あの日の続きを、もう一度。
少し間が開いてしまい申し訳ございません。
体調がなかなか安定しなくて……
そう言えば、明後日私誕生日らしいです。
毎日に感謝していると忘れてしまうもののようです。
今回はあの人との手合わせです!
それではどうぞ!
「……二人とも病み上がりなのですから、あまり無茶はしないように」
そう言って【冥府之門】の前から退くとアドルフが姿を現す。
そしてその対面の空間が割れ、そこからは零刀が現れる。
「……しかし、いいのか? 手合わせを頼んだ手前で言うのは何だが……弱体化しているんだろう?」
「まあな。でも、この場所なら少しの無理は利く」
そう言って零刀は『冥界』を見渡す。
『冥界』と言うだけあって荒野が広がり、所々炎のようなモノが揺らめく。
「特に何かができる訳では無いが、一応この場所は俺の支配下だからな」
「くっ、屈辱……! この屈辱、いつか必ず……!」
零刀の言葉にリーシャが反応して、悔しげに歯噛みする。
「それに、相手の心配なんてしていられるのか?」
「……なんだと?」
「──俺に勝てると思ってるのか? ってヤツだ」
あからさまに挑発する。
「正々堂々? 騎士道? 今そんなモノが必要か? 今、俺の前に立っているお前はなんだ?」
そして、問いかける。
その問は零刀がアドルフに対して『どう』戦うのかを決めるための問いでもあった。
それを察したアドルフは、だからこそこう答えるのだ。
「目の前の『冒険』に対して、泥まみれになりながらも手を伸ばす者だ。目の前の脅威へのリベンジと、己が力を図る為のモノだ!」
宣言して、剣を抜く。
「ああ、ならここに来て良かった。なら、俺は『理不尽』としてチカラを振るおう」
そう言って零刀は左眼を紫に輝かせる。
「来いよ」
「ああ!」
『身体強化』を発動し、零刀の前に一瞬で移動し剣を振り下ろす。
それを後ろに飛んで躱した零刀をそのまま追撃しようと踏み込むが、ズブリと音を立てて足が地面に沈む。
「っ!?」
「──様子見もひとつの戦術として成り立つが、相手を考えろ」
零刀が距離を詰め、動けないアドルフへ剣を振るう。
それを上体を無理やり逸らして避けたアドルフは──今まで封印してきたその言葉を紡ぐ。
「──『我が渇望に応えよ』【魔剣召喚】」
──瞬間、赤黒く禍々しい魔力を纏った剣が零刀目掛けて振るわれる。
絶大威力を宿したそれを剣で受け、余分なチカラは【死】で減衰させ吹き飛ばされることで距離を取った。
「これはまさか……いや、そういう事か……懐かしいな零刀。お前。今のこの一連の流れを作ったな」
気がついたアドルフは零刀へそう言う。
アドルフは気がついていた。
今の一連の流れが、かつて王城に居た時の零刀との手合わせの再現であると。
そして今はあの時と違い、零刀が絶対的強者として戦いを受ける側であるということ。
その全てをわかった上でアドルフは語りかける。
「……俺は、お前が『錬成師』になった理由が何となくわかった気がする。お前は、戦いを作っている」
「へえ? 何処でそう思った?」
「俺の認識を確認したのは、俺がお前に劣るのを認識させた上で、俺がとる行動を限定した。俺も前回のことがなければ気が付かなかっただろうな」
「……それで?」
「前回の事件。あれはお前が最初から最後まで作り上げたものだな」
零刀の質問にアドルフは答えつつ、アドルフ自身が感じた疑問も投げかける。
「今思えば、お前はあの時迷い無くあの平原に【転移】させた。その上あのタイミングで裏切り者の混じった『冒険者』達の参戦。あれら全て、お前が準備したものだろう?」
「──察しがいいな。まあ、気がつくならお前が最初だとは思ってたよ」
零刀はやれやれ、といった反応をしながらも、どこが面白げにそう返す。
「これは俺の主観だが、お前の最大の武器は圧倒的な戦闘力でも特殊な【魔法】でも無い」
