サイカイ
どうも皆さまこんばんは。
熱中症でダウンしていたわたくしだございます。
誤字報告してくださった皆様助かりました。
それではどうぞ!
──精霊の『ステータス』には能力値が存在しない。
理由は簡単、『精霊』という『種族』は自然そのものが魔力と魔素と結びつき、自意識を得た存在である。
自然は『存在』でしかなく、そこには自己を保つという行動概念が第一に存在する。
だから、他の生命が自然の存在を脅かしたりしない限り自分から襲い掛かってくることはない。
──もし精霊が襲い掛かってきたのならそれは、その精霊が自身の存在が脅かされそうだと感じたか、何者かに強制されているかのどちらかである。
「あー、やっぱり相性最悪だな」
そんなことを考えながら、ズタボロになった体でそう零すのであった。
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「地獄かここは……」
隆静が思わず、といった様子で呟く。
「この光景を見てると、わからなくもないかな」
轟く雷鳴にひび割れた土地、遠くの揺らめく巨塔はそんな大地を巻き上げる竜巻だろうか。
これに加えてさらに、そこら中にバラバラになった死骸や焼けた死体、うず高く積もった黒い塵などが見えた。
「……全部、『死霊』の死骸だ」
『鑑定』で見た光輝の言葉に、聞いた者たちが頬を引きつらせる。
「これ全部、レイくんたちがやったってこと?」
「だろうね。それにしてもレイちゃん、だいぶ手加減してるみたいだね」
「これで?」
「りんさん、手加減というより力の使いどころを考えてる、という方が近いのでは?」
「あー、先生の言う通りかも。絞って使ってる感じだね」
会話を交わしながらも彼女たちに油断はない。
「とにかく、レイちゃんがここを通ったことに間違いはなさそう──伏せて!」
とことばの途中で鈴が警告を発する。
次の瞬間、黒色の何かが高速で飛来し、大地にぶつかる。
「攻撃か!?」
「リアちゃん、煙幕を払って」
「わかった──【送風】」
【風属性魔法】で払われた先に、それはいた。
「ッ、流石に効くなぁ……」
「レイくん!?」
そこにいたのは体のいたるところに穴をあけた零刀であった。
「待ってて、いま【回復】を──」
「ッ! もう来やがったか!」
近寄ってきた彩を押しのけ、剣を振るう。
ガラスを割ったようなパリンパリン、といった音が連続で鳴り響く。
しかし、その攻撃をすべて捌き切ることはできず、身体に何本もの光の杭が突き刺さる。
普通の攻撃であれば【深淵外装】の効果で体に触れることすらできないのだが、残念ながらこの攻撃は普通ではない。
「【光】は流石に厳しいな……距離が意味をなさねえ」
「──【全回復】!」
「助かるが、俺は気にしなくていい。それよりもお前ら、結局追いかけてきたのか」
「もちろん、あたり前だよ。レイ君にばかり任せてられないからね」
光輝の言葉にあいまいな笑みを浮かべて──前に向き直る。
「覚悟があってきたのなら──ついてこい。お前らのその先の世界を見せてやる」
そう一言告げて、大地が陥没するほどに蹴って飛んだ。
「行こう! 光輝もぼさっとしないで!」
「あ、ああ。鈴の言うとおりだ。ここまで来たんだ、行こう!」
そう言って彼らは駆けだした。
そしてその先にあったのは──『神話』と同等の世界。
巨大な異形が暴れ、触腕が蠢き、光が走り大地が爆ぜ、世界が染まる。
そこにいるのは異形に死霊、【神】に【バケモノ】。
「これが、零刀の世界……」
戦慄、という感情が一番近いだろうか。
そんな彼らのもとに、一つの影が飛来する。
「……隆、静?」
「赤、坂? なん、で……」
そこにいたのはかつてのクラスメイトにして以前の戦いにて死んだはずの赤坂の姿。
「頼む、俺を、止めてくれ……これ以上、神野の奴も、それ以外の奴ももう、傷つけたくないんだ……!」
苦痛そうに顔をゆがめて口にする赤坂に隆静の顔つきが変わる。
「……お前ら、こいつは──赤坂は俺たちでどうにかしよう」
「隆静ならそういうと思ってたよ」
隆静の言葉に光輝が返した。
「……因縁ってやつなのかもね」
「できるのなら助けたいところだけど……」
「余裕があれば、だね」
続いて彩と鈴も言葉を交わし、構えた。
「では、先生はあっちの異形をどうにかしましょう」
「因縁とかないし、私は周りにいる邪魔な死霊どもを切ることにするわ」
桜は拳を握りしめ、元教え子であったソレへと歩みを進め、とくに因縁などを感じてはいないリアは周りの邪魔になりそうなな死霊を斬りに行く。
「行くぞ、赤坂」
「頼む、隆静。俺を止めてくれ……」
ここに一つ、過去の因縁を清算するための戦いが幕を開ける。
