神を殺すのに必要なのは──
世間はハロウィンですね。
若い皆様方も節度を持って楽しんで頂きたい所です。
皆様方、約束してくださいね?
お菓子を準備しても幼子は見守るだけですよ。
手を出してはいけません。
世間話もこれくらいに。
それでは、どうぞ!
「──【光閃】!」
振るわれる光の刃を零刀は身を少し引いて剣の間合いから外れる事で躱す。。
「まだだ──『閃光瞬歩』、【光纏】!」
まるで光と見紛うような速度に達した光輝の斬撃すら零刀は先程と同じようにして躱す。
「なんで、避けれて……!」
「動きが直線的すぎる。それと、速度に振り回されすぎだ。あとは視覚に頼らない感知方法を持っていることを想定して動け」
次々に繰り出される高速の斬撃を零刀は『魔素感知』によって全て把握し、ギリギリの領域で避けていく。
「──【全能力上昇】、【瞬間速度強化】!」
その【支援魔法】が届いた瞬間、光輝の剣速が唐突に加速する。
それに驚きながらも距離をとる零刀だが光輝はそれに追いすがって剣を振るう。
(魔力の高まりからして【飛斬】系統か。腰の高さでの攻撃だからといって距離を取ろうとすればそのまま直撃か。よく考えられている)
その斬撃を身体を後ろへ倒す事で躱し、そのままの勢いで『聖剣』を持つ光輝の腕を蹴り上げる。
──その零刀に影が重なる。
「【雷閃】!」
「なるほど。体勢を崩した所での一撃。連携として悪くない」
それを見た零刀は『黒剣』を地に突き立て逆さまになると『白剣』に【死】を纏わせる。
「──【紫流】」
雷を纏う刃がそれに触れれば衝撃は死に、まるで吸い寄せられるかのようにして受け流される。
「っ!?」
「わっ!?」
流された身体はダメ押しに背を蹴られ、光輝とぶつかり、重なる。
二人は予想外の出来事に動きを止めてしまうがその時には既に零刀は『黒剣』を離し体勢を立て直して、代わりにその手に【死】を纏わせている。
「──【紫耀撃】」
「【金剛城塞】!」
その掌底の一撃をギリギリで割り込んだ隆静が盾で受ける。
「もっと踏ん張った方がいいぞ。──出来るならな。【爆】」
掌と盾の間で紫が爆ぜる。
足腰に力を入れ耐えるべく備えていた隆静だがまるで氷の上を滑るが如く三人まとめて紫に覆われた大地の上を吹き飛ばされる。
「う、ぉおおおお!!」
盾を地面に突き立て抵抗を作り出し、地を削りながら止まる。
「隆静、前!」
光輝の声に視線を上げれば、目の前に有るのは黒い剣の鋒。
「ッ、【瞬応】!」
身体を一瞬だけ過剰に強化し、盾を持ち上げ割り込ませる。
ギィン! と剣を弾くと共に何かが砕け散る音が響く。
「──盾で視界を塞いだのは下策だ」
弾かれた『黒剣』を基点として空間を割って距離を詰めた零刀は盾の内側へと身体を滑り込ませる。
「それと、攻撃を止めた盾役からは距離を取ってやれ。避けれるものも避けれなくなる」
近くの隆静に空いた手を、その後ろにいる光輝に『白剣』の鋒を向ける。
「【意識消失】」
その一言で、二人は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。
「さて……お前の方が勘はいいみたいだな」
少し距離を取っていたリアを見ながら呟く。
そのリアはと言えば薄く紫が纏わり付き、身動き出来ないでいる。
「ま、魔眼?」
「まあ、似たようなもんだよ。今は【紫耀の瞳】って言うんだが……効果は今お前の受けている通りだ」
紫に耀く眼を彼女から逸らさずに『黒剣』を拾って歩み寄る。
「【巨が如き一撃】!」
──その零刀を大槌の一撃が襲う。
「『泥よ。護れ』」
「うりゃああああああ!」
大槌と零刀の間に黒い【泥】が壁を作るがその一撃は壁ごと零刀を吹き飛ばす。
──そして吹き飛ぶ零刀を桜が追う。
(ッ! これはちょいと不味いか!?)
