絶対的なチカラに平伏し、そのあり方に困惑す。
今回のサブタイ、私個人としては気に入ってます。
「ババ様!」
「ッ!?ほかの者も続け!」
「「「ウォォオオオオオオオ!!」」」
全軍に号令をかける。かけざるを得なかった。
唐突に現れた『同族』が【魔法】に撃たれたことによって若い衆が先走ってしまったのだ。
『獣人』は一部を除いて仲間意識の強い『種族』だ。
だからこそ、特に堪え性の無い若い衆は抑えきれなかったのだろう。
しかし、彼女が呆けてしまったのはそれがあまりにも予想外だったからだ。
(アレは、シリウナか……? いや、しかし我の『予知』には欠片も気配すらなかったのにか? ──まさか、『外なるモノ』か?)
自分が思い浮かべたモノに顔を顰める。
(……いや、ヤツはここ数百年は目立った行動を起こしていない。なら、何が……)
思考を巡らせていた、その時だった。
直感で、上空に目を向けた。
──全身の毛が、逆立った。
(──アレは、ダメだ。この世界のものじゃない)
その直後だった。
漆黒の炎が、進む先を遮った。
『本能』が足を止めた。止めさせた。
見回せば、全員が足を止めている。
「っ、こんなもの……!」
「ま、待つのじゃ!」
静止も間に合わず、前方の者が戦斧に【水】を纏わせて黒い炎へと振るう。
──炎に触れたところから砕け、塵となった。
「……はっ?」
柄から先がなくなった自らの獲物を見て理解出来ずに呆然とする。
「汝等!動くな!」
静かになった戦場で、その声が響き渡る。
「いいか、我が言うまで動くな、声すら発するな。──死んでも知らんぞ」
そう叫んだ彼女の腕には、震えが走っていた。
------------------------------------------------------------
「なんだ、コレは……」
時を同じくして、帝国軍の目の前には紫色の氷が壁を成していた。
「軍師、『鑑定』は?」
「皇帝陛下。『鑑定』の阻害が働いているのか『鑑定』が全くできませんでした。しかしこの見た目と特徴を考えると──」
「【紫水晶】か?」
「はい。触れたものの生命力を奪うとされるそれに近似しています」
「ふむ……触れればわかるか」
そう言いながら掌で触れる。
「っ、ぐおぉぉぉおおお!?」
「へ、陛下!?何を!」
「お前らは、触れるなよ!余だから膝を着く程度で済むが、お前らが触れれば死ぬぞ!」
そう叫んだ瞬間だった。
物凄い重圧がその場を支配し、あまねくを跪けた。
そして、紫の壁と黒の壁の中間にソレは降臨した。
『理不尽』として。
------------------------------------------------------------
「よう、シリウナ。随分汚れた姿になって、何処をほっつき歩いていたんだ?」
左右紫黒の翼を生やした零刀が、【死】と【破壊】を纏わせて降りてきた。
「レイ、さん……?」
「思ったよりも消耗してるじゃねェか」
そう言いながら手を水平に伸ばし指先から紅い雫をシリウナへと落とす。
「──【生命の零滴】」
シリウナに触れるとそれは吸い込まれ、一瞬で傷を治す。
「傷が、治った……?」
「おう、元気になったな。ほら、帰るぞ」
「でも、戦争が……」
「戦争?……ああ、コレか。正直に言えば理由なんてよくわからんが……愛国心か?」
「それもなくはないけど……この戦争は、私の為の──」
「あ?テメェの為だ?なんでそう言える?」
どこか違和感を感じた零刀が口を挟む。
「少し前に、村が襲撃に遭いまして……『獣人』は仲間意識がかなり強いので、報復戦を──」
「待て。『お前達』の為の報復戦ならまだわかる。お前個人の為じゃないだろう?──いや、そもそもその話を誰に聞いた?」
「えっと、道中にいた商人に……」
「ソイツ、黒いローブを纏ってなかったか?」
「え?ええ、そう言えばそうだったと思いますが……」
「チッ、……あぁー、あ"あ"ー!めんどくせェ事しやがってあの変態真っ黒貌無しめが!」
「ヒィ!?」
突然の怒気に思わず悲鳴を上げる。
「どうせ俺が暴れてどうなるかでも見たかったんだろうなァ。どうせ狂気混乱が見たかったんだろうが……そうは行くか。オラァ!両軍代表を1人ずつ出しやがれ!」
一部だけ壁を開けてそう叫ぶと、少ししてから二人現れる。
「【パラス帝国皇帝】、『グレス・パラスエス』だ」
「【獣王国・族長代表】、『クヴィホ』じゃ!」
「……オイオイオイ、コレまたビックリなヤツらが出てきたな」
豪華なメンツに面倒くさそうに言う零刀だが、それとは違った意味でシリウナが驚いた。
「おばあちゃん!?」
「おお、シリウナ。元気そうで何よりじゃ!それにしても、いつの間に悪魔の類いに魂を売ったのじゃ?」
「魂売られた覚えは無いが……まあ、立場的に言えば似たようなモノか。って、ハァ? お前、【族長代表】の孫なのかよ」
「って言う割にはそんなに驚いたように見えませんが……」
「いや、ウチにいるアイツらを考えればこんなモンだろ」
「そう言えばあの方たちは『王』ですもんね……」
二人が言っているのは勿論、【精霊王】と【魔王】のことである。
「じゃ、お前はクヴィホと話してろ。止めるんだろ?戦争を」
「はい!」
「俺は『帝国』の方と話してくるわ」
