その問は、彼の道を惑わせる。
今回で100部目になります!
ここまで続けられてきたのも皆様のおかげです!
なのですが……少し難しい回?になってしまいました。
100部記念の話は今のところ書く予定はありませんが……気が向いたら書くかも?
そんな感じですが、これからもどうぞよろしくお願いします!
──窓から日が差し、朝を伝える。
「……朝、か」
目を手で覆い、うっとおしそうに遮る。
(あまり、眠れなかったな……)
眠りに意識が落ちるまで、何が理由でシリウナがいなくなったのかをずっと考えていた。
しかし、行き着くのはどれも同じ終着点。
──自身が、恐ろしかったからではないか。
『レラント』を離れる時のできごとを思い返せば、なおさらそれが強く思えてしまう。
「零刀……」
「ああ、何でもない。さて、今日は買い物でも行くか」
「……ん、いい本とかもあるかも」
「そりゃあ楽しみだ」
イリスに零刀の『ココロ』は見えないが、それでも知っていた。
零刀は強い。それも、ヒトという括りに収まらないほどに。
だからこそ、零刀には何らかの『支え』──『抑え』がなければ、ヒトとしていることができなくなってしまうことを。
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それから、数日が経った。
多少の金を稼ぐために『冒険者』として働いたりもするが、それも最低限。
その中でも、空いた時間にイリスは俺を街に連れ出した。
気分転換をさせるためだろうが、あまり有効的ではないように感じている。
──周りの声が、雑音に聴こえる。どこか、別の遠い場所で響いているかのように。
イリスいわく、数日前に行われた『武闘大会』とやらのせいらしいが、興味も湧かない。
本屋にも行って、いくつかの本も買ってみた。
──それでも、どこか思うところがあるのか『人と魔』などの『区別』を説いているモノを買ってしまう。
それいわく、『魔物には迷宮のものに関わらず、多かれ少なかれ『瘴気』を身に宿している』という。
──なら、『瘴気』をこの身に宿す俺は、『魔物』か?
しかしながら、『魔物』は全てのものが『魔核』を持つという。
──ならば、『魔核』を持たない俺は、『魔物』じゃないのか?
【外道】などの『称号』を見ればわかるが、俺はもう『人間』とは呼べないだろう。
──俺は『人間』でもなければ『魔物』でもない……
いや、そもそも俺はなんだ?
──『俺』とはいったい、なんなんだ……?
近頃は、そんなことばかりを考えていた。
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また、今日も外へと出かける。
何もかもが自分から遠い所にあるかのように感じながら、ここ数日の、変わりのないルーチンを繰り返す。
──ハズだった。少なくとも、視界の端にソレが入るまでは。
最初はどこか遠い所、それこそ違う次元にでもあるように感じていた光景の中で、違和感を覚えただけだった。
それは、俺と目が合うとニタリと笑みを浮かべ、歩き去っていく。
まるで、何も違和感などなかったかのように──
「──それ、でね……」
「……イリス、少し行きたいところができた。悪いが、先に宿に戻っていて貰えるか?」
イリスの言葉を遮って言う。
それを聞いて少し驚いたように見えたが、それでも俺の意見を尊重して送り出してくれた。
すぐにソレを追いかける。
そして辿りついたのは、何も無い空き地。
「──この空き地を見て、君はどう感じるかな?」
その中心で、黒ローブを着たソレは問う。
「人工物が無くて、寂しいと感じる?それとも自然が少なくて寂しいと感じる?それとも興味が無いかな?」
「そんなことはどうでもいい。お前、『モニア』の飲食店で働いていた……」
「さて、どうだろうね?……ああ、名乗るのを忘れていたな。そうだね……『ナイ』とでも呼んでくれればいい」
「お前……何モノだ?」
「……それを、君が訊くか?そもそも自分がナニモノかなんて、その本人からすれば自分以外の何者でもないのだから」
「そういう事を訊いてるんじゃ──」
