そして彼は、【魔王】として降り立つ。
体調悪くて水を飲み、咳き込んで腹筋を攣り、伸ばそうとして背筋を攣り、動こうとして脚を攣り、横になって意識が飛びました。
……はい、熱中症ですね。
今年の夏は暑いですから皆さんもお気をつけください。
たかが熱中症と侮らないでくださいよ?
たかが熱中症で人は死にかねませんから。
そんなわけで、どうぞ!
ツイッターで投稿予約上げたりしてます。良かったらどうぞ。
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「──さて、行くか」
紫色の結晶にて映像を見ながら、零刀は呟く。
「もう、後戻りはできなくなる。それでもお前らは着いてくるんだな?」
その言葉に返事はない。
とっくに決まっていることだから、無言こそが変わることの無い意志を伝える。
「……じゃあ、行くぞ」
白黒二振りの剣を持ち、翼で空気を打って空を進む。
「──ついでだ。『魔王覇気』も使ってみるか」
零刀の身体を紫黒のオーラが覆う。
高速で進む目の前に幾重にも【結界】が張り巡らされる。
しかし、零刀自身に触れる前に砕け散る。
「『魔王覇気』の効果か……恐らく魔力性質を強く引き出すようなものか。この程度の【結界】は剣を使うまでも無いか」
目の前の障害を全て『否定』し、零刀は辿り着く。
「──よぉ、面白そうなこと話してるじゃねェか。俺も混ぜてくれよ」
──【魔王】として彼らの前に降り立ったのだ。
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翼が煙を払う。
「な、何者だ!?」
「そうだな……じゃあ、自己紹介と行こうか」
傍らに白と黒の少女が傅く。
「初めましての人は初めまして。俺が、【紫紅の魔王】だ」
そこに居たのは【死】と【破壊】を纏い、紫と紅の眼を耀かせる『理不尽』。
──今しがた話に出ていた【紫紅の魔王】その者であった。
零刀から溢れ出る【死】と【破壊】のオーラに、皆が身動きができぬ中で一人だけ素早く動いた。
「──【一閃】!」
未だ僅かに残る砂煙を斬り裂いて、光が一筋煌めく。
「二人とも手を出すな──【破滅錬成】」
零刀は黒く染まった手で斬撃を空間ごとバキリと握りつぶす。
「やっと会えたぞ! どれだけこの時を待ちわびたことか!!」
引き絞った刀が淡く輝き始め、膨大な量の魔力が渦巻き始める。
「こんな狭いところでなんつーモンぶちかまそうとしてんだよ……クロア、手伝え」
「了解だ」
『黒剣』へと戻ったクロアを掴み、自然体のままで【破壊】の魔力を纏わせる。
「──『穿て』【崩穿禍・虚月穿】!」
「──『打ち砕け』【破砕閃】」
まるで破城槌のような突きの一撃と【破壊】を纏った剣劇が打ち合う。
「ッ!らァ!」
零刀が黒剣を振り抜き、突きの一撃を【破壊】する。
その余波で会議室の天井が吹き飛び、壁も所々崩れ落ち、廃墟のような有様となる。
「……咄嗟に威力を上に逃がしてこれか。えげつないモンをこんな場所で使いやがって」
「ずっとお預けを食らっていたのだ。再会で昂ってしまうのも致し方ないと思わないか?」
「戦闘狂的理論を押し付けるな。それと、手合わせは後にしてくれ。今はやることがある。というか、会話しながら斬撃を飛ばすな。鬱陶しいわ!」
「くっ……【魔王】! この会議を潰しに来たのか!?」
「どっちかと言うと被害を広げてるのはこのアホだと思うが……おいラグナ!あまりメンドクセェと手合わせする時に真面目にやってやらんぞ!」
「……仕方ない。後で絶対に手合わせするぞ」
「こっちは一件落着か。で、『皇帝』サンは何か言いたそうだな?」
「……いや、盛大にぶっ壊してくれたもんだからよ。修繕はお前がやれよ?ってな」
「あー、半分以上は俺のせいじゃないと思うんだが……」
「知らん、やれ」
「じゃ、黒耀石な」
その一言で壁が生え、屋根が被さる。
無論、材料は黒耀石である。
「これでいいな」
「……若干禍々しさが増したように感じるが……強度は最高峰だし文句はない」
「偉そうだな。何様だよ」
「そりゃあ、『皇帝』さまだろ」
「それを言うなら俺だって【魔王】様だぞ」
「「はっはっはっは! そりゃそうだ!」」
『皇帝』と【魔王】は互いに可笑しかったのか笑い合う。
「【光罰】!」
「で、【魔王】。此度は何をしに?」
「【滅光線】ォ!」
「取り敢えず話し合いでもと思ったんだが──」
「『我らが光の神に願い奉る──』」
「うるせェ!」
「ぎゃあ!?」
会話の片手間に襲い来る【魔法】を振り払っていた零刀だが、さすがにイライラしてきたのか詠唱中の『教主』へ魔力の弾を飛ばして黙らせる。
「さて、ウル。話はどこまで進んだ?」
「私たち『精霊』がレイさんに従属するというところまででしょうか」
「「「はあ!?」」」
突然の『精霊王』の発言にその場の全員が驚愕する。
「……いや、俺本人が了承して無いんだが?」
「あ、レイさんの分の椅子も用意しますねー」
「おいこら、なに露骨に話を逸らそうとしてやがる。まあ、椅子は有難く座らせてもらうが」