「はぁぁああああああ!」
拳が巨大な異形を撃ち抜く。
「……先生か」
「神野、なんで置いていった!? 共闘宣言したばかりだろうが!」
異形を殴り飛ばしながら、桜は零刀に文句を投げつける。
「悪い事をしたとは思ってる。だが、アイツらがどう選択するのかわからなかった以上、正しい判断のできる先生を付けておきたかったんだ」
「なるほどな。せめて一言言ってくれればよかったものを……」
「言うタイミングが無かったから……なァ!」
飛来する【光】を【紫氷】の壁で防いで答える。
『あなたが相手してるのは【光】そのものよ。いくらあなたとはいえ……』
「なんだよ、ドライアドの癖に心配してくれてんのか? 」
『あなたが負けたらそこで世界は終わりでしょうが』
「まあ、相性は最悪だが……役者も揃ってるし、そろそろ進んでもいい頃合いかもな」
桜との【契約】によって現れたドライアドにそんなことを言って、何気なく呟く。
「──『深化』」
零刀の瞳が髪が、心が黒く染まって行く。
ボロボロになっていた外套が瞬く間に修復され、さらに色濃く染まる。
「──俺の道だ。進む上で邪魔なら喰らって進むだけだ」
口角を釣り上げる。
獰猛に、まるで獲物を狙う獣のように──
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「──いた」
紫水晶に包まれた黒髪の女性を見てイリスが呟く。
「【鑑定眼】」
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アンダリナ
『称号』【闇神】
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「……【光神】のチカラを利用して、【闇神】を閉じ込めてる? なるほど、だから、【光神】は解除するチカラを、私たちに渡したという事……」
その水晶に触れる。
瞬間、イリスの体が光り──水晶がひび割れ、崩れ落ちる。
「……しってた」
「あああああ!」
襲いかかってきた【闇】をイリスは【転移】で距離をとることによって回避した。
「私の時も、正気を失って、零刀に止めてもらったから……」
「アアアア!」
次々と迫り来る【闇】を連続で【転移】して躱すイリス。
「さすが、【神】と呼ばれるだけはある。けど──」
眼の色が変わる。
「──薄い」
重圧が【闇】を地に叩き伏せる。
「──浅い」
さらに増した重さに、【闇神】さえも膝を着く。
「零刀に比べれば、あまりにも足りない──」
イリスの瞳が白く輝き──光が爆ぜる。
光が晴れれば、倒れ伏した【闇神】の姿があった。
「……おきる」
「う、痛い……ここ、は?」
「説明は面倒。だから……『思いだせ』」
【同調】と【記録】の『魔眼』を使って強制的に記憶を思い出させる。
「──ああ、大丈夫。ありがとう、『アイリスフィリアス』」
「……? なに、それ」
「なにって……貴女の『名前』でしょう? って、まさか……」
「私は、知らない……『イリス』。それが私の、貰った名前……」
「……少し、失礼するね。『私は闇、隠すもの隠されるもの、遍く全ては私。なれば全ては我が手中』──そっか、”消された”のね。他でもない貴女の『父親』に、貴女を守るために『世界の記録』からさえも」
どこか悲しげに告げる【闇神】だが、イリスは理解できない。
なぜなら、”知らない”のだから。
「……わからない。けど、今やるべきことはわかる。零刀の所に、戻らないと」
「そうだ、私が助かったのなら……リムは、【光神】は?」
「今、零刀が戦ってる。操られてる【光神】と」
「聞いたことの無い【神】ね……」
「零刀は【神】じゃ、ない」
否定の言葉に、【闇神】は目を剥く。
それは道理、であったからだ。
「神じゃ、ない? そんな、【神】と本気でやり合って勝てる筈がない……悪いことは言わない。貴女だけでも逃げるべきよ」
「だから、私が行かないと。私が零刀を見てないと……これ以上、『理』からハズレないように」
「【理外】が、生まれてる……? まさか、そんな……いやまさかこの世界はもうそこまで?確かめるためにも、行かないといけないね。わかった、私が連れて行ってあげる」
イリスの手を取り、【闇神】が言う。
「……おねがい。迷宮の最奥からだと、【転移】で出れないから、助かる」
「任せて──【転移】!」
視界が一瞬で切り替わる。
そこで目にしたものは──
「お、丁度良かったな。思ったよりも厳しかったからこっちが先に終わっちまうところだったぞ」
何故か上半身を零刀にめり込ませた【光神】と黒く染まった零刀の姿であった。