一言残してその場から離れ、グレスへと向き直る。
「さて、話をしようじゃないか。なぁ、【魔王の魔剣】『ロヴェリグロシアイム』?」
------------------------------
【魔王の魔剣】『ロヴェリグロシアイム』
保有性質:『覇道』【魔道】【自我】
かつて【魔王】が使っていた魔剣。
ソリが合わない所有者の精神を蝕むことがある。
認めた所有者に対しては『覇道』へと導き、妨げる一切合切を斬り伏せる。
------------------------------
零刀の視界にはそんな情報が写っていた。
「……気がついていたか。『鑑定系技能』持ちだな?まあ、今それはいいんだ。貴方のような強者に、伝える事が二つある。聞いてくれないか?」
「正直言えば聞く義理は無いんだが……まあ、聞くだけ聞いてやる」
「ありがたい。一つは主からの伝言だ。『もしお前が余より強いならば、殺してでも止めてくれ』」
「……で、二つ目は?」
「二つ目は伝えることというか、俺の願いだな。もし貴方が圧倒的強者であるなら──主を、助けてやってくれないか」
グレスの身体を借りた【魔剣】『ロヴェリグロシアイム』はそう言った。
「何故【魔剣】がそう願う?」
『創造主、私たち剣としては気に入った使用者を失ってしまうのは大切な家族を失うのと同義なのです』
「……なんだ。そっちにも【自我持ち】が居たのか。そいつの言う通りだ。できることなら、な。っとと、そろそろ抑えるのも限界みたいだ。頼んだぞ」
そう言い残して脱力すると、零刀に斬り掛かる。
「まだどっちもやるなんて言ってないんだがな……」
そう言いながら『黒剣』で受け流す。
「ハクア。お前を創った時のこと、覚えてるか?」
『はい。しっかりと』
「じゃ、あの時の感じで頼むぞ」
『白剣』をグレスの胸に突き刺す。
「殺せ」
『御心のままに』
【死】を与えたそれを、引きずり出す。
「クロア、出番だ。ぶっ壊せ」
『心得た!』
引きずり出されたアメーバ状のそれを【黒炎】で薙ぎ、【破壊】する。
「さて、おーい。生きてるかァ?」
崩れ落ちたグレスへと声をかけながら紅い雫を一滴たらす。
「……ああ、生きている、な。ったく、ロヴェのやつ。無茶なことを他人に願いやがって……」
「願うだけなら自由ってな。ま、結局俺はやりたいことをやって、気に食わないことを『否定』するだけだ」
「……この戦争を止めようとしているのも、その女のためか?」
「はっ!コイツは俺の所有物だ。それをみすみす失うのは割に合わねぇってだけのこった」
「自分勝手で、ワガママだな。それでいてそれを貫くための強さがあると来た。『魔王』よりよっぽど『魔王』らしい」
「知ったことか。っと、シリウナの方も話が終わったみたいだな。壁の方は解除して置いてやるから、あとはお前らでケリをつけろ」
「ああ。いずれ我が国へ招待しよう」
「米でも用意してろ。それを楽しみに行ってやる」
「おうよ!」
手を引き起こしてやれば、剣を支えにしながら自軍へと戻っていく。
「ほら、シリウナ。帰るぞ」
「は、はい」
「……汝、我が孫をどうするつもりじゃ?」
「どうって、コイツ今『奴隷』で、俺の持ち物だからな……そういや、今更だなんだが『獣王国』ってのは何か特産品ってあったりするのか?」
「へ?特産品じゃと?」
「『獣人』とひとくくりに言っても皆違った特徴を持っているので村や街によって色々な変わったものがありますよ?例えばうちの村でしたら『大マメ』を発酵させたものとか、粘り気のあるマメとか」
突然の質問に戸惑うクヴィホだが、その代わりにシリウナが答える。
「……ほう」
それを聞いた零刀の目の色が変わった。
「よし、このままお前の村に行くか」
「ええっ!?どうしたんですかいきなり」
「いや、やっぱり家族との再会ってのも重要だろ?」
「絶対的に食料品目当てですよね!?まあ、お言葉に甘えますけど!」
「よし来た!イリスには連絡しておくか」
「……なんか、我代表なのに無視されてないかの?」
目の前で何故かこのまま村に来ることになった二人を見ながら悲しげに言う。
「あー、ウル。イリスに繋いでくれ」
『──ん、零刀。どうか、した?』
「このままシリウナの故郷に行くことになったんだが、お前も【転移】して来るか?」
『……少し用事ができたから』
「そうか、美味いもん食えるんだが……」
『行く。二時間後くらいに【転移】する』
「そうか?無理しなくていいんだぞ?」
『さっさと終わらせて血を洗い流してから行く』
「はいよ。──って事で、行くか」
「レイさんレイさん!村に着いたら何か作ってくださいよ!私レイさんの手料理また食べたいです!」
「そうだな。行ってみないとわからんが、俺の予想通りのものならかなり料理のレパートリーが増えるはずだ」
「やった!じゃあ早く行きましょう!」
「マスターの料理は世界一ってな!」
「当たり前です。何せ私たちの創造主なのですから」
「うわ!?この子たちいつの間に!?」
剣から人型へとなった二人を見て驚くシリウナ。
「……なんか我が苦労して撤収命令を出してるうちに増えとるんじゃが……」
そしてそんな光景を見てなんとも言えない顔をする【族長代表】のクヴィホであった。
今回で黒ローブがなんなのかわかる人はわかってるかも……