「まあまあ、私は貴方の【眷属】で、私は『精霊王』。ならば民である他の『精霊』が着いてきても可笑しくはないでしょう? それに、今までと変わりはありませんよ。必要になったら私達を使えばいい。いつもの事でしょう?」
「そういう事ならば、別に構わん」
そう言いながら大仰に【氷】の椅子に座る。
「じゃあ、話し合いを始めようぜ」
「……レイさん。もう少し『魔王覇気』を抑えないと皆さん喋れませんよ?」
「ん? ああ、『皇帝』サンが喋れてたから忘れてたわ」
そう言ってパンッ、と手を叩くと零刀の纏っていたオーラが霧散し、それを受けていた人々が呼吸の仕方を思い出したかのように荒く呼吸を繰り返す。
「れ、レイ……どうして……」
「光輝か。気が向いたら後で説明してやるよ」
「なんだ、【魔王】なのに『勇者』と知り合いか?」
「そりゃ、俺もコイツらと同じ世界から呼ばれたからな」
「……という、ことは。【魔王】である貴方も、『光神』様に選ばれ、呼ばれたということですか? そんなこと人がなぜ【魔王】に……」
「リムに選ばれたのかは知らんが、『勇者召喚』で呼ばれたのは確かだ。それと、俺が【魔王】になった理由は細かくは知らん。『世界の意思』にでも訊け」
「──待て、零刀。そなた、『世界の意思』は復活しておるの言うのか!?」
話を聞いて、『獣王』の付き添いとして会議に参加していたクヴィホが声を上げる。
「……ああ」
「なぜだ……予定より早すぎる!」
「知るか、そんなこと」
「知るか、じゃと……? 『世界の意思』が復活しているということは、決戦は直ぐという事じゃぞ!!」
「ああ、それは知っている。だから、俺がこうしてこの場に来たんだろうが」
「──っ!?」
零刀の言葉にクヴィホが息を呑む。
(此奴、どこまで知っておると言うのだ? 多少語り合った仲とはいえ、この事に関しては殆ど情報を話してないと言うのに……!『世界の意思』が目覚めたとはいえ、ヤツはこの事を知らぬ。……まさか、アレだけの情報でたどり着いたというのか!?)
零刀の本来の強みはただのチカラの強さでは無い。
その場にある情報を何でも使い、取り入れ、その場を切り抜けることである。
その結果生まれたのが今の零刀であると、今更ながらに気がついたのだ。
「『世界の意思』?……今二人はなんの話をしているのですか? 今はこの【魔王】についての話をすべきなハズですが……」
「む、済まない。本題から逸れて……いや、この【魔王】がここに来たのがそれが理由なら、ある意味それが本題かの?」
「まあ、俺はそれについて話に来ただけだからな。俺が話す『本題』はそれだな」
そう前置きしてから、零刀は話を進める。
「さて、まず確認だが……この『代表会議』は最近起こった出来事についてが議論されるべき事だな? それで、最近話題の新たなる【魔王】が議題に上がったと。ここまでは大体予想もつくんだが……」
「先程までの話によるとどうやら、『神託』があったそうですよ」
「え、マジで?」
「まじらしいです」
呆気にとられたような、微妙な表情の零刀とどこか冷たい笑みを浮かべるウル。
「そうです! 『光神』様は【魔王】である貴方を討伐せよと──」
「プッ、アハハハハハハハハハハハ!」
『教主』が言いかけた瞬間、零刀が抑えきれずに大爆笑した。
「な、何がおかしいのです!?」
「いや、ムリ。これはひどい。マジか、嘘だろ? えぇ……なんだよそれ。ここまで色々と対策を考えてきたのに! 最善に近いシナリオとか、笑うのを堪えろって方が無理だろ!」
バンバン! と机を叩き、目に涙を薄ら浮かべながら笑う、嗤う。
「ち、ちなみにだが……その『神託』ってのはアレか? 声が聞こえる、的な?」
「バカにして……! そうです、私は確かに聞いたのです! あの凛々しくも
慈愛に満ちたお声を!」
「「凛々しい?」」
零刀とウェルシュが同時に首を傾げ、目線を合わせる。
「凛々しい…………いや、絶対無いな。うん、平行世界を10個くらい超えても無いな」
「さすがに、凛々しいのはちょっと……慈愛はあるかも知れませんが……」
実物を知っている二人は苦笑いである。
「……ニセモノですね」
「ああ、絶対にニセモノだ」
「何を言うのですか! 確かに私は声を聞いて──」
「ちなみにそれ、男声女声どっちだ?」
「……男声ですが?」
「ああ、やっぱりニセモノか。だって『光神』は女……女神だぞ?」
「……は?」
場を沈黙が支配する。
「ふむ……何を根拠に言っているのか、聞いてもよろしいかな?」
「お、『国王』サンも気になるか?」
「【魔王】であるお前が知ってるとは思えぬが……仮にも『光神』の『神託』で『勇者』を召喚した国だからな」
「……他の奴らも知りたそうだし、教えてやるよ。ああ、対価は貰うぜ? 無償で教えてやれるほど、俺は善人じゃあないからな」
「……余に用意できるものなら用意しよう」
『国王』がそう答えたのを聞き、ニヤリと笑う。
「──その言葉を待っていた」
次の瞬間、『国王』の首は宙を舞っていた。
ここから物語は加速します。
多分。