「──【全壊の植撃】!」
「【壊離】!」
避けれないと察した零刀は手元の空間を【破壊】して振るわれる拳へ魔力をぶつけて角度をそちらへ変える。
その結果、破壊された空間の穴に拳が振るわれ、繋げてあった数十メートル後方が木々に呑み込まれることになった。
「とったと思ったんだけど……逃がしましたか。──彩ちゃん!!」
次の瞬間には零刀の姿は無く、もう一つ割られた空間が閉じていくのを見て桜はそう叫ぶ。
「『其れは陽の欠片。遍くを燃やし尽くすモノの欠片』。【爆ぜる陽──】」
「──『我は其れを否定する』【魔法否定】!」
集まり始めた炎へ向けて零刀は黒い魔力をぶつける。
構築途中の【魔法】はその『否定』に当てられバランスを崩し、魔力の暴風となって霧散する。
(速いのが二つ。重いのが一つ。支援と火力、範囲までカバーできる後衛が一つ。特に速いのが辛いな。後衛を潰しに行こうとしても追いつかれるか。──各個撃破だな)
駆け来る前衛の奴らを見ながら両手を地につける。
「【血濡の黒杭】!」
黒耀の杭がまるで剣山のように次々と突き上がり、個々の姿を隠す。
『黒耀石』はこの世界に置いて加工、もしくは破壊することが圧倒的に難しい物質である。
それが乱立する様はまるで不壊の森の如し。
分断されたせいで協力する事も難しく、仲間を巻き込む可能性が高いからと【魔法】を叩き込む事が難しく、相手を視認できない今、スピードを生かした攻撃をする事も難しい。
零刀はたった一手で相手の有利な点を三つも封じたのだ。
そしてさらに、零刀にとって有利な事がひとつ。
「──【意識消失】」
リアの背後から手が触れ、その身体が崩れ落ちる。
【死】を纏って気配と魔力を、更には音と臭いを殺した零刀が忍び寄っていたのだ。
感知はできず、五感のうち視覚嗅覚聴覚を潰された今、零刀を感知する事は彼女らには不可能である。
「──まあ、コレで終わっちゃあくれねェよなァ!」
その場から全力で飛び上がる。
次の瞬間、その真下を木々が呑み込み、埋め尽くして行く。
「相手のフィールドを埋めつくして潰す。これ以上無い作戦だが……残りの魔力で戦えるのか?」
「はぁ、ふぅ……【魔法】も使えるけれど、本来コッチがメインだからよ」
そう言いながら木製のガントレットを打ち合わせる。
「……なるほど。性格もそっちがメインか。嫌いじゃねェな」
互いに見合いながらニヤリと口角を上げる。
「私もいるんだからね! 【震撃】!」
鈴が魔力を載せた大槌を叩き付け、フィールドを大きく揺らす。
「『──遍くを燃やし尽くすモノの欠片』【爆ぜる陽の欠片】!!」
不意打ちにバランスを崩し、膝を着いた零刀の上に巨大な炎が渦巻き球を象る。
「ああ、いいねェ。制限付きとはいえ、ここまで全力でやれるのは久方ぶりだ」
それを見て笑みを深めた零刀に呼応するかのように、黒い魔力が嵐の如く荒れ狂い吹き荒れる。
「まだ行けるだろう!? 楽しませてもらうぞ!!」
高らかに宣言した零刀は落ちてくる太陽の如き炎球へ向けて剣を振るうのであった。
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「……し、死ぬかと思った」
そう呟きながら鈴はテーブルに突っ伏す。
「いやぁ、悪い悪い。思った以上に興が乗ってな」
「絶対、それ悪いと思ってないやつだ……」
その隣では桜も同じように脱力した状態で愚痴を零す。
──あの後、彼らの手合わせはリーシャが昼食に呼びに来るまで続いた。