「へぇ? じゃあ何だってんだ?」
「それは──自分の望む状況に作り変えるチカラ。状況を支配下に置くチカラだ」
一瞬の静寂。
「……ふ、ははは。なるほど、なるほどな。『作り変える』ね。しっくりくる」
今まで他人と過ごす中でガワを作り、『理不尽』を退けるために自分の肉体すらも作り変えてきた零刀にとって、その言葉はやけにしっくりくるものであった。
「さて、あらかた言いたいことも言い終えただろ? 続きと行こうじゃねぇか」
「ああ、そうだな──あの日の続きをなあ!」
アドルフが駆ける。
オーラを纏った剣を振るう。
それを零刀は『白剣』で威力を死なせてから『黒剣』で打ち払う。
「おお、『魔剣』か。始めて見る、な!」
「今使えているのは、お前が手を加えたからだろうがッ!」
剣戟の応酬は次第に苛烈さを増していき、アドルフはオーラを全身に纏わせ、対する零刀は【黒炎】と【紫氷】を纏わせて剣を打ち合わせる。
「このままだとこっちが辛いか──【黒撃崩壊】」
剣戟の僅かな間に、黒い魔力玉を生成。
それはすぐさま膨張し、両者を飲み込まんとする。
両者はその場から大きく飛び退き、アドルフはその球体の動きを見るがそのまま動くことも無く霧散した。
(……ブラフか。さすがにあれは引く以外の手はどうなるかわからなかったからな。しかし、ここて剣の打ち合いを止めたのは向こうにとってこの状況が好ましく無かったから……なら、間を置かずに攻める!)
「【乱飛斬】!」
アドルフが連続で剣を振るう度、斬撃が飛ぶ。
オーラを纏った飛ぶ斬撃は、そのひとつひとつが先程の剣戟に匹敵する威力を誇っている。
しかし──
「遅いな」
零刀の姿が紫の光跡を引いて掻き消える。
紫の光跡は尾を引きながら飛ぶ斬撃の弾幕の中をジグザグに縫って抜けてくる。
「まだまだ行けるだろ!」
「当たり前だ! こちとら伊達に【天剣】と呼ばれてないんだよ!」
接近してきた零刀を見てアドルフは連撃を止めて、零刀の斬撃を受け止める。
──そのアドルフの眼前で、零刀の左眼がいっそう輝きを放つ。
「ならこれも対処して見せろよ?」
「おまっ! まさか──」
「──【紫耀光砲】!」
至近距離で零刀の左眼からアドルフを飲み込む光線が放たれる。
豪! と言う音とともにそれに飲み込まれたアドルフであったが、煙が晴れると抉れた地面の先にアドルフは立っていた。
灰色の盾を前に構え、黒い鎧を身に纏う
手には先ほどよりもオーラを増した『魔剣』の姿が。
装いを新たにし、彼は零刀へ立ち向かう。
己のチカラを示すために。
「──【魔剣解放第一段階:灰騎士魔装】」
「へぇ、第二形態ってところか? 『解析』」
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吸魔の盾
『魔剣』によって生み出された盾。
所有者以外の触れたものから『魔力』を吸収して自己再生、強化を行う。
この場合自分の魔力へと変換するため『魔力性質』の影響を受けない。
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「『吸魔の盾』──そういやどっかで聞いたことが……まあいいか。それにしても第二形態……ロマンだな」
「……この姿を見て最初に言うのがそれか?」
「……じゃあ、俺の第二形態と被ってる」
「……え、お前もできるのか?」
「ああ、紫と黒の形態がある」
「……お前がこの『魔剣』、使えるようにしてくれたんだよな?」
「まあ、そうなんだが……使用可能にしたのは俺だが、元々の機能に関してはまだ『解析』してないんだよな」
二人の間に、微妙な空気が流れる。
ここに来て、まさかの第二形態被りである。
「……興が逸れてしまったな」
「……やめるか」
「でも、このままだと締まらんし……」
「なら、最後に一撃ぶつけ合うか」
