メイド長:気づいてしまった
今回はメイド長視点のお話です。
少し短めになります。
城のメイド長を務めさせていただいております、リーシャと申します。
先日、この国で【勇者召喚】が行われました。
そして、31人もの人達が召喚されました。
いきなり見ず知らずの地に召喚されてしまい混乱している人が多くなると前もって予想されていたため、1人1人に担当のメイドを付け、カウンセリングが行えるように手配もされていました。
しかし、予想されていた人数は30人は超えないだろうとされていて、私を含め30人のメイドが用意されていて、メイド長である私は『勇者』の方のみの担当の予定だったのですが、騎士団長のアドルフ様が「1人、『生産職』の奴が居るからそいつも担当してほしい」とお願いをされたのでその方も担当する事になりました。
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『勇者』であるコウキ様はとにかく自分の正義を貫き通す様な方のようです。
初日から「この世界の人達を救けるために早く強くならないと⋯!」と仰られていました。
まさに『正義』と『勇気』という言葉をそのまま形にした様な人物でした。
『生産職』であるレイ様は第一印象は特に何かがある訳でもなく平凡な方に思えました。何か要求がある時もメイドである私よりも下手に出たり少し不思議な方ではありましたが『勇者』様もそうだったのであちらではそれが普通なのでしょう。
すこし本が好きなだけのごく平凡な方のように思えました。
─しかし、ある時を境にレイ様に対する印象が分からなくなりました。
『生産職』の方でも戦える人はいらっしゃるので戦闘訓練に参加しているということはわかります。しかし、初日の戦闘訓練が終わってからアドルフ様は「あのレイってヤツに何かがあったり感じたりしたら報告してくれ」と仰られました。
最初は仰っている意味がわかりませんでした。
しかし、しばらく日が経ってからたまたま通りがかった時にレイ様が数人に暴力を振るわれているのを見てしまいました。
そのとき、私はどうしようかと悩んでしまいました。そして、助けようと思った時にふと、レイ様の目が見えました。
そこにあったのはいつもの柔らかく暖かい目ではなく冷やかなとすら言えないようなただただ何も感じさせない瞳。
その後、気がつけば用意されていた自室で眠りについていました。
─あの後、私はどうやって戻ってきたのでしょう。
他のメイドに聞いても特に何もなく仕事をしていたらしいのでそちらは大丈夫だったのでしょう。
─あの後、レイ様はどうなったのでしょうか。
私はいても立ってもいられなくなり、起床の時間になったときに、急いでレイ様のお部屋へ向かいました。
少し、いえ、かなり緊張をしていますがいつの間にか上がっていた呼吸を落ち着かせてからノックをします。
すると、直ぐに返事があったので入室します。
(─あれ?怪我がない?)
いえ、よく見るとうっすらとだけですが怪我の跡が見えます。
─昨日のことは見間違えでは、無かったのですね。
そしてレイ様に聞いてしまったのです。
思い返せば聞かなければ気づくことは出来なかったでしょう。
「昨日のこと?─ああ、見ていたんですね。あのときは目の前の『害意』が強かったので気が付きませんでした。あと、助けようとかしなくていいですよ?『技能』のレベル上げにもなりますし」
─異常だ、その一言に尽きる。
あれだけの事をされていながらそれだけしか感じない。それどころか『技能』のレベル上げにさえ利用しているなんて。
有り得ない。
意味不明だ。
そう、強く思いました。