえるはずのない声が響く。
何もなかった虚空が裂ける。
「お? おおお?」
「いつまでも傍観者でいられると思うなよ──『ナイ』」
空が崩れ落ちる。
そこから手が伸び、日々を広げてゆく。
「おや、おやおや、これまた随分と面白い姿になってますねぇ?」
「姿カタチは問題じゃねェだろ。問題なのは、何を成すかだろう?」
体中に黒い血管のような模様の浮かび上がった姿で零刀は口の端を吊り上げる。
「こんな世界のハズレになんのようだい? 神野零刀くん」
「決まっているだろう? ここにいる『理不尽』を否定しに来た」
「ハハハハハ、面白いことを言う。参考までに、どうやってここまで来たのか聞いても?」
「お前、あの【邪神】を名乗らせた男に『権能』を与えただろう。そこに残留する力をたどってきた。傍観者を気取るくせに干渉しすぎたな」
ズルリ、と虚空に埋まっていた零刀の下半身が裂け目を超える。
それはニンゲンのそれではなかった。
ヒトの、獣の、水性物の、幻想的な生物の、冒涜的な存在の一部がごちゃごちゃに混ぜ込まれた不定形であった。
「ハハハハハ、どちらかというと君は私に似ているな」
ボコリボコリと黒いローブが波打つ。
伸ばされ露出した腕は真っ黒に染まっていてかぎ爪に変形していた。
そしてその体は零刀そっくりに変形していった。
異なるのは異形に生えた人型が黒いローブに包まれているかどうかだけ。
『ほうら、そっくりだろう?』
『お前と一緒にするな、無貌が』
異形と異形が対峙する。
『さあ来なよ。ハッピーエンドが見たいんだろう?』
『気に入らない『理不尽』結末なんて『否定』してやるよ』
本物の【邪神】と本物の『理不尽』がぶつかり合う──




