勇者side:モニアと痕跡
クリスマスでしたが、毎度の如くイベント回ではありません。
クリスマスは忙しくてですね……主にリア充共に呪いをかけることが。
そんなわけ?で勇者sideです。どうぞ
──光が集い、剣を象る。
「はぁああっ!」
それを掴んでは目の前の大岩に叩きつける。
何度も何度も、何度も何度も。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「コウキ……あまり無茶をするな」
砕けた岩の前、肩で息をする光輝にアドルフが声をかける。
「はぁ、はぁ……そうも言ってられませんよ。『魔族』の襲撃が増えているんですから……」
彼ら自身、この前二度目の襲撃を体験したばかりなのだ。
場所は『帝国』──その中心【帝都】。
通り道として通り、そこの【皇帝】に挨拶し、手合わせし──襲撃にあったのだ。
そこに、光輝が多少の無茶をしている理由がある。
──光輝の不注意から、一緒に戦っていた【皇帝】が大きな負傷を受けたのだ。
その後、『聖剣』のチカラを解放し、『勇者』の『技能』を覚醒させた光輝が何とか襲撃を退けたのだ。
「僕がもっと強ければ、【皇帝】も傷つかずに済んだのに……」
「『怪我は治ったし、思う所は無い』って、その【皇帝】自身がいってただろ?なら気にする必要は無いだろ」
「それでも……っ!あの時『聖剣』が覚醒してなかったら──」
「なぁ、光輝。それでもどうにかなったんなら、そこまで重く考える必要はないと思うぞ?」
そこに隆静が現れ、口を挟む。
「その時にできなかったなら、これから強くなればいい」
「──っ!だから僕は、みんなを守るために今まで以上に鍛錬を──」
「それで?自分が潰れちまったら意味ねぇだろうが!」
隆静の声が、響く。
「……みんな、心配してるんだぞ」
「アドルフさん……」
「俺ら、『パーティー』だろ?俺らも頼れよ」
「隆静……」
その言葉に思うところがあったのか、ふた振りの剣の柄を握る。
(そうだ……僕には『仲間』がいるんだ……!みんなとも相談は、しないとな……)
そう思う光輝を見て、二人はもう大丈夫だろうと思っていた。
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「……ここが【中継都市】『レラント』なんだが……おかしいな。静か過ぎる」
街に着いたアドルフが、呟く。
「どうかしたんですか?」
「コウキか。ああ、ここは【中継都市】の名に相応しく、賑わっているハズなんだが……」
「そんな声は聞こえませんね」
「全員、念の為警戒しておいてくれ」
そう言って馬車を街に入れると、すぐ異変に気がついたアドルフが告げる。
「全員、いつでも戦えるようにしておいてくれ」
「……?何か違和感が?」
「ああ……ここまで濃密な『死の匂い』は久しぶりだ」
そう言いながらゆっくりと馬車を進めていく。
どこまでも街は静かであった。
──まるで、街というひとつの生き物が、死んでしまったかのように……
しばらく進んでいると、その静かな街の中で歌が聴こえてきた。
「〜〜♪〜〜〜♪」
鼻歌と共に小路から現れたのは──黒いローブを纏った人物。
「……交響曲?」
「おや、おやおやおや?こんな時期に外から来訪者ですかな?」
りあの呟きに気がついた黒いローブのものが意外そうに言う。
「こんな時期……何かあったのか?」
「いやぁ、こんなこと言ってはなんですが、私もつい先程到着したばかりで……詳しくは知らないのですよ」
「そうか……」
「ああでも、『冒険者組合』には負傷者が居るそうですよ?なんでも、【回復魔法】をかけないと『体力』が回復しないとかなんとか……『組合』に行けば何かわかるかもですよ」
「そうか、情報感謝する」
「じゃあ、僕は行くね。──〜♪〜〜♪」
黒いローブの者は再び鼻歌を歌いながら去っていく。
「……聞いたな?一度『冒険者組合』に向かうぞ」
こうして彼らは『冒険者組合』へと向かって行った。
──そこに、想像だにできないものがあるとは知らずに。
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「……さて、説明してもらおうか」