と言うか、零刀が終わらせなかった。
それどころか光輝や隆静などの意識を失った者達を叩き起して続きを行っていた。
「レイちゃんの鬼、悪魔……!」
「間違っちゃねぇよ。どっちもとうの昔に喰ったからな」
「揶揄が通じない、だと……?」
自分の言葉に軽く返す零刀に、多少の戦慄を覚える。
「そうだな。多少無理をさせたから詫びに疲労に効く飲み物でもやろうと思ったんだが……この様子だと、鈴はいらないみたいだな」
「ちょっ!? それって悪口が嫌だったって言うよりもただの意趣返しだよね!? ゴメンって!」
「……まあいいか。リーシャ、頼む」
鈴の手のひらクルクルに呆れながらもリーシャに飲み物とグラスを持ってこさせる。
「飲むといい。自家製のジュースだ」
「いただきまーす! ……んー、美味い!」
「疲労が、抜けていく……? ポーションか?」
「『鑑定』……いや、普通のジュースみたいだよ。『仙桃』だってさ」
「──!!!?!? ッ、ごほっ!? けほっ!」
光輝のその言葉を聞いて、鈴が盛大にむせた。
「鈴ちゃん。だ、大丈夫?」
「せんとう……セントウ、『仙桃』? え、マジで? マジで!?」
彩が心配して声をかけるが鈴はそれどころでは無かった。
「え、なに、レイちゃんって仙人? 神仙?『西王母』? 」
「『西王母』……たしか、中国の神仙だったか。ああ、『仙桃』繋がりでか? な訳あるか!」
「じゃあ、『桃源郷』でも行ってきたの? それとも地獄から帰ってきたの!?」
「『冥土』には行ったが地獄は行ってない。と言うか落ち着け」
「『冥土』!? 何それ面白そう! 教えて教えて!」
ハイテンションな鈴を抑えながら、ふと思う。
「……そう言えば、お前って神話とか得意だったか。なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……いいか?」
「……まあ、多少は知ってるから、答えられることなら……ちなみに、何が聞きたいの?」
真剣な声音の零刀に当てられたのか鈴も席に座り直して聞き返す。
「──【神殺し】についてだ」
「……多少はわかるけど。それの何が聞きたいの?」
「方法……いや、少し違うか。どういう状況下でそれが成されるのか、とかな」
その言葉に少し考えてから鈴は口に出す。
「……一番多いのが同じ神同士での戦い。『神々の黄昏』なんかが想像しやすいかな。もしくは【神の血族】。僅かにでも【神】の要素が入っていれば戦うことはできる。後は……神に匹敵するバケモノ、かな」
「……なるほどな。ちなみにだが、【神殺し】の武具なんかについては知らないか?」
「無くはないけど、『十握剣』とかもそうだけど、ほとんどの場合は神自身が使ってる場合が多いから何とも……『神の死を確認する』っていう所から派生した『神が死んだことを確定させる』モノなら『ロンギヌスの槍』もあるけど……」
「前者は直接的に同格の【神】が関わるから難しいな。後者も、戦って殺すものじゃあ無いしな……じゃあ、神に匹敵するバケモノだと、何がいる?」
「有名所だとナーガとかヨルムンガンドとか…………ああ、後有名なのはフェンリルとかかな」
「今あげた内の二つは【神の血族】じゃねぇか。ま、ありがとよ。参考になった」
「ホントに?」
「ああ、助かったよ」
どこが参考になったのかあまり理解できていない鈴が首を傾げるが、零刀はそれでも礼を言う。
「──神と同格のバケモノ、ね」
その呟きは誰の耳に入ることも無く、吹き込む風に乗って消えていった。




