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あの時の君は  作者:
9/13

-9-

  ヒョウは話してくれた。

 きっと、誰にも言うつもりもなかった、ただの過去の話を。

 本当は俺にだって言いたくはないかもしれない、けど。

 けど、俺に言うってことは、聞いて欲しいってことだ。

 だから、俺はただ耳を傾けるだけ。


“前にいた学校は、自分が居ることで酷い色をするようになった”


 嫉妬の、チリチリと燃えているように女子達から発せられる赤色が、互いに互いを反発し合い。

 羨望に含まれる嫉みの錆色がヒョウ自身を傷付けるかのように刃の形となって、常に矛先をヒョウへと向け。

 ぎすぎすした空気の中。吐き気と戦いながらも普通の高校生として学校生活を過ごしていた。

 けれど、それも限界が来る。

 男子生徒からの強姦未遂事件が起こった。

 それもヒョウが被害者として。

 精神的にも肉体的にも傷を付けたかったと告げた男子生徒達は、揃って少年院へと入れられ。

 女子生徒達はその事件を切っ掛けにしてか、ヒョウを複数でなら襲えるという知恵を身に付けてしまい、学校が安全な場所ではなくなってしまったのだ。

 ヒョウの子を妊娠したら、その子の勝ちという訳の分からないルールを勝手に立ち上げ、クラスメイトに怯え、逃げまどう日々が続いていく中で、ヒョウの心は次第に閉ざされていった。

 耐えきれなくなったヒョウは両親に頼み込み、引っ越しと一人暮らし、そして、転校を叶えてもらうことに。

 それなりに裕福だったヒョウの家。

 ヒョウの両親はヒョウをとても大事にしていたから、一人暮らしはぐずられたけれど、引っ越しと転校は喜んで手続きをしてくれたらしい。

 そこで見付けた……俺。

 前の高校で自分と同じように様々な色に押し潰されそうになっている俺にヒョウは自分を重ねて見ていたそうだ。

 けど、


「あの笑顔を見てから、俺の中からカヤトが消えなくなった」


「笑顔?」


「ずっごく不本意だけど、あの男に告白されて喜んでいるカヤトの笑顔が、頭の中から離れなかった。それを俺に向けて欲しくなった。なんで、あんな気味の悪い色ばかりを纏っている男になんかって、思って」


 ああ、趣味が悪いなぁ。俺なんかの笑顔に絆されるなんて。

 軽く言いたかったけど、唇が震えて言葉にならない。

 さっきまで、ちょっとくらいは出ていた単語も、もう泣き声で掻き消されまくって、なんにもならない。

 だけど、伝えなきゃいけない。

 感謝しても、したりない。


「俺を見付けてくれて……ありがと、ありがと……ヒョウ」



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