アドルフが席に座りながら目の前の男に問いかける。
その男は『冒険者組合レラント』の『組合長』であった。
問いかけたのは、今の状況。
窓の外には──動かぬ人影と、今しがた動き出し、悲鳴を上げる人がいた。
それの治療に【回復魔法】の使える彩と【光属性魔法】を使える光輝が奔走している。
「実は──」
話し始めたのは、突然街の人々が彼を含めて倒れ、動けなくなったこと。
そして──
──『黒い異形』が、街の尽くを紫で覆い尽くしたこと。
「私もつい先ほど、救援に来た『冒険者』に治されたばかりでして……私もあんな感じだったらしいですよ。【光属性魔法】での【治癒】しかできず、さらには治療が終われば悲鳴を上げて気絶する」
「それは……どうしてだ?」
アドルフの素朴な質問に、何かに怯えるが如く身体をぶるりと震わせる。
「憶えていない……いや、思い出せないんです。まるで、本能が思い出すことを否定しているみたいに……」
自分でも、今の反応に理解ができなかったのか、考え込んでしまう。
「あの……今大丈夫ですか?」
そんな中、扉がノックされ、光輝が遠慮がちに顔を覗かせる。
「光輝か。どうした?魔力切れか?『マジックポーション』は置いておいたはずだが……」
「あ、いえ、そうじゃなくてですね……『組合長』にお会いしたいという方が……あ、ちょっと!」
「いやー、どうもどうも。ご紹介に預かりました『レーネ・アプレシス』と申します、しがない【鑑定士】でございます!え?紹介されてないって?こまけぇこたぁ気にしなさんな」
場の空気を考えずに、そう言ってこの場の全員を唖然とさせる。
「『レーネ・アプレシス』?確か【鑑定士資格1級】の……」
「その情報はちょっと古いよ?今は『上位鑑定』まで習得しまして、【鑑定士資格特級】になりました!とまあ、そんな話は置いておいて……今日はお仕事の話です」
「仕事?」
「ええ、今回の事件を調べてこいということでしてね。いくつか気になることがございまして……その質問を、と」
「ええ、構いませんよ」
「ええと、ではまず、外にいる、まだ動かない被害者たちを『鑑定』しましたが……その全てが『体力』の値が『零』になっていました。心当たりは?」
「無いですね。それでも、『ステータス』が表示されているということはやはり、生きているということですか……」
「あと、この件に関して一つ質問が。ちょいと耳を拝借いたしまして。──という名前の方はこの街に来ましたか?」
「ああ、来たけれど……」
その名が聞けたことに、レーネ笑みを浮かべる。
「ふふ、ふふふふふ……ああ、やっぱりあのヒトの仕業だ。さすが【外道】!まさか【生命】を──【死】さえも冒涜するとは!あれこそが、我々が目指すべき『錬成師』の姿……!」
突然笑い出したレーネにギョッとする一同だが、それを気にせず歓喜する。
「なあ、この件で何か心当たりがあるのか?」
「ないとは言いませんが、その名は口には出せませんよ?出したら今度は縛られるだけではなくて!食べられてしまうかも知れませんから。では、これで聞きたいことは聞けたので、仕事に戻らせていただきますね」
来た時同様に、自分のしたいことだけをして歩き去って行く。
「──あ、言い忘れてましたけど、今回の被害者の全員に【死還者】という『称号』が付いていましたので、気がついていない方々には説明しておいて下さい」
最後にそんな台詞を残して。
「……何だったんだ?」
「嵐のような人でしたね……」
二人はなんとも言えない顔をしながら、去っていった扉を見つめていた。
「おっと、呆けている暇はないな。さて、続きを聞こう──どうした?」
気を取り直して再度質問をしようとしたアドルフだが、視線を向ければ違和感に気がついた。
「ああ、そうだ……わ、わたしは、わたしは……一度死んで……いや、殺されて……!あの、異形の、バケモノにっ!!ぁぁあああああ!!?」
「……っ!?済まないっ!」
そう叫んで暴れ始めたが!アドルフが咄嗟に当て身で意識を失わせる。
「これほどまでに正気が保てなくなるなど……いったい、何があってっていうんだ……?」
アドルフの呟いた言葉に、答えられるものはここにはいなかった。