互いに笑いながら、二人は決着を決める方法を決めた。
そして、互いの笑顔は消え、気配が鋭く研ぎ澄まされて行く。
「──『之は我が理想、我が情景。我が求め続けた剣の、その妥協。それでもなお、至れなかった剣。之は天を斬るだけのモノに在らず。天上さえも斬り割かんとす魔が剣』」
鋒を地へ向けた『魔剣』から暁色のオーラが濁流の様に溢れ出る。
「クロア、ハクア。今の俺じゃあ加減が難しい。力を貸せ」
『御意!』
『全ては主が御心のままに』
零刀が呼びかけ、クロアとハクアが応える。
「──【禍 津 天 衝 剣】!!」
アドルフが斬り上げる。
その一撃は地から立ち上るようにして零刀へ迫る。
それはまさに、天を衝くかの如く。
「──叩き潰す!」
そんな斬撃を、【黒炎】と【紫氷】を纏わせた剣で真っ向から受け止める。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アドルフが雄叫びを上げる。
今込められる全てを込めて。
──目の前の『理不尽』へとぶつけるのだ。
「ああ、いいねェ。この意志の乗った一撃は……!」
対する零刀は、その斬撃を二振りの剣で受け止めながら笑う。
彼自身がここまで強くなった過程は外法邪道もいいところだ。
それでも彼はソレが悪い事だとは思わない。
──それでもどこか、普通に努力して辿り着いたその『強さ』には憧れにも似たモノを抱いてしまうのだ。
それが才能に寄るものであるか否かなど関係ない。
彼が通ることのなかった道──そこに至るまでの過程に尊さを、貴さを感じるのだ。
だからこそ、神野 零刀はその一撃を真っ向から叩き潰す。
「『黒色に壊せ、紫色に死せ。我が前にある全てを塵に帰せ。我が牙は遍くを噛み砕く』」
──『理不尽』の一席に座す者として、彼はチカラを振るうのだ。
『黒剣』で受け止めたまま【紫氷】を纏わせた『白剣』を逆手に持ち替え、斬撃そのものへ突き刺す。
その一撃で斬撃は【紫氷】に覆われ動きが止まる。
そしてそこに、【黒炎】を纏わせた『黒剣』を同じく逆手で叩き付ける。
「──【黒紫双牙】!」
【紫】に包まれたソレは【黒】によって砕かれ、微小の塵へと還る。
「……は、はははは。今出せる……全力の、一撃だったんだがなぁ」
アドルフはガクリと膝を着き、【魔装】が解けて元の姿へと戻る。
「……良い一撃だった。久しぶりに【身体強化】を使ったぞ」
零刀は左眼の紫耀を鎮めながら、そう言いながらアドルフへと歩み寄る。
「【身体強化】……普段は使ってないのか?」
「最近は『ステータス』が高かったって言うのと……『本質』的なものでな。【破壊】の性質を【死】なせてからじゃねェと使えなくなっててな」
「面倒そうな身体だな……だが、これが【呪い】に絶望して足を止めた俺と、絶望的な状況下にありながらも進み続けたお前との差なのかもな」
地に仰向けに倒れ、どこか遠い目をしながら呟くアドルフを零刀は鼻で笑う。
「ハッ、俺が何の為にその【呪い】をどうにかしてやったと思ってやがる。また進めさせる為だ」
「……やはりか。お前のシナリオに俺は必要か?」
「さあな。俺は未来が見えるわけでも全知全能って訳でもない。が、手は多い方がいいだろ?」
「……お前は、その『手』が必要な時に無かったらどうする」
アドルフの真剣な問い。
それはどこか緊張感を孕んでいて、それでいてなお、どこか心配するかのような雰囲気も纏っていた。
「……何となく察しは着いているだろ? 俺が化けて、その『手』を増やせばいい。ただ、それだけの話だ」
その返答は、『作り出して補う』と言う意味ではヒトの発想に近い。
しかし彼の言葉には、『自分を人ではなく道具』として扱うと言う狂気性を隠し持っていた。
「……だよな。お前は、そうやって生き抜いて来たんだろうからな。言われるまでもない。俺は──」
ズバン! ズバドドンッ!