「それはそうとして、君は『この世界』をどう思う?」
「……どういう意味だ?」
「どうもこうも無いさ。そのままの意味」
「お前、『他の世界』を知っているのか?」
「知ってるとも言えるし、そうじゃないとも言えるけど……まあ、それは今はいい。君はそのチカラを得て、そのチカラを見せて、君の周りの『世界』はどうなった?」
その言葉に思うところがあったからか、思わず黙り込む。
「……ま、その答えは言わずともわかるけどね。じゃあ君は、『この世界』になぜ呼ばれたのかわかる?もちろん、『魔王を倒すため』以外でね。理由の話だ」
「お前はそれを、知っているのか?」
「うん、めんどくさいから言っちゃうけど、たまたまだよ。と言いたいところだけど、まあ、『因縁』かな」
「『因縁』だと?」
「そう、『因縁』。そんなものがこの『世界』には沢山転がっている。あまりに自然過ぎて気が付かなかったかもしれないけど……まずは言語」
「待て、言語は『称号』の効果で『言語理解』が──」
「その【異世界人】の『称号』が、今の君にあるのか?」
そう、零刀の『ステータス』には【異世界人】の『称号』は無くなっていた。
「多少のニュアンスの違いはあれど、ほとんど同じ言葉だよ。口の動かし方から発声の仕方まで、ね。あとは多少の英語が混じってることかな。というか、共通点に関しては君にも思うところがあるだろ?」
──正直、その通りだ。
この世界にいる魔物は知らないものも多かったが、それでもゴブリンや鬼に悪魔。果てには竜と架空のモノではあるが共通していた。
「ま、それもどれも以前の『勇者召喚』による産物であるんだけどね。それらが『縁』の『因』として『因縁』をなし、『契』として繋げたってところだよ」
難しい言い回しをしているが、要するに以前行われた『勇者召喚』が原因で俺らが呼ばれたのか。
「あ、そうそう。話は変わるけどさ。君って神になる気はあるかい?」
……何を言っているんだコイツは。
「俺が神?ハッ、生憎だが神は殴る予定があってな。なれたとしても進んでなろうとなんて──」
「──じゃあ君は何になろうとしている。ヒトの器を捨て、生命の理から足を踏み外し、己を進化の終着点まで高めようとしている君は、何を目指そうとしている?」
その言葉に俺は──
──何も言えなかった。
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「零刀、おかえり……何か、あった?」
宿に帰ってきた零刀を見て、心配そうに声をかける。
「……そんなに酷い顔、してるか?」
「……うん」
「そうか。悪いが少しやることができた。『昇級試験』までには戻る」
そう言い空間を割ると中に消えてしまう。
「零刀……」
その場には、心配そうに虚空を見つめるイリスの姿だけが残されていた。
──所々を花が彩る草原で、木に凭れながら息を荒らげる。
「俺は、どこを目指してる、か……思えば、『理不尽』を退けるのに必死になって、その先を見据えてなかったな……」
必死に生きてきたが故に、目的を見据えていなかったことに気がついた零刀はため息を吐く。
「……『ステータス』」
そう呟いて、自分の情報を見て嗤う。
「『名状しがたいナニカ』……【不明】ね……ならいったい、俺の行く道はっ、何処に向かっていたっ!?」
ひとりの場所で、慟哭が響く。
「目的無く『理不尽』を除けて!その果てに俺が得たものは何だったァ!!」
これまで積み重なって来たそれが、弾ける。
「ああああ、ああ゙あ゙あ゙アアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!?」
身体が、変る。異なるカタチに。
──異形に、異貌に。
その触腕が、爪が、顎が暴れ回る。
今までの苦しみをぶちまけるかのように。
「ガアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
辺りが荒れ、咆哮が響き渡る。
それが本当は、泣き叫ぶ声だったのかどうかは本人にしかわからないが、聞くものがいれば咆哮にしか聞こえなかったであろう。