『問題』と『差』
あと2話程で迷宮編に入ります。
そしてある程度まで進んだら【戦いたい!!】の方の更新を再開します。
異世界ライフが始まってから2週間がたった。
あれから戦闘訓練が増えていて、個人差はあるけれど皆戦うということに慣れてきている。
しかし、それによって零刀は確実に、他のクラスメイト達に勝つ事ができなくなっている。
なかなかの才能を持っていた光輝と隆静2人に関しては剣の扱いが上手くなり、もともとの『ステータス』の差が顕著になり始めていたのである。
更に赤坂達の『絡み』がどんどんとエスカレートし始め、毎回のようにボロボロになるまで打ちのめされる。
─それでも僕はやり返さない
あれ?何でだっけ⋯?
「今日のところはこのくらいにしておくか」
「そうだな、『戦闘職』の俺らは戦うための訓練もしないとだからな!『生産職』の誰かとは違って」
ぎゃははは、と下品な笑い声を上げながらこの場から離れていく。
─実は僕は5日程前から戦闘訓練に参加していない。
戦うことを避けたいというのも理由の一つではあるが、単に実力の差が広がり始めているため訓練について行くのがやっとなのだ。
そしてあと1週間ほどで迷宮の探索に入る。
迷宮に入るのであれば戦う術だけではなく生き残るための術も必要になってくる。その為の準備を行っている。
と言ったような理由もあり、訓練には参加できていない。
それも彼らの行動に拍車をかけているのであろう。
⋯まあ、そのおかげで
─技能『自己修復』のLv.が上がりました。
といった具合に『技能』のLv.も上がっている。
ほかにも『技能』は何個か習得することができてはいるが特に何度か怪我を白瀬さんの『回復魔法』で治してもらっているので『記憶管理』で定着させ、傷が治るイメージを付与することによって更に『自己修復』のLv.アップに繋がっている。
それに『コレ』のおかげでと言ってはなんだがこの城内にいる一部の者からもあまり良い感情を持たれてはいないということも分かった。
(治ったか。さて、そろそろ始めるか)
赤坂達とは逆方向に歩き出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日もお疲れ様」
「ああ、ありがとう」
「⋯レイ、なぜ訓練に参加しないんだい?」
困惑に少しの怒りが混ざったような声で光輝が問いかける。
「⋯訓練についていけていないって言うことと、あとはそれ以外にもやることがあるからかな」
「⋯それ以外に、やることが?この世界の人達を救うために強くなるための訓練以外に?それに、訓練についていけていないのだって君に『問題』が─」
「そうだよ、僕に『問題』があるんだよ。『勇者』みたいな君と違った『生産職』というちょっとした『問題』がね」
それは根本的な『問題』であって、変えることは出来ない、どうしようもない『問題』でもある。
「もちろん、僕が戦いに参加できない訳では無いよ?でもね、そこには埋め難い『差』が存在するんだよ。それを埋めようとすることの何が悪いの?」
「そ、それでも!」
それでも引かない光輝が零刀に何か言おうとするが
「はい、ストップ!2人とも熱くなりすぎだ。少し抑えろ。」
光輝と零刀の言い合いがヒートアップしてきたところで隆静が止めに入る。
「光輝、人には得手不得手があるんだから自分ができるからって他の人に押し付けるのはダメだ。零刀は零刀なりのやり方で頑張ってるんだから」
「う、うん、ごめんね」
「いや、こちらこそ少し熱くなりすぎたよ」
そうして2人がやっと落ち着いたころに鈴と彩がやって来る。あちらも訓練が終わったようだ。
「おつかれー、どーかした?」
「いや?何も無いよ」
「レイ君も一緒にお昼ご飯食べよ!」
「う、うん、わかったよ。だから引っ張らないでお願い」
合流した5人は食堂へと向かう。しかし、こんな空気でも零刀はずっとひとりであることを考えていた。
─迷宮に挑むにおいて、必要があるだろうものの事を。
そして、いつか起こるであろう事に対して、光輝が対処できるのだろうかという事を。
⋯この日の夕食はあまり美味しく感じられなかった。
………………………………………………………………………………
「ハァッ、フゥ」
月の光しかない夜の訓練場にいくつもの人影があった。
よく見ると動いているのはひとつだけであり、そのほかのものは土でできた造形物であることがわかる。
それがひとつ、またひとつと壊されていく。
しばらくすると、人型の造形物はすべて壊されていた。
それをしたものは地面に仰向けに寝転がり、ポツリと呟く。
「『錬成』、【復元】」
すると、周りにあった造形物やその残骸が土に戻り、近くにあった穴が埋まる。
(さて、実験はある程度成功かな。『技能』の技名を『詠唱』することによるイメージの定着化もものになってきている。無駄な魔力消費も少しだけど抑えられているしね。あとは─)
「いつまで隠れているんですか?」
すると、物陰から人が1人現れた。
「まったく、覗き見なんて趣味が悪いですよ?⋯アドルフさん」
「訓練に参加すらしないで内緒の訓練をやってるだなんて、趣味が良くないんじゃないか?レイ」
そこにはニヤリと口元に笑みを浮かべている2人の姿があった。