そこまで言いかけたその刹那、轟音とともに世界の一部が吹き飛ばされた。
「──【紫紅の魔王】ォ!!!」
一閃。
たったそれだけで大地が地平まで裂ける。
「お、やっと釣れた。来るのが遅せぇから手合わせがシラケて帰っちまうとこだったぞ。【最強】」
「……なんだ、手合わせか。愚かにも私の不肖の弟子が【魔王】に喧嘩を売ってボコされてるのかと思ったぞ」
その一撃を躱した零刀の言葉に【最強】──ラグナは刀を仕舞う。
「それにしても、アドルフ。やっと戻って……いや、違うか。やっと進んだのか」
座り込む弟子を見て呟いたラグナはしかし──
「──せっかく敵討ちと言う名目で本気でやり合える機会かと思えば……いや、弟子を倒したのなら次はその師匠と言う可能性も……!!」
「師匠、俺をダシにして戦おうとするのやめてください」
「お前にも弟子を思うココロがあるのかと思えば……やっぱりただの戦闘狂じゃねぇか」
各々が思い思いに言葉を発する。
「……なるほどここで私が暴れればいいのか」
「ちょ! このアホ師匠まだその暴走癖治ってなかったのか! 零刀、どうにかして止めてくれ!」
「いや、『ステータス』下がってる上に今の俺は【身体強化】の効率が著しく悪くてな? 魔力残ってないんだわ」
「え、マジで?」
ギャーギャー喚きながら何とか止めようとするが、相手は【最強】を冠する『SSランク冒険者』。
疲弊した彼らではどうしようもなく──
「──【冥界】起動」
しかし、リーシャのその一言で彼らは動きを止めた。
「なんだ、身体が、重い……!」
「これは……」
「『ステータス』を制限させていたたきました。私の領域内で好き勝手される訳にも行きませんので」
そう言いながらメイド服の女性──リーシャは歩み寄る。
「【最強】には改めてご挨拶を。『SSランク冒険者』【冥土】、リースェルリナと申します。今は訳あって零刀様に仕えております。先ずは先日の件に関しての感謝を。そして今回は零刀様よりお話があるとのことでお時間を頂きます」
そう告げたリーシャは一歩下がり、零刀の斜め後ろに立つ。
「まあ、そういう訳だ。リーシャ、アドルフの治療だけはしてやってくれ。渡しているポーションを使っていい」
「では、失礼させて頂いて……ある程度纏まったらお声かけください」
「おい、ちょっと待てリーシャ。この体勢だと引き摺られ……痛い痛い!」
アドルフを引きずってその場から離れる。
(……そうか。今回の俺との手合わせはチカラのぶつかり合う気配を使って師匠をここにおびき寄せる意図もあったのか。ここならいくら師匠が暴れようとしても『ステータス』に制限がかかる分押さえ込むことができるからな。……全く、レイトには驚かされる)
引き摺られる中、ふとそんな事実に気がついたアドルフは笑みを浮かべる。
『ハズレ』と言われた『生産職』でありながらも圧倒的な力を持ち、それでいて徹底された戦場の作り。
かつて王城にて戦いを教えていた者の一人として嬉しく思ったのだ。
「……引き摺られて喜んで……ヘンタイですか?」
「お前、毒舌だな。というか引き摺るなよ。コッチは怪我人だぞ?」
「どうせ一緒に治るんですからいいじゃないですか」
そんな訴えを叩きのめす辛辣な返答と共に、アドルフはもう少しの間引き摺られ続けるのであった。
さて、次回はどうしたものか